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第五百三十四話 グリフィス公国の岐路

ぶっくま、ありがとうございます!


・・・前回、麻衣ちゃん用のタイトルになってなかったのでこっそり修正しました。

<視点 ???>


 「カラドックからの書状が届いた!!

 各々、既に指示した通り、各国大使館、

 各行政所、民間ギルドに触れを出せ!!

 明朝九時に邪龍討伐凱旋パレードを執り行う!!

 無論、徹夜で作業する必要はないぞ!!

 関係者には休息と食事の配慮をしつつ、最大限のスピードで対応するのじゃっ!!」



ふふふ、

皆様、私が誰だかお分かりになるだろうか?

実を言うと初めましてではない。

あなた達も知っている筈。


そう、覚えておられるだろうか?


わからない?

くすくす、

残念、時間切れみたい。

じゃあ、教えてあげる。


ニムエ・・・


私はニムエ、

・・・思い出した?


麗しき泉と荘厳なる湖の精霊、ニムエだ。



・・・ごめんなさい。

嘘です。

盛りました。


だって女王からの無茶ぶりが酷いんだもの。

少しくらいストレスを発散させてもらってもバチは当たらないと思う。



女王も一応、無茶な指示であることは十分承知しているらしい。

もちろんカラドック様達の勝利を疑わなかったのも確かなのだろう。

既に事前にかなりの下準備をするよう指示はされていた。

そしてその時より、今晩から明日の朝までにというような、強行軍になることも含められていたのである。

なので、女王も家臣や官僚たちには無理をさせないようにと最大限の気は遣ってはくれてもいる。


もちろん各国の正式な代表を招いての戦勝式典は先の話。

多分一週間後が本番ではないかと思う。

明日執り行うのは入城パレードと午後の国内向けの式典のみ。

それでももちろん、公都内に駐在している各国大使に連絡は不可欠だ。


当然のことながら、

女王側付きの私たちメイド勢のシフトも大幅に変更されて仕事しなくてはならない。



・・・もっとも私たちはマシな方だ。

宴席担当のメイド達はもっと悲惨だろう。


隣国との戦争に勝利しただとか、

女王の即位式など、これまでにも重要な式典の経験はあるにしても、

邪龍討伐なんて全世界に向けて誇るべき偉業なのだ、

これまでとは比較にならないくらいの規模の豪華さを演出しなければならないのである。


もちろんそれは勇者パーティーの功績であり、本来なら私たちグリフィス公国が誇るものではない筈なのだが・・・


パーティーリーダーのケイジ様は女王の甥、

そして異世界より転移して来られたカラドック様は・・・ああ、これは対外的に発表されてはいないけども、女王の異世界の息子。


そんな事情で邪龍討伐に向かった「蒼い狼」ことケイジ様達のパーティーは、全面的に我らがグリフィス公国がバックアップすると公表しているのだ。


そして彼らは無事に、邪龍討伐を成し遂げた。

完全勝利だそうだ。

当然ながら、これは私たちグリフィス公国やマルゴット女王の名声、栄誉、国格を高める事に直結する。


これは私ごときが口に出来ることではないけれど・・・


 「ふっふっふ、もちろん狙うぞ、

 この期に公国から王国へとのし上がるのじゃ!」


女王の鼻息が荒い。

とはいえ女王でなくとも誰しも考える。

それだけの偉業に違いない。


大変なのはこれからだ。

もともと女王はその地位が示すように、

グリフィス公国出身の方ではなく、

宗主国からの血筋の方。


けれどあくまでも優遇されているのは、女王とその血筋だけで、

この国そのものではないのだ。


王子であるコンラッド様達がこの後、女王の跡を継ぐにしろ、

その地位が王とされるのか、太公に留まるのかは、未だ藪の中の話。


それが今回の功績で、国ごと昇格する目が出てきたと言っても過言ではない。

これはこの国の人間なら誰でも燃える話に違いない。


無論私もだ。

一応、私も貴族の端くれではあり、

そこそこ愛国心もある。


隣国に舐められっぱなしで、

いつ何時国境を踏み躙られるかもわからないでいる今の状況に、義憤を覚えない筈もない。

国力を上げれば外交の席でも相手に一歩引くような必要すらなくなる。

是非とも女王や外交関係閣僚の皆様には頑張っていただきたい。

その為に私も精一杯お力になれるように振る舞おう。

・・・上手くいけば実家の陞爵もあるかもしれないし、

私の縁談にも良い影響が・・・




おっと、

余計な話はこれまでにしておこう。

皆さんにはこの国の現状は理解していただいたと思う。

うん、私の現状にはそっとしておいて貰えると助かる。


そういうわけで、

女王も派手好きだとか、

カラドック様やケイジ様への愛だけで、

これらの強行軍を指揮する訳ではないということだ。


だから私たちも無茶せざるを得ない。

休憩や食事は貰えるけども、

夜通し働くのだ。


・・・縁の下の人たちこそ大変だと思う。


料理場もリネン担当もフル稼働。

朝っぱらから花火職人は登城し、花火打ち上げの準備。

お花屋さんや生花商店はメインストリートに花びら撒く用意もしなければならないし、

衛兵たちはパレードのための道路封鎖とか、

迂回路の調整とか、周辺警備とか。


まあ、大変は大変だけど。

さっきの理由でみんな燃えてるわけで。

女王も部下たちに、自分の仕事をこなせばハメを外しても良いと仰ってる。

要は仕事の合間にお菓子食べてもいいし、

はしたなく大声で笑いあっても目を瞑るぞということだ。


その辺はさすがの女王であろう。

私もこの方に仕えていて良かったとつくづく思う。

まあ、頭の固い中間管理職の方々は、苦虫でも噛み潰したような顔をしているけども。


そう言えば昔、実家で弟が試しに庭園にいた虫を捕まえて口の中に入れて、大騒ぎした事があったけど、

あの時の梅干しを更に潰したような顔が苦虫を噛み潰した顔だったのだろうか?

それにしても、子供の頃の話とはいえ、

どうして弟はあんな気持ちの悪い物体を食べようとしたのだろう?

我が弟ながら謎の行動を取る。

その後、彼は3日ほど寝込んで、回復したら父と母と執事にしこたま説教喰らっていた。

私は気持ち悪かったので一週間くらい弟には近づかなかった。

流石に、彼も痛い目に遭ったことで深く反省していたようだ。

・・・ああいうのも良い経験と言っていいものなのだろうか?




それでなんだっけ?

ああ、そうそう、楽しんで仕事をしようという話だったっけ。


明日のパレードと式典が終わっても同じ。

流石に式典中はハメを外せないけども、

お堅い式を無事にこなせば、

私たちにも残りのパーティー料理やお酒なども振る舞われるのだ。

この機会に日頃溜め込んだ鬱憤を全て吐き出して見せよう。


もしかしたら、そんな時に限って、

「やあやあ、みんなお疲れ様」なんてベディベール王子が労いに来てくれたりしちゃったりしたらどうしよう?

「へえ? いつも慎ましやかなニムエにこんな一面があったなんてね?」なんてことになっちゃったりしたら?

「王子がいけないんですよ・・・。」

なんて俯きながら私の必殺セリフ集の一つを解き放っても良いのだろうか?


いけない。

妄想が膨らみすぎる。

そう、そんな事に気を囚われている暇はないのだ。

こうしてる間にも色々仕事が舞い込んでくる。


ほら、また一つ。


 「女王にご報告を!」


宮廷の官吏が大慌てでやって来た。

もちろんその対応をするのは私ではない。

私は女王の身の回りを世話するメイドであって、公務の補佐をする者は他に何人もいる。


けれど、こんな時の報告とやらの内容によっては、当然私達の仕事にも影響が出てくる訳で、

可能な限りその内容が何なのか、アンテナを張ってなければならないのだ。


 「いったい何事か。」


女王の秘書官の一人が対応する。


まあ、こんな緊急でいろいろやっていれば、

予定通りにいかないこともちょっとしたトラブルも出てくるだろう。

緊急事態のようなことが起きなければいいと思うけど。


 「聖教国ネミアより聖女様がこちらに向かっているとのことです!

 至急、女王にこの書状をお渡し願いたい!!」



え?


聖女様?


聖女って・・・

勇者と並ぶほどの稀有な称号の筈・・・


そんな人が?

ていうか、いつ聖女なんて認定されたの!?

 

という訳であの人たちがやってきます!!

猛スピードで!!

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