第五百三十八話 会談前夜
さすがの聖女編!
下書きが進む進む。
もう三回分ストックした!!
うりぃ
「また調子に乗って、思い付くままに書いとるだけやろ。」
いぬ
「それで後になって帳尻合わせで苦しむんですよね、わかります。」
ぐぬぬ・・・。
<視点 ケイジ>
「そ、そんな少女が!?
魔眼を持つ女王がそこまで警戒するほどの!?」
相変わらずマルゴット女王との会話は続いている。
もともとある程度の地位の人間や権力者が、
誰それと会いたいと言ったって、そうすぐに望みが通るわけでもない。
普通に考えれば、それなりの権力を持っていれば、大体の望みが通ると思いがちだが、
実際にはスケジュール管理的な問題以外にも、それこそ政治的な思惑やら暗殺や謀略の危険も絡めて慎重に進められていくものだ。
まあ、オレたちのような無頼の冒険者は、本来そこまで気にする必要ないけどな。
だが、オレたちは邪龍討伐を果たした勇者パーティー。
さらにパーティーリーダーであるオレはマルゴット女王の甥。
それに金枝教が認定した聖女が会うというのだ、
こんな超特急の会談が成立するものであろうか。
そんなオレの疑問も女王は説明してくれるようだ。
「ミシェルネ殿の方も訳ありのようでな。
勇者たちに会うのはこのタイミングしかないと、自らの後見役たる大司教が明日をも知れぬ命だと言うのに大急ぎでここまで来たらしい。」
「なんでそこまでして・・・
いや、確かにオレたちに会いたいと言うなら、今のタイミングしかないというのはオレたちも同じだが・・・。」
一応異世界組がこの世界に残れる期間は二週間を切っている。
それと、麻衣さんは元の世界に戻る前に、最初にお世話になった人たちの所へ挨拶に行きたいと言っていたから、このメンバー全員が揃うのは後一週間程度だ。
麻衣さんは正式な邪龍討伐式典が終わったら、皆んなとお別れするつもりだと言っていたからな。
「妾も理由は聞いてみたがの、
内容がプライベート過ぎるので他の者には伝えにくいと言っておった。
・・・ただ先に妾が敵に回したくないと言った理由の一つではあるが、
かなりの交渉上手じゃ。
此度そなたらに会うことは、この国や妾が、金枝教や聖女と協力関係を築く上で大きな土台となるに違いないと信じてます、と・・・
妾に言質を与えないギリギリを攻めてきよった。
側にお目付け役の司教もおったが、ミシェルネ殿がその司教に言わされている感じは全くなかったの。
むしろ、司教殿はミシェルネ殿が何を言い出すかビクビクしている気配すらあった。
聖女の地位に就いて間もない筈じゃが、かなりの影響力を持つ少女のようじゃ。」
ホントにそいつ12歳か?
まさか前世の記憶持ちとか言わないよな?
「女王の目から見て、それ程ヤバい奴なのか?」
「ああ、すまぬな、ケイジよ。
警戒させ過ぎてしまったようじゃ。
聖女殿の方に妾たちに対する敵意や悪意のようなものは無さそうじゃったぞ?
・・・むしろ一国の女王たる妾に、堂々としておったわ。
普通の貴族同士のやり取りのように腹の内を見せないだけかもしれんが、それはそれで12歳の少女にそんな真似が出来るのかと、妾が勝手に思ってるだけなのかもしれぬ。」
確かにそれだけでも凄そうだ。
一国の女王に気後れもせず、堂々と交渉しにきたという。
12歳ってのがまた絶妙だ。
そろそろ社会がどうなって、どういう身分の人間たちで構成されているのか、理解している筈の年齢だろうに。
そしてそれだけの交渉できる人間が世間知らずの訳もない。
となると・・・
「となると、後はそのプライベートな内容って話か・・・。
まさかここでベアトリチェみたいに誰かの転生者なんてオチは・・・女王!?」
オレが喋っている途中でまた微妙な反応を女王は見せた。
まさか本当に転生者とかなのか?
「それなんじゃが・・・」
そうだよ、
女王は魔眼持ちなんだから相手のステータス読めるよな?
オレみたいな特殊な結界師にでもステータス隠蔽されない限りは・・・
「妾の魔眼でも視れなかった。
恐らく自分の意思で他人からステータスを視れないよう、シャットアウト出来るのだろうな。
ちなみにミシェルネ殿は貴族の護衛を一名連れておるが、そちらの女性も鑑定出来なかった。
ただそちらは鑑定を阻害する魔道具をつけておったようじゃな。
まあ、聖女一行ともなれば、そのくらいガードは硬くて当然かもしれぬ。」
だんだん会うのが怖くなってきたな。
「悪いけど・・・」
ん?
誰かと思ったら静かにしていたメリーさんが間に入ってきた。
「メリーさん、どうかした?」
「私は遠慮しておくわ。
今更これ以上、登場人物が増えるのはもうたくさん。
みんなの邪魔にならないところで一人で考え事していた方が有意義に思う。」
それでいいのか、メリーさんは。
そこへ麻衣さんも口を挟む。
「でもメリーさん、
もしかしてその聖女さんとかが転生者だとかしたら・・・
万一、メリーさんの大事に思ってた子だったりしたら・・・。」
麻衣さんはそこまで心配するか。
だがその可能性がもしあるのなら・・・
「それはないでしょ?
この世界のあの子は一年前に亡くなった。
正確には亡くなったというよりも、
既にあの子の魂を邪龍が喰らっていたから、この世にハンナという子が生まれ落ちる事が出来なかったという話よね?
その話の流れで正しいのならば、
こないだまで邪龍が一時的にでも魂を捕食していた状態で、12歳の女の子がこの世に存在して普通に生きて行けるはずもない。」
まあ、そうだよな。
その間、その聖女と呼ばれる程の女の子に魂がなかったなんて考えられないだろうしな。
「ならヨルも魔族的に聖女さんとは会わない方がいい気がしますですよぅ。
ヒューマンの街でお土産物色していたいですよぅ。」
相変わらず本能に忠実だな、この魔族娘は。
「さすがに一人では・・・。」
メリーさんは一人でも大丈夫そうだけど、魔族のヨルが一人で街中ぶらつくのは危険じゃないか?
いろんな意味で。
「いや、ケイジ、
こう見えて結構ヨルさんは慎重だぞ?
行っちゃ行けない場所とか、危なそうな場所とか気をつけてもらえれば心配ないだろう。
彼女は隠蔽術も使えるし。」
「流石カラドックですよぅ!!
ヨルのことは完璧に理解してくれてるんですねぇ!?」
そ、そうか、ならこの二人はいいだろう。
まあ、思い出してみれば、ヨルは魔族の街でも年下の男相手にお姉さん風吹かしていたしな。
「アガサやタバサは・・・。」
「当然、聖女のスキルや術法を知るまたとないチャンス!」
「今代の聖女と交流を持つのはハイエルフにとっても必須!」
だよな。
この二人は確定。
「麻衣さんも・・・。」
「あ、ええ、面倒事は沢山ですけど、ここで何か起きた時に、あたしが知らないままってのも、気分的にもやもやするので最後まで見届けさせてください。」
それはこちらからもお願いしたいところだ。
「ケイジ、あたしは?」
ん?
リィナも聞いて欲しかったのか?
「いや、リィナ殿、妾の印象ではミシェルネ殿が誰よりも会いたいとしておったのがリィナ殿のようじゃ。
そなたが居ないというのは通るまいぞ。」
「えっ、そ、そうなんですかっ。」
オレの代わりに女王が答えてくれた。
まあ、リィナも勇者という称号を与えられた稀有な存在だしな。
「それと後一点。」
女王はまだ言い足りないことがあったのか、オレたちを見回す。
「先ほど、ミシェルネ殿には女性の護衛が一名おると言った筈じゃが、
そちらも只者ではないようじゃぞ?
詳細は見えなかったが称号もいくつか得ている娘じゃ。
努努油断せぬ方が良かろう。」
また何者なんだ、そいつは。
結局、その晩は女王とその家族のこじんまりしま夕食を頂いた。
・・・わかってるよな。
宮殿の料理だ。
こじんまりとは、昼間の豪勢な式典用の料理とは一歩引いてるだけで、とんでもない豪華な料理だということに。
まあ、それなりに楽しい夜を過ごさせてもらった。
ヨルは食い過ぎてお腹痛いと早々とリタイアした。
それでも明日は城下町を散策に行くのを楽しみにしているようだ。
「うー、うー、そうだ、ケイジさん、お願いがあるですよぅ。」
「なんだ、胃腸薬か?
食べすぎはタバサの回復術じゃ、どうにもならんものな。」
「ヨルは今、武器を一つも持ってないですよう。
護身用にナイフかダガーでも貸してくれませんかですよぅ。」
なんだ、そんなことか。
そういや、トリダントゥ・レプリカは砕けて消えちまったものな。
「まあ、城下町には武器屋もあるが、一見さんだと警戒されるかもしれないな、
オレらが素材剥ぎに使ってるナイフと、オレがベリアルの剣を手に入れるまでに使ってた剣で良ければ貸してやるよ。」
「ナイフだけでも良かったんですけどねぇ、
やっぱりケイジさんは優しいですよぅ。」
別にそんな大袈裟なもんでもないだろ。
それより、ヒューマンの街で騒ぎ起こさないようにな。
「任せるですよぅ、
これでも魔族令嬢ですからねぇ。
アイタタタ・・・
ではこの辺で失礼するですよぅ!」
そんな設定あったな、そう言えば。
だが、ヨルよ、
令嬢が男の前で食べ過ぎだとお腹抑えて立ち去る奴がどこにいる。
まあ、ヨルのことはいい。
そして翌朝正午、
オレたちはいよいよ聖女と対面することになる。