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第五百五十三話 ぼっち妖魔は目撃する

もはやフラア編のネタバレとか気にしない。

まぁ、皆さんお気づきだったとは思いますけれど。


前も書いたかもしれませんが「彼女」はフラア編本編には登場しない人物。


<視点 麻衣>


まさか。


あたしの背筋を冷たいものが這う。


いま、ここまでの話の中で、

メリーさんが絡むような話はおろか、ミシェルネさんがメリーさんに興味を持つような話もなかったはずだ。


聖女の称号を持つミシェルネさん。


そんな人が、

人の恨みや憎しみを糧にする呪われた人形に会ってどうしようというのか。


あ、


ま、まさか、

・・・ケイジさんの話じゃないよね?

ミシェルネさんの恨みを、あの、死神の鎌に吸わせようなんて恐ろしいことは・・・


いや、とりあえずケイジさんの件は片付いたはずだ。

うん、とりあえず。


 「麻衣さんなら遠隔透視でメリーさんの居場所はわかりますよね?」


それは全く問題ない。


 「は、はい、今あの人は、

 お城のバルコニーだかの手すりに座って日向ぼっこ・・・

 あ、いえ、街並みを見下ろしているみたいですね。」


てことは、お城の中でも結構上の方にいるってことか。


 「そうなんですね・・・。

 では、麻衣さま、

 もう一つの願いは、わたしをそこまでご案内していただきたい、という事なのですが。」


そ、それだけなら確かにあたしにも簡単に出来るお願いだけど。


 「ミシェルネさん、な、何かメリーさんに・・・。」


あたしはこの時点でかなりの警戒心を抱いていた。


だって


何よりも



ミシェルネさん本人が、

今までにないほど緊張していたのがわかったからだ。

そんなの心を覗くまでもない。

普通に誰でもわかるレベルで。


 「・・・会えば分かると言いたいのですが、

 この話は麻衣さんにとっても他人事じゃないはずなんですよね。」


え?


 「ど、どういうことっ?」

 「ここから先はお願いではありません。

 麻衣さん、あなたの為でもあります。

 わたしとお人形さんとの出会いを、

 あなたの今後の参考にしていただけたら。

 ・・・なので、

 是非見届けて欲しいのです。」


 「あたしの為って・・・。」


 「ではご案内よろしくお願いします。

 ツェルちゃんも護衛のために立ち会ってくれることになってます。

 わたしだけじゃ、勇気が出ないので・・・。」


どういうことなんだろう。

確かにメリーさんはこれまで何百人、何千人処刑したかわからない闇の人形だ。

それに会うのに勇気がいるというのは分かる。


でもメリーさんは、それこそ殺人とか非道な行いをしたことない人には無害な存在。


まさか仮にも聖女さまが、これまでにいろいろ犯罪を犯してることなんてないと思うんだけど。


 「テリトルト様や、ケイジ様たちはこの場でくつろいでいて下さい。

 わたしはお人形さんとのお話が終わればここに戻ります。

 厨房でリィナちゃんたちと一緒にお料理したいと思ってますので。」


料理の腕前も一流なのだろうか。

一分の隙もないな、ミシェルネさん。


あたしは言われるままに席を立った。

メリーさんがいるところはそんな遠くない。

ただ、お城の中とはいっても屋外に面している場所なので外套を用意する。

ミシェルネさんも、ツェルヘルミアさんに上着を着せてもらっていた。

その間、ミシェルネさんから表情の変化は特に見られない。

まるで着せ替え人形みたいだ。

準備が出来たのを見計らってあたしが先導する。

移動するメンバーはこの三人。

あたしの後ろにミシェルネさん、そして護衛騎士のツェルヘルミアさんと続く。


一応、マルゴット女王には、

廊下やお庭にはどこへでも足を伸ばしていいと言われてるので、兵隊さんや城詰の騎士さんたちに咎められる事はない。


遠隔透視で視る限り、

メリーさんが日向ぼっこしてるバルコニーは結構広そうだ。

パティオテーブルって言うんだっけか、お茶会でも開けそうなテーブルセットもある。

それだけ聞くととても優雅そうなんだけど、

そんな場所の手すり部分に座ってるのって、お行儀悪いと言うべきか、落ちたら地面に真っ逆さまで危ないと言うべきなのか、まぁどっちにしても今更か。

とはいえ、そんな場所に聖女様を近づけるのはどうなのだろう?

まぁその直前の廊下部分の所まで行けばいいのかな。


そこまでの道中、無言でいるのも何なので少し情報収集してみようと思う。


 「ミシェルネさんがメリーさんに会いたいというのは、

 ・・・やっぱり勝手にわかっちゃう能力絡みなんですか?」


 「ええ、そんなところです。

 実際会うのは初めてなので、緊張します。」


正直だね。

緊張してることを隠す必要もないんだろう。


 「でもそれって、わかってしまうだけの能力なんですよね?

 何がわかったのかあたしには分かりませんけど、それってどんな理由でメリーさんに会う必要があると?」


 「・・・そうですね、なんて言うか、

 わたしって、メリーさんへのご褒美なんですよ。」





え。


ごほーび?


 「そ、それってメリーさんが邪龍討伐を成功したことに対する・・・?」


 「ですね、

 わざわざ異世界から問答無用で連れてこられたんだから、元の世界に戻る前にご褒美くらいあってもいいと思いません?」


そ、それはあたしも間違いなく、無理矢理連れてこられたんだから、ご褒美は・・・


 「え! でもそれがなんでミシェルネさんに!?」


 「あ、ミシェ姉、あのバルコニーの先にいるのが・・・」


あたしの質問の途中で、ツェルヘルミアさんがメリーさんに気づいたようだ。

確かにバルコニーの先に、こっちに背中を向けてる銀髪で黒いドレスの後ろ姿が見える。


今は冬。

お昼過ぎの時間とはいえ、太陽の日差しは高くない。

その斜めの陽の光を浴びながらメリーさんの体は前後に揺れているようだ。

手すりの隙間から足をぷらぷらさせているのも見える。


まあ、メリーさんもあたし達が近づいているのは分かっているはず。


あたしが声を掛けようか迷ってるうちに、

聖女ミシェルネさんは歩き始めた。


顔つきは真剣だ。

緊張していると言うのは本当なのだろう。


さっきミシェルネさんは自分のことをご褒美と言った。

まさかメリーさんに聖女さまが喰われるという意味ではあり得ないよね?


メリーさんにとってご褒美となり得るもの。


一人心当たりはあるが、それもあり得ない。


あの子は死んでいるのだ。


新しい命に転生する可能性は残されているけど、それはこの聖女さまではない。

時系列が合わなすぎる。

それにこの聖女さまと、あの黒髪の女の子とは、あたしの中でイメージが全く重ならない。

髪の色とかそんなレベルでなく、全くの別人と言っていいはずだ。


あたしの黒髪の子のイメージなら、

さっきみたいな大事な会議なんかは自分で仕切らない。

たぶん信用できる誰かに全部ぶん投げる。

わがままとかそういう話でなく、周りもほっとかないと思うんだよね。

そして場を作ってくれたみんなに無邪気な茶々を入れて、結局はその場を掻き乱すのだ。


ああ、他人に対する影響力という意味ではミシェルネさんも黒髪の子も相当なものか。

たぶんだけど。



あたしの後ろからツェルヘルミアさんの声が飛んでくる。


 「ミシェ姉、頑張ってください!!

 私が見守っておりますわ!!」


ツェルヘルミアさんも内容は理解しているということか。

これから何が始まるのか。


ツェルヘルミアさんの言葉に、

ミシェルネさんは足を止めて後ろを振り向く。


 「うん、ありがとう、ツェルちゃん。

 どんな結果になろうとしても・・・

 頑張るよ。」


それはさっきまで、余裕綽々でケイジさんとやり合っていたミシェルネさんの姿ではない。


年相応の、

なにか、困難や目標に立ち向かおうとしている普通の女の子の顔だ。

あれ?

その後、ミシェルネさんはあたしの方にも視線を送って来た?


 「・・・麻衣さんも見ててください。

 せめてあなたが勇気を出すのに一助となれば・・・。」


え、

あたしの勇気?

ミシェルネさんとメリーさんが会うのに、

あたしとどんな関係が。


問いただしたい気持ちはある。

でも回答は目の前にあるのだ。

そっちを見た方が早い。



やがてミシェルネさんは、

廊下からバルコニーへと出て、

その向こうに足を投げ出して座っているメリーさんの背中へ声をかけた。



 「こんにちは。」


メリーさんにはまだ距離がある。

けれど普通に常識を備えてる人なら、近づきすぎて相手を驚かせるわけにもいかないよね。

場所が場所だけに、滑って地面に落っこちるかもしれないし。


外は風が吹いている。

メリーさん自身は微動だにしていないが、

肩までかかるシルバーブロンドの髪が揺れる。


ミシェルネさんの声は聞こえてるはずだ。


単に反応が鈍いだけなのだろうか。


ミシェルネさんも、

それ以上、声は出さないな。

メリーさんに聞こえていることはわかっているんだろう。


10秒か、15秒くらいか、

それだけ経ってから、そこでようやく気づいたかのようにメリーさんの顔がこちらに向いた。


 「・・・こんにちは。

 お城の人かしら?

 あら、麻衣もいるのね。

 もしかして今日、麻衣達が会うと言ってた聖女さま?」


 「・・・はい、ミシェルネと申します。

 初めまして・・・。」


ミシェルネさん、顔はこっちから見えないけどめちゃくちゃ緊張しているよ?

いったいメリーさんに何の目的が。


 「ええ、初めまして。

 私はメリー。

 もしかしてわざわざ会いに来てくれたのかしら?

 私はこの世界の聖女さまに会う必要はないと思っていたのだけど。」


 「ええ、あなたが聖女に会う必要なんか全くありません。

 ですが、わたしミシェルネは、

 あなたに会いたいと思って参りました。」


さっきメリーさんへのご褒美とか言ってたと思うけど、ミシェルネさんの意志でもあるということか。


 「まあ?

 私みたいな呪われた人形に会いたいと思ったの?

 奇特な子ね。

 せっかくだしあいさつくらいなら・・・。」


そこでメリーさんの動きが止まった。

まるでゼンマイ人形のネジが切れたかのように。




 「どうしました?」


ミシェルネさんの声が震えてるように聞こえる。

あ、よく見たら二つの小さな拳を握り込んでいる。

それ程までに緊張しているということか。



 「あの、あなた・・・お名前は・・・?」


 「・・・ミシェルネ、です。」



さっき一度聞いたはずのミシェルネさんの名前をメリーさんは問い直す。

まさか、メリーさん、ミシェルネさんに会ったことが?

いや、でもお互い初めましてって・・・。


 「ミ、シェル、ネ?」


 「どうしました?

 わたしの顔に何かついています?」


 「い、いえ、そんな、でも・・・。」


 「顔はあまり似ていませんか?

 世界が違うなら血筋も変わりますもんね?」


え、

ミシェルネさん、何を!?

似てるって誰に!?

世界が違うって何の話を!?


 「あ、あの、ミシェルネ?

 わ、私、あなたを見てある女の子の姿を思い出しているのだけど・・・。」


 「へぇ・・・、誰のことでしょう?

 もしかしてなんですけど、それって、

 あなたの世界にいたわたしのことですか?


 ・・・おかあさん。」

挿絵(By みてみん)


実際は表は寒いので外套着ています。

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