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第五百三十五話 凱旋パレード

<視点 ケイジ>


城門が開かれた。

本来は朝の六時くらいから開いているらしいが、オレたちの入城行進のために十分ほど前から一時的に封鎖していたのだそうだ。

多少申し訳ない気がしたが、

街の人々の明るい顔を見るに、邪龍討伐を果たしたオレたちは気にしなくても良さそうだ。


昨日の朝から丸一日経っているが、

邪龍の虫どもが湧いたという話はどこからも聞こえてこない。

国からの正式な発表がなくても、邪龍の脅威がなくなったことを街の人々は理解しているのかもしれない。


そこへオレたちのパレードである。


しかも数日前にオレたちは邪龍討伐にこの門から送り出されたばっかりなのだ。

どんなに頭の回転が悪かろうても・・・


 「ごうがーい! ごうがーい!!

 勇者パーティー『蒼い狼』が邪龍を討ちやぶったぞーっ!!」


おお?

情報が早いな。


オレたちのパレードが始まる前に告知がなされるようだ。

情報なんて、カラドックが昨夜のうちに女王宛に送った書面からしかないはずだが、

女王が冒険者ギルドにでも連絡を回したんだろうか?


オレも何が書かれてるか読みたいが、

今は馬車の中で大人しくしてる他はない。

この窓から顔を出したらそれだけで騒ぎが大きくなるだろうしな。


城門の向こうから華やいだ音楽も聞こえて来た。

この行進曲に合わせて入城するわけだな。


パァン、パパァん!


おっと花火も打ち上がった。

前世の日本の記憶があるオレからすると、

真昼間に花火を打ち上げることに違和感があるのだが、まあ、こっちの世界じゃそういうもんだと割り切るしかない。


 「中国とかで新年の行事に爆竹鳴らすようなもんなんですかね?」


麻衣さんもオレと同じ感覚らしいな。

口を揃えて同意したいが、カラドックにオレが前世の記憶があるとバレてはならない。


 「へえ?

 麻衣さんの世界でも似たようなことしてる国があるんだ?」


なので白々しく同意しておこう。

麻衣さんも「あ」とか余計なことに気付いたようだが、別に麻衣さんだって変な事を言ったわけではない。

気にせず他の話にスライドさせればいいだろう。


いや、もう誤魔化す必要もないか。

ちょうど時間だ。


 「それではしゅっぱーつ進行!!」


すなわち朝の九時。

儀仗兵の隊長らしき人が号令をかけてオレたちの乗る馬車を先導する。


城門をくぐるとそこから先はグリフィス公国公都のメインストリート、

周りには高級な商店や住宅街がある。


マルゴット女王たちが暮らすホワイトパレスはここから更に先だ。

この馬車のペースだと30分はかかるだろうな。



・・・おお!

城門を抜けた途端、とんでもねえ歓声がオレたちを包み込んだ。

大人も子供もオレたちの馬車に手を振っている。


楽隊の華やいだ演奏も賑やかだし、

花火が打ち上がるペースも早くなった気がするぞ。


 「どうか皆様方も市民に手を振ってあげて頂けますか?」


オレたちの脇を固めていた兵士から声がかかった。


そら、リィナ、勇者の出番だぞ。

出発の時は、打ち合わせで厳粛な空気だったからな。

もう、みんなで得意技の披露をする必要もない。

兎獣人特有のキュートさを存分にアピールすればいいのだ。


 「え、ええ、ガラじゃないよ・・・。」


リィナはそう言うが、

勇者にそんな甘い泣き言は許されない。

ほら、麻衣さんだって全く容赦する気はないようだ。


 「なに言ってんですか、リィナさん、

 魔王ミュラ君への説得なんかたいしたもんでしたよ。

 紛れもなくリィナさんはコミュ強です。

 自信を持って笑顔を振りまいて下さい。」


 「ぎぃぃ、麻衣ちゃんまでなんて事を・・・。」


だよな。

奴隷出身のリィナは、真っ当に他人と会話する機会なんてホントに少なかったろうに、

誰とでも対等に会話が出来る。


・・・ふむ、ある意味、いろんな人間と関わらなかっただけに、身分の違いとか気にする必要もなかったのかもしれないがな。


でもそれは決して常識がないとか、空気が読めないとかではないんだ。

だからこそ、彼女は誰にでも手を差し伸べられるんだろう。

昨晩オレも世話になったが。


 「ほらほら、ウサギさんは前に移動移動、

 ラプラスの後ろで笑顔笑顔。」

 「はいはい、オオカミくんも他人の振り禁止禁止、

 ウサギさんと仲良く挙手挙手。」


ぶ、オレもか!

アガサとタバサに二人がかりで馬車の先頭に押し出される。


途端に街の人たちの歓声が。

仕方ない・・・

ちょっと小っ恥ずかしいがリィナと手をつなぐ・・・。

当然、そこでリィナと視線も合うが、

お互い何も言わずに口元を少し緩ませて・・・



・・・この辺の人たちは、オレらが獣人だとかにこだわりはないのだろうか。

このメインストリート付近には獣人はあまり多く居ないはずである。

それでも道のあちこちに獣人各種が散見されるのは、城門の外からやって来ているということなのか。


まあ、これで獣人とヒューマンの身分的差が少しでもなくなるなら、オレもカラダを張った甲斐があるというものだ。


・・・おかしいよな、

もともとそんなもん、大して気にもしてなかった筈なんだけどな。


今までは単にオレ個人の境遇に不満を抱いていただけだったのに。




 「あれ、メリーさん?」


麻衣さんの訝しげな声が聞こえた。

思わず振り返ると、メリーさんが馬車の上にちょこんと座っている。


 「あ、そう言えば前回のパレードの時、メリーさん、いなかったよな?」


あの時はメリーさん、麻衣さんの巾着袋の中だったもんな。


おかげで周辺の観客から、

「何、あの綺麗なお人形、動いてる?」

「なんだ、ありゃあ!? 邪龍討伐の助っ人かあ!」

「オレ、見たことあるぞ!

ありゃあ、一時期冒険者ギルドに出没した自律駆動ゴーレムだ!!」


いろんな声が聞こえてきた。

そう言えばメリーさん、この国でいくつか依頼をこなしたって言ってたっけ。


 「お人形さーん!!

 あの時はたすけてくれてありがとーっ!!」


羊獣人らしき女性が声を張り上げてる。

お人形さんと呼びかけたからにはメリーさんへの歓声か。

なんだ、メリーさん、人助けとかも出来るんじゃないか。

なんとなく水商売っぽい人のように見えるのは気にしなくてもいいだろう。



そのメリーさんの銀髪がたなびく。

朝の陽ざしを浴びて綺麗な輝きだな。

さっきの羊獣人の方へは一瞥しただけで、手を振り返すとかの反応はなかったようだ。

まぁ、それもメリーさんらしいと言えばそうか。

そして彼女は、先ほどの麻衣さんの疑問に答えるようにこちらを振り返った。


 「私も・・・この景色を覚えておこうと思ったの。」



メリーさんて、人間だった時、

オレたちの・・・

いや、「オレ」の国じゃあないな、

ウィグルの子孫たちの国の妃だったって話だったよな。

てことは、その時の国王との婚姻時にも、こんなパレードとかあったのかな。

だとしたらその時の光景を思い出しているのだろうか。


・・・人形の顔に変化なんかあるわけもない。

けれどこの時、オレはメリーさんが薄く笑っているように見えたんだ。


 「ああ、・・・ずっと忘れないでいてくれ。」


オレの返した言葉はあまり大きくなかった。

メリーさんにちゃんと聞こえただろうか。



 「ケイジー! リィナちゃーん!! カッコいいやぁー!!」

 「メリーさーん!! 邪龍討伐ありがとー!!」


お?

聞き覚えのある声だな。

声の主を探すとやはり見覚えのある一団。

ああ、この国の冒険者「栄光の剣」の奴らか。

リーダーのアレンという青年と、他の僧侶と魔術師は涼しい笑顔のまま。

声を張り上げてるのは狐獣人の女の子とハイエルフの・・・妹さんのほうだよな。

声援を送ってくれるのは嬉しいが、頼むから飛び跳ねないでくれ。

胸が揺れて視線に困るんだ。

リィナに握られているオレの手のひらが潰されそうで怖い・・・。




やがて、

馬車は目的地、ホワイトパレスへと到着する。

 

カラドック

「麻衣さん、相変わらず危機反応はない?」


麻衣

「あ、はい・・・あれ?

ケイジさんにやや危険な反応・・・あれ?

でも微弱!?」


ケイジ

「え・・・それってどういう・・・?」


麻衣

「ごめんなさい、あたしにもよく・・・でも命の危機とまでは?」


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