第五百六十話 リィナちゃん絶賛困惑中
ついに恐ろしい事実が明らかに・・・
<視点 リィナ>
あっ、はい!
お料理担当可憐美少女勇者リィナです!
え?
まだお前余裕あるだろって?
ごめんなさい、精一杯の強がりです!
ケイジも大変だったけど、やっぱり私の方が一大事ですよね。
もう二度と会う事はないと思ってた、お父さんお母さんが現れて、
しかもいつの間にか弟までいたらしいのでした。
あたし、どんな態度取ればいいんですかね?
あと・・・すごい美人さんの貴族のツェルヘルミアさんだっけ。
あの人もあたしにとても申し訳なさそうな顔して、見ていてこっちが辛そうでした。
ホントに落ち着いて考えてみても、あの人が気に病む必要は全くないと思います。
それと相まってというか、何と言うか、
その後の・・・あたしとお父さんお母さんに抱きしめられてた時の表情も、
悲しそうなというより、羨ましそうにこっちを見ている視線。
それだけで、あたしに害意がないとことも、
獣人なんて気にしてないのも明らかだけど、
それだけじゃなかったんですよね。
その後、とても誠実そうに、力一杯抱きしめられちゃったけど、イヤな感じは全くありませんでした。
あたしも初対面の人にいきなり抱きしめられたのにはびっくりしたけども、
なんていうか、それこそ本当のお母さん・・・
じゃなくて、なんであたしあの時お父さんなんて口走っちゃったんでしょう。
自分で言ったこととはいえ、失礼にも程がありますよね?
流石に言われたツェルヘルミアさんもびっくりしますよ、そりゃ。
むしろ貴族の人だったら「無礼な!!」とでもお叱りを受けるとこでした。
優しい人でホント良かったと思います。
・・・ここまで聞くといい話ばっかりって思いますよね。
違うんです。
あたしの心の中は「とある懸案事項」でダークかつブルーなのです。
お父さんお母さん、そしてツェルヘルミアさんの事は置いといて・・・
じゃないや、ツェルヘルミアさんは思いっきり関係してくるんですけど、
問題はあたしの弟だというリィドのことです。
いくら8歳とはいえ、貴族のお年頃の女性にあんなベタベタしてるのはどうなんですか?
確かにツェルヘルミアさん本人は気にしてなさそうでしたよ?
多分ツェルヘルミアさんご本人も、
リィドを生まれた時から可愛がってきたんでしょう。
「確かにどうかと思うが、全部あのオリオンバート家の中の話だろ?
実の弟とはいえ、リィナが気にする必要あるか?」
ってケイジは言うんですけどね、
・・・何もわかっていない、
ケイジは何もわかっていないんです。
これ普通のヒューマンじゃ気付かないかもなんですけど、
どうして狼獣人ハーフのケイジも気づかないんでしょうね?
男同士だとわからないんですかね?
かと言って女の子のあたしから男のケイジに言えることでもないし〜!
麻衣ちゃん・・・も自分対象にされた感情じゃないから気づかないのかな、
て言うか、ミシェルネさんの案内でメリーさんとこ行っちゃいましたし、
カラドックにだってもちろん言えないし・・・。
え?
お父さんお母さん?
もっと言えないですよ!!
誰に相談したらいいんですかあああっ!!
はっ、
むしろこんな時こそ聖女のミシェルネさんに相談すればいいんですかねって・・・
ミシェルネさんもいないし!
ていうか、
流石に聖女さまでも守備範囲外だと思うんですけどね。
だって
だって
だって
信じられますか!?
たった8歳の男の子が
はるかに年上の、
貴族の
自分のご主人様に!
おっき・・・
い、いえ、
欲情してるだなんて!!
あれ完全に自分の下半身べったりツェルヘルミアさんの足にこすりつけんばかりに密着させてましたよ!?
いくらなんでも早熟すぎるでしょおがああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
なんでツェルヘルミアさん気にならないんですか!?
日常茶飯事のことなんですかね?
いえ、これがですね、
ケイジのご両親の時のように・・・
あっ
あれはあれで別の問題なのかもしれませんが、
一応、その時はお互いの合意の上で、
どっちも大人だし!
あ、ケイジのお父さん、当時まだ未成年の時でしたっけ!?
じゃ、じゃあそれは置いといて!
身分の違いも主従の関係も、種族の違いすらもその場の流れとかでなんとかなったんでしょう。
けど、今回ツェルヘルミアさんには何の自覚もないですよね!?
相思相愛ならまだいいですよ?
問題はそれでも山積みになるかと思いますけど、それこそケイジの言うとおり、貴族の家の中だけで話を済ませられます。
けれどツェルヘルミアさんは、
愛玩動物みたいにリィドとベタベタしてるだけなんですよね?
将来の伴侶にとかは勿論、
恋愛対象でもなんでもないですよね?
なのになのになのに、大丈夫なのか、
あたしの弟はああああああああああああああああっ!!
そ、それこそ後数年したら、
体も大きくなって、
ツェルヘルミアさんに体格も追いついて・・・
不幸な出来事が起きたらどうするんですかあああああああああああああっ!!
「リ、リィナ?
そ、それじゃいいかしら?
聖女様たちが戻る間に下準備するように言われてるの。
まずは食材の確認からなんだけど・・・。」
あ、あたしのお母さんがモジモジしながら話しかけてきてくれました。
向こうもあたしにどんな態度でいればいいのか、自信なさそうです。
「あ、う、うん、じゃ、
じゃあ一緒に見ていこう、か、ましょうか?」
ああああ、あたしもテンパってます。
でもまだマシだと思います。
ミシェルネさんは部屋を出る前に、
「お互い気を遣いあって話し込むより、
お料理みたいに何か別のことをしながら仲良くなる方がいいんじゃないでしょうか?」
って有り難い配慮してくれました。
本当に12歳の女の子とは思えませんよね。
弟も、せめてこんな方向に早熟してくれれば良かったんですけどね。
料理や食材のこと話しながらなら、
それこそ、そんなに気を遣うこともなさそうですものね。
ダメですよ、ケイジ。
ホントにあのミシェルネさんに逆らったりしたらいけません。
あたしも全面的に従うことにします。
厨房には、金枝教の関係者らしいお付きの人が、材料や調理道具を運んできていました。
変わった形の大きな鍋がありますね?
普通煮炊き用のお鍋って円柱形だと思うんですけど、
むしろ平たい筈のフライパンの底を深く丸くしたような形状?
お鍋じゃないんですかね?
お城のメイドさんもいらっしゃって、厨房の機材や魔道具の説明もしてくれてます。
そこから先はあたし達の出番だそうですけど何作ればいいんでしょうね?
なんかあまり嗅ぎなれない香辛料もあるみたいですけど。
あたしが二の足を踏んでいると、
お母さんが話しかけてきてくれました。
「ツェルヘルミア様は、少し前に雷に打たれる事故があったんだけど、
その時から人が少し変わったみたいで・・・。」
でぇっ!?
そんなの大事故じゃないですかっ!!
それで無事だったんですかね?
「そうなの、
馬車に直撃したみたいで、御者の方は亡くなったのだけど、奇跡的にツェルヘルミア様は火傷くらいで済んで・・・。
でもそれ以降、突然ツェルヘルミア様は料理とか剣術とか自分から進んで始めるようになられたのよ?
身内にお優しいところは変わってないけど、
ご自分に敵対しようという方には全く容赦しなくなったの。」
ケイジ・・・
ツェルヘルミアさんにも逆らわない方が良さそうだよ。
うん・・・あたしは、
なんか知らないけどあの二人に気に入られてるみたいだからいいんだけどさ。
ていうか、あたしのお母さん、
それは今聞いた方がいい情報なんですか?
「あ、それでね?
どこで覚えられたのか、ツェルヘルミア様は不思議な料理を次々に作るようになって・・・
最初は必要な食材がないからって大騒ぎしてたんだけど、そこは侯爵家の財産と情報網使って色々な料理を編み出されたのよ?
とっても美味しいものばかりだからリィナも楽しみにしてるといいわ。」
なんてハイスペックなお嬢様なんですかね。
あたしなんか、勇者だなんて持て囃されていい気になってる場合じゃないですね。
世の中尊敬に値する人はたくさんいらっしゃるんでしょう。
・・・あ、みんな帰ってきましたね。
メリーさんも一緒・・・って、
あれ?
なんでメリーさんとミシェルネさん、
おてて繋いで仲良く歩いてるんです!?
麻衣ちゃんもなんか疲れた顔してるし!
いったい何がどうなってるのですかああああああっ!?
どのくらい大変かというと、
ツェルヘルミアのパパやお兄様たちがこの事実を知ったら、
兎ファミリーを皆殺しにしかねないほどのヤバさです。