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第五百五十六話 ぼっち妖魔は同情する

<視点 麻衣>


聖女ミシェルネさんのお話は続いている。

・・・後で思ったけど、

ミシェルネさんもいろいろ抱えてたんだろうと思う。

誰にも明かせなかった心の裡を。


 「それにおかあさん、

 多分、わたしにも原因はあるんだよ。

 普通の女の子なら、大人の都合や理不尽な要求に、感情的に反抗するんだろうけども、

 わたしはわたしの能力のせいで、

 ある程度そういった都合や事情を理解しちゃう。

 理解出来てしまう。

 なら仕方ないかな、って受け入れてしまえるの。

 おかあさんはわたしを凄い子だって褒めてくれるけど、

 実際は、自分にとって要領よく生きることも出来ない不器用な子供なんだよ。」


 「・・・それはあなたのせいじゃないわ。

 でも、・・・あなたはもっとわがままを言っても良かったのよ・・・?」



ああ、

やっぱり・・・

ミシェルネさんの普段の姿は仮面だったのか。

いや、それを誰も咎めることなんか出来ない。

そんな資格を持ってる人なんか何処にもいない。


一生懸命、

周りの期待に応えて、

応えて応えて・・・


なまじっか全て出来ちゃうもんだから、

拒否する事も出来なくて、


もう子供のフリすら出来なくなってしまったんだ。


何でも出来ちゃうけど、子供のフリだけが出来ないって、なんという皮肉めいたお話か。


・・・ていうか、それ、

どんだけストレス溜め込む事になるのよ!!

恐らくミシェルネさんの本当に凄いところは、そんなストレスを抱えても自分を見失わないところなのだろうか。


もうダメだ、

ここまで話聞いちゃったら、あたしだってほっとけない!


いえ、あたしなんか、

ミシェルネさんの役に立つ程の能力もないけれど、これは気持ちの問題。


ツェルヘルミアさんもメリーさんもミシェルネさんの味方だけど、あたしもミシェルネさんの方に立つよ!


あたしはさっき、ケイジさんを庇ったし、

この世界のケイジさんに罪はないと思うけど・・・



あ、


ああああああああああああああああ!

さっき思い出しかけてたこと、完全に思い出したああああああああああっ!!

よりにもよってケイジさん!


あたしは視たんだぞ!!

パラレルワールドで、ケイジさんがミシェルネさんと同一人物と思しき人を殺してしまった光景を!!

年齢も髪の色も違うけど、これまで聞いた人間関係からすると間違いない!

ツェルヘルミアさんがケイジさん何十回も始末してやるとか言ってた理由も当たり前だよ!


こんな話、絶対にメリーさんには言えない。

多分バレたらケイジさんはメリーさんに首を狩られる。


あたしが絶対に口を噤むとして、

もっと危ないのは、メリーさんの目の前でケイジさんがその事実に気付いてしまうことだ。


何しろケイジさんは幻視だかなんだか知らないけど、

その光景を自分で視てしまったのだから。


さっきの会議室では気づかなかったようだけど。


ケイジさんが視たという光景。

そしてあたしが天叢雲剣をサイコメトリーして視た光景。

両者が同一の光景かどうかは分からない。


だからあたしが視たからといって、ケイジさんも同じものを視たかはわからないのだ。


何しろケイジさんは直接あの子を殺したわけではない。


爆弾のようなものをケイジさんがライフルで撃って家ごと爆発させた。


そしてあの女の人は、

その家の中にいた大事な家族を庇うように、梁だか柱に背中を貫かれて亡くなったのだ。



・・・まあ、そんなん直接殺したも同然と言われればそれまで。

自分の手で相手の息の根を止めたかどうかの違い。


はあ・・・・、

まだ気は抜けないのか、この冒険。




 「おかあさん、ありがとう。

 ・・・なんか、一気に喋ったらスッキリしちゃった。

 ごめんなさい、これじゃご褒美もらったのはわたしのほうみたいだね。」


 「・・・何いってるの。

 いくらでも聞くわ。

 どんなグチでも弱音でも私が一字一句残さず聞いてあげる。

 だから何の遠慮もしなくていいのよ。

 時間だっていくらでもある。

 私がこの世界に残るのなら・・・」



あ、その手があったのか。

元の世界へ戻る帰還チケットの有効期限、無視すればいいだけだもんね。

でもそれでいいの?

確かに元の世界に戻ってもメリーさんには・・・


と、そこの所まで考えたところでミシェルネさんは淋しそうに首を振る。


 「ミカエラ?」


 「ダメだよ、おかあさん。

 最初に言ったでしょ?

 わたしはおかあさんの娘のミカエラとは別人格なんだって。

 そして何よりも・・・

 人形のカラダがこの世界で動けるのは、称号『冥府の王の加護』があるからなんだよ。

 あと二週間足らず?

 その刻限が過ぎたら加護は消えてなくなる。

 そうなったら、そのメリーさんのカラダはただの美術品になってしまうの。」


 「・・・そんな」


そんな縛りがあったのか。

でもこの世界には、メリーさんの中の人、エリザベートさんて名前だったか、同じ魂の人も存在しているらしい。


メリーさんから魂が抜けたら、この世界に同じ魂が同時に二つ存在してしまうことになるのだろう。


それはあんまり良くなさそうだよね・・・。


ん?

それってつまり、

同じ魂を持つ人は、同時にこの世界に存在しない、

と言っていいのだろうか。



マルゴット女王とマーゴお姉さん。

リィナさんとリナさん?

雪豹獣人のハギル君と、ザジルさんだっけ。

他にも大勢の皆さん。


そして転生者及び転移組の、

ケイジさん、ベアトリチェさん、ミュラ君、

カラドックさん、あたし、

・・・それとここにいるツェルヘルミアさんもか、

このメンバーの別人格がこの世界に同時にいたような形跡は今のところない。



・・・てことは、

リィナさんの、もう一人の自分がこの世界にいるかもしれないという仮定は杞憂だったのだろうか。


あと、考えてみたら、

あたし達みたいな転移組が死んだら魂はどうなるのだろう?

世界樹に送られるのだろうか。

・・・登録してない魂は受け入れ拒否されそうな気がしてならない。

うん、いまさら何言ってんの、って感じだけどね。



 「・・・それでね、

 今、厨房借りて、リィナちゃんたちとお料理大会開こうとしてるの。

 良かったらおかあさんも参加しない?

 おかあさんはご飯食べられないからつまらないかもしれないけど、作る方は・・・。」


あたしが考え込んでる間にミシェルネさんは、

メリーさんにとんでもない無茶振りしていた。

メリーさん、お料理できるのだろうか。


 「もう何百年もお鍋やお釜やフライパン、使った事ないのだけど。」



メリーさんと言えば死神の鎌しか連想しない。

お鍋やフライパン持ったメリーさんて、シュール以外の何物でもない気がする。


ていうか、メリーさんが使ったら呪われたアイテムと化さない?


特に釜は危険だ!!



 「じゃあ、みんなのところに戻ろっか!

 ツェルちゃんも料理するんだよね!?」


笑顔を取り戻したミシェルネさんがこちらを振り返る。


 「は、はい、魔道具でお豆腐冷やしてきましたから、具材はばっちりです。

 私が慣れ親しんでるお豆腐とはちょっと種類が違いましたけど。」


え?

お豆腐!?


ツェルヘルミアさんお豆腐持って来たの!?

さすが侯爵令嬢!

あたし、こっちの世界で一度もお豆腐見てないのに!!


 「わたしは玉子料理中心で作るからね、

 麻衣さんも食べてって下さいね。」


 「あ、はい、

 ミシェルネさん、万能すぎる・・・

 あたしが勝てるところが一つもない・・・。」


 「ふふ、さすがミカエラだわ。

 ええ、あの子は料理も得意だった。

 うん、ええ、そうよ、中でも玉子料理は様々なバリエーションを意のままにしていたわね。

 ああ、どうしましょう。

 ミカエラを称賛する言葉がどんどん溢れて来て、100や200の言葉では到底語り尽くす事なんて出来なさそうな気がするのだけど・・・。」


 (いえ、麻衣さんの方がお胸は大きいです・・・)


あれ?

一瞬、ミシェルネさんがあたしを見た?

あたしにはミシェルネさんの内面は覗けない。

けれど、薄く微笑んでいたミシェルネさんの瞳から、光が一瞬だけ消えて無くなっていたのは、

あたしが何か気にしなければならないことだったのだろうか・・・。


 

「つるぺた聖女は絶望する」


ミシェ姉は大人になってもAカップにしかなれません。

全ての世界でそういう運命です。


ミシェルネ

「・・・絶望・・・っ」

挿絵(By みてみん)


メリー

「なんてことなの・・・。

待ってて。

いま、おかあさんが諸悪の根源を斬り刻みに行ってくるから。」

深淵

「そ、それは私のせいじゃないっ!!」

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