第五百四十一話 神眼の聖女
前回、ぶっくま、ありがとうございます!
と書き忘れました!
なお・・・「神眼の聖女」・・・
彼女は丸太を武器にはしません。
<視点 ケイジ>
自己紹介の時間はまだ終わっていない。
最後は麻衣さん。
別にオレも何か期待して麻衣さんを最後にしたわけじゃない。
ただ、何かあるとしたら麻衣さんが最もその可能性が高いのではないか。
ならば麻衣さんの自己紹介は、ゆっくり時間を取れる最後にした方がいいのかもしれないと思っただけだ。
そのタイミングが来たと見計らい、オレは目で麻衣さんに合図する。
その合図で麻衣さんは立ち上がるが、その振る舞いはどことなくぎこちなさそうだ。
「あ、え、えっと、聖女さ、いえ、ミシェルネさんにはあたしが一番歳が近いのかな、
異世界から来た伊藤麻衣です。
あたしももうちょっとしたらこの世界からいなくなるけど、それまで宜しくお願いします・・・。」
麻衣さん、
「聖女様」と言いかけてやめたみたいだな。
そう言えば、邪龍に操られていた聖女のことも、名前で呼んであげた方がいいような事を言っていた。
それが目の前の彼女のことにも当てはまるのかはわからないが、
麻衣さんはそうした方がいいと思ったのだろう。
そして、麻衣さんもカラドックも口にしたことだが、
何かあるにしても、この世界ではカラドックや麻衣さんには時間は残されていない。
それなのにこれ以上、面倒事なんて起きてほしくないんだがな。
さて、聖女の反応は・・・ん?
静か?
アガサの時のように聖女はフリーズしているわけでもない。
ただ・・・静かに麻衣さんを見つめている。
当然、麻衣さんだってどう反応していいか、分からないよな。
「あ、えっと・・・?」
麻衣さんがようやく口を開きかけた時、
そこで何故か聖女が一度顔を下げた。
今回は横の司教からの合いの手はない。
聖女は麻衣さんに何か思うところでもあるのだろうか、
・・・お、すぐに顔を上げたようだ。
時間にしたら、頭を下げていたのは二、三秒というところか。
「・・・あなたが闇の巫女、麻衣様なんですね。
見れば本当に普通の女の子じゃないですか・・・。
それなのにこんな誰も知り合いもいないような世界に飛ばされて来て・・・
か弱い女の子をいったい何だと思っているんでしょう・・・?
そして麻衣様、本当にありがとうございました。
そして、いろいろご迷惑を掛けて本当に申し訳ありません。
いつか然るべく報いを受けさせますので、どうかご容赦を・・・。」
ん? どうした、聖女?
麻衣さんに話しかけるというよりも、まるで誰かに文句でも言ってるような・・・。
「えっ? あっ?
あ、あたしの称号、公開してないのに?」
あれ?
そうだよな?
邪龍討伐前も後も、麻衣さんのことは普通に異世界から来た巫女、または召喚士としてしか公表されてない筈だ。
もちろんマルゴット女王や世界樹の女神には、こっちから言わなくてもバレているのだろうが、そんな簡単に他人の称号を広める筈もない。
ならば?
「あ、申し訳ありません。
わたしの目は神眼となってますので、
隠されたステータスなんかでも全て視ることが出来るんです。」
・・・なんだと?
それって・・・つまり
マルゴット女王の上位互換・・・
すなわち、
オレの隠された称号・・・すらも。
タバサやアガサも身を乗り出す。
神眼なんて今までお目にかかったこともなかったろうしな。
「神眼!? 初めて見た!
あ、べ、別にあたしは視られて困る称号はないよ?
ただびっくりしちゃったのと・・・
それと、ミ、ミシェルネ、ちゃん、あ、さん?
な、何かこう、全て、そう、あたしたちのこと全部何もかも知ってそうな・・・
それも神眼の力!?」
もう麻衣さんは自分の種族に関しては気にしてないみたいだな。
・・・いや、てことはこの聖女、麻衣さんの妖魔リーリトという種族すらも視えてる筈。
それに関しては全く気にしてないのか。
てか、オレの称号は!?
「ああ、ええ、
・・・わたしはそんなに魔力もないし、大した術法が使えるわけでもないのに、聖女の称号があるのは、
この神眼と後もう一つ、『導く者』という称号のせいだと思います。
・・・具体的に説明するのは難しいんですけど・・・
なんかこう、いろいろと分かっちゃうんです。
あ、もちろんわからないこともいっぱいありますよ?」
ちょっと待ってくれ、それ。
世界樹の女神は黙っててくれたが、
聖女はオレの称号をスルーしてくれるのか?
オレが転生者であることと、
そしてオレが最低最悪の・・・
あ
そうか、
だからさっき、聖女はオレの事を虫でも見るかのように・・・
「ああ、あと麻衣様・・・
いえ、麻衣さんと呼んでも構いませんか?」
聖女は思い出したかのように顔の表情を和らげる。
「あ、う、うん、
だ、だいじょぶだよ、それで・・・。」
「はい! では麻衣さんで!!
それと、わたしの方の呼び方なんですけど、
ミシェルネさんよりかはミシェルネちゃんの方がいいかなあ。
でも本当にあとちょっとしたら会えなくなるのは残念です。
なんならミシェ姉と呼んでくれてもいいんですよ?」
「ミ、ミシェ姉・・・ちゃん?」
「いいえ、そのままミシェ姉で。
わたし、自分で言うのもなんですが、生まれ育った村の中で、本当に大人びていた存在だったみたいで、いつ頃からか年上の男の子や女の子にもミシェ姉、ミシェ姉って・・・。
だからあんまり自分の歳のことは気にしてないんです。」
なるほど、だから大人や身分の高い相手でも物怖じしないで喋れるわけか。
そこでまた思い出したかのように振り返る聖女。
「なのにツェルちゃんたら、わたしの事はミシェ姉って呼んでって頼んでるのに、さっきもミシェルネ様って・・・。」
「あ、いえ、ですから二人の時はそう呼んでいるではありませんか、
流石に他の人がいるところでは恥ずかしいですよ・・・。」
「むう、ツェルちゃんの意気地なしぃ。」
今度は年相応に頬を膨らませる聖女。
喜怒哀楽は間違いなく誰よりもはっきりしている。
それよりこの聖女、
いま、生まれ育った村って言ったよな?
ならやっぱり貴族じゃなくて、普通の平民なのか。
・・・それなのに普通に身分とか気にせず侯爵令嬢に話しかけているよな。
そして当の令嬢も全く気にしてないようだ。
それだけ聖女という肩書きは強力なものなのか。
それともこの二人の関係性が特別なのか。
・・・あ、そうだよな。
考えてみたらオレとリィナも全く気にしてないな。
何はともあれこれで互いの自己紹介は終わった。
ではいよいよ話は本番となるのだろうか。
・・・いや、聖女がオレたちに向けて視線をキョロキョロさせている?
「あら、えっと・・・
メンバーの方はこれだけ、ですか?
確か、あと異世界から来たお人形さんと、
魔族の方がいらっしゃると聞いたのですが・・・。」
ああ、この場に二人ともいないものな。
オレは普通に説明したつもりで、すぐに後悔した。
「ああ、申し訳ありません。
二人とも気まぐれな者でして、
人形のメリーさんは城内をうろついていると思います。
魔族のヨルは城下町にお土産探しに行ってまして・・・。」
「ハア・・・そうですか。」
この聖女、やっぱりオレに対してめちゃくちゃ不機嫌そうな態度に出る。
何でだ?
オレがなんかしたってのか?
かと言って、ここで子供みたいに抗議するのも大人げないしな。
これはどうすべきなんだ。
オレは困った時の頼みの綱、カラドックに視線を送る。
そしてカラドックの頭が軽く頷いてくれたように上下した。
やった!
後は任せたぞ、カラドック!!
我が心の兄よ!!
「むう、ツェルちゃんの意気地なしぃ。」
メイドのニムエ
「こ、こんなところで私の必殺セリフ集の一つを!?」
麻衣
「・・・ううん、
さっき、なにかとんでもないことを聞いた気がしたんだけど、他のことに気を取られてスルーしてしまった気がする・・・。」