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第五百十話 ぼっち妖魔は辿り着く

挿絵(By みてみん)


前の話にのっけようとしたんですけど間に合いませんでした。

「あっははははははははっ!」と大笑いしているシーンを撮りたかったんですが

人形スキンだとどうしても無理があって・・・。

<視点 麻衣>


信じられないものを「視て」しまった。



いえ、目の前に起きている事は予定通り。

全て計画通りで何の不備もない。


本来なら、

この場の実況中継も、

ボキャブラリー貧弱気味のあたしより、

賢王と称されるカラドックさんにお願いしようと思ってた。


ところがこの最高最大の山場で、あたしにも看過出来ないものを見つけてしまう。


それはメリーさんの「本性」。


いえ、もうメリーさんはエクスキューショナーモードに移行している。

そして、これまで邪龍に喰われた魂の痛み嘆き苦しみを余す事なく貪り、自らの力に変換しているのだろう。


忌まわしい生態と言われればそれまでだけど、

もう今更それをどうこう言う段階にはない。

実際あたしはその生態のおかげで命を救われているのだ。

それについて文句を言うつもりはさらさらない。


今初めて発覚した新たな問題。


あ、えっと、

・・・問題、というほどではないかもしれないんだけどね。


あたしが勝手にショックを受けているだけとも言えなくもない。


でも・・・でもそんな事ってある!?



あれだけ・・・

ローゼンベルクのアスターナままたちのいるところで、あれだけ怒りをぶち撒けたメリーさんがだよ!?


いまどさくさに紛れて噴き出した歓喜と・・・

いいや、あれの中、ドス黒いまでの嫉妬も含んでない?


ううん、あの場での叫びに嘘も誤魔化しもないだろう。

メリーさんが執着していた黒髪の子のことで、

邪龍に怒りを覚えたのは嘘じゃない。

激しい憎しみを、

そして黒髪の女の子の境遇に張り裂けんばかりの悲しみを見せたのも嘘偽りのない正直な気持ちに間違いない。


けれど、

それだけじゃなかった。


なんて言えばいいんだろうか。

今、メリーさんは喜んでいる!

仇に会えた事を・・・ではなく。

自分の大好きな女の子を酷い目に遭わせたヤツに復讐できるのが嬉しいとか、そんな次元の喜びじゃない!!


別の何かだ!!


ここから先はあたしの想像が過分に含まれる。

恐らくだけど人間だった時に出来なかったこと、

人間として生きていた時に果たせなかった願望、

それが今ここで、

この場で初めて果たせるとでも思っているんではないだろうか。


あれ?

・・・それって、

それはある意味・・・


リィナさんを前世で助けられなかったケイジさんに通じるものがあるのだろうか?


自分のお腹を痛めて産んだミュラ君と、

正しい親子関係を築く事が出来なかったベアトリチェさんとも繋がる?


本当にそう、かな?


でも

ケイジさんやベアトリチェさんのケースはあたしから見てもよく分かるというか、

理解出来得る範疇のものだと言えるけど・・・


メリーさんのは違うんじゃないか・・・



どっちかというと、

まるで悪役令嬢がメインヒロインを陥れる舞台を苦心して作り上げて、


今まさにそのヒロインを陥れる機会を得たかのような・・・。


前世でその子を陥れる事ができなかったから・・・


いや、でもその子はもういないんだよ!?


なのにどうしてそんな感情が・・・


そうだよ、

やっぱり違う。

少なくともケイジさんやベアトリチェさんとは違う。


誰かを救いたいとか、

誰かを守りたいとか、

誰かを手に入れたいというものですらない。


そこにあるのは自分だけ?

周りは自分を引き立てるアクセサリーにしか過ぎない。

そう、そう考えるとしっくりくる。


これが・・・


それがメリーさんの中の人の本質なんだ・・・。



落ち着いて・・・

落ち着いて考えれば至極当然というか、

当たり前の話だった。

世の中善人ばっかりの筈もない。


あたしが参加するパーティーメンバーが、

気のいい善人だけしかいないなんて考える方が不自然なのだろう。

しかもそれは、天叢雲剣を通じてケイジさんの別世界の姿を見たあたしなら理解できた筈!!

そう、

あたしの知らない世界のケイジさんは、

闇夜に紛れて無抵抗の女の人をライフルで暗殺したり、

あ、ライフルで狙ったのは爆弾の方だったっけ?

それと他にも仲間を裏切ったりしてもいたみたいだった。

それでも天叢雲剣から視た印象では、あたしの知るケイジさんと、それほど性格が変わっているようには思えない。


違うのは境遇、そして彼を支える人・・・。


ケイジさんは前世でリナさんて人を失って、

自分が守るべきものを全て失ってしまった。

恐らくあたしの知らない世界のケイジさんも、

きっと大事な人を失ってしまって、あんな凶行に及ぶ事が出来たのだろう。


けれどこの世界のケイジさんは違う。

過去の自分を知っている。

守るべき人もいる。

彼を支える人が沢山いる。

だからケイジさんはこの世界では道を外さない。


ああ、だから善人とか悪人とかで括るのはおかしいか。

人の行動は、そんな境遇とか環境で簡単に裏返るだけの話なんだものね。

相変わらずあたしは頭が良くないな。


善悪とかの話ではなく・・・


そう、もともとメリーさんは他人の行動に興味なんか持たないってのは、その通りなんだけど、

それは感情を持たない人形の生態として当たり前だと思い込んでいた。

けれどこの世界に転移させられた時点で、メリーさんは感情が復活していた。

にも拘らず、メリーさんは他人への興味が殆どなかったと言っていい。

それはトラブルを回避するためとか、

自分がアウトサイダーだと弁えていたからとかも勿論あるんだろうけども、メリーさんの中の人本人が、心底から他人などどうでもいいと思っていたからなのではないか。


うん、お前がどの口で、とか突っ込まれるのはわかってますよ。

でもあたしだって、ゴッドアリアさんの家庭の事情とか、なんだかんだで文句言いながらも干渉してるでしょ?

ていうか、あたしの話はどうでもいいんだってば。


要はメリーさんの中の人は、

元々他人のことなど何とも思ってないような人格の持ち主だと言う話。


よし、じゃあ歴代メリーさんの話にしよう。

あたしの知ってるメリーさんの中の人は、

エミリーちゃんにマリーちゃん。

エミリーちゃんは元々無邪気な幼い女の子だったし、

マリーちゃんは小さい男の子がいる世話好きのお姉ちゃんだったと聞いている。


あの二人にそこまで肥大した自己顕示欲も承認欲求も有りはしない。


あたしのママは自分の命よりもあたしやパパのことを守ろうとしてくれた。


今のメリーさんは

彼女たちとは全く違う。


そう、

もっとはっきりと言ってしまえば。


メリーさんは、

メリーさんの中の人・・・

確か人間だった時の名前はイザベルさんだったっけ。


彼女は

イザベルさんは、

物語の主役になりたかったんだ・・・。


それが

あの人の本当の望み、願い。


「真実」。


だから


黒髪の女の子に嫉妬した。

黒髪の女の子を舞台から引き摺り下ろそうとして、

逆に自分が「ザマァ」されてしまったんだろう。


きっと黒髪の女の子への色々な執着も、

憧れも憎しみも全て矛盾するようでありながら、芽生えて当然の感情。


イザベルさんという人は、

あちらの世界でどえらい別嬪さんだったと思う。

ローゼンベルクの館で見たこの世界のエリザベートさんの肖像画は、とても魅惑的な姿をしていた。

姿形がどこまで一致するのかは分からないけれど、あれだけの美しい人が、当時の文明の最先端を行っていたという王国のお妃様になる。

誰が見ても羨むくらいの境遇だというのに、

イザベルさんて人の目には、

もっと眩しい人が映ってしまっていた。


それを素直に受け入れられる自分と、

決してそれを認めようと出来ない自分がいた。


だから、

いつまで経ってもメリーさんは彷徨い続けている・・・。



自分の中で結論を見つけ出せないまま?



あたしの推論は、

これで正解なのだろうか?


なんか自分でもうまくまとめきれないや。

え? 国語の成績がクラス平均より下回ってるだけのことはある?

だからうるさい。

なんであたしの成績知ってんだ?


話を戻しますよ。

そしてそれが正解だとして、

メリーさんはその事を自覚しているのだろうか?


もしご本人も気づいていないとしたら、

あたしは・・・


闇の巫女であるあたしはその事実を伝えるべきなのだろうか・・・。

それを告げてメリーさんはどんな反応する?


下手をすると、

メリーさんに引導を渡すのはあたしになってしまうかもしれない。


ああ、そう言えば世界樹の女神様のお告げもあったっけ・・・。


黒髪の女の子を死なせた本当の真犯人は、

そのイザベルさんだという・・・

そっちは完全に自覚してなさそうだよね。



・・・と、

あたしが気の重くなる思考の海に沈んでいる間にも、

メリーさんご本人は嬉々として、


邪龍の触手を、まるで束ねたうどんを包丁で捌くかのように、全部一気に纏めて切り落としていた。


ああ、うん、

もう邪龍の件は全部任せて良さそうだ。


これ、やっぱり邪龍倒しても一波乱あるよね?

なんとなくそんな気はしてたんだ。


ラスボス倒しただけじゃ終わらないって。


 

ついでにアフロディーテ様、微修正しました。


挿絵(By みてみん)


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