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第五百三十六話 謁見式

邪龍討伐記念式典は物語内において翌週予定です。


今回少し長めです。

<視点 ケイジ>


 「皆の者、面を上げよ。」



厳粛なる空気の中で女王の声がホールに響く。

そう、

もう式典は始まっている。

参加者はほとんど数日前に参列した連中だ。


女王の厚意と判断で、

エルフの教皇もそのままこの国に滞在していたようだ。

金枝教のお偉方もいるし、隣国の大使もほぼそのままだと思う。


違うのはメリーさんがオレたちの後ろにいるのと、ヨルが姿を晒していることか。

ああ、もちろんヨルは角を隠したままだぞ。

なので、周りからはヨルがダークエルフか、そうでないのか、戸惑いの声が上がっている。


・・・メリーさんに至ってはみんな声もないようだがな。


あっちでニヤニヤしてるのは、確かこの公都の冒険者ギルドのマスターだよな。

確かヴァルトバイスだったか。

あいつならメリーさんのことは知ってる筈だものな。




 「此度はよくぞ邪龍を討ち滅ぼしてくれたぞ。」


 「もったいないお言葉です。」


式典と言っても今回は、

邪龍を倒したオレたちを女王自らが褒美の言葉をかける謁見式となっている。

勲章とか現物褒美とかをくれる討伐記念式典の本番は翌週予定になるという。


女王も完全に為政者モードだ。

普段の無邪気そうな振る舞いも見慣れてしまったが、

こっちの高貴なる雰囲気も流石によく似合うと思う。


・・・まあ、狼獣人のハーフであるオレが跪いているのも、ある意味この場に似合っているんだろうけどな。


そこで事前に決められた段取りに従って、

幾人かの兵士がビロードの厚い布を敷き詰められた台座を運んでくる。

台座そのものは下に車輪があり、メイドが料理などを運ぶカートに近い形だと思えばそれでもいいだろう。

普通と違うのは、そのビロードの布地の四辺を一人一人兵士が持ち上げ、更に剣を携えた先導役やら、後ろに槍を掲げた護衛役も就いている。


そしてその大事そうに運ばれているビロードの布地の上に散らばっているのは、

オレたちが・・・いや、メリーさんが粉々に打ち砕いた邪龍の邪石だ。


 「・・・こちらが邪龍の邪石となります。

 既に大僧正タバサによって浄化処理は済ませておりますが、御見分されるのであればお気をつけいただければと思います。」


ホールのそこかしこから驚愕の声が拡がる。

誰もそんなもん見たことなんてないだろうしな。


 「うむ、これが邪龍の・・・

 よくぞこんなものを・・・ケイジよ、大義である。」


 「はっ、ありがたき幸せ!」


まあ、リハーサルもやってるから、ほぼ台本通りなんだけどな。

女王がたまにアドリブかましながら式次第を進めそうなので、若干の不安を伴う。


それでも流石にこういう場所の、こういう流れでハプニングなんぞ起こされても堪らない。


式次第は滞りなく流れてゆく。

特筆すべきものもないんだが、

やはり女王は一人一人オレたちに労いの声をかけてくれるようだ。


 「我が甥にして愛すべき者ケイジ、

 今後も妾とこの国を支えてくれることを強く望む。」


 「はっ、この身に代えましても!」


半分本気で半分その気はない。

事前に女王にも了承済みだ。

この大イベントが終わっても、オレとリィナは冒険者のままでいるつもりだからな。

国に縛られるつもりは全くない。

ただ、女王やその家族との繋がりも消す必要はないと思っている。

話によっては今後も頼られる事はあるだろう。


今回の女王の言葉は、

獣人であるオレを色々な勢力から守る為の言葉なのだ。

本当に女王には頭が上がらない。



それはリィナについても同様だ。

 「勇者リィナ殿、

 そのいかづち操る剣にて、忌まわしき邪龍の動きや再生を全て封じ込めたと聞いておる。

 勇者の名に恥じぬ働きよ。」


女王は多少大袈裟に言ってるが間違いじゃない。


 「は、はい! 

 もったいないお言葉です!!」


リィナには簡単なセリフだけ覚えてればいいと言ったんだが、まだ緊張してるな。


ん?

女王が笑みを深くした。

・・・イヤな予感・・・。


 「ケイジと添い遂げる覚悟が出来たのなら、いつでも妾を頼るといい。

 仲人役も披露宴の仕切りも全部任せてもらって良いのでな。」


女王こんな席で何抜かしよんじゃああっ!!

やっぱりやってくれやがったかあああああああ!!


 「えっ、あっ、そ、それは、そっ、その!!」


リィナだってどう反応していいか、わからんだろうよ!!


もはや礼儀も身分も無視してオレは反射的にグルルと唸り声を上げる。

なのに女王はさも満足と言わんばかりに口に手を当てて笑っていやがる。

 「ケイジは本当に可愛いのう。」


・・・くっ


こんな各国大使やお偉様がいるところで、思いっきり揶揄われるとは・・・


ギャラリーからも小さな笑い声がいくつも聞こえてくるじゃねーか・・・。


おい、ダブルエルフ、

オレの後ろで、お前らが吹き出した声も聞こえているからな。



やがて女王の言葉は異世界からやって来た三人に・・・。


 「そして、

 我が異世界の写し身、もう一人の妾、

 フェイ・マーガレット・ペンドラゴンの息子、賢王カラドックよ。

 本当に、・・・よくこの世界へ参ってくれた。

 そなたには感謝しかない・・・。」


途端に周りから驚嘆の声が聞こえてくる。

ここでバラしたか、女王。

カラドックが自分の異世界における息子だと。


 「私はあなた方を救う事が出来たでしょうか。」


カラドックの答えは儀式通りのオレたちとは違う。

ヤツ自身の本心からの言葉だ。


 「全てじゃ、

 妾も、妾の家族も、この国も、そしてこの世界をも。

 どうか元の世界に戻っても、妾達の、ことは忘れないで、おくれ・・・。」


 「忘れるわけないでしょう、

 私にもう一つの家族がいたことを。」


やべ・・・

また涙腺緩んできた・・・。

ていうか、女王も言葉が辿々しくなってきたぞ。

それ以上続けたら女王も泣き出してしまいそうなんだが。


カラドックも何とか耐えてるな。

さすがの賢王か。


・・・女王の後ろの方に控えているイゾルテなんか遠慮なく泣いてるもんな。

そっとハンカチ差し出すベディベールはいいお兄ちゃんしてると思う。



 「・・・伊藤麻衣殿、

 最も若く、か弱き女性にょしょうの身にありながら、勇者やケイジの命を救い、魔人戦、邪龍戦において危険な局面をそなたの機転で全て切り抜けたそうよな、

 そなたも異世界の妾と縁があるようじゃが、

 此度の働き、感謝してもしきれぬぞ。」


 「あ、は、はい、

 マーゴお姉さんに少しでも恩が返せたかなって・・・。」


オレは元の世界で、マーゴさんには一度しか会っていないんだが、やはりあの人は良くも悪くも周りのみんなを巻き込んで大騒ぎしていたのかな?

母さんのことがあったから、

気分的には敵方と見做していたんだが。

・・・もちろん今はそんな考えなんか持ってないけどな。


 「そしてメリー殿。」


順番は同じく異世界からやって来たメリーさんに。

参列者のどよめきはこれまでで最大。


オレたちの中で最も身分の高いのはカラドックなんだが、カラドックでさえ女王の言葉に頭を下げた。

それは女王の方が身分が高いからではない。

単にカラドックが女王の息子であるという意思表示。

オレたちは跪いたがな。


けれどメリーさんは、

跪きもせず、

女王の眼前で、おそらく未来の国のしきたりに合わせたカーテシーを披露しただけだった。


礼の形としてはとても美しい。

けれど式典で女王の前で取る態度ではない。

その事に周りの人間はどれだけ気を悪くするだろうか。

・・・いや、人形がこれだけの動きをするってだけでみんなお腹いっぱいか。


 「そなたは異世界で妾の子孫たちの国の妃にまでなっておったのじゃったな。

 本当に不思議な縁ばかりの者が送られてきたものよ。

 そなたの功績は先ほども申したとおりじゃが、

 そなたが探していた答えは見つかったのか?」


妃っていっても数年で夜逃げしたとか言ってたよな。

夜逃げされた国王は堪んないだろうなあ、

メンツ丸潰れで。

名前はイザークだったか、アイザックだったか忘れたけど。


 「・・・刺激的で楽しい時間を過ごさせて貰いましたわ。

 探していたものの答えは・・・

 それで合っているのかわかりませんが、

 ある程度納得はできました。

 こちらこそみんなには感謝しかありません。」


お、敬語を使うメリーさんも新鮮だな。


メリーさんにオレたちが何かした・・・て気はないんだが、

結果的にメリーさんには満足してもらえたのだろうか。


その後はダブルエルフだ。

 「森都ビスタールの大僧正タバサ殿。

 そなたの回復術では何度も勇者達は命を助けられた。

 あちらにおられるナイトポーリィ閣下も、曽祖父としても教皇としても鼻が高かろうて。」


オレは顔を曲げられないが、きっと教皇の顔は崩れまくっているんだろうな。

タバサの声も弾んでいる。


 「身に余る光栄っ!」


 「そして魔法都市エルドラ最強の魔導士アガサ殿。

 攻撃魔法だけにあらず、生産系魔術も極め、邪龍の触手攻撃すら阻んだそうよな。

 なんでも冒険者ギルドのノウハウを身に付けたいとも聞いておるぞ?

 向こうに冒険者ギルドマスターも列席させておる。後ほど存分に時間をとるが良かろう。」


 「有り難き幸せっ!」


そこで二人の話は終わりと思いきや、女王が一歩前に出る。


 「・・・そして妾も精霊術師として、そなた達には魔術の在り方について、心ゆくまで議論したいと思っておったのじゃ。

 どうか妾の願い叶えてくれまいか?」


あ、これもリハになかったぞ。

ていうか、異世界組のカラドックや麻衣さんを除けば、この世界の実質最高峰の術者たちの集まりだぞ?

とんでもないことになりそうだな。


もちろんタバサもアガサも断る筈もあるまい。

彼女達も勤勉にして貪欲だ。


 「望外の喜び!!」

 「謹んで拝命!!」


いっつも思うんだが、二人は毎回同じような言葉を使う割に、セリフが滅多に被らないんだよな。

事前に打ち合わせでもしているのだろうか。


ていうか、これ・・・オレにもわかるぞ。

近隣諸国へのこれ見よがしな牽制。


国土はそんなに大きくないグリフィス公国に、

稀代の精霊術士マルゴット女王がいて、

そこにハイエルフとダークエルフの最高ランクの術士が繋がっていると知れたら、敵性国家はよほどの慎重な態度を取らざるを得ない。


しかも女王の深謀遠慮はそれだけで終わらないのだ。


 「そして魔族代表ヨル殿!」


バラしたーっ!!

ヒューマンと、常に争い続けていた魔族の人間がここにいると、ついに女王はバラしやがったのだ。


当然今の女王の発言は何事か、聞き違いかと騒ぎが起こる。


けれど、そんな雑音などなかったかの如くヨルは涼しげな顔を上げたのだ。


 「ヨル殿、魔族たるそなたの参戦は、共に邪龍という共通の敵がいたからこそ、なのじゃが、

 それでも長年争って来たヒューマンと魔族が手を取り合えるという前例を作ってくれた。

 ・・・正直、妾と魔王殿との母君とはわだかまりもあるが、その子には何の関係もない。

 今後ともそなたには魔王殿との架け橋になってくれることを望む。」


 「はいっ! ですよぅ!!」




女王・・・これは、

取り扱いを間違えると、邪龍討伐の功績も、

ハイエルフやダークエルフとの繋がりもチャラにされかねない危険な手だと思うぞ。


けれど・・・この人はやるだろうな。

問題は

やはりカラドックとの結末か・・・。


なお、

ラプラスさんも功績はあるのですが、

基本的に犯罪者ですので式典には列席してません。

控室でお休み中です。

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