第五百四十三話 物理戦闘型聖女ミシェルネ
どこまでバラすか・・・。
その見極めが悩ましい・・・。
下書きかなり進んでいるけど書き直しも検討しないと・・・。
<視点 ケイジ>
オレは呆気に取られていた。
たった12歳の女の子の理論展開に。
その女の子の沸点の低さと攻撃力にも。
さらに言うと、その両者のギャップにも。
邪龍討伐において聖女を旗頭にする話をすれば、
・・・確かに有り得る。
もし・・・
もしの話であるのだが、
オレや勇者リィナが邪龍を倒せなかったなら・・・
そして何が恐ろしいって、
この場にいるその金枝教の司教が、
彼女の話を肯定も否定も出来ないという現実が、更に話のリアルさを醸し出している。
だが幸か不幸か、オレは今の話の本当の意味と重大さに、この時点ではまだ気づいていない。
いや、気づけと言う方が無理だろう。
その後の出来事が衝撃的過ぎた。
そしてオレの思考が全く前に進まないまま話は進行していく。
「もちろんわたしに勝ち目なんかありません。
多少無理矢理パワーレベリングしたところでたかがしれています。
最低でも後五年・・・
いえ、それでも勝てるかどうか分かりません。
邪龍に勝てたとしても、わたしはきっと死ぬでしょう。
あ、もちろん本音として、そんなとこに連れて行かれるのも勘弁して欲しいですけどね。
なんでわたしみたいな子供が化け物と戦わなきゃならないんですか、ほんとにねぇ・・・?
ですので、心の底から皆さんには本当に感謝を・・・。」
そ、そりゃそうだよな。
リィナだって早くから魔物は狩ってたかもしれないが、あくまでレベルと年齢に応じた小物だけ・・・。
それをこの世界を破滅させるようなラスボス相手に、12歳の女の子に戦えだなんて・・・。
でも・・・さっきの攻撃は!?
あのスピードと威力ならゴブリンの頭くらい簡単に砕けそうなんだが。
そのまま聖女の話にはカラドックが付き合ってくれるようだ。
「それなら邪龍にトドメを刺したと言うか、
私たちはお膳立てをしただけだからね、
邪龍討伐の最大功労者のメリーさんにもここにいてもらえれば良かったね。」
え、カラドック、
その通りだけど、聖女のさっきのオレへの凶行もスルーするの?
マジで?
「あ、そう・・・ですね・・・
いえ、でも却って良かったかもしれません。
その方には後で一人で会ってみたいので・・・。」
動く生き人形のメリーさんに一人で会いたいだと?
ていうか、話す内容が本当に12歳には思えない。
「それと・・・あの、蒸し返すのも憚れるのですが・・・
聖女様の先程のは・・・仮にもケイジはこのパーティーのリーダーです。
ケイジの言動に失礼があったことは謝罪いたしますが、
12歳のあなたにケイジが反応すらできないような攻撃手段をお持ちとはとても・・・。」
うおおおお、カラドック!!
オレはお前を信じていたぞ!!
オレが聞きたくても聞けなかったことを聞いてくれてありがとう!!
「・・・あ、こちらこそむきになってしまい大変申し訳ありません。
普段は怒ることがあっても、我を忘れることなんかまず滅多にないのに、今回は目の前が熱く真っ赤になっちゃって・・・!
後で壁を傷つけちゃった件、マルゴット女王にも謝らないとですね・・・!?」
ううん、オレに謝って。
そこへ何故か護衛騎士の方が自慢げに身を乗り出してきた。
「ミシェルネ様は物理戦闘型聖女ですわ。
投擲術、刀剣術、結界能力に類稀な天賦の才をお持ちです。
今なら私の方が強いでしょうが、あとその五年もしたら、私は強さで追い抜かれるのではないかと思っています。」
さっき術は苦手って言ってたものな。
それでも結界能力は持っているのか。
「何言ってるんですか、ツェルちゃん、
ツェルちゃんだって、この先まだまだ強くなるでしょう?
なら、あと五年じゃとても追いつけないですよ。」
ていうかなんだよ、物理戦闘型聖女って。
その言い回し、どっかで聞いたな。
あ、確か魔王が物理戦闘型か、魔術特化型かどちらかで生まれて来るって聞いたっけ。
なら邪龍の住処で会った聖女ベルリネッタが魔術特化、
そしてこの聖女ミシェルネが物理戦闘型ってことなのか・・・。
ていうかこの二人、このまま強くなったら邪龍と十分に戦えたんじゃないか!?
「あ、あの、ケイジさん、カラドックさん、あの話をするには今のタイミングがいいかと思うんですけど。」
お、麻衣さんからの提案だ。
あの話ってあの話かな?
オレもカラドックも異存はない。
「まあ、わたしたちに何かご用がお有りでしたでしょうか?」
「あ、えっと、ミシェね・・・ミシェルネさんか司教様かどちらか、大昔の聖女さまでベルリネッタさんて方はご存知ですか?」
麻衣さんは、聖女から「ミシェ姉」って呼んでもいいようなこと言われてたはずだが、
さっきのオレへの攻撃を見て、そんな呼び方はとてもじゃないけど出来ないと判断したようだ。
・・・そりゃそうなるよな。
そのミシェルネは、
麻衣さんの質問に少し考え込んだが、そのうちに少し申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「・・・ごめんなさい、
まだそんな勉強する時間がなくて・・・。」
それもよく分かる。
聖女に認定されたばかりなら、他に覚えなきゃいけないことが沢山あるだろう。
「ベルリネッタ、ベルリネッタ・・・はて、聞き覚えがあるような・・・
その方がいったい・・・。」
司教の方は多少覚えがあるのだろうか。
「あ、実は・・・」
そこで麻衣さんは、邪龍に利用されていた先代の聖女パーティーの顛末を語った。
もちろん麻衣さんがサイコメトリーとやらで読み取った情報だけの話ではあるが。
「あ!
思い出しましたぞ!!
確かに五百年ほど前の聖女の名前です!
邪龍討伐メンバーの筆頭でしたが、
生還者が誰もいなかったために、
邪龍を倒せたのか、それとも途中で全滅したのか、いまだはっきりと評価を定めることの出来ない聖女と記憶しています!」
「あ・・・ならやっぱりお伝えしないといけませんね。
その方達は立派に使命を果たしました。
自分達の命と引き換えに。
あたしには、邪龍にトドメを刺した槍使いの方の映像も視えました。
その槍使いの方も、邪龍をベルリネッタさんごと刺し貫かねばならなかったことに、激しい後悔と耐え難いほどの自責の念を示していましたので・・・
そこから先は視えませんでしたけど、恐らく槍使いの人も生きて祖国に帰るつもりはなかったのではないかと・・・。」
オレたちはあの場で麻衣さんから聞いている。
それにしてもつくづく思う。
勇者とか冒険者とか関係なしに、
志の高いヤツなんていくらでもいるんだよな。
オレたちが知らないだけで。
「それは・・・立派な方々だったのですね・・・、
しかもそんな壮絶な最期を・・・
麻衣さん、ありがとうございます。
よくわたし達に伝えてくれました。
テリトルト様、この事は・・・。」
「はい、大聖堂に戻りましたら早速報告いたしましょう。
異世界より来られた麻衣様、司教の私からも厚くお礼を申し上げます。」
二人とも真摯な態度だ。
やはり何百年も前の話とはいえ、大先輩の立派な話には誇らしげな感情が生まれるのだろうか。
「・・・いいえ。」
うっ、聖女ミシェルネからの突き刺さるような視線がオレに!?
「わたしたちが誠実に振る舞おうとするのは、先代の者たちの活躍ではなく、
それをわたしたちに告げねばならないと考えてくださった、心優しき麻衣さんへの相応の礼儀だと考えるからです。」
そ、そうか。
なるほど、言われてみたらそうなるか。
し、しかしオレってばもしかして12歳の女の子に説教喰らっているのだろうか。
いや、今のは説教じゃないよな?
一方、当の麻衣さんは、そんな事ないとばかりに困った顔で慌ただしく手を振っている。
・・・だが、そうだよな。
麻衣さんはなんだかんだいって、ずっとオレたちのフォローをしてくれている。
そうだ。
麻衣さんの優しさにはオレたちが一番救われているんだ。
聖女の発言は何も間違っていない。
20週ほど出番のなかった方の聖女と
20年ほど出番のなかった方の聖女。
麻衣
「え? え? 何の話!?」