第五十四話 獣人探偵ケイジ誕生?
ノックスの十戒というのは推理小説のお約束のものだそうです。
wikiから引用
犯人は物語の当初に登場していなければならない
探偵方法に超自然能力を用いてはならない
犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない(一つ以上、とするのは誤訳)
未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
中国人を登場させてはならない[2]
探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
サイドキック[3]は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない
・・・ダークエルフの至宝「深淵の黒珠」を盗んだのは誰か・・・
については隠す気が全くないので皆さんお判りでしょう。
となると後は盗難手段ですが・・・
手掛かりは・・・、うん、
犯人が誰かわかった時点で盗難方法も理解できますよね?
<視点 ケイジ>
そして次の日。
本日の大弓術大会決勝は午前中に行われる為、早い時間にエルフ達と打ち合わせる事となった。
ただ、打ち合わせそのものに時間は大して必要としていない。
情報の共有が主な目的だ。
「バブル三世?」
初めて聞く盗賊の名前だ。
世界を股にかけているとの事だが、冒険者ギルドには捕縛などの依頼で聞き覚えがない。
「そもそもアタシらのランクじゃ、
盗賊捕縛の依頼は来ないんじゃね?」
ああ、リィナの言う通りかもな。
なら冒険者ギルドの依頼掲示板で、オレらが高ランクの依頼を見てないだけかもしれないし。
「冒険者ギルドの話は分からんが、バブル三世は世界各地を渡り歩く神出鬼没の盗賊と聞く。
一つ所に落ち着いているのでなければ、冒険者ギルドに依頼を出される事もないのでは?」
その理屈ももっともだ。
そうそう、
今朝の集まりには、ダークエルフの中でも最高責任者であるノードス兵団長という男が参加している。
今の説明をしてくれたのもこの男だ。
隊のトップどころか、
魔法都市エルドラにおける魔法兵団全体の責任者でもあり、今回はここに派遣された隊の隊長兼務だそうだ。
昨夜の侘びの件も含め、オレが本当に襲撃犯でないかどうかも見極めようとしているんだろうな。
そして、この場で最も盗賊について詳しいのもノードス兵団長だ。
また、立会人として昨夜のハイエルフ、タバサもやって来てくれている。
とりあえずこのままノードス兵団長に質問を続けよう。
「それで、その・・・バブル三世っていうのか、そいつらの犯行だという根拠は?」
「ああ、それは簡単だ。
犯行現場に『深淵の黒珠は我らバブル三世が頂いた!』と置き手紙があってね、
犯行の手口なども伝え聞くところと変わりないので、まあ間違いなく彼らの犯行であろうという事になってな。」
なんだろう、愉快犯とでもいうのか、
それとも目立ちがり屋なのか?
「犯行の手口っていうのは?」
「知っているかもしれんが、我らダークエルフは他所の国々とあまり交流は盛んではないので確実な情報ではないが、まず一つに、誰にも犯行の現場を目撃されていない事だ。」
「透明人間?」
オレは思いつくまま口を開いた。
「なにそれ、魔物?
それともそんなスキルあるの?」
リィナがぎょっとした目でオレを見る。
「いや、分からない、言ってみただけだ。」
「ふむ、だがそう考えでもないと説明できんのも確かだな。」
ノードス兵団長が静かに頷く。
「じゃ、気がついた時には深淵の黒珠とやらは無くなっていて、代わりに犯行を知らせる手紙が残ってたって事か。
ダークエルフの至宝って言ってたけど、見張りとか警備はどうしていたんだ?」
「いや、見張りは24時間ついている。
ただ、見張っているのは一つしかない出入り口だけで、深淵の黒珠そのものを見張っているわけではないのでな。」
「そこを突かれたってことか。
ん? なら透明人間だろうが何だろうが、その出入り口の開閉に問題というか、不審な事案はなかったのか?」
「もちろん、見張りに当たっていた全員に聞き取った。
見張りは常時二人一組なので、証言に矛盾や怪しい点はなかった。
定期的に出入りする神殿長が、黒珠の消失しているのを発見するまで、おかしな事は何もなかったというのだ。」
それはまた厄介だな。
「ケイジ先生、ハイ!」
お、いきなりリィナが手を挙げた?
何か、考えが浮かんだというのだろうか?
「はい、リィナくん!」
仕方ない、付き合ってやるよ。
「ぐふっ!」
「クゥッ・・・!」
ん? 突然アガサとタバサがむせた?
見ると二人とも口を押さえて体を震わせているが、気にするなと言わんばかりに手のひらをオレらに差し出して話を続けろとのジェスチャー。
まあいいか。
リィナも話を続けた。
「怪しい扉の開閉がなかったんなら、
正規の扉の開閉はあったんだろ?
見張りの交代とか、その神殿長の出入りとか。」
ふむ、それで?
「盗賊はテイマーだ!
さっきケイジが言ってた透明人間とか透明スキルなんてあるかどうか分かんないし、人間の大きさのモノが出入りしたら見張りだって不審に思う。
でもさ、扉が開いた隙に、猫とかネズミ、或いはその程度の大きさの魔物を操れるテイマーがいれば、見張りが気付かない、あるいは気にも留めない小動物の出入りは十分考えられるぜ!」
ほお、リィナは時々頭がいい。
ダークエルフもタバサもリィナの理屈に口を挟まないでいる。
さて、ノードス兵団長の感想は如何に?
「なるほど、
その考えは・・・あり得るな。
ただ、小動物に黒珠を持ち運びできる程の命令を与えられるのか?
魔物ならそれだけの知能を持つものもいるかもしれないが、魔物だとしたら、小さくても見張りは気付くであろうな。」
ノードス兵団長の言葉にリィナは「ぐぬぬ」と呻く。
だが、別に悔しがるほどの物でもないと思う。
事実、ノードス兵団長も感心しているからな。
「いやいや、考え方は悪くないと思うよ、
私も反論はしたが、逆に私の推測を覆す何かがあるかもしれぬ。」
ほらな?
ではオレからの質問。
「そもそも深淵の黒珠ってどれくらいの大きさなんだ?」
「ああ、えーと、これくらい、かな?」
そう言って兵団長は自分の手で大きさを表現する。
だいたいハンドボールの大きさくらいか。
「うーん、結構大きいな?
これなら動物か魔物が運ぼうと見張りは気づくだろ?」
あ、さすがにこれでリィナは撃沈したわ。
落ち込むな、リィナ!
じゃあ次にオレも考えてみよう。
「なら、見張りに幻覚をかけられたってことはないか?
催眠術とかでもあり得るかもしれない。」
「いや、見張りと言えどもダークエルフ、魔法には高い耐性を持っている。
もちろんその耐性を上回るだけの魔力を持つ者なら可能かもしれんが・・・。
それに状態異常に掛かっている者は皆無だった。」
うーん、後は何だ?
秘密の抜け穴とか隠し扉とか、えっ?
ノックスの十戒?
何だそれ?
まぁ次に行ってみよう。
「後は・・・申し訳ないが、その神殿長の自作自演とか?」
「それは、神殿長の一人芝居という意味かな?
それとも『バブル三世』の共犯者という意味で?」
「気を悪くしたら申し訳ない。
あくまで可能性の一つとしてさ、
自作自演でも共犯者としてもどちらでも。」
「神殿長はずっと魔法都市エルドラにいる。
そこから外に行かれた事はない。
そして、深淵の黒珠がエルドラから消え、このビスタールに存在しているのが確実と分かったところで、疑う理由は完全に消えるだろう。」
ああ、そうなるか。
いや待て、このビスタールにその黒珠があるって話も、ダークエルフの発言だけでオレらに確かめる術がないぞ?
うーん、そこまで疑うとキリがないかもなあ。
ノードス兵団長は丁寧に説明を補足する。
「そもそもエルドラから深淵の黒珠が無くなって困るのは誰よりも神殿長だ。
いまもあちこちから魔力分配の要請が来て悲鳴をあげてる筈だ。」
共犯者説もダメか。
これはオレもトドメ刺されたかな?
だがその後のノードスの言葉をオレは聞き逃す事は出来なかった。
「こちらでも神殿長が関与したかどうかは念頭にいれていたのだよ、
だが、今言った理由で、一度神殿長に容疑がかかり掛けたのだが、すぐに外れたわけだ。」
ん?
「ちょっと待ってくれ、
神殿長に容疑って・・・それは何を根拠にしたんだ?」
「え? ああ、容疑というには大げさだったかな。
盗まれた事が発覚する前後、神殿長が深淵の黒珠の安置場所に出入りした回数と、本人の証言による出入りの回数が、見張りの報告と一度だけずれていてな。
まあ、神殿長は高齢でもあったので勘違いもあるだろうと・・・。」
おいおいおい。
「確認する。
神殿長の出入り回数は、本人の記憶より、見張りの報告によるものが一回多かったんじゃないか?」
オレは決めつけた。
ちゃんと根拠がある。
「え、あ、ああ、確かに見張りの報告の方が一度・・・
だが何故?」
何故だと?
同じような話を昨夜したばかりだろ!?
「バブル三世の中に他人の姿をコピーできる奴がいる!
それで全ての辻褄が合う!!」
ノックスの十戒って何だっけ、
オレ知らね。
カラドック
「ん?」
今回のお話のどこかでカラドックは気になることがあったようです。
ちなみにノックスの十戒の事ではありません。





