第五百二十八話 ぼっち妖魔は気を抜いている
本日朝、目が覚めてから下書き始めました。
ええ、前回の更新から一文字も進められていなかったのですよ。
次回もちゃんと更新できるか怪しいです。
<視点 麻衣>
それからの事を書こうと思う。
邪龍討伐イベントは全て終わった。
それを証明するかのように朝日が昇り、
荒涼としたカスタナリバ砂漠の大地を照らす。
まあ砂漠って聞くと、足が吸い込まれそうな砂地を想像するかもしれないけど、この辺りは岩砂漠だ。
徒歩の移動もそれほど困るものでもない。
それにしても本当にこれで終わりなのだろうか。
いえ、別にあたしからフラグ立てまくるつもりはまったくないんだけども、
てっきり魔王ミュラ君とケイジさんとで、
リィナさんをめぐって一悶着あると思ってただけに肩透かし食らった気分なのだ。
・・・今もあたしの危険察知反応は何もない。
それだけに何かもやる・・・。
こう言えば分かりやすいかな。
前回のローゼンベルクでのアスターナままの時の石碑イベントの真逆。
あの時は、危険察知反応ビンビンだったのに、
あたしの思考回路では如何なる危険が近づいてるのか全く予想できなかった。
今回は、
これまでの流れから、
いくらでも危険が起きそうな気がするのに、
あたしの危険察知反応は何も仕事してくれていないという事。
この場合、
あたしの経験則を信じればいいのか、
あたしの能力を信じればいいのか。
難しい。
そんな時、一つの大きな声があたしの思考を破ってくれやがった。
「麻衣ちゃん!
ヨルは疲れましたですよぉ!!
こういう時こそプリンの出番だと思うのですよぉ!!」
こういう時の犯人はやっぱりヨルさんか。
ただ彼女の欲求は分からないでもない。
「あ、ああ、そうですね、
邪龍討伐お祝いも兼ねて、この人数なら大盤振る舞いしちゃいましょうか。」
まだあたしの巾着袋にはプリンのストックがある。
時間停止状態で腐りもせずに溜め続けられるというのは、何と便利なものだろうか。
どうにかラミィさんに譲渡するの反故にできないかな?
あ、いえ、や、約束は守りますよ?
「はい、定番のカラメルソースプリン、
第二弾、和風小豆乗せプリン、
そして秘密裏に開発していた第三弾、栗のモンブランプリンです。」
「ふおおおおおおおおおおおっ!!
麻衣ちゃんたら、こんな凶悪なモノ開発していたですかあああああああああああっ!!
どこまでも油断できない恐ろしい子ですよおおおおおおっ!!」
「麻衣さん、・・・まだそんな手札隠していたのかい・・・。」
い、いえ、カラドックさん、
別にあたしが発明したわけじゃないですからねっ!?
「麻衣さん、オレは小豆乗せプリンをお願いできないだろうか。」
「あ、あたしはモンブランプリン貰っていい?」
ケイジさん、つとめて冷静な態度を見せてるけどお尻の尻尾の動きは隠せてませんよ?
アレかな?
転生前の記憶で小豆は懐かしいのかな?
リィナさんは栗をお好みか。
それは兎獣人としての嗜好なのだろうか。
「やはり麻衣はハイエルフの神殿で引き取るべき。
私が神官長に進言。」
「否、麻衣はダークエルフ、いや、麻衣を手土産にヒューマン社会の冒険者ギルドにエルフ界初の冒険者ギルド設立を認めさせる手駒。」
ちょっとお二人さん、
人の進路を勝手に決めないで欲しい。
あたしだって、この先、進学するか就職するか、色々悩みたいお年頃なのだ。
え?
あたしの成績で進学は無理だと?
舐めないでもらいたい。
英語の成績はバッチリなのだ。
さ、探せばそこそこの大学とか、
だ、ダメなら専門学校でも・・・
そ、そうとも!!
あたしの能力をフルに使えば就職など引く手数多の筈なのだ!!
そ、そりゃ他人に公開できない能力ばかりなのですけどね。
・・・むう、あたしに必要なのは、この能力をうまくプロデュースしてくれるマネージャーさんとかかな。
どこか、そんな便利な人はいないものだろうか。
・・・話が大幅に逸れてる気がするな。
そもそもプリンネタで盛り上がってる場合ではない。
確かに夜通し暴れてカラダに糖分が欲しかったのは確かだ。
正直に言えばお腹も空いているし、
お布団も恋しい。
もちろんお風呂にも入りたい。
今この場でできる事は小腹を満たす事だけだ。
その気になればこの辺や洞窟の入り口辺りにテント張ってもいいのだけど、
魔物や野獣の生態系がどうなってるのか、情報はまるで何もない。
邪龍がこの辺を占領してたんだから、
そうそう魔物すら残っていないと思うのだけど、
それで危険がないと言える理由にはならないからね。
え?
あたしが周りを感知すればいい?
だからそれやったらあたしが寝られないじゃないですか!!
と、思ってる間にラプラスさんの長馬車が飛んできた。
こっちからは合図を送ってないはずだけど、
あの人にも邪龍の脅威が消え去った事が分かったのだろうか。
「皆様、お疲れ様でした!!
戦いの様子はマスターが遠隔透視しておりましたので、要所要所で私にも情報は送られて来ていました。
皆様がご無事であることもマスターは喜んでおられます!!」
ああ、そうか、
世界樹の女神さまは、遠隔透視だけでなく配下に念話もできるんだものね。
そりゃこっちの様子は全部わかるか。
「それと麻衣様・・・。」
あれ?
ラプラスさんがあたしの目の前にやって来た。
何か女神様からあたしに伝言でもあるのだろうか。
「あ、あの、出来ましたなら私にもプリンをいただけないでしょうか。」
おい。
お前は金払え。
なんてね、
まあ、本音でお金を払って欲しいとは思っていない。
そもそもこっちは行き帰りのタクシー運賃を払ってないからね。
ただラプラスさんに、馬車内での飲食代をきっちり払わされているのなら、同じ条件としてこっちも飲食物にはお金を貰っていいのではないだろうかと思っただけである。
「麻衣さん、気にしなくていいと思うよ。
そもそも行き帰りの運賃はマルゴット女王が支払うと言っているのだから、ラプラスさんは無償で馬車を飛ばしているわけでもない。」
あ、そ、そうなんでしたっけ?
「む、むう、そうですね、
確かに引退したとはいえ、私も元ラプラス商会会長。
ここは適正な対価を払わせて頂きますとも。」
燕尾服の内ポケットから黒革の立派な財布を取り出す姿は様になるよね、この人。
でもねえ。
「い、いえ、やっぱりいいですよ、
販売価格500ぺソルピー程度のもの、
周りに人間もいない荒れ地のど真ん中でお金やり取りするのバカバカしいですし!」
はっきり言うと野暮ですよね。
まあ、でもこれで緊張感は完全に無くなったかな。
・・・いや、
完全にじゃないな。
今まで空気のように静かにしていたメリーさんが近づいてきた。
確かにメリーさんはプリンになど用はないだろう。
けれど、
ラプラスさんには。
「ちょうど良かったわ、ラプラス。
マスター・・・あなたの主人である世界樹の女神に聞きたいことがあるの。」
ピンときた。
このタイミングでメリーさんが世界樹の女神様に聞きたいこと。
・・・あの件しかないだろうと思う。
そしてラプラスさんはこれまた高級そうなシルクのハンカチで口元を拭う。
ホントにそういう仕草が様になる。
何かのスキルなのだろうか。
「なんでしょう、メリー様?
お望みとあればマスターにお聞きしてみますが、ご質問全てに答えられるかどうかは・・・。」
「難しい質問ではないし、
答えられないような質問ではないと思うわ。
教えて欲しいの。
邪龍から解放された魂は、
みんな、世界樹の元へ還っているの?」
うん、やっぱりその件しかないよね。