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第五百十六話 いま、カラダの中にいるの

今回は余裕!

<視点 メリー>


私の名はメリー。

間も無く一つの舞台が終わる。

名残り惜しい気もするけども、私の内から湧き上がる憎悪の塊が人形のカラダの中を駆け巡り、私に止まることを許さない。


もっとも止める気なんか更々ないのだけども。


だから、

出来るだけ、

ゆっくり、

この化け物がのたうち回って踠き苦しむように。


死神の鎌の刃が触れる部分から、どんどん邪龍の体組織は壊死してゆくのだ。

今から死の瞬間まで、絶え間なく襲ってくる激痛に身を捩るといい。


私はとても優しく、


まるで子供を愛する母親のように、

愛おしそうに、ゆっくりと、

寝転ぶ子供の耳垢でも掃除してあげるかのように。 


鎌の刃先をブスリと突き刺す。


 『ぐりゅあああああああああああああっ!?』


その途端、邪龍からは狂ったかのような悲鳴。

あら、どうしたの?

まさか痛かったのかしら?

そんなことはないわよね?

だってこんなに優しくしてあげてるんですもの。


大体、ラスボスがそう簡単に悲鳴をあげるものじゃないわ?


本来、

この大きな体に致命傷を負わすためには、

その体の奥深くまで死神の鎌ゲリュオンの刃を届かせなければならないわけだけど、

流石にこのメリーの体でも、巨大生物の肉という強固な壁を一気に突き破るのは難儀な話だ。


だから、

ゆっくりでいい。


この程度、邪龍にとっては薄皮一枚剥がされた程度だろう。

この邪龍に喰われた無辜の人たちだって、そんな簡単に邪龍が滅んでもらっても困る筈だ。


何より



この私が許さない。


楽に死ねるとでも思って?



もっと、

もっと苦しんで、

生まれてきたことを後悔するかのように、

いいえ、

自分を産んでくれた者にさえ怨みの念を覚えるくらいに。


ああ、勿論その人にまで私のカラダは反応しないわよ?

だってあなたが自分でしでかしたことでしょ?

ね?

難しいことなんか何もないわよね?



じゃあそろそろ次の皮を剥いでみましょうか?



そうして私が再びゆっくりと鎌を振り上げた時だ。


 『ふ、ふざけるなああああああああっ!!』



あら?

まだ心は折れていないのね。

立派立派。

それでいいわ。

さあ、何を見せてくれるの?


私は油断もしない。

逆にまた警戒もしなかった。


ただ何を見せてくれるのか待っただけだ。


つまらないものだったらすぐにこの鎌を振り下ろすだけ。


 『ぬぅぐわぁああああああああっ!!』



その瞬間、私は自分がどこにいるのか分からなくなった。


うん?

いったい何が起きたの?


先程の麻衣の召喚術ではないが、

いきなり周りの景色が変わったどころか、何も見えなくなった。

それどころかこのカラダさえ動かすことができない。

もちろんこの人形のカラダに湧き上がる力を、フルに使えばどうにかなるかもしれないが・・・。



・・・いえ、

どうせこの人形のカラダに視覚など意味はない。

すぐに自分の状況の変化は理解できた。


この邪龍、

頭は良くないのだろうとは思っていたが、なかなか器用なことをする。


私に切り裂かれた自分のカラダの表皮に合わせ、

なんとカラダの内部から自分で自分を切り開いたのだ。


そして私はその肉のクレバスの中に落ち込んだというわけ。


邪龍にもそれなりに痛みはあったでしょうにね。


 『つっ、ついに捕まえたぞっ!!

 ガラクタ人形よっ!!』



 「あっ!?

 メリーさんが消えたっ!?」


なんとか外の声も聞こえてくるわね。

今の声はリィナかしら?

頭の上の方の傷は閉じ切っていないみたいだけど、

ここから抜け出すのは難しいみたい。

何かこう、気持ちの悪い筋肉繊維だか触手の出来損ないみたいなのが、私のカラダを押し潰しに来ている。

もちろん、こちらは人間のような軟弱なカラダなわけでもない。

動かすことはできないまでも、別に特に何か苦痛が発生しているわけでもないのだ。

あくまで、今の所、という話に過ぎない訳だけど。


 「じゃっ、邪龍さんが自分のカラダを自力で切り開いてメリーさんを閉じ込めたみたいですっ!!」


さすがは麻衣ね。

あの子の遠隔透視ならこの状況も理解できるだろう。



 『さんざん偉そうなことをぬかしたが、所詮は人形よっ!!

 こっ、このまま押し潰してくれ、るわっ!!』


どうやらかなりの痛みを痩せ我慢しているようね。

それはそうでしょう。

いくら自分のカラダの内部から圧迫しているとはいっても、その中には触れた側から細胞を壊死させるこの死神の鎌ごと取り込んでしまったのだ。


私の体が動けないと言っても、邪龍の体内組織が鎌の刃の部分に触れたところから腐り続けてゆく。


もちろん邪龍もその程度は覚悟して。



それにしてもだけど、

別に私は驕ったつもりはない。


確かにこの人形のカラダは強力だが、

弱点もまた多い。


まずはそもそも他人に恨みや憎しみを与えていない存在には、私はほとんど何も出来ない。

まあ、この邪龍にはその心配は全く要らなかったわけだけど。


そして実際処刑活動に至る時も、

スピード及びパワーについては相手次第で無限に近い成長を遂げてみせるのだが、


いかんせん、体重が軽すぎる。


相手とぶつかり合いとかになったら確実に弾き飛ばされる。

ダンプとかで突っ込んでこられたら絶対にアウト。

服とか掴まれて放り投げられでもしたら、その間私は何も出来なくなる。


まあ壁に激突するまでに距離があれば、クルクル回転して着地くらいは出来ると思うけど。


要は地面や足場のないところでは自らを支えることすら出来ないのだ。


・・・落ち着いて考えれば、どれもこれも当たり前の話で、弱点と言われるような事でもないような気もするけども、

今回のような強力な化け物相手ではその弱点が余計に露わになる。


・・・もっとも



 「だからどうしたのかしら?

 これで私を閉じ込めたとでも?」


だとしたら本当に甘すぎる。

この程度で人形メリーを抑えられると思ったのなら


 『フハハハハハハッ!!

 それだけの事のわけがあるものかあああっ!!

 貴様のような訳のわからない存在など念入りに砕いてくれるううううっ!!』


 「あっ!?

 うわっ!! 気持ち悪っ!!」


何か私の足元からズルルルッと気味の悪い音が一気に近づいてくる。

麻衣にもわかったみたいね。


確かに気持ち悪いのでしょうね。

この私にまだ感情が残っていたなら、その気持ち悪さという生理的なショックで反応も思考回路もストップさせていたかもしれない。


 「本当に器用なのね・・・。」




 「麻衣さん、いったい何が起こっている!?」


カラドック達からは何も見えないからさぞ不安なのでしょう。

でも心配要らないわ。


つい昨晩(メリーさんにとっては昨晩)、

私は似たような目に遭ったばかりなのだから。


 「邪龍さんのカラダの中に閉じ込められたメリーさんを・・・!

 邪龍さんは、自分の触手をカラダの中に這わせて・・・っ!!」



そう、

昨晩、アスターナの屋敷で、

あのイザークから霊体の腕を伸ばされた時のように、


この身動き出来ない肉の牢獄の中で、

まだ何本か残されていた邪龍の触手が、

私の四肢を完全に封じるべく巻きついてきたのだ。


 ギュルオッ!


ご丁寧に右腕、左腕、二本の足にもだわ?

そして極め付けに一際太い触手が私の胴体を締め付ける。


 『このまま手足を引き裂いてくれるわあっ!!』


なるほど、

確かにこの人形のカラダでも、

四肢をバラバラにされてしまってはどうしようもなくなるわね。


真っ暗で目には見えないけど、

触手それぞれが、まるで独自の意思を持っているかのように、グネグネと何重にも私の腕や足に絡みついてゆく。


・・・!?

ちょっと!!


なんで人の股間にまで触手の先端を伸ばそうとするのっ!?

穴なんかないって言ってるでしょうにっ!!


ンブッ!!

こ、こいつ、

く、口の中にまで・・・!!




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