第五百二十九話 暗雲
通勤途中で下書きからアップしてます。
・・・本日は14時まで休憩ないので間に合わない・・・
<視点 世界樹の女神>
無事に冒険者たちは邪龍討伐を終えたようだ。
途中、正体不明のハプニングはあったけども、
ほぼ私の見込み通りに進んだと言っていいだろう。
正直に言えば、何人か犠牲者くらいは出るだろうと思っていたけども、
終わってみれば全員生還。
どうでもよかったかもしれないが、ラプラスさんには彼らによろしく伝えてもらおう。
私と違って彼は処世術に長けているので、
その点は丸投げしてもうまくこなしてくれるに違いない。
問題は私達の方だ。
邪龍との戦闘において、こちら側に影響はまるでない筈だった。
この世界に元よりいた神々とやらも、とばっちりを恐れてその存在の気配を限りなく薄くしていたようである。
私自身?
遠隔透視で冒険者たちの戦いを視ていたが、あんなものと関わり合いになりたいとは思うわけもない。
そもそも私は愛と美の女神。
この世界に来て世界樹の女神としての職能を賜ったが、戦闘などといった血生臭いものなど専門分野外なのだ。
かつての仲間たちの能力を一様に使いこなせるとしても、極力そんな役目は御遠慮願う他はない。
そして、本来の話に戻るのだけど、
今、私の前にはぐったりとゼリー状に溶けてるオデムを布袋さんが抱えている。
鑑定で見るまでもなく、オデムの身体面に異状はまるでない。
HPは満タンだし、試みにトカゲのような小動物を与えてみるも、ゆっくりとだが普通に消化もできる。
生きているのは間違いないのだ。
いまも布袋さんの腕の隙間から、オデムのカラダの一部が地面に溢れそうになる度に、慌てて布袋さんが掬い上げようとする。
私は幾度となく医の神アスクレーピオスの能力を使ってみたが、当然のごとくケガでも病気でもないオデムを治すことは出来なかった。
ステータス面に表示される状態異状は「自我喪失」。
どうすれば良いのだろうか。
冒険者たちの送迎に向かわせていたラプラスさんに、何か手はないか念話で聞いてみたが、
思いつく手段はプリーストの扱うディスペル呪文とか。
え、と、
・・・そんな能力、仲間の神々も持ってなかったわよね?
・・・そう言えば私は転職できないのだろうか。
転職したとしてレベルアップってどうすればいいの?
「マ、マスター、転職さえ出来れば、ぼ、僕らが獲物を生捕りにしてきますので、そ、それを仕留めれば?」
そうね、
布袋さんの言うとおり、彼らに手足になって貰えばどうということはないか?
『しかし、恐れながらマスター?』
ラプラスさんとの念話は繋いだままだ。
彼には他の意見もあるのだろうか。
『マスターの職業を変えるのはお勧めできません。
マスターの職業はこの世界にとっても、マスターのお体にとってもかなり特殊なものです。
万一の事があった時に、対処すべき手段が見当たらない状況で転職は避けるべきかと思います。』
そ、それもそうか。
この世界のことは後回しでもいいけれど、私が一般職になった途端に、世界樹と一体化している私の体が拒否反応を起こすかもしれない。
そうなったらと思うと想像するだけで恐ろしい・・・。
「で、では他にどうすれば良いのですか?」
『・・・正直すぐには対処出来かねますが・・・オデム自身は命に別状はないのですよね?
ならば時間はかかるかもしれませんが、私がオデムを連れ出して、ヒューマンかエルフにオデムを治せる者を探すと言う手もございます。」
時間はかかるかも、か。
確かに今のオデムは植物人間・・・じゃなくて植物スライム状態。
生命維持も、小動物程度のエサを定期的にあげていれば命の危険はなさそうである。
ならば心配ではあるが、ラプラスさんに任せるしかないのだろうか。
そんな事を心配していた時、
冒険者たちを迎えに行ったラプラスさんから念話が届いた。
なんでもメリーさんが私に聞きたい事があると言う。
正直、もう彼女たちには用はないのだけど、
一応、彼女は邪龍討伐の最大功労者だ。
私に答えられるものなら答えてあげようか。
『メリー様は邪龍に囚われていた魂達がマスターの元へ還られたのかどうか質問されています。』
・・・ああ、
なるほど。
すでにその話は理解している。
彼女たちと直接会った時には詳細は話さなかったけども、メリーさんが気にしていた黒髪の少女。
その子のこの世界での写し身が邪龍に喰われていたのよね。
そしてめでたく邪龍が倒されたと同時に、
邪龍に喰われていた魂達が解放されて・・・
そう、その魂たちは今、私と一体化している世界樹に流れ込んできている。
「・・・ええ、ラプラスさん、
メリーさんに伝えてあげてください。
あなたのお陰で邪龍に囚われていた魂は、皆わたしの元へ還ってきていると。
このまま長い年月をかければ、魂の傷を修復して新たな命に生まれ変わることもできるでしょう、と。」
そう、オデムのことさえ除けば、全てがあるべき姿に戻った。
だから私はオデムの心配だけを・・・
『それでマスター、メリー様はその魂達の中に、例の黒髪の子はいるかどうか、確かめられないか聞いていらっしゃるのですが・・・。』
・・・しつこくない?
しつこいというか、仮にも女神に対して厚かましいと思わないのだろうか。
だいたいこんなたくさんの魂の中から、個人を特定など出来るわけもないだろうに。
「ラプラスさん、メリーさんにお伝えください。
その子は私自身、直接の知り合いではないし、そもそもこの世界では生を受けてすらいない無垢な魂。
その状態から個人を特定するなど無理な話です。」
そう、
「私には」
無理な話だ。
もちろんこの場にメリーさんがいたとしても不可能だろう。
たとえ、夢でその子の姿を見たと言う、闇の巫女麻衣様でも。
当然、血を分けた肉親だろうと無理なものは無理。
そんな事ができるとすれば、たった一人・・・
なにこの気配っ!?
突然現れたっ!!
突然乱入したっ!!
私の「運命の三女神」も全く役に立たず!!
ラプラスさんが設置していた気配遮断効果のある魔道具すら意味も成さず!!
前回訪れたこの世界の神々よりも唐突に!!
私の目の前・・・
オデムを抱えた布袋さんの真後ろに!!
腰元まである長い金色の巻毛の男がそこにいたのだ!!
「誰っ!?」
「えっ、あっ!?
いつの間にっ!!」
私とオデムにしか注意を払ってなかった布袋さんは、当然のことながら私より反応は遅れた。
もちろんそんな事はどうでもいい。
問題はいきなり現れたこの男・・・。
身長190センチはあろう長身の・・・
世捨て人のようなローブを纏って、得体の知れない笑みを浮かべて・・・
何より気味が悪いのは
その両目に浮かぶ、瞳孔すらないただ黄金色の眼球。
ある意味、真っ赤な瞳のオデムを想起させるも、その佇まいは全くの異質!!
「オ、オデム、ごめんよ、一度床に置くね・・・。」
布袋さんはオデムに最大限の気遣いを見せたあと・・・
主人である私を守るべく、この場にあり得ない侵入者に向かっていった!!
ぐぱんっ!!
内臓でも破裂したかのような衝撃音。
縦にも横にも大きい布袋さんが、めちゃくちゃ身を低くしてからの体当たりをかましたのだ。
相手のカラダはボールのように弾け飛ぶか、
受け止める事ができたにしてもただで済むはずもない。
けれど・・・
「やあ、こんにちわ、初めまして。」
その男は、
まるで何事もなかったかのように、
黄金色の眼球を浮かべたまま、友好的な笑みを湛えていたのだ・・・。
え、布袋さんの体当たりは・・・
あ、こんな中途半端なところで・・・
時間切れだ・・・。
一話だけで済ませるつもりだったのに。