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第五百二十六話 対決

<視点 ケイジ>


 「コミックショーはそこまででいいかい?」


あ?


突然悪意を感じられる言葉を投げつけられてオレは振り返る。


 「ミュラか・・・!」


いつの間にか、ゴールドドラゴンの背中から降りて、オレ達の後ろに来ていやがった。

背後には護衛役のダンと、結界師のスケスケエルフがいる。


もちろんパーティーリーダーとして、オレがミュラの相手をすべきだったのだろうが、

幸か不幸か、オレはタバサのヒール呪文を受けていた為に反応が少し遅れてしまった。


その隙にカラドックがミュラの前に立ってくれたのだ。


 「やあ、ミュラ、おかげさまで邪龍は倒せたよ。

 君の母親の仇も討てたと思うんだが。

 ・・・それとも自分の手で邪龍を仕留めたかったということかな?」


む?

なるほどな。

ヤツも邪龍に復讐を果たす為にここまで来たんだものな。

美味しいところは全部メリーさんが持ってってしまっている。

ならば不満があるとでもいうのだろうか?


 「いや・・・、

 確かにこの手でお母様の仇を討てるに越したことはないけども、

 今の僕のレベルでは直接邪龍を葬り去ることまでは出来なかったろう。

 それに・・・メリーさん?

 あんな人形が僕の前世の世界にいたっていうのか・・・?

 正直その辺りも驚いているけど、今のこの結果に文句なんか有りはしないさ。」


そりゃ驚くよな。

あの世界には、アスラ王とか天使シリスとか訳わからん連中が大勢いたが、さすがに自動で喋って動く人形なんていなかったものな。

・・・いや、オレたちが知らなかっただけなんだろうけども。



 「それは何よりだ。

 この後、私たちはグリフィス公国に戻る予定だが、君は?」


 「いや、その前にいくつか聞きたい事がある。

 まずカラドック、君はこの後、元の世界に戻るのか?」


 「ああ、二週間以内にね。

 メリーさんも、そして麻衣さんも。」


麻衣さんのご褒美問題は片付いてないんだが、

その問題の猶予期間はまだ二週間もあると言える。

この場で答えを出す必要ないという事だ。

ギリギリまで悩んでいたっていいだろう。


 「そうか、行ってしまうのか・・・。」


ん?

なんかミュラ寂しそうな顔したか?


・・・おい、待て。

向こうのスケスケエルフと魔族メイドはどうでもいいが、リィナが胸を締め付けられたような顔してないか?


こ、こいつまさか、ナチュラルに女の母性本能くすぐるスキルを持ってやがんのか?

それともベアトリチェの異性を誑かす性質をそのまま受け継いでいやがるのか?


 「・・・そうだね、ミュラ。

 なら元の世界に戻る前にゆっくりと話でもするかい?

 君のことは行方不明になってから気にはしていたんだ。

 ただこっちも戦争やら王位の引き継ぎやら・・・リナちゃんや惠介のことでバタバタしててね。」


 「生憎、僕も今の自分の立場は理解している。

 魔王となった以上、それほど自由にこのカラダを動かせない。

 だから今ここで聞きたい。

 カラドック、その子がここにいるって事は・・・

 リナは・・・彼女は死んだのか?」


うっ・・・。

そうか、ミュラにしてみれば、

自分にただ一人真正面から向き合ってくれた女性がリナだったんだよな。

言い換えればリナはミュラの恩人と言ってもいい。

・・・あくまでも恩人だ。

それ以外の何者でもないぞ?


 「先に断っておくが、彼女がリナちゃんの転生した姿なのかどうかは誰にもわからないぞ。

 ・・・ただ、質問の答えとしてはイエスだ。

 スーサの国を倒して、私が父上から王位を継いだ直後にね・・・。

 惠介と一緒に・・・。」



・・・そっちについては間違いだ。

オレはその時点で死んでいない。

カラドックがこれから、元の世界に戻った後もオレはずっと生き続けている。


 「そうか・・・。

 あいつ、・・・リナを守れなかったのかっ・・・!」


ぐあっ!!


今のが一番心に痛みを覚えたぞっ!!

し、しかもミュラの野郎、今何気にオレに視線を飛ばさなかったか?


耐えろっ、

反応するなよ、オレっ!!

何とか気丈に振る舞うんだっ!!



だが・・・ヤツも



ミュラの心情としてはどうなんだろうな?


自分が死んでしまった世界に。

もう戻ることの出来ない過去の世界で、

かつて惚れてた女が死んだと聞かされて。


そりゃ自分の惚れた相手が幸せになってくれたら・・・

と思うのが普通・・・なんだろうが、

自分もその世界で死んでる以上、もうどうにもならない。


自分が生きていれば、助けに行くことも出来たとか後悔する事もあるんだろうけども・・・


いや、転生してても後悔はするか。

オレだってそうだったもんな。



するとミュラは何を考えやがったのか、

次に視線をリィナに向けやがった。


 「え、あ?」


もちろんすぐにリィナは戸惑いながらも反応する。


 「君は、リィナ、という名前なんだよね。

 こっちの世界では。」


 「う、うん、てか、こっちの世界って、カラドックも言ってくれたけど、あたしには向こうの世界の記憶はないよ?」


いかん。

魔王の狙いはリィナだ。

ここはオレが彼女の身を守らねばならない。


もう先ほどのダメージからは回復している。

・・・精神の方もな。

オレはリィナの前に立つぞ。

前回の黄金宮殿と同じ構図だが、何度繰り返されようともすべき事は一緒。

オレがリィナを守る。


ほぅら、

ミュラのヤツ、ガキ特有の憎ったらしい視線をオレにぶつけてきやがった。

こっちがヤツの本性だろうよ。


 「悪いがどいてくれないかな?

 僕はその子に用があるのであって、君じゃないんだよ、狼くん。」


んにゃろう・・・!

いっちょまえにオレを挑発するつもりか?


ところがここでオレの想定外の事態が起こる。

なんとリィナやオレの前に、更にカラドックが立ち塞がりやがったのだ。


 「「カラドック?」」


ちくしょう、ミュラとハモった。


 「ケイジもミュラも事を荒立てないでくれ。

 せっかくこれから平和な時代が訪れようとしているんだ、

 よりにもよって、色恋沙汰で勇者パーティーと魔王が対立するのは馬鹿馬鹿しいと思わないか?」


 「・・・傾聴には値するけども、僕も転生までしておいて、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。

 カラドックには悪いが退くわけにはいかないよ。」


くっ、やはり魔王とは戦う定めか!!


 「いや、勘違いしないでくれ、ミュラ。

 別に私は君の恋路を邪魔するつもりは一切ない。」


 「ななななにぃぃいぃいっ!?」


あ、今の驚きはオレの声な?

何を言い出すんだ、カラドック!!

気でも狂ったのか!?

魔王の特殊スキルでも喰らったのか!?


 「へぇ?

 どういう事かな?」


カ、カラドック、お、お前、オレの味方じゃ・・・

な、何でこんなところでニカって笑うんだよっ?


 「いや、どうもこうもないよ。

 大事なのはリィナちゃんの意志であって、君やケイジじゃない。

 そうは思わないか?」


そ、それはそうだけど・・・。


オレ、こないだリィナにお前はオレのもの宣言しちゃったけど、ここはそれを言わない方がいいよな?


うん、麻衣さんもうんうん頷いているし。


あれ?

・・・麻衣さん、あの場にいなかったよな?

い、いや、今はどうでもいいが。


 「む、た、確かにそれはその通りだけど、何が言いたいんだ?」


 「別に私は当たり前の事しか言わないよ?

 君がリィナちゃんにモーションかけるのも告白するのも自由だけど、

 それはミュラ個人の話だ。

 ミュラという男がリィナという女の子にアタックするかどうか。

 そしてここには既にケイジという男が彼女の隣にいる。

 最終的にどっちを受け入れるのはリィナちゃん。

 そこに魔王とか、勇者とか、血生臭いものを持ち込むなってことさ。

 そんなのリィナちゃんだって重過ぎて引くよ?

 そうだろ?」


う、

そこでカラドックはオレ達の方を・・・

いや、リィナの方を振り返った・・・しかもいい笑顔で!?




 

麻衣

「順風満帆で終わるわけない。

順風満帆で終わるわけない・・・。」

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