第五百五話 準備完了
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 ケイジ>
魔王ミュラ率いるドラゴン軍団。
その内、たまたまオレらの近くに控えていたグループにもタバサの祝福の効果が及んだ。
カラドックがミュラ達をオレらのパーティーに臨時登録したのは全く別の意図によるものなのだが、ミュラがテイム中のドラゴン達まで強化されるのであれば、これ程心強いものはないだろう。
そのドラゴンたちも自分のステータスが上昇したのが理解できたようだ。
大勢のドラゴンたちの雄たけびが辺りに響く。
その中で、
恐らくこの場にいるドラゴン達の中では序列は中堅どころだろうか?
燃えるような真っ赤な肌を晒す大型の竜が羽ばたいた。
レッドドラゴンか!
既に上空にはゾルケトフが指示したであろう、雑多な下位竜達がいたのだが、
そいつらの鼻先を抑えるかのようにレッドドラゴンは舞い上がり、
ただ一騎で邪龍に狙いを定めている。
上空から急降下して邪龍に襲いかかるつもりか、
それともあの位置から攻撃を?
レッドドラゴンは甲高いいななきをあげながら、その首を限界まで後ろに反らす。
あいつもブレスを放つつもりか!
レッドドラゴンの凶悪な顎門が陽炎のように歪む。
流石にゴールドドラゴンのレーザービームのような絶対的な威力ではない筈だが、それでも高位の魔術士が繰り出す炎熱呪文より遥かに破壊力は上だ!
レッドドラゴンの首が振り下ろされる!!
邪龍は動かない?
ドラゴンのブレスでさえ防ぐ自信があるというのか!?
その邪龍に向かってレッドドラゴンが超高熱の火の玉を放つ!!
だが!?
見えない壁に阻まれてレッドドラゴンの火球は弾かれる!
なんだ?
あれは邪龍の防御呪文か!?
「邪龍さんに強力な障壁が掛かってます!
エアスクリーンに類するものと思います。
遠距離攻撃は難しいかと!」
麻衣さんが邪龍の防御呪文を看破した。
普通のエアスクリーンなら高位のドラゴンのブレスを喰らったら一溜りもない筈だが、
どうやら邪龍のエアスクリーンはヒューマン達が使うそれとは次元が違うのか?
邪龍は上空を舞っていたレッドドラゴンのファイアーブレスを完全に食い止めたぞ!?
ならばオレの弓などではとてもじゃないが貫けない!
炎のブレスを無効化されたレッドドラゴンは悔しそうな呻き声を上げて地上に戻る。
大勢のドラゴンたちが加勢してくれるとはいえ、
やはりそう美味い話はそんなにないか。
多少の被害は覚悟しないとならないが、邪龍には直接近づいて攻撃するしかないのだろう。
すると、前を向いていたオレの視界に見覚えのある三又の穂先が現れた。
ヨルか!?
今まで後ろの方にいたのか、姿を見なかったな。
「ならヨルの出番ですよおおおお!!
魔王様の手は煩わせませんですうううっ!!
全魔力からのおおおおおっ!!」
おっ、おい、そんな事したらもうヨルは・・・
だがこれまでで最大の威力を放つ大地の牙が、轟音と共に邪龍の巨体を縫い止める!!
そうか!
これならエアスクリーンなど関係なく効果有りだ!!
『ぅぬおおおおおおおおお!!
忌まわしい楔よおおおおおお!!』
あの岩石の牙は邪龍が直接接している地面から現れる。
エアスクリーンで防げるものではない。
先程の地下では触手からの攻撃を防いで見せた大地の牙は、ついに邪龍本体をも貫いたのだ。
そしてその事により、
もう邪龍はあの位置から身動き取れない。
いや、転移して逃げる事は可能なのだろうか。
だが先ほどの激昂ぶりだと、
オレ達を皆殺しにするまで逃げる事は考えてなさそうである。
「ていうか、遠距離攻撃だけを防ぐシールドって、どう考えても物理的におかしいですよね・・・。
やっぱり何かのシステムが・・・。」
麻衣さんが独り言のように呟いた。
多分、元の世界の知識なのだろう。
オレも本来そっち側の人間なんだが、
オレは近代文明が崩壊した後に育ったからな。
むっ!!
邪龍のカラダの下から今までになく巨大や触手が繰り出された!!
オレ達を周りのドラゴンごと薙ぎ払う気か!!
不味い!
あの質量と体積では防御も回避も不可能だ!
「ならば私も全魔力注入!!
『バインバインド』!!」
アガサも後先考えないな!
ヨルに続いてこっちもこれまでで最大級の威力だぞ!?
だがこの巨木のような太さなら邪龍の触手を抑えられる!
後は時間をどれだけ稼げるかだが・・・。
おおっ!?
このタイミングで動きを封じられた触手に大勢のドラゴン達が群がりその触手を破壊し始めた!!
『ぬうう!
厄介なトカゲどもめがあああああっ!!
ならば・・・
再び・・・我が破滅のブレスを抑えられるかあああああああっ!!
今度は数秒で終わらさぬぞっ!!
この息の続く限り吐き続けてくれるわあっ!!』
ヤバい!!
タバサの防御呪文は数秒しか保たない筈!
呪文が解けたらオレ達を守るものはなくなるぞ!!
「ミュラくん!
ドラゴン達を下がらせて!!」
リィナ!!
その言葉に敏感に反応したミュラ、そしてミュラの反応を確かめたゾルケトフが雄叫びを上げて一斉にドラゴン達を下がらせる。
そして真正面では先ほどの地下での時と同じように、邪龍のカラダの一部分がパックリと割れた!
けれど・・・
「さっきっからずっと溜めてたんだよ!!
うああああああああああ!!
『叫べ! いかづちいいいいいぃっ』!!」
激しい閃光に世界が止まる!!
オレですら今まで経験したこともない大音響と闇を切り裂く紫電に、あの巨大な体格を誇る邪龍が蹂躙される!!
『ぐぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』
天叢雲剣のあまりの衝撃に、
オレの視覚と聴覚は一時的に使い物にならなくなっている。
だが、
それと引き換えに邪龍もブレスを仕掛けてこれない。
そりゃそうだ。
勇者の称号を得たリィナが、
世界樹の女神の助言を得て、ほぼ完全な威力で雷撃を放ったんだ。
邪龍にトドメをさせるレベルかどうかは微妙だが、
少なくともブレスのような強力な攻撃はキャンセルされたろう。
これ、周りを取り囲んでいたドラゴンたちも引いているんじゃないか?
・・・良し、
少し視力も回復してきた。
真っ黒焦げだぞ、邪龍よ。
体内ダメージまでは分からないが、
触手の体表もブスブスとまるで沸騰してるかのように皮が剥がれてゆく。
ていうか、
雷撃は遠距離攻撃扱いにならないのか、
エアスクリーンは・・・
いや、エアスクリーンそのものが衝撃で解除されてしまうようだ。
確か初めて会長ラプラスの空飛ぶ馬なし馬車に乗った時、
ワイバーンの大群に襲われたが、あの時にカラドックが危惧したのがこういうことだろう。
天叢雲剣の雷撃の衝撃が強すぎて、持続的に使っている呪文なんかは解除されちまうかもしれないって言ってたもんな。
「お、おい、これ喰らったらオスカの結界も解かれちまうんじゃないか・・・!?」
オレの高性能ウルフイヤーに、背後からおっさんの声が聞こえてきた。
今の声は「聖なる護り手」のダンだな。
ふむ、それはいいことを聞いたぞ。
いまさら、あいつらと戦うことはないだろうが、リィナのことがあるからな。
魔王となったミュラが力ずくでリィナと奪いに来ようとした時へのいい牽制となっただろう。
確かスケスケハイエルフの結界能力は、攻撃を防ぐんじゃなくて逸らす効果があるって話だったもなな。
それでミュラを守られたら、かなり厄介な事態になる。
「・・・いえ、あの、ケイジさん、
ミュラ君が正攻法でリィナさん口説きに来た時どうするんですか・・・。」
麻衣さんが何か言ってきたようだが、オレの耳にはよく聞こえなかった。
まだ先程の大音響から聴覚が回復しきってないらしい。
「耳はさっき回復してましたよね!?」
ダメだな、耳がキーンとしている。
何も聞こえない。
まあ、ここまで・・・
ようやくこの段階まで来れたな・・・。
「「計画通り!!」」
うむ、オレとカラドックの声が綺麗にハモったぞ!!
「やっぱり聞こえてますよねっ!?」
麻衣
「ケイジさんがここに来てスルースキルを?」
カラドック
「ケイジ、スルースキルはそんな使い方するもんじゃないぞ・・・。」