第五十六話 大会決着
ぶっくま、ありがとんです!!
矢羽の色は昨日に続いて青か。
なるほど、その方が分かりやすいな。
さて、全てのターゲットは30箇所か、
配点は全て均一なのか?
だとしたら最低で6個は先んじなければならない。
だが、一人でそれ以上モノにする奴がいたら優勝できない。
なんとか10個は決めないと。
昨日の印象だと、決してオレが敵わないと思えるようなヤツはいなかった。
ならば一人でエモノを独占できるヤツはいない筈だが。
これ以上考えるのは後回し!
まずはフィールドを隈なく歩き回りターゲットを発見せねば。
さっそく・・・標的発見!
地面から5メートル程の隆起した丘に、二重丸のペイントされた丸い板の杭が刺さっている。
このオレのユニークスキルは「鷹の目」、
ユニークスキルという割には地味だよな?
だが、戦闘や弓術においてはそれが圧倒的なイニシアチブを取れるのだ。
「ほらよっ!」
オレの動きでウィルバー達も察知したろう。
だが、ターゲットは遥か先にあり、視認するのに手間取る筈だ。
ならば1個目はオレが貰う!
ヒュウッ
ん?
オレは耳を疑った。
だが錯覚でも気のせいでもない。
オレが射た直後、後ろから一本の矢が飛んで行ったからだ。
しかし同じ性能の弓矢から発射されたものならば、こっちの方が射抜くのは早い。
苦し紛れに放ったというのか?
矢の本数は限りあるというのに。
そして歓声。
『試合開始早々、1個目のターゲットが射抜かれましたあ!
まずは風に守られしダークエルフのベルナール!
5ポイント先取!!』
なにいっ!?
確かにオレの矢の後、ベルナールの黒い矢羽が飛んで行った!!
だがどうしてオレより早く射抜く事が出来る!?
戸惑ってる暇はない。
次のターゲット・・・あった。
さらにフィールドを見渡すと、樹々の茂みの間からターゲットの姿が見えた。
一度周りを見渡して・・・ウィルバーと視線が合った!
選手の妨害は認められていない、
なら、この位置からなら・・・!
オレの二つの目はターゲットに集中!
だが狼の耳で周りの音を拾う事も忘れない。
オレが弓を番えると同時にウィルバーの位置からも弓を弾く音が!?
同時か!!
どちらが早かったか判じ得ない。
後は矢の速度がどちらか上か!
恐らく二人とも狙いは外していまい。
オレの目ならどちらが先に射抜くか、見える筈だが・・・
『続いては熱血のウィルバー!!
余裕のポイントゲットだああっ!!』
何だとっ!?
オレの矢が外れた!?
見えた、
確かにウィルバーの赤い矢はターゲットに突き刺さり、
軌道を外れたオレの矢は途中の茂みに消えた!
風はなかった筈、一体何故!?
「ガハハ、
狼のあんちゃん、本当にいい目をしているんだな、
だがな、それだけじゃあここでは勝てねぇ、
昨日のテーダーの名誉の為にも言ってやる。
今日の試合形式ならあんちゃんはテーダーにも勝てねぇ。
昨日の試合形式ではテーダーの実力は活かしきれなかった。
まあ、それはそれであの形ではあんちゃんの実力が上回ったのは間違いねぇからな、
そこは卑下するこたぁねえ。
だが、この決勝戦はオレらエルフの誰かが優勝を貰う!!」
これはまさか
「魔法かっ!?」
「よくわかったな、お若いの。」
ヒューマンのAランク弓使い!
知っていたんだな。
その後、ニコニコしながらミストランも話しかけてきた。
「エルフの弓使いは、みんな魔法剣士・・・じゃなくて魔法弓士か、
うん、だと思った方がいいよー?
ハイエルフの方がどちらかと言うと弓の技術に優れ、
ダークエルフは魔法の技力が高い傾向だけどね、
どっちも高い魔力があるのは確かだからさ、
ハンター仕事にその魔力を使わない手はないだろ?」
言われてみればその通りじゃないか、
オレには魔法の才能がなかったから、その発想に気付くのが遅れてしまった。
「じゃあさっきのは・・・。」
「うん、ベルナールは風の適性が高いから、風魔法で弓矢のスピードをブーストさせたわけ、
結果、ケイジの矢の速度を追い抜いてターゲットに命中!
ウィルバーの旦那は火系魔法、
矢の先端を発火する程、熱を込めて、
その気炎の圧力を以って、ケイジの矢の軌道を押し曲げたんだよ。
まあ、バラすつもりはなかったけど、
ケイジは自分で気づいたから、サービスね!
じゃああたしも自分でターゲット狙いに行かないといけないから、じゃあね~!」
やられた、
いや、ナメていたと言っていい。
所詮オレはまだまだDランクのヒヨッコ冒険者か。
世界は広いなあ。
ヒューマンの弓士が興味深そうにオレの顔を見る。
「さて、どうするね、ケイジ君?」
「アンタは?」
「Aランクの弓使いを見くびってもらっては困る。
君や彼らにどうしようもない難しい立地にあるターゲットを狙うさ。」
オレは苦笑いを浮かべるしかない。
いやあ、嬉しいなあ、
こういう上の世界を見せられるとよ?
まだまだ自分の技術が限界じゃないって教えてくれるからな。
たぶん、今、オレの尻尾は激しく振られている事だろう。
「おや、嬉しそうだね?」
「そりゃそうさ、
そういう世界を望んでいたしな、
それにオレの武器は目だけじゃないいんでね。」
オレは屈伸し始める。
エルフどもが絶対に敵わない要素がオレにあるからな。
「なるほど、それは私も敵わんな。」
「というわけで、オレも行かせてもらう。」
獣人の身体能力に追いつける者などいない。
オレと同じ位置に陣取ることも不可能にしてやろう!
そして、ターゲットを先に見つけるのは常にオレだ!
さあ、追いついてみろ、エルフども!!
『決まったあ、これは強烈!!
射線上の樹々の枝を全て粉砕して、障害物ごとターゲットを破壊!!
デストラクションガール・ミストラン!
ポイントゲット!!』
イメージで彼女は水系が得意かと思ったが、実は土系か?
恐らく矢の先端固めて貫通力を増大させているということか、
やべぇ、魔法面白い!
マルゴット女王にもう少し教えてもらうんだった。
まあ、オレには適性なかったが。
ベディベールは魔法上手くなったかな?
今度会うことがあったら、アイツに教えてもらおうか?
・・・ていうか、オレより物騒な二つ名、付けられているんだな・・・ミストラン。
「うっりゃあああああっ!!」
オレは土煙をあげながら、急斜面の崖を駈け降りる。
目の前の景色が高速で流れて行く。
着地?
「とうりゃぁっ!!」
問題ない。
オレの脚力なら5メートルの高さから飛び降りてもケガなどないのだからな。
そしてターゲット確認!
ロックオン!!
ズビシィッ!!
『激しい追い上げだあ!!
皆殺しのケイジ選手ーっ!!
他の選手は誰もついてこれなーいっ!!
鮮やかにターゲットを射抜き、通算30ポイントーっ!!』
おお、今のは10ポイントのターゲットか、
まあ崖の上からじゃ目視出来ない位置にあったしな、
本来、あの上から狙ってもらおうという意図だったのかもしれない。
こっちの動きとは別に、
大会運営者は楽しそうにマイク音声を会場全体に響かせる。
『いやあ、今大会は実力伯仲!!
近年にない盛り上がりを見せています!!
如何ですか、ラプラス会長!?』
要所要所で出てくるな、あの会長!!
『はい、ラプラスです!
何よりも、ですね、
今回の5名の選手たちの特性が、それぞれ違うというのが見どころですね、
これは正直、誰が優勝するか予想も出来ませんっ!』
『まさに仰る通り!
ああっと、喋っている間にAランク冒険者、神箭のカエイ選手、
山頂にあるターゲットを崖の下から射抜いたーっ!!』
『見ましたか、あれ、放物線を描いて打ち抜きましたよ、
あの位置からは直接狙えないと見て、
矢が失速するタイミング、角度全て計算して放ってます。』
うお!
ホントに凄えな、
話聞くだけでもどれ程の難易度かわかっちまう。
目がいいだけのオレには絶対にできない芸当だ。
・・・ちょうど、
太陽がオレたちの真上に来た頃だろうか、
会場全体に笛の音が響き渡った・・・。
ピリピリピイ~ッ!!
『ただ今、ケイジ選手が10ポイントのターゲットを射抜いたことで、全てのターゲットが破壊されました。
そしてこの決勝戦全て終了となったことをお伝えいたします!!
選手の皆様は控えの席にお戻り下さい。
観客の皆様方は盛大な拍手をお願いいたします!!』
オレ達は拍手の渦に讃えられて舞台を後にする。
自分たちの得点は大体把握していた。
最後に取れたのが10ポイントだったのは運が良かった。
あれで何とか並べたかな、ってとこだからな。
ふぅ~、なんだかんだでオレが一番動いてたもんな、
さすがに疲れたわ。
でも見渡すとミストランもウィルバーもぐったりしてるか?
「いやあ、魔法使い続けるのも体力使うんだぞ?
ああ、体力って言わねーか、ガハハ。」
なるほど、さすがのウィルバーもガハハに力がない。
ミストランは早速飲み物にかぶりついている。
ヒューマン、カエイは薄い笑みは浮かべているがゲンナリしていた。
「・・・もう、しばらく弓は見たくない。
だけど最後にいい思い出を作れましたよ。」
「・・・その思い出の相手を務めれただけでも光栄ですよ、
いい勉強になりました。」
オレは確かな技術に裏打ちされた冒険者に、敬意を持って握手を求めた。
・・・そんなに意外かよ?
確かに敬語使ったのも久しぶりな気もするが。
カエイはちょっとびっくりしたようだが、
顔を綻ばせてオレの手を握ってくれた。
さぁ、いよいよ結果発表だ。