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第五百十八話 もしもし? 私メリーさん

<視点 メリー>


もしもし?

私メリー。


今、無数の触手にカラダ中を陵辱されているの。


確かに今宵の宴にお誘いしたのは私の方。

けれどいきなりこんな乱暴、かつ下劣な振る舞いに出るなんて、

もう少し理性というものを大事にするべきではないかしら。


・・・バカバカしい。

私の方も茶番を演じるのはここまでにしておこうか。

こっちは元女性とはいえ、今はただの石膏人形なのだ。

口の中をまさぐられようと、喉の奥などありもしないし、唾液や嗚咽のような生体反応だってあるわけない。


・・・いえ、なんかやけに口の中がヌルヌルしてるのは触手の方が分泌液を出しているの?

ねえ、それ何のために?


まあ、私に感情が残っていれば、すぐに何らかの反射的行動にでるところだけど、既にエクスキューショナーモードに移行した身。

慌てる必要など何もない。


恐らく邪龍はこのまま私の手足を引きちぎるつもりなのだろうけど・・・


そうよね?

他の何かを目的となんかしてないわよね?

下半身の方の触手は、私の下着の中に潜り込んで、ぐじゅぐじゅと必死に何かを探そうとしているような動きなのだけど、

まさか、こないだのイザークとの一夜が、今回の壮大な前フリだなんてことはないはずよね?


・・・余計な心配だと思う事にしよう。

何度も同じ言葉を繰り返すけれど、邪龍は学習する事がないのだろうか。

これで私を縛れると思ったら大間違いだという事に・・・


・・・ねぇ?

そんなねばついたもので、べっとりと人の下着汚さないでくれる?

にちゃにちゃと糸引いてない?

他の人が見たら大間違いされそうでしょ?

いえ、もちろん他の人に見せるものでもないけれど。



いや、もうその事は放っておこう。


私は何も考える必要すらない。

見なさい?

既に人形のカラダは、触手の引っ張ろうとする力に逆らいはじめているわ。


邪龍は自分が喰らった犠牲者達の、悍ましいまでの怨恨の力を甘く見すぎている。

想像してみるがいい、

地獄の底で飢えた大勢の亡者達が、食物など存在しない荒野の果てに、やっと一塊りの肉を見つけたらどうなるのかを。


お前の命が消滅するまで彼らは群がり続け、一片の切れ端も残すところなくその活力に満ちたカラダを喰らいつくそうとするだろう。


 『バカな!

 我が触手の力に逆らえるというのか!!』


だからあなたはおバカさんなのよ。

引き千切られるのはどっちだったのか、

すぐに・・・



む・・・


なるほど。

これは厄介かもしれない。

確かにパワーは私の方が上だ。

ギリギリだが、触手の引っ張ろうとする力を上回っている。


けれど、

私の腕とヤツの触手の可動域に差が有り過ぎるようだ。


まあ、人間の腕だとしても大して変わりはないだろうけども、石膏を主な土台としている私の体は関節部分しか動かせるところはない。


一方、恐らく骨格すらも存在してないであろうあの触手は、生身の肉体組織である以上、伸び縮みすることさえ可能。

それがもともと一本だけで何メートルもの長さを有しているのだ。

いくら私が圧倒的な力を振るったからといって、引き千切ることは不可能だ。


さらに。


邪龍も足りない頭で色々考えているのだろう。

自分の肉壁に圧力を加えて私を押し潰そうとしている。

単純なプレスだけなら耐えられるかもしれないが、どうしてもカラダの関節部分が曲げられてゆく。

よく「数の暴力」とか「数は力」とか言うけれど、

この場合は「体積は力」と言うべきか。

さすがに一定の角度以上関節を曲げられてしまうと、メリーのカラダとてその負荷で砕けてしまうかもしれない。



しくったわね。

何とか口八丁手八丁で邪龍を揺さぶる事も考えたけれど、

地味に口の中のウゴウゴしている触手が邪魔だわ。

いくら人形のカラダだろうと、口を塞がれては声も出せない。

噛み切ってやりたいところだけど、ある一定の角度以上顎を開けられると噛み切る力が上手く働かないのよね。

・・・そう言えばこのカラダはどうやって発声しているんだったっけ?


 ビキッ


む、

せっかく再生したメリーのカラダにまたヒビが入った。

放っておけばすぐに再生するはずだが、このままカラダを押しつぶされ続けば不味い事になる。

おかげで今、何を考えようとしていたのか忘れてしまったわ。


さて、どうしましょう。




 『メリーさん、聞こえますか?』


あら?


幻聴・・・ではないわね。

脳内に直接声が聞こえてきたわ。

人形に脳はないのだけども。


 「ご機嫌よう、麻衣。

 ひょっとしてだけど心配してくれたのかしら?」


そう言えばこの人形の過去に、麻衣が何度も話しかけてきた記憶があるわね。

落ち着いて考えると随分な縁があるものよのね、あの子ったら。


 『あ、やっぱりそんな困ってなかったですか?』


 「そうでもないわ。

 手も足も出ないかと言われるとそうでもないけど、少し手こずりそうかなって程度よ。」


恐らく邪龍にはまだ余裕がある。

「だからこそ」私もまだ最大限の力を発揮し得ない。

本当に悍ましい生態よね、このカラダは。



 『そうですか、

 実はちょっとメリーさんに伝えたいことがあって。』


 「あら、いったい何かしら?」


 『ただ、その事を伝えて、

 メリーさんの力が増すか、それとも逆に邪龍さんへの殺意を削がれちゃうのかそっちが分からないんですよね。」


ふぅ・・・ん。

面白いことを言い出したわね。

でも普通に考えて、

こんなはしたない真似させられて、仮にも元々女の身である私の殺意が削がれるとも思えない。

単に今現在、感情がなくなっているから気にしてないだけで、私の殺意は十分、メリーのカラダを動かす糧となっている。


それに・・・


 「なるほど、このカラダはかつて、何度もあなたの声を聞いて立ち上がっているのだものね。

 聞くわ。

 聞かせて?

 闇の巫女、麻衣・・・。」


 『あ、はい、ただちょっと思い付きっていうか、毎度毎度根拠があるとも言えないんですけど・・・。』


 「それは私が判断するわ。

 あなたは自分の役目に忠実でいてくれればいいの。」


 『役目・・・ですか。

 あ、い、いえ、なんでもないです。

 あの、えっと、さっきケイジさんがふとした感想漏らしたんですけど、実はそれ、真実に近いんじゃないかって。』


 「ふとした感想?」


 『はい、感想ですからケイジさんにも根拠はありません。

 ホントに直感でそう思っただけなんだと思います。』


 「いったい何の話?」


 『邪龍が喰らったという魂の話です。』


・・・


 「え?」


 『魂を喰らうってどういう事なんでしょうね?

 ある意味、魂も生き物と考えていいんでしょうか?

 邪龍さんは今までベアトリチェさんから捧げられた魂を喰らって、不老不死までいかなくてもそれに近い生命を得た。

 でもメリーさん、あの場にいなかったと思いますけど、これから先、今まで食べた魂の効力が切れたとしても、いつかまた同じような能力持ったものを見つければ、また寿命を伸ばせられそうなこと言ってたんですよ。」


 「話が長いわ。

 手短に言ってくれる?」


 『あ、す、すいません。

 あたしが思ったのは、邪龍さんが喰らった魂って、まだ全部消費されていないんじゃないかって。

 つまり、あの子の魂も、まだ救えたりはしないんだろうかって事なんですよ。』




・・・救 え る ?


 『思い出してください、メリーさん。

 メリーさん、いえ、イザベルさんでしたっけ、

 あなたは、何の為に、そこにいるんですか?』


何の為に・・・って


 『ケイジさんの話は、単に邪龍がどうやって魂を消費しているのか、

 魂の一部をガリガリ削って食べているんじゃないかっていう想像なんですけど、

 それって結構当たらずとも遠からずなのかなって。

 なら・・・その子だけでなく、邪龍に捧げられたみんなの魂って、傷ついて、ボロボロになっていたとしても、未だ絶え間ない苦痛に晒されていたとしても・・・彼らを


 まだ・・・救える可能性が残っているんじゃないですか?』

 

以前、麻衣ちゃんが黒髪の女の子を、


とある青年の精神世界の中で、

救えるんじゃないかって話をしたかもしれませんが、


残念なことに今回の話は全く関係ありません。


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