第五百十一話 二体の化け物
ぶっくま、ありがとんです!!
<視点 カラドック>
ふうう、
ようやくここまで来たな。
小さな想定外はいくつもあったけれど、今のところ全ての問題に対処し終えることが出来たと言っていいだろう。
強いて言うとすれば、この先全く読むことが出来ないのは「深淵」なる存在の介入か。
だが、私たちの巫女としての役割を果たしている麻衣さんの言葉に依るならば、
それほど心配は要らないのではないかとのこと。
あのケイジですら、深淵についてはそれほど警戒していないようだ。
ただその根拠が、メリーさんが話した未来の出来事だというんだから反論しづらい。
本来であれば、
不確か且つ誰も保証し得ない未来の話なんかに頼るわけにはいかないのだけど、
私たちが対処しなければならないものの最優先事項は目の前の邪龍についてだ。
まったくあれ程の魔力を浴びせられながら、みんな呑気だと思うんだけどね・・・。
だけどまあ、麻衣さんの話もあながち的を外してるとは言えないのかもしれない。
思えば邪龍が地上に戻ってから、
邪龍から強大な魔力の奔流が感じられない。
いや、それでもかなりの力を残してはいる筈だが、最初に洞窟の中で戦った時よりもかなり消耗しているのが分かる。
私たちが知らない大空の彼方で何があったのだろうか?
先ほどの麻衣さんとの会話からは、特に邪龍と深淵との間に戦闘行為はなかったように感じたが、
・・・それは単に「戦いにすらならない」だけであって、
邪龍の方は死力を尽くして抗っていたのではないだろうか?
だから邪龍は今や殆どの力を使い果たしている?
・・・思い出したよ。
それはまさしく数年前の父上とアスラ王との戦いの再現ではないか?
立場は逆なんだろうけどね。
父上には、
アスラ王の力は一切通じなかったんだ。
あの、大地を震わし、
山をも突き崩し、
天候まで操ると言われた超絶サイキックの持ち主であるアスラ王が。
まさしく赤子のように弄ばれ、
地に這いつくばり、
何も出来ずに彼が築き上げた王国は灰と化した。
・・・あの時ばかりは父上に恐怖したよ。
いま「何も出来なかった」と言う表現を使ったが、それは正確ではない。
正しく言うのなら、
アスラ王はその絶大な力を「限界を遥かに凌駕して」使わされてしまったのだ。
父上の能力で。
・・・あれが天使の真の能力の一端。
父上はアスラ王に一切の慈悲を与えなかった。
いや、
違うな。
慈悲の心なんか持ってはいないのは確かなんだろうけど・・・
父上はアスラ王を殺してはいない筈だ。
「もうあの男が地上に姿を現すことはない」
確か父上はそう言った。
如何様にも解釈できる言葉で。
あの時は、
・・・いや、これまではアスラ王を生かしておくことで何か父上なりの目論見でもあるのかと思っていたが、
この世界で私が出会ったメリーさんの話が正しいとするならば、
父上とアスラ王は数百年後の未来における災厄から、地球と人類を守る為に何らかの活動を行うのだという。
・・・あの話を聞いて意外そうな顔を麻衣さんはしていたけども、
どこか嬉しそうな表情も私たちに見せていた。
・・・思えば、
確かにアスラ王は、
軍事国家スーサの国王であり、我々ウイグル王国の敵である。
けれど、
今や私ですらかつては敵だったミュラとも普通に手を組んでいるし、
個人的にはアスラ王を憎んだり危険視していたわけでもない。
だからもしアスラ王と手を取り合うと言うのならば・・・
んー、
いや、今はもっと身近に考えるべき問題があるか。
ホントにあの「深淵」て存在、
私たちの知るアスラ王と何らかの繋がりがあると思っていいのかな?
ともに強大な力を持っているのは確かなんだろうけど、それでも力の規模が桁外れに離れているんだけど。
まあ、いいか。
もし深淵とやらが、何かこの世界に致命的に危険なマネをしでかすにしても、
父上がそれを「黙って見ている」とも思えないしね。
私たちは最初からの目的を果たすとしようか。
さて、
最初の話に戻るけども、
リィナちゃんの機転で暴発寸前だったメリーさんは、麻衣さんの巾着袋に一時的に収納して事なきを得た。
そうしてこの、最後の最後でメリーさんを召喚術にて解放。
無事にメリーさんと邪龍、一対一の対決に持って来れた。
邪龍は口では強がっていたが、
既にそのパフォーマンスは格段に落ちている。
反してメリーさんは、これまでになく凝縮された闇の波動が溢れだしている。
以前、ダークエルフの至宝「深淵の黒珠」にも同じ闇の気配を感じたが、あんなものじゃない。
まさしく圧倒的だ。
・・・ん?
そういえば「深淵の」・・・か。
偶然なのかな、その呼び名は?
いや、今はその話はどうでもいいか。
最初、麻衣さんが彼女を呼び出した時、
メリーさんの姿は私達から見えない場所にいた。
召喚に使う虹色のエフェクトが見えたから、おおよその位置は掴めたけどね。
邪龍の方も突然現れたメリーさんの気配に反応は見せたけども、
あっという間だ・・・
何が起きたかも分からないうちに、
邪龍の右側面の触手が、
全て、
一斉に、
何か大きな工場で円柱か丸太を一気に裁断したかのように、
邪龍はその片面全ての触手を切り落とされていたのだ。
そして、そこで初めて、
私たちは、その姿を陽炎のよう揺らしていたメリーさんを見つけることが出来たのだ・・・。
「うひゃあっ!?」
悲鳴を上げたのはヨルさんか。
無理もない。
それは私達も初めて見る姿。
確かにメリーさんとはベアトリチェの黄金宮殿で初めて目撃して、
その後アークレイの街外れで改めて私達のパーティーに加入した。
そして実際、彼女の戦いを見たのは鬼人との戦いただ一度きり。
・・・まあ、メリーさん曰く、あれは処刑であって、戦闘行為ですらないということだが。
あの鬼人との戦いにも驚かされたものだが、今回はさらに凄まじい。
もっともその原因の一つは私自ら招いたものだけどね。
今回、メリーさんを呼ぶ麻衣さんの召喚術に、私のユニークスキル「徴収」を使用した。
パーティー全員の魔力を集めて一人に分配する事ができる。
この力を麻衣さんに集めてから召喚術を使ったんだ。
今やメリーさんの膂力はAランクの戦士をも上回るし、その素早さも如何なるシーフやアサシンにも追いつける者などいないだろう。
・・・まさかミュラがテイムしているドラゴン達からも、とんでもない量の魔力が集まってくるなんて想定すらしてなかったからね。
ちょっと焦ったけども。
そして・・・
私は改めて目を向ける。
闇の波動・・・。
それは邪龍にこれまで喰われてきた人々の魂の怨嗟・・・
「魂が捕食される」という行為は、具体的に私にも正確なイメージが掴めない。
けれども、その時に魂から浮き上がる痛痒、苦悶、それらの恨みは邪龍には吸収されるものではなく、
そのまま邪龍のカラダ周辺に纏わりつづけていたのだろう。
そしてそれら大量の魂の怨嗟は全てメリーさんが余す事なく「飲み込んだ」。
邪龍がこれまで、どれほどの魂を喰らったか知らないが、それと同じ程の数の情念もまた、メリーさんの体は吸収しているのだ。
・・・あの小さな体の中に。
その結果、
溢れんばかりの闇の波動がメリーさんのカラダを陽炎のように覆い、
そしてまた、
彼女が持つ死神の鎌からは、
幻聴なのかと疑いたくなるが、
今も調子の外した弦楽器のように、
ギュワアアンと耳を塞ぎたくなるような、
生理的に嫌悪をもよおす不協和音が奏でられているのである。
なるほど。
私たちの前にいるのは、
どちらも化け物と言うことなのか・・・。
下書きがまた尽きた・・・
うりぃ
「いや、下書きっちゅうか、この後エンディングどないすんのや・・・?」