第五百十九話 ぼっち妖魔は見守る
ぶっくま、ありがとうございます!
なお、前回、
メリーさんが閉じ込められてた時
リィナ
「これさぁ、メリーさん召喚術解除すればよくない? そんでまた召喚すればいいんじゃね?」
麻衣
「あっ!
い、いえでも、もうあたしのMP大量に消費しちゃってるし?」
「でもカラドックのほうにはMP、まだかなり残ってるんだよね?」
「い、い、いえ、でも邪龍さんがもうあたしが召喚術使おうとするの黙って見てないと思いますよっ!?」
「ふーん、そっかあー。」
う、うまくやり過ごせたっ!?
<視点 麻衣>
おおう、あたしに実況役返ってきましたか。
まあ、いいですよ。
ある程度納得しましたからね。
あたしはさっきっから念話にてメリーさんと会話をしている。
別に真新しいスキルでも何でもない。
あたしが小学生の頃からやってた事だ。
まあ、今は自分の能力をちゃんと自覚しているから、相手にも同系統の能力があれば難しくもなんともない。
ついさっきもラミィさんとやってたし。
で、まあその念話の内容についてなんだけど、恐らくあたしのやってる事は余計なお世話なのかもしれない。
きっとメリーさんならこの状況でもなんとか出来ると思うから。
ただ、あたしはホントに余計なお世話をしたくなっていた。
ただそれは、別にメリーさんを「物理的に」助けるつもりで声をかけたのではない。
ただなんとなく、
あたしがしなくちゃならないような気がしただけのこと。
メリーさんに、
道を踏み外して欲しくなかった。
恐らく人間だった頃のメリーさんは道を外しまくっていたのだろう。
そう言えば最初から人間じゃなかったような事を言っていた気もする。
別にその事はいい。
もう過去の話だし、あたしもそんな人の人生、とやかく言うつもりもないしね。
でもさ、せっかくこの世界に転移してきた者同士、
せっかくあたしにとっても馴染み深いメリーさんに転生したのなら、
出来ればみんなに胸を張れることをやってもバチは当たんないと思うんだよね。
別にメリーさんに真人間になれなんて言うつもりはないよ。
どうせ、もうヒトの体は捨ててしまったわけなのだろうし。
ハナから人外。
ただ黒髪の女の子にあれだけ拘っているのなら、
自分にも納得出来るように、それなりの筋を通すべきなんじゃないだろうか。
邪龍さんに魂を喰われた人達、
会ったことも見たこともない人達の復讐なんかでなく、
また、単に自分が主人公になりたいだなんて、独りよがりの理由なんかでなく、
それこそあの子の為に死神の鎌を振るって欲しいと思ったんだ。
だから言う。
伝える。
きっと邪龍さんに喰われた魂は消滅したわけじゃない。
まだそこにいる。
喰われた魂、全部が全部無事かどうかもわからいけども、
きっとまだどうにかなる。
それをあたしはメリーさんに伝えたかったんだ。
そして・・・
メリーさんの反応はない。
あたしの声が聞こえなかったわけじゃないだろう。
邪龍さんに押し潰されて機能が停止した訳でもない。
思い出して。
噛み締めて。
気づいたんだよね?
あなたがこの世界へ送られてきた理由を。
あなたがやるべきことを。
誰のためにその鎌を振るうべきなのかと。
「ま、麻衣さん、メリーさんはどうなったんだ?」
あたしはずっと念話で話してたので、ケイジさん達にはあたし達が何の話をしていたかは分からないだろう。
けど、あたしが何の反応も見せなくなったんで、念話が終わったのかと判断したってことだろうね。
うん、正解。
話は終わり。
もう何も言う必要はない。
「たぶんこれで最後です。」
「え、さ、最後って・・・。」
「もうメリーさんがぶれることもないでしょう。」
「ぶ、ぶれる?」
「今のメリーさんは、最強だということです。」
あ、ほら、さっそく
『ぎゃあああああああああああっ!?』
邪龍さんの悲鳴。
邪龍さんのカラダが大きく波打った。
「メ、メリーさん、何をしたんだ!?」
「ああ、たいしたことしてないですよ、
触手との綱引きには勝てたようですけど、それだけだと拘束自体は解けなかったみたいだったんで」
「と・・・解けなかったみたいだったんで?」
ケイジさんが話の中身を理解できなくて、あたしの言葉を繰り返す。
うん、なんてことないですよ。
「はい、だからメリーさんの五本の白い指で、
触手を一本一本握り潰しているみたいです。」
なんかあの触手、よりにもよってなんか汚らしい分泌液出してたみたいだしね。
メリーさん、情け容赦なく、ぐじゅっ! て潰してたみたいだ。
きっとその際も色々体液を飛び散らせてしまったのだろう。
あたしがメリーさんの立場で感情を備えたままだったら、とてもじゃないけどマネできないな。
普通にキモいし。
あれ?
ケイジさんが股間引っ込めて怯えている?
まあ、深く気にしないようにしましょう。
さてあたしは遠隔透視を続ける。
メリーさんは、鎌を持っていた方の腕に絡んでいた触手を最初に潰した。
力比べ自体には勝っていたんだから、そのくらい容易いものだ。
その後自分の口の中に突っ込まれてた触手を・・・うわ、不味そう。
敢えて細かく描写する必要ないのかもしれないんだけど、
まずぶっとい触手に爪を立てるように五本の指をブッ刺し、
ゆっくりゆっくり噛みちぎるかのようにそのまま握りつぶしてゆく。
この時点で口の中に潜り込んでいた触手は千切れる寸前だ。
どうにかしてメリーさんの指から逃れようとメチャクチャ暴れてるけど、逆にメリーさんの口そのものが最早、触手を固定する拘束台になってしまっている。
触手に逃げる手段はもうない。
ブッチャアアアアアッ!!
あ、ついにぶっちぎれたね。
なんか色々飛び散ってるし・・・。
それからその死神の鎌で、もう片方の腕に巻き付いてた触手を切断。
そっちも鎌の刃に触れた部分からグズグズと腐り始めていく。
そして更にメリーさんのお腹の下で一生懸命リズミカルに動いてた触手を無理やり引っこ抜いて・・・
なんか触手がヤダヤダって泣き喚いていそうに視えるね・・・。
そんなにメリーさんの中に入りたかったのか・・・。
けれど勿論メリーさんがそんな不埒なマネを許すはずが無い。
ドス黒いまでの殺意が籠った指先で、もう一切の容赦も慈悲もなく、ぶちゅっと触手の肉片は四散した。
メリーさんの両足を拡げようとしていた触手も同じ運命。
力ずくで外そうとするメリーさんにイヤイヤとばかりに駄々を捏ねている。
ホントにあれ、一本一本意志を持っているのか。
・・・あまり考えたくはない。
ああ、メリーさんの両手で捩じ切られた・・・!
痛覚は邪龍さんにも繋がっているらしい。
あれはめっちゃ痛そうだ。
まあ、これでメリーさんはほぼ自由になった。
まだ肉圧プレスで体を両側から抑えられ続けているけども、
死神の鎌が少しでも動き始めれば、その周辺の細胞や組織は腐り落ちる。
もちろんそうなれば、どんどんメリーさんの戒めは緩くなっていくのだ。
ズババッ!
『ぐっぎゃああああああああああああああああああああっ!!』
あっ、また邪龍さんのカラダが大きくうねった!
しかもそれだけじゃない。
「うわっ!?」
ケイジさんも驚いたみたいだね。
なぜなら邪龍の頭部?
目や鼻があるわけじゃないからホントに頭かどうかわかんないけど、人間でいったら頭頂部の辺りを輪切りにされたみたいに・・・
ああああ、それから何枚も何枚もまるで、玉ねぎの皮をドンドン削ぎ落とすかのように、邪龍の頭が薄くなってゆく。
なんかテレビショッピングでこんなのあったかな?
「どうです、奥様?
ほうら、こんな簡単に皮が剥けていきますよ?
今ならなんと12回払いの送料込みで、ハイ、このお値段!!」
とか脳内で再生されそう。
ああ、現実世界に戻りましょう。
タバサさんとカラドックさんで、ホーリーシャイン浴びせた方がいいのか、闇属性効果無効になるかもしれないからやめた方がいいのか、プチ討論してたみたいだけど、無事にどちらも効果はでた。
邪龍さんから削ぎ落ちたカラダは、灰だか腐肉だか分からないけどグズグスになっていった。
その間、メリーさんはまさに全自動肉削ぎ器のように邪龍さんを滅多切り。
もちろん激痛で邪龍さんも暴れるんだけど、
何しろメリーさんは邪龍さんの体の中にいる。
逃げ場などどこにもない。
まさに削ぎ放題。
なんだっけ?
内側から切るか外側から切るかの違いはあるけれど、トルコだかどっかの料理のドネルケバブみたいに邪龍さんの肉が削ぎ落ちてゆく。
あまりの邪龍さんの悲鳴が大きすぎて、みんな距離を取り始めた。
それは言い換えればあたし達にこれ以上、すべきことは何もないという事。
間もなく邪龍さんは落ちる。