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第五百十四話 聖女ミシェルネ

邪龍戦の下書き無くなって、更にこの数日、鳩どもとの決闘とか飲み会とか色々あったんで下書き進める余裕無くなりました。


なので折り見て投下しようと思ってた最後の重要人物のお話にします。


ゴールデンウィーク中に一日有給取ったんで、

その隙に続き書き溜めますね。


今の更新ペースなら、次回は4日ですね?

4日までに続き書けばいいんですよねっ?



と言うわけで今回長めです。

<第三者視点>


ここは物語上、初めて舞台となる国ネミア。

国土はそれほど大きくなく、

現代日本で言えば四国程度の大きさと思ってもらえばよいだろう。


この国の特徴を一つ挙げるとすれば、宗教に支配された国家。

ただし、国民に一つの宗教を強いているわけでもない。

宗派が異なる者だったり外国から移住してきた人間にも寛容だ。


とは言え、もちろん一つの宗教で成り立っている国である以上、

国の法律や制度、文化的な慣習に至るまでその国の宗教が根付いている。


なので、外国出身の者や、他の宗教を奉じている者でも、その数々のしきたりを受け入れることさえ出来れば住みやすい国と言えようか。


そう、その宗教とは、

ここまで物語にしばしば登場してきた金枝教。

その総本山がこの国の中央に位置する。


この金枝教、

その成立にはしばしば血生臭い話があり、

大陸に拡まるまでに数々の戦乱の歴史を繰り返してきたのも意外と有名な話。


百数十年前には近隣国とのいざこざに始まり、

そこから勢いのある大国に支配されたり、

逆に反乱を起こしたりという過去もあるが、

それ以降は独立を貫き、

現在は周辺国もむやみやたらにちょっかいをかけようという動きは見られない。


ここ数十年では平和で、

安定した国と言って間違いはなかった。


国土は温暖、

もともと人間が住み着くまでは大森林が拡がっていた土地らしい。

そこを切り拓き、平地となった部分に人間が街を作り定住しているが、郊外へ行くと今も多くの森が点在している。

なお、魔物はほとんど居ない。

人間に脅威となるような魔物は殆ど狩尽くされてしまったからだ。

当然のことながら、冒険者ギルドも、ここでは大きな規模となる必要もないし、冒険者の数も質もそれなりだ。



また金枝教には、

聖地と呼ぶべき土地がその森の中にある。

一本の神聖なる木がその中央に聳え立っているのだ。


なお、今まで金枝教は世界樹崇拝を掲げていると説明してきた話に矛盾するようではあるが、世界樹とその聖地の中にある樹木とは全く別の存在である。

ちなみに「ダミー」と言ってしまうのはタブー。

その辺りは大人の世界のお話だ。


世界のどこにあるかもしれない世界樹を、

誰も見れない、誰も分からないでは、信仰の根幹があやふやなままである。

だからこそ、世界樹の象徴とも言える別の何かを金枝教は打ち立てねばならなかった。

それがこの国の森に存在する樹齢数百年にも及ぶ樹木に認定されたわけである。

そんなわけで今日も参拝客が後を絶たない。


さて、今回の話の舞台は、

その宗教国家ネミアの都市部の中心地、

聖都ローデリアに存在するネミア大聖堂の中のお話である。


広大な敷地を持ち、

威風堂々とした建物。

集会場や礼拝堂には誰でも入れるが、その更に奥の敷地には選ばれた人間しか入れない。


その最奥の建物の最上階の一室。

中に入ったならば、どこかの宮殿の一室かと思われるだろう。

最上級の絹のカーテン・・・御簾と言った方がいいか、

その奥に一人の老人がベッドに横たわっていた。


体格は大きいようだが、

呼吸が不規則だ。

本来、もっと恰幅が良かったはずだが、

今は痩せ衰えて寝巻きもブカブカだ。


目の下は黒ずんでおり、

この先が明るいようには見えない。



そんな老人の元へ、一人の訪問者がやってきた。


老人の周りには常に看護や世話をする者が控えている。

当然、何かあればすぐに直属の医者がやってくるし、大僧正クラスの治癒魔術を使えるものさえいるだろう。


ただ、今この部屋にやって来た者はそのいずれでもない。



背丈の小さいその少女は背伸びをしながらノックをする。


背伸びと言ってもほんのちょっとだけ。

大人になるまでに後10センチは伸びる・・・かな?

ん?

本人の要望としては170センチまでクリアしたい?


理想の体型とか身長とかあるのだろうか?



 「はい、どちら様でしょうか?」


部屋の中からお付きの女性が誰何する。

もちろんこのエリアにやって来られる人間は限られた身分の者だけ。

ましてやこの日はこの時間に来客の予定がある事は既に聞いている。

従ってお付きの女性は特に警戒することもなく落ち着いて声をかけた。


 「呼ばれて参りました。

 ・・・ミシェルネです。」


重苦しい扉ではあるが、

すぐに部屋のお付きの女性は扉を開ける。


 「お待ちしておりました、聖女さま。

 大司教様は中にいらっしゃいます。」


そう言って、

お付きの女性は、自分より遥かに年下の女の子に頭を下げたのである。


やって来たのはまだ幼さの残る顔立ちの12才の少女。

目鼻立ちがくっきりした顔つきでもないが、

目の光だけには強い意志があるように見える。

その髪は赤銅色に明るく輝き、

くすみは一切見られない。

現代欧米人のような赤髪とも違う。


むしろ日本人特有の、

キューティクルたっぷりの黒髪が、

そのまま赤く、明るくなったかのようだ。


瞳の色も髪の色と何らかの影響があるのか、

透き通るようや淡い朱色の輝きだ。

もちろん髪も染めていないし、カラーコンタクトでもない。

生まれてからこのままの姿である。


そして、それらは彼女の両親から受け継いだものですらない。

・・・それが彼女の不幸の始まりだったのかもしれない。


 「大司教さまのおかげんは如何ですか。」


言葉遣いや礼儀はしっかりしている。

けれどまだ発声だけは子供のそれだ。

もちろん、そんなものを誰も咎めやしない。

むしろ、

たった12才の「村娘」でしかなかった女の子が、

ほとんどまともな教育を受けてもないのに、

これほどまでの教養を身につけたのは、

さすがに「聖女」と呼ばれるだけのことはあるのだろう。


 「あまり、よろしくありません・・・。

 あと数日もつかどうかも・・・。」


治療手段は全て施した。

その気になれば苦痛も緩和する事が出来るだろう。

けれどこの時代の医療技術では、これ以上の延命など出来やしない。

それはもはや天命というべきなのだ。


そして聖女ミシェルネは案内されるまま、

大司教のベッドのそばにまでやってきた。


 「き、来ましたか、ミシェルネ・・・。」

 「大司教さま・・・。」


何らかの言葉をかけるべきなのだろうか。

だがまだ幼いミシェルネにも、大司教の命が長く続くようには見えなかった。

気休めに何か言ってあげれば良かったのかと思うも、それはこのタイミングではない方がいいと思ったようだ。


 「まだ生きてるうちにお前に話したい事が出来た・・・。」


 「そんな事をおっしゃっては・・・

 きっと良くなりますよ・・・。」


 「ふ、ふふ、気休めは不要だよ、

 自分のカラダは自分が分かっている。」


 「大司教さま・・・。」


 「ふう、い、いつまで喋れるかな。

 ミシェルネとはもっと色々な話をしたかった。

 大司教としても、一人の大人としてもね・・・。」


 「わたしも大司教さまには、これからも色々教えて欲しいことがたくさんあります。」


間違いではない。

しかしながら、ミシェルネ本人はこの大司教を名乗る男に複雑な感情を覚えていた。

何故なら、平凡に暮らしていた自分をいきなり見ず知らずの土地に強引に連れ出したのがこの男だからだ。

けれど、頼る者が他にいないこの土地で、

大司教の庇護を得る事は、12才の世間知らずの子供と言えども必要不可欠なことだとも理解していた。

だから、ミシェルネがこの男に表立って逆らうつもりはあまりなかったと言えよう。


・・・もっとも、

もはやこの男も先は無さそうである。

では彼女はこの先、誰を頼って生きていけばいいのだろう?


 「ミシェルネ、私を、恨んでいるかね?」

 「そんな・・・大司教さまに対してそんな事は・・・。」


 「まだ幼い君を無理矢理ご両親の元から引き離し、この教会の聖女に祭り上げてしまった・・・。

 それでも大司教としては無才の私ではあるが、教会内では最高の業績だと評価を得てしまったよ・・・。」


 「いえ、

 わたしが望んでいたのは、ごく普通の女の子の暮らしです。

 お父さんも、お母さんも、

 わたしをある意味、大事にはしてくれましたけど、わたしが望むものを与えてはくれませんでした・・・。

 このわたしに聖女の称号が出た時から。」


まるで腫れ物のように、

それとも我が子が金のなる木と知ってしまったのか、

その日からミシェルネの暮らしは一変した。


確かに不自由はなかった。

望めば新しい服も買ってくれたし、

美味しい食事も用意してくれた。

お風呂や化粧品にも気を配ってくれた。


けれどミシェルネにとっては、

そこに親の愛情を見出す事が出来なかったのである。


そしてその結末は


金枝教教会への身売り。



自分達の娘は聖女だった。


村の教会の有力者を通じて、その知らせは金枝教教会ネミア大聖堂の大司教まで話は伝わった。


本来、

金枝教教徒であれば、

小さな女の子を出家させるのに、金銭的なやり取りは一切発生しない。

ただ、大聖堂に引き取られたからには、その子に衣食住の不安は一切発生しなくなるというだけである。


けれど、

これがただの村娘ではなく、聖女の称号を受けた身ともなれば、

是が非でも教会に迎えたい大司教たちと、

1ぺソルピーでも高くお金を手に入れたい両親との間で互いの損得勘定が一致した。



もちろん誤解は解いておくべきだろう。



これも両親の愛情なのだ。

二人は一人娘を愛していたし、

将来きっと美人になるのは間違いないが、この小さな村の中では金持ちの家と言ってもたかが知れる。

そんなところに嫁に行ったとして、ミシェルネが幸せになれるだろうか?

ミシェルネはその愛くるしい美貌も知恵も判断力も、

同世代の男女とは一線を画す存在だった。


だからこそもっと大きな舞台に送り出してやりたいというのが両親の願いだったのだ。


もちろんお金が欲しかったのも事実なのだけれど。


そんな親の愛情と計算も、

頭のいいミシェルネには理解していた。


理解出来てしまっていた。


だからその親の方針に異を唱えることも出来なかったのだ。


もっと普通の子供として、

親の愛情を受けたかったのだけれども。


 「ミシェルネ、き、君は間違っていないよ、

 でも、これが最も君に相応しい道だと私は信じている。

 出来ればこの後も君のバックアップをしたかったんだが・・・。

 せめて君がもっと大きくなるまで、ね。」


 「・・・でも、こんな、いきなり、なんて・・・。」


ミシェルネが「いきなり」と言っているのは大司教の容態の事ではない。


もっと、大きな、全世界の運命に影響を与える話。


 「うむ、邪龍については、今代の勇者たちが何とかしてくれると信じている。

 だけれども昨夜の大きな魔力の鼓動は・・・

 恐らく・・・彼らでも。」


深淵の目覚め。

彼らがその存在について真に理解するのはまだ少し先の話。

今も現役の教会の上層部はパニックになりながらも必死にその情報を集めてみるも、

如何なる巫女や神官にも神々からの声は聞こえてこない。

むしろ神々からは、理解不能、或いは狼狽と恐怖の念すら伝わってくるという。


 「・・・。」


 「残りの命も僅かな私に出来ることは、

 私の配下の者達に君の支えになるよう手を回す事だけだ。

 私の後任については、何人かの枢機卿を頼むつもりだが・・・。」


 「大司教さま、

 その件についてはご安心ください。

 ツェルちゃんが・・・、

 いえ、

 わたしにも頼りになる人が出来ましたし。」


 「ああ、それは・・・

 こないだ紹介してもらった子かな?

 トライバル王国の侯爵令嬢だったか。

 大聖堂のモンクや神殿騎士達が束になっても敵わなかったんだったね、

 是非その光景を見たかったよ。

 心強いボディーガードが出来たのなら喜ばしいことだ。

 うん、身分もしっかりしてるし、同じ女性だというのが何よりもいい。

 そうだね、

 味方を増やすんだよ、ミシェルネ・・・。

 これからは何よりもそれを大事にするんだ・・・。」


今、大司教の口から語られた女性について、

神殿騎士達の名誉を重んずるならば、

彼らの戦闘能力が低かったわけではない。

その証拠に、半数以上の騎士達が鼻血を噴いたり、途中で戦意を喪失したり、

まるで魅了でもかけられたかのように、行動不能に陥ったりと、

・・・いや、それはそれで名誉は地に堕ちてしまっていると言えるかもしれないが。




 「はい、わかりました・・・。

 それに・・・きっと勇者さんも・・・。」


 「勇者も・・・?」


 「あ、何でもありません、

 大司教さま・・・。」


ミシェルネには不思議な力がある。

それはこれまで何人か登場していた予知能力者とは全く違う能力。

そしてまた、何らかの高次元的存在からのお告げを聴く能力とも異なる。


それが聖女としてのスキルかどうかははっきりとしていない。


当初、大司教も彼女のステータスウィンドウを確認、分析はしてはみたが、確実なことは何も分からなかった。

恐らくミシェルネが「聖女」と併せて持つ、「導き手」というもう一つの称号の方に関わりがあるのではないか、

辛うじて彼が口に出来たのはそれだけであった。



果たして聖女ミシェルネは

いったい「誰」を導く役割を負っているのだろうか・・・。


彼女もツェルヘルミア同様、名前をどうするかで悩みつつ、

「ミシェルネ」と浮かんだところでバッチリとイメージと重なりました。



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