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第五百八十三話 ぼっち妖魔は弁える

<視点 麻衣>


ふむー。

平和です。


何のトラブルもありません。


ホテルでの打ち上げは楽しく過ごさせて頂きました。

飲食もしない・・・そしてあたし以上に表情の分からないメリーさんですら、

穏やかに参加してくれた。


メリーさんが、あたしやみんなに感謝の意を述べてくれたのは、

意外と言えば意外だったのだけど。


もっとも明日以降はグリフィス公国主催の公のパーティーだ。

込み入った事情やプライベートな話題は明日以降出来なくなる可能性が高いと思う。


ならやっぱり言いたいこと、言うべき事は今夜のうちに言っちゃうのがいいのかもしれない。


あたしやカラドックさんは、タバサさんやアガサさんに何度も抱きつかれた。


お二人とも、色々ハイエルフやダークエルフの社会にあたし達を取り込めないか、打算的なことを前から言っていたけども、

二人とも本心からあたし達との別れを惜しんでくれているのが分かる。


そしてちょっと離れて、二人を羨ましそうに見詰めるリィナさん。


いいんですよ?

抱擁タイムはこの後もあるでしょうけどね。

存分に百合百合・・・じゃなくて女同士親愛の絆を確かめ合おうじゃありませんか。


ヨルさん?

ヨルさんは相変わらずカラドックさんしか眼中にない。

・・・この後どうすんだろ?


カラドックさんは色々考えているみたいだけど、あたし達に心の裡を明かす事はない。

え、ええ、もちろんあたしも人様の色恋沙汰に干渉する趣味はありませんので・・・


うん?

そう、干渉しなくても鑑賞はするかもしれませんけどね、

・・・フンス、フンス!


ヨルさんのことは置いておくとして、

カラドックさんやケイジさんは、

自分達の関係を秘めたまま、お別れするのだろうか。


ケイジさんはカラドックさんに自らの正体を黙ったまま。

そしてカラドックさんは、ケイジさんに弟の・・・惠介さんだっけ、彼の姿を重ねたままお別れするわけか。


確かに今までの流れを見ていると、

異世界転移、或いは転生する前より状況は明るいものになってはいる気がする。

・・・メリーさんも含めて。


本人達がそれでいいというなら、

あたしが口を挟む話じゃないもんね。


・・・問題はあたしだよ。

あたし自身、大きな問題抱えたままじゃないか。


いえ、もともとあたしは元の世界にも、

何のトラブルもわだかまりもない状態でこっちに来ている。

このまま、何も起きずに元の世界に帰ったとて、楽しい異国の旅をしたんだなあ、と済ませることも出来るっちゃあ出来る。


けどね、

・・・重過ぎますよ、ご褒美が・・・。



あたしにどうしろと言うんだ・・・。



元の世界に何のわだかまりもない?

いや、強いて言えば、ついこないだまであたしはママの死を受け入れることが出来ないでいた。

それをようやく・・・この世界でメリーさんと会って、

そこにもはやママはいないんだって思い知らされて・・・

二度と会うことなんか出来ないってようやく現実を受け入れたのに・・・


だけど最後の最後で、別世界のママなら会うことができるって?



 「麻衣さん、まだ悩んでいるのか?」


ケイジさんがあたしの表情から察してくれたらしい。

ええ、ご褒美をどうしようかで悩んでます。


 「はい、前にどこかで話したかもしれませんが、すれ違いが多いなって感想が、あたしにも適用されるってことですね・・・。」


ケイジさんは狼獣人らしくと言っていいのか、

ビンに入った蒸留酒らしきものをラッパ飲みで空にする。


あたしはまだ未成年ですからね、

アルコールはやめときますよ。

いえいえ、モラル的な意味じゃないんです。

・・・酔っぱらってあたしの特殊能力を暴走させるわけにも行きませんからね?


 「オレとしては・・・たとえ別人格と言えど、自分の母さんに会いたいのなら、その感情を優先すべきだと思うんだが・・・。」


ケイジさんならそう言いますよね。

わかります。


 「だからさあ、それはケイジの場合だろ?

 麻衣ちゃんが気にしてるのは、

 そのお母さんに、あんたなんか知らないって言われたらどうすんだよってことだろ?

 お前、そんな事、そう軽々しく無責任なこと言うなよ。」


リィナさんの鋭いツッコミがはいった。

前回、リィナさんも、あたしにママと会ったほうがいいような発言してたけど、

その後に、あたしのママと同一人物と言えるかどうかって話になったからね。

それ以降、リィナさんも積極的にあたしにその話を勧めるようなことは言わないでいる。


 「・・・う、そ、そうだな、

 麻衣さん、すまん・・・。」


 「あ、いえいえ、ケイジさんが善意でそう言ってくれてるのは分かってますので・・・。」


リィナさんの話もその通りなんだけどね。


 「私とカラドックには明確なご褒美ってないのよね?」


メリーさんもこの話題に首を突っ込んできた。

そうなんだよね。

あたしだけいいのかな?

という思いはある。

でももう一人の当事者であるカラドックさんの意見は違うようだ。


 「・・・私は満足してるよ。

 ケイジとリィナちゃんが幸せそうに生きているのを見ているだけで。」



ぶっ!


カラドックさん、な、なんて事を。

今のは来る!

あたしでも分かる!

ハートのど真ん中を直撃だ!!



見てください、ケイジさんが顔を上げられずに震え始めちゃった!!

分かりますよ!

あたしがケイジさんの立場でそんな事言われたら、涙腺崩壊するに決まってる!!


 「あ、あれ、ケイジ!?」


 「ず、ずまん、ト、トイレに・・・」


あ、ああ、ケイジさん逃げ出すようにトイレに・・・


あれ、大泣きするために行ったんじゃないか・・・


 「リィナさん・・・。」


そんな時、側にいるべき人はリィナさんしかいないよね?

 「まったく、仕方ないなあ、

 カラドックは泣くのも泣かすのも得意なんだから、ちょっと世話してくるよ。」


リィナさん、他人の面倒見たりお世話するの似合うよね。


 「え、あ? リィナちゃん、申し訳ない?」


カラドックさん、無自覚にケイジさんのハートを打ち砕いてしまったようだ。

しばらく二人は隔離しておいた方がいいかな?


・・・いや、待って。

二人は今晩同室の筈なのだけど。

ラプラスさんは個室にお泊まりだし。


いや、そこもあたしはノータッチ。

気にしないことにする。

性別やら近親のタブーを踏み越えた薔薇のお花が咲く世界のことなんか知らない。

フンス、フンス!!


 「メリーさんはどうなんですか?」


話の矛先を変えてみるか。


 「正直、スカっとしたわね。」


え、スカッと?


 「昔、大好きだった物語の裏側を見せてもらったような感じというのか・・・。」


へえ・・・そういう感想になるのか。

ていうか、邪龍戦ではその物語の主演女優気取りしていたような・・・いえ、何でもありません。


 「大体、メリーさんが求めていた答えみたいなものが見れたと?」


そこでメリーさんはあらぬ方向に視線を飛ばす。


 「・・・求めていたものとは違うと思うけれど、今は満足している・・・。

 あの子と会えそうで会えないのは正直残念な気もするけど、

 カラドックや麻衣の事を考えると、ちょうどいいのかもしれないわね。」


あ、そうか・・・。

何気なくみんなバラバラのようでいて、

得られるもの、得られたものは贔屓なしのバランスが取れてると言ってもいいのだろうか。


 「つまり、麻衣さんが引け目に感じる事はないと思うよ。」


カラドックさん、ありがとうございます・・・。



この晩はそんな話をしてお流れとなった。


あたし達がこの世界にいられるのも、残り二週間を切ったところ。

これから宴席やら行事やら目白押しなのだろうけど、

まだ先があると言えばある。


面倒事はきっと色々出てくるだろう。


頼むからどんでん返し的なものは来ないでほしい。


このままの流れで、

平和に、和やかに、和気藹々とみんなとお別れしたいものである。






絶対に無理だろうけども。





翌朝、

ラプラスさんの飛行馬車に、

本物のお馬さんを二頭繋いで、本来の、当たり前の、あるべき姿で城門へ向かう。

あたし達が目を覚ますか覚めないかのうちに、

宮殿の人が宿にやって来て、とても見目麗しい白馬を二頭用意してくれたのだ。


お馬さんに装着されてる馬具も物凄いゴージャス。

もちろんラプラスさんも本物の馬を扱えるので全く問題はない。

さすが元世界有数の商会会長さんである。


朝九時のタイミングで入城できるように、

先導の儀仗兵さんたちも集まってくれていた。


もちろん周辺の住民やホテルの宿泊客も何事かと野次馬的に集まってくる。

そして、誰からともなく、

 「あいつら、邪龍討伐に向かった冒険者じゃね?」

 「え、何日か前に大規模な出征パレードやってたよな?

 まさか邪龍討伐成功したのか!?」


そんな声がチラホラと、

そしてだんだん大きな騒ぎに!!


そこで出迎えの儀仗兵さんの責任者っぽい人は、これ以上知らんぷりするままには出来ないと判断したようだ。


 「皆の者、

 これより邪龍討伐を果たした勇者達の凱旋パレードを城内で行う!!

 見学は勿論自由である!!

 なので今は道をあけてくれ!!

 全ての国民で勇者たちを讃えるのだ!!」


途端に「いやっほうおおおお!!」という住人達の大絶叫。

みんな朝から元気だよね。


まあ、それだけ邪龍やスタンピードやら虫達の出現で色々と不安だったんだろう。


カラドックさんやリィナさんが笑みを浮かべて皆んなに手を振る。

ケイジさんは顔が怖そうだから、大人しくしているとか。

アガサさんやタバサさんは・・・

うん、相変わらずモデルというかアイドル路線なのか分からないけど、ポーズをつけて皆んなにサービスしているよ。


あたし?

あたしは、ほら、

姿を隠したヨルさんやメリーさんに並んで静かにしておりますとも。

アガサさんのように、こぼれそうな胸元チラ見せなんかできないし、

タバサさんみたいに、神官服のスリットからの美味しそうな太もも露出など誰が真似できるというのか。


身の程は弁えてますよ、はい。



さて、いよいよ凱旋だ。



そしてこの時、あたし達はまだ知らない。


これから向かうホワイトパレスに、

この世界の命運を左右する、超大型ハリケーンが近づきつつあることを。

 

???

「一路、グリフィス公国へ!!」

???

「グリフィス公国も勇者も逃げませんわよ!?」



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