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第五十三話 陥落するエルフたち

ちょっと短めです。

<視点 ケイジ>


オレが把握した内容はこんなところだ。


魔法都市エルドラで、ある盗賊にダークエルフの至宝「深淵の黒珠」とやらが盗まれた。

盗まれた手段は不明だが、盗まれた品物は高い魔力を発しているために、この森都ビスタールに持ち込まれたことが判明。

エルドラからの捜索隊、すなわちノードス魔法兵団がこの街の神殿に協力を要請、

また付近を捜索していた隊員アガサが、その至宝の魔力を感知、それがこの宿屋の周辺だっという事。


後は先ほど説明したとおりだそうだ。

付け加えるならば、オレが暴行の実行犯である事は疑いえない状況であり、そうであるならば、先の盗難事件の犯人との繋がりはあるのかという段階まで進んでいた。


もちろん、全てオレには関係ない。

 「まず第一に、宿屋の主人!」

 「はっ、はいぃ!?」

 「オレがチェックインした時間は知ってるよな!?」

 「も、もちろんです!」

 「それと、この部屋から、受付を通らずに外に出る方法はあるのか!?」

 「あ、え、と、1階に非常口がありますが、常時施錠しております!」


 「なら、受付の人間にオレが今まで出入りしたか目撃したかどうかと、非常口のカギが持ち出されたか、或いは鍵が外れているかどうかくらいは、お前らダークエルフ達は確認したのか!?」


 「う、それはしていない・・・。」

さっきオレに殴り飛ばされた責任者が頭を低くしている。


 「だ、だが、先にそれを確かめなかった我らにも落ち度があるが、仮に受付がケイジ殿を見なかったとはいえ、外に出なかった証明にはならぬぞ!?

 たまたま記憶に残らなかっただけかもしれぬし、こっそり地面すれすれを這い出たかもしれんし・・・。」

 

オレは歯をむき出しにして笑う。

 「狼獣人は珍しいんだろ?

 受付だけでなく、周りの宿泊客がロビーでそんな異様な出入りした獣人目撃したのか聞けば一発だろ!?」


 「ぬ、ぬぅ・・・。」


後ろでリィナがオレを尊敬する眼差しで見詰めているのがわかる。

まぁそれほどでもあるがな。

そしてプリーステス・タバサが結論を述べる。

 「冒険者ケイジ、この場は我らが謝罪、

 ただし、現段階であなたを犯人だとする証拠がないだけで、疑いそのものは解消不能。」

 「わかってるよ、

 オレと同じ狼獣人が関わっているんだろう? 

 それについては仕方がないと思うが、オレが怒っているのは犯人扱いされた事じゃない。」

 「それはいったい?」


 「リィナを奴隷と侮辱したこと、

 オレらが獣人であることを理由に不当な扱いを行おうとしたこと、

 それらについてオレは激しい憤りを感じている。

 それについて一言貰おうか?」


タバサはオレの意図に頷き、責任者に視線を向ける。

そうだな、この件に関してはタバサが代わりに謝る必要もない。

それを聞いたダークエルフの責任者は苦しい表情を見せた。

まぁ、本心から獣人や奴隷を見下げているんだろうからな、

自分の主義に逆らって頭を下げるのは抵抗あるんだろうぜ。


だが、ここで意外にもダークエルフの筆頭隊員というアガサが口添えしてくれた。

 「ヒルゼン副隊長、

 理が狼さんに在るは明白。

 この場で副隊長個人の主義を通すは無意味にして無価値。」


おお、上司をすっぱり切りやがった。

そして上司も「ぬぬぬ」と逆らえない感じだ。

このアガサというダークエルフの方が発言権が強いのだろうか?


 「き、君たちに対し失礼な発言をとってしまった、

 以後、気を付ける、許して欲しい・・・。」


おおお、折れたぞ、こいつ。

まぁ、オレも鬼じゃない。

一発殴ってるしな。

 「謝罪を受け入れる。」

そこでその場の全員が、ほっと息をつく。

 「では改めて。」


そしてその場の全員が何事かと目を見開く。

 「オレらは各地をめぐって依頼を解決する冒険者だ。

 そしてひょんな事でオレらはこんな事件に巻き込まれた。

 この事件の解決に協力させてもらえるんだろうな?

 たまたま、オレと似た獣人の犯罪なのか、

 それともオレに罪をなすりつけるつもりがあったのか知らないが、落とし前は付けさせる。

 どうだ? 格安で引き受けるぜ?」


ヒルゼン副隊長が醒めた目でオレを睨む。

 「エルフの街には冒険者ギルドはない。

 他の街のルールは適用できないだろうし、解決してもらっても君の冒険者ランクは上がらないぞ。」


 「知っている。

 だが事件への貢献度次第で報酬は出せるだろう?

 報酬金は良心価格で相談に乗るぜ?

 あ、一応覚えておいてもらおうか、

 オレらはこの街に優れた魔術士か僧侶をスカウトしに来た。

 めぼしい奴がいたら声をかけるつもりだ。」


 「狼さんと兎さんは、魔術士又は僧侶を欲しがっている件、了解。」

タバサが頷いた。

この場はそれで十分だろう。


そして、なんとか話がまとまった。

これぞ一石三鳥!

容疑の回避、依頼の獲得、メンバー増員!

まぁ全てうまくいけばの話だけどな。


 

この後、細かい話は明日行うとして、ようやくダークエルフの一団は大人しく出て行ってくれることとなる。

やっとこれで安眠できるよな。

ただ、ダークエルフのアガサはオレたちに振り返ってこんなこと言いやがった。

 「ケイジ、リィナ? 二人は夫婦?」


はぁ!?

続いてプリーステスのタバサまでも。

 「私も質問、二人は恋人?」


違う違う!

そんな仲じゃないっ!


ああああ、リィナが顔真っ赤にして首と掌、高速振動はじめちまった!

 「あ、あのな、オレたちは冒険者のパートナーってだけだ。

 そんな邪推されるような仲じゃないっ。

 っておい、リィナ、お前首回し過ぎだぞ?」

 「ケ、ケイジだって尻尾ブンブンと凄い事になってるよっ!?」


あれ? い、いつの間に?



 「おおかみ君とうさぎさん、これは眼福。」

 「白と黒のハーモニー、癒しの極致。」


なんかこのエルフたち、二人してうっとりした表情浮かべ始めたぞ!?

お前ら、獣人をなんだと思ってやがる!?



二人のエルフはオレたちの反応を堪能した後、何故か互いに相手をにらみ合っていた。

種族も違うし対立しているのだろうか?

そう思っていたのに、しばらくすると、何か通じ合ったのか、二人はいきなりガッチリと握手をしやがった。


なんなんだ、こいつらは。

 



うん、その後、騒がしい一団が帰ってくれたのはいいが、リィナとお互いの心臓の音が気になって、中々、眠りにつけなかった件。


ちくしょう。

こんな話、カラドックたちに説明なんかしてねーからな!




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