第五百二十七話 解散
今回の話までが邪龍編です。
次回からエピローグ編となる、でしょう?
うりぃ
「なんで疑問形やねん!!」
<視点 ケイジ>
カラドックがリィナに向かって和かな笑顔を浮かべている。
「え、ここであたし!?
で、でもそうか、そうだよね・・・て
いやいや、カラドック、話進めすぎてない!?
ミュラ君そこまでの事言ってないよ!?」
まあ、確かにミュラは口に出してはいないけどな、
けれどヤツがリィナに執心してるのは誰の目にも明らかだぞ。
「いや、正直、ミュラは人付き合い薄そうだからさ、
もっと交友関係広げた方がいいと思うんだけど、リィナちゃん、どうかな?」
そしてカラドックはいつも通りというか、
リィナの反論部分には何も聞こえなかったかのようにスルーした。
「えっ、あ、そ、それって・・・
そうだよね、後ろにいる人たちはミュラ君の味方なんだろうけど、友達・・・とは違うものね?」
え、ちょ、リィナまで何言い出す!?
ていうか
話の流れが見えない。
見ろ、
ミュラでさえ困ったような顔をしているぞ?
む?
そこへ冒険者パーティーのダンが後ろから近づいてくる?
「あー、つまり、アレだ、魔王様。
あのウサギの子は、魔王様とお友達としてなら仲良くしてもいいって言ってんだよ。」
なにいいいっ!?
貴様、ダン!!
人間族の裏切り者野郎がああああああああっ!?
そこの女性陣っ!!
スケスケエルフに魔族メイドに死霊使いっ!!
何キャイキャイ顔赤らめてんだよおおおっ!!
「こっ、これはこれで新鮮ですよおおおおっ!!
リィナちゃんから甘酸っぱい、すとろべりぃちっくな香りがフワフワ漂ってくるですうううっ!!」
「流石はウサギさん、
魔王への手綱捌きも完璧。」
「恐るべきは勇者、
魔王のハートにクリティカル発生。」
て、こっちもかあああああああああああああああっ!!
「そ、そうか、
そうだよね、で、ではリィナ、
これから、き、君を食事などに誘っても?」
ミュラも簡単に折れてんじゃねーよっ!!
このちょろ魔王!!
い、いや、確かにその方が平和なんだけどさ!!
「あ、あはは、う、うん、
それくらいなら・・・
で、でもあたしも一応、『蒼い狼』パーティーの一員だからさ?
食事とかならみんなも一緒に誘うよ?
そっちも今いる人たちとか竜人の人とか呼んで賑やかにやろうよ?」
お?
オレ的にもそっちがいいな、
いいぞ、リィナ!
「・・・他のヤツらには用はないんだけどな。」
「だからさ、そういうのが良くないんだよ、
あたしも交友関係そんな広くないし、偉そうなこと言えないけど、友達とか知り合いは多い方が絶対に楽しいって。
カラドックから聞いてるけど、君、自分の生まれた国の宮廷で、ほとんど籠の中の鳥みたいな生活送ってたんでしょ?
心の許せる人って何人いたの?
そんなとこで子供時代過ごせばそりゃ歪むよ。
せっかく生まれ変わったんならさ、
べ、別に彼女とか恋人とかだけでなく、
そういう以前出来なかったこともみんなやろうよ。
一人だけでやろうとするから大変なんだよ。
そういうのみんなでやった方がいいって、絶対。」
正論過ぎる。
正論過ぎて心なしかオレの精神にもダメージが入ってるかもしれないが、リィナの言う通りだ。
彼女も奴隷として売られてオレに出会うまで、友人もなく自由のない生活を送ってきたからな。
誰よりもそれを欲していたのはリィナなんだ。
「あ、あたしだってさ、
ケイジと二人きりの旅も悪くないけどさ、
やっぱり、アガサやタバサが加わって、
カラドックと出会って、
麻衣ちゃんやヨルもくっついてきて、凄い賑やかになって、
ミステリアスなメリーさんもだけど、みんなと一緒にいた方が楽しいもん。」
ぐはっ
お、おかしいな、オレの口から赤い汗が垂れてないかっ?
タバサさん!
え?
これはヒールで治せないって!?
「きゃあっ!?
みんな、なにっ!!」
あ、アガサや麻衣さん達が集まってリィナに抱きつき始めた。
・・・オレがこの雰囲気で同じことやったらまた蹴られるよな。
「はは、最初からリィナちゃんに喋ってもらった方が良かったかな?」
カラドックは呆れたように笑ってやがる。
リィナの方は、「いやいやとんでもとんでも」と例の如く、首と手を高速運動。
「・・・分かったよ、さすがに今日のこのタイミングはないかな。
じゃ、じゃあ今度然るべきタイミングを見計らって、しょ、食事にでも、誘うから。」
「え、あ、あ、ああ、そ、そうだね、
うん、待ってるっ。」
リィナアアアァアアッ!?
うああ、
キャアキャア煩せーぞ! おんなどもおおおおっ!!
「あ、そうだ、ミュラ、
さっきは私もあんなこと言ったけども。」
ひでぇよ、カラドック、
オレお前のことだけは信じていたのに・・・
あ、いや、
カラドックはまだ何か言う事があるのか。
「ふん、わかってるさ。
僕だって馬鹿正直に君の言葉を聞いていない。
要はリィナを困らせなければいいんだろう?
その上で魔王としての権力と地位は有効に使わせて貰う。
手段は選ばない。
けど、
・・・その、まあ、いろいろ世話になったね。」
ふざけんな、こんちくしょおおおおおおおがああああああああっ!!
このツンデレ魔王めがああああああああああああああああああああああああっ!!
「ダン達はどうするんだい?
このまま、ミュラの元へ?」
カラドック、完全に平常モードじゃねーかよ!!
「んあ?
そうだな、あくまでオレらは人間社会と魔王様との仲介役に徹するよ。
それはそれで貴重な役目だろ?
冒険者ギルドにもそう伝えることにしている。
それに知ってるか?
魔族領にもダンジョンあるんだぜ?
未発見のレアアイテムとか経験値とか美味しいんだ、これがまた。」
う、
こいつら結構逞しいな・・・。
オレ達や一般の冒険者連中とは違う視点で活動してやがる。
人間と魔族が全面的に戦争になったらこいつらの地位も危うくなると思うんだが、
ミュラが和平路線を貫くならばダン達の生き方は有りなのかもしれない。
この後、何がどうということもなく、結局平穏無事に解散となった。
向こうの死霊使いの女の子が「え、またドラゴンの背中に乗るしかないの」とこの世の終わりのような顔を浮かべてたが見なかったことにする。
最後にミュラがオレに何か言いたそうな顔を向けていたが、それも知ったこっちゃない。
オレはヤツに何の義理もないんだ。
母親の件では同情したが、それ以外にはヤツに関わろうとする如何なる理由も存在しない。
リィナにちょっかいかけてさえ来なければそれでいいのだ。
そして、ミュラたちを乗せたドラゴンたちは一斉にこの地から飛び立っていった。
ん?
オレの目でも追えなくなるほど遠ざかって行った後、
何か戸惑ったままの麻衣さんが気になった。
一応聞いてみるか。
「どうかしたのか、麻衣さん?」
「あ、い、いえ、と、特に何もない、と思いますよ?」
その割に様子がおかしいと思う。
「何かまだ危険が残ってるとか、危険を感知したとか?」
「あ、そ、そうでなく、むしろ逆かな?」
ん?
どういう事だ?
「ご、ごめん、逆って意味がわからないんだが。」
「あ、そ、そうですよね、
今現在、あたしの感知機能に何もひっかからないんですよ。
なら全く危険はないのかなって、
でもこれまでの流れでこのまま何もなく終わるってのが信じられなくて・・・。」
なるほどな、そういう意味か。
「てっきり、ミュラ君たちとなにか一悶着でもあるのかな、とか思ってたんですけど、それも今はやり過ごせたみたいなんで、少なくとももうここで警戒する理由はなくなっちゃったのかなと。」
危険を感知してないというなら、もうそれでいいんじゃないか?
さすがに皆んなも疲れたろ。
そこへカラドックも確かめたいことがあったのか、オレたちの会話に参加する。
「それなら私も不安材料をなくす為に麻衣さんに一つ聞いていいかな?」
「あ、は、はい、なんなりと。」
「また話を蒸し返すようで申し訳ないけど、
深淵は・・・あの存在は私たちに危害を与えるようなマネはしないということでいいのかな?」
カラドックとしてはどうしてもそれが気になるのかな。
「・・・厄介ごとは押し付けてくるかもしれません。
けど、直接あたしたちに干渉してくるとは思えないんですけどね。」
「なるほど、・・・ね。」
その後、カラドックは不思議な反応を見せた。
まるでこの場にはいない、「誰かに」、何かを確かめるように、
ぼそりと、
「そう思って良いのですか・・・。」
と誰にも聞こえないようなセリフを呟いたのだ。
・・・オレの狼イヤーは聞き逃さなかったけどな。
麻衣
「無事に終わった!?
そんな馬鹿な!!」
この後定期的に更新できなかったらごめんなさい・・・