第五百四十二話 神の一撃
あ、VRoidの3D画像、
ミシェルネの足元をサンダルにしておくの忘れてた!!
<視点 ケイジ>
「一通り紹介が終わりましたね。」
聖女ミシェルネはまた普通の明るい調子に戻った。
さっきの、メリーさんとヨルがこの場にいない事に、残念そうな・・・
いや、どっちかというとオレに話しかけられた事が不快だったのかもしれない。
どちらの理由かわからないが、今は通常運転のようだ。
後はオレが答えなければならない話以外はカラドックに任せようと思う。
多分その方が平和に終わる。
そう言えばさっき麻衣さんに、自分の事をミシェ姉と呼んで欲しいとか言ってたな。
ならオレもそう呼んだ方がいいのかな?
「ではこれより本題に移りたいと思います。」
やはり聖女ミシェルネは、何らかの重要な目的があってオレたちに会いに来たのだろう。
ではいったいそれは何なのか・・・。
「あっ、みなさん、そう身構えなくてだいじょうぶですよ。
皆さんに厄介ごとを押し付けるような話ではありませんので。」
そうなのか、
それはありがたいんだが一体どういう話なのだろう。
「とは言っても、用件はいくつかありまして、順番としてはまずわたしの話から始めたいと思います。」
やっぱりこれだけ緊急にオレたちと会おうとするからには、重要な話はいくつもあるということか。
「まず、というか、先程邪龍討伐の件について、聖女の称号を得た者としてお礼を述べさせていただきました。
それとは別に、わたし個人ミシェルネとして、
皆様のおかげで難を逃れたことにお礼を述べたくこちらへと参ったのです。」
ミシェルネ個人として?
それは聖女としてのものとどう変わるのだろうか。
「ミシェルネ様、よろしければ詳しくお話しいただけますでしょうか?」
うむ、カラドックが完全にオレの代わりをしてくれている。
なんて頼りになる男なのだろうか。
「はい、話は単純で、
もし、皆様が邪龍討伐に手こずったり、
或いは全滅したり、
いえ・・・そもそもの話からいたしますと、
カラドック様や麻衣さん、そしてメリーさんでしたっけ、異世界の方々がこの世界に訪れてくれなければ・・・
このわたし自らが邪龍と戦う未来があったと言う事なのです。」
な・・・なんだと?
「い、いや待ってくれ!
ミシェルネ様・・・いや、ミシェ姉はまだ12歳なんだろ?
冒険者ギルドでの魔物討伐を認められる年齢にも達してないじゃないか!
いくらなんでもそれは有り得ないだろ!?」
いかん、
カラドックに任せるつもりがついつい吠えてしまった。
けれどオレの疑問は真っ当な筈だ。
なのに・・・聖女の反応は・・・
これは
殺気?
「ケイジさん! 危なっ」
麻衣さんの言葉がオレの耳に届くより早く・・・
ビュオッ ゴガァッ!!
何かがオレの左頬をかすめていった・・・
耳元で聞こえた風切り音と、すぐ後ろからの激突音のようなものはほぼ同時・・・
視界の片隅を、何か薄い体毛のようなものが舞っている・・・。
オレはまさかという予感の元に、
恐る恐る左の指を頬に這わせる・・・。
ベト・・・リ
指先にはオレの体毛と真っ赤な血がべっとりと・・・
誰も言葉を発しない。
な に こ れ
周りを見るとオレのパーティーメンバー、周囲の会場係、金枝教の司教ですら氷のように固まっていた。
唯一平然としてるのは・・・護衛騎士の女性と・・・
オレの真正面にいるミシェルネ・・・いや、あの態勢はなんだ?
まるで何かを投げつけた直後のような・・・。
オレは自分でもわかるくらいゆっくりと・・・
オレの頬を何がかすめていったのか、確かめるようにゆっくり振り返る・・・。
そこには信じられないものが壁に突き刺さっていた・・・。
サンダル。
革と木で出来ているに違いないサンダル。
それが・・・アラバスターの石壁を砕いて埋まってるって・・・
いったいどんな威力・・・
いや油断していたとはいえ、オレのイーグルアイで捉えられないスピードなんて・・・。
「・・・ケイジ様。」
「あ、え・・・?」
声の主に向けて首を戻すと、
そこには幼いながらも噴き上げる怒りのオーラを身に纏った聖女ミシェルネ・・・
え、
な、なんでオレ、聖女にそんな顔をされてるの・・・?
「申し訳ありませんが、ケイジ様にわたしをミシェ姉と呼んでいいと許可した覚えはありません。
わたしのことをミシェルネと呼ぼうが聖女と呼ぼうが構いませんが、
以後、その呼び方は控えていただけますでしょうか・・・?」
名前の呼び方!?
な・・・なんでそんなこと・・・で
い、いや、ここ、オレは何に驚けばいいんだ・・・。
聖女の沸点の低さについてなのか、それとも彼女の攻撃力についてなのか・・・。
オレたちが呆気に取られているままにも拘らず、
聖女の護衛騎士は、誰に何の指示もないのにオレの傍までやってきた。
何をしに来たのかと思ったら、聖女が投げつけたサンダルの回収か。
その用が済んだらすぐ戻るかと思ったが、護衛騎士は思い出したかのように腰元のポーチから薬瓶を取りだした。
あ、そ、それ、ポーションか?
その間、オレはほんとに何のアクションも起こせず成り行きを見守るしか出来なかったのだが、その隙に護衛騎士はオレの頬の傷にそのポーションを刷り込んでくれた。
綺麗な指だ・・・。
心配してくれているのか顔も近い・・・。
その彼女の細い指がオレの頬を優しく伸びる。
・・・なんだ、この護衛騎士、結構いいヤツ・・・ヒッ!?
めちゃくちゃ睨まれてるぅ!?
それも、睨まれるっていうよりも、メンチ切られたってなくらいに・・・。
い、いや、それどころか、オレの頬に延ばされてた指が、指が、
いつの間にか爪を立てられて・・・
「・・・忠告いたしますわ。
あまり調子に乗っているようであれば、ミシェルネ様の手を煩わせることなく、
この私でも貴方の首を貫くことくらい容易いのですからね・・・。」
な・・・なんでたかが名前の呼び方ひとつでオレがこんな目に・・・!?
オレが何もできずにいると、やがて護衛騎士は何事もなかったかのように、元の場所へ・・・
ん? いやリィナに向かって別人のような柔らかい視線を投げかけて帰ったぞ?
マジでオレとリィナでどうしてこんな差を付けられるんだ・・・。
その後、護衛騎士からサンダルを受け取ったミシェルネは、恥ずかしそうにそれを履きなおす。
「皆様、たいへんお見苦しいものをお見せしました。」
まるでこの数分の出来事が嘘だったかのように、年相応の笑みを浮かべる聖女ミシェルネ。
ホントに嘘だろ、こいつら・・・。
「ええと、話の続きはなんでしたっけ。
ああ、ええ、邪龍討伐にわたしが参加する話の続きでしたよね。
・・・ケイジ様のおっしゃるとおりなのでしょう。
冒険者ギルドの年齢制限もぞんじています。
けれどこの話は冒険者ギルドや国をも飛び越えた、ヒューマン・亜人全ての危機なのです。
各地のスタンピードで疲弊したギルドや国家に、邪龍を迎え撃つ余力は無くなります。
そうなった時、
たとえ12歳だろうと、
たとえ剣を持ち上げることすら出来ない非力な女の子であろうと、
聖女であるならば、邪龍討伐に向かわせるべきだという声が、必ずあちこちから上がってくるのです。
もちろん今現在、いえ、皆様が邪龍討伐に向かう直前にすら、わたしを邪龍の元へ向かわせるなんて意見はありませんでした。
それでも金枝教上層部ですら世論の要求に逆らえない時が確実にやってきていた筈なのです。」
いや、ちょっと。
剣を持ち上げることも出来ないって。
非力ってどんな意味だったっけ?
そうかもしれないけど、さっきの投擲は?
そこへ横にいた司教が口を挟む。
「ミシェルネ様の今のお話は、
私たち金枝教上層部の人間でも有り得ないと主張するでしょう。
我らとてそんな危険な場所に、せっかく数十年ぶりに認定した聖女様を向かわせようだなんて事は万が一にも考えられません。
・・・けれど確かに・・・多くの国や信者からの逆らい難い要請が来たら・・・
そこから先は私の立場では明言出来ません・・・。」
次回
「物理戦闘型聖女ミシェルネ」