第五百二十話 ぼっち妖魔は見過ごさない
エピローグどうしよう・・・。
<視点 麻衣>
あ、
メリーさんのカラダが見えてきた!!
もう邪龍さんは当初の半分くらいの高さしかない。
あれでもまだ生きてるどころか、会話もできるのだろうか。
さすがにしぶといね。
『やぁっ、やめろっぉ! やめてくれぃっ!?
このままでは死ぬぅっ! 本当に死ぬっ!!
滅びてしまうっ!!』
おおっ、ついにあの邪龍さんが泣き声言い始めたよ!!
でも普通に喋れる程度にはまだ元気だね。
油断はしないでおこう。
まだわちゃやちゃ動いてる触手もあるけど、
ほとんど途中でぶった斬られてメリーさんまで届かない。
届いたとしてもあの触手たち、もう戦意喪失してるのでは?
あ、メリーさんの方も攻撃を止めた?
メリーさんが疲れたとか言うはずない。
邪龍の反応を観察したいということだろうか。
『たっ、頼む!
お前には敵わないっ!!
もう、人間の魂も喰わない!!
だっ、だからっ!! だから見逃してくれっ!!』
うーん、命乞いねぇ・・・
それもよりにもよってメリーさんに命乞い?
それは無駄だと思うんだけど・・・
あれ?
メリーさん、しゃがんじゃったよ?
まるで小さな子供に話しかけるように膝を揃えて?
「ねぇ、邪龍。」
『なっ、なんだっ!!』
「あなた、本当にバカなの?」
『な、なにをををををっ!?』
あっ、このセリフって・・・
あれ、でもカラドックさんに邪龍さんが向けて放った時、メリーさんいなかったよね?
ただの偶然かな?
あ、ケイジさんがニヤニヤしてる。
まあ、どうでもいいか。
そしてメリーさんが立ち上がる。
その細い両手に鎌を構え、ゆっくりと・・・
そう、
そこで思いっきり鎌を振り下ろすかと思ったんだけど、
途中でメリーさんは何かに気づいたようだ。
「あら?」
『なっ、なんだあっ!?』
「なにかモコモコしてると思ったら。」
そこでようやくメリーさんは鎌を一閃。
『ぐびゃあああああああああああっ!!』
ん?
あ、あれは・・・
「麻衣さん!?
何かあったのか!?」
いくらケイジさんが目が良くてもここからじゃ見えないよね。
なら遠隔透視を・・・
うん、我ながら器用だと思う。
あたしの肉眼で見る前方からの邪龍さんの姿と、
精神で視る上方からの邪龍さんの姿とが、
頭の中でダブって映っているのだから。
「あ、えっと、あー、大したものではないと思いますよ。
・・・ただ、メリーさんがあるものを見つけたみたいで・・・。」
まあ、ホントは遠隔透視しないでも、ある程度予想はしていたんだ。
「見つけた?」
ケイジさんにはまだわかないか。
まあ、なんであんな所にあるんだと聞かれてもあたしもわかんないしね。
『ヒィイイイイイィイィアッ!!』
メリーさん、どうやら顔をみつけたようだ。
邪龍さんの顔。
「今回も」体の中にあったのか。
今更の話なんだけどね。
「随分とまあ、整ったというか、不自然なほど造形的な顔ね。
・・・でも、もういらないわよね?」
『えっ、いや、ちょっと!?
顔を破壊されたら本当に死ぬ!!
やめてやめて!! 顔だけはやめてっ!
お願いだからっ!!』
なんか急に女の子っぽい言葉遣いになったのは気のせいかな。
もちろんそこで刃を止めるメリーさんの筈もない。
ただ・・・
最後と言いつつ、見苦しいというか、この期に及んでというべきか・・・
もうあたしがすべき事なんか何もないと思っていたけど、最後に役に立ってみようと思う。
気づいたのあたしだけだろうし。
もうメリーさんの姿は邪龍のカラダから露出している。
念話の必要もないだろう。
その代わりあそこまで距離があるからちょっと大きな声で。
「メリーさん、気づいてますかーっ?」
「あら、麻衣、さっきはありがとう。
まだ何かあるのかしら?」
「邪龍さんのその顔・・・まあ、本物には違いないんでしょうけど、弱点でもなんでもないですよ!
むしろそれを斬らせて死んだフリするつもりだと思います。
その顔の更に奥の方に、邪龍さんの命・・・
邪石って言うんですかね?
それを破壊してください!」
『なっ!?
クッ、クソ小娘ぇぇぇぇっ!
どうしてそれをっっっ!?』
さっきは人をメスガキとか呼んで、今度はクソ小娘か。
いくらなんでも失礼すぎるでしょ!
こちとら、聖女ベルリネッタさんの遺体からあなたの事はサイコメトリー済みだよ。
ハーフ妖魔、リーリト麻衣ちゃん、舐めんな。
「本当に頼りになるわね・・・、
あなたに会えて良かったわ、麻衣。」
いえいえ、とんでもありません。
それにこの場で気にするようなことじゃないんだけど、
邪龍を倒したらそれで終わりってわけじゃないからね。
と言っても、あたしもこの先、展開がどうなるか全くわからない。
とりあえず、
分かっているのは、
この世界の、
人類や魔族たちの、
最大の脅威であった存在が、
今の、この場で滅びようとしている事。
そして、
メリーさんは
ゆっくりその二本の腕を振り上げた。
『待て待て待て待て待て待て待てえええええぇええ!!』
ええ? まだ足掻くの?
もういい加減観念しなさいな?
諦めて試合終了しよ?
けれど相手の希望が残っていれば、それを一つ残らず刈り取るのがメリーさんのスタイル。
鎌を振り上げたまま、邪龍の願い通りにその動きを止める。
「何か喋り足りない事があったのかしら?
話の内容によっては寿命を伸ばしてあげるわよ?
ほんの少しだけだけど。」
『わ、我は大事なことを思い出したのだっ!!
そ、それに貴様は先程の場にいなかったよなっ!?
それを・・・それを貴様も知るべきなのではっ!?』
む?
邪龍さんたら、何を言い出すつもりだろうか。
「先ほどの場?
わからないわね、何かあったのかしら?」
あ、
ま・・・まさか
『痴れたことよっ!!
深淵・・・アビスのことよっ!!
ヤツはっ!!
ヤツは何を企んでるか分からぬぞっ!!
アレは・・・あの存在は貴様らの守護者などでは有りはしないっ!!
我も、貴様らも!
ヤツにとっては実験動物の一つに過ぎないのだっ!!
この場で貴様らが我に勝てたとしても!!
いつか、いつか貴様らはアビスにいいように利用されるだけに決まっているっ!!
そっ、それでもいいのか!?
なっ、何ならヤツに造られたもの同士、我と手を結ぶのも熟考すべきであろうっ!!』
「アビス?」
なるほど、そう来たか。
メリーさんがチラリとこちらを見る。
確かに前回のやりとりの時、メリーさんいなかったしね。
ん?
あっ!!
あたしが危険察知で声を上げようとしたけど間に合わなかった!!
バキンッ!!
鈍い音と共にメリーさんの腹部が砕け散る!!
「なっ、何だアレ!?
まだ触手がっ!!」
今ならケイジさん達にも見える。
メリーさんの背中から超極太の触手がウネウネと生えだしたのだから。
『ふっ、フハハハハハハハハハハっ!!
油断したな、このオンボロ人形がっ!!
我が取り込んだ魂どもの力を転嫁した触手だ!!
そう易々と破壊はできぬぞっ!!』
しまった、
これも聖女ベルリネッタさんの遺体からあたしは視ていたはずだったのに。
邪龍さんの口の部分、
いや、口に見えるだけで何か別の器官なのかもしれないけども。
そこから最後の触手を生み出してメリーさんのお腹を貫いたのだ。
聖女ベルリネッタさんの時と違うのは、
邪龍さんが言ったように、これまで取り込んできた魂の力を注ぎ込んでいること。
貫通力も頑丈さも昔よりパワーアップさせたという事か。
『フハハハハッ!!
このまま貴様のカラダを人間どもの布切れのように、この触手でもって後ろから前から裁縫してやろう!!
何針までそのマヌケなカラダは耐えられるかなっ!?』