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第五百四話 戦闘再開

<視点 ケイジ>


 「触手は普通に動いている!!」


やっぱりだ。

ここまでの段階で、

邪龍の触手が先程の戦闘時と同様に、ウネウネと気持ちの悪い動きを取り戻しているのを確認した。

深淵とやらと何があったのか知らないが、現状邪龍も生きているのは間違いない。


魔王軍側も、竜人ゾルケトフが流麗な装飾を施した長槍を邪龍に向けて構えている。

ならば、

オレも勇者を擁するパーティーのリーダーとして、邪龍戦の最前線に立つべきなのだ。

けれど、邪龍はまだオレたちに応戦できる態勢にはない。

まだ戦闘を再開するわけにはいかないか?


 「・・・今のうちに攻撃しちゃった方がいいんじゃね?」


リィナが勇者にあるまじき発言・・・いや、

かっこつけてる場合じゃないよな。

そもそもオレだって闇討ち、不意打ち上等の人間なんだ。


そう、オレって最低。


勝てばよかろう。


しかも相手は人間ですらない。

邪龍。

一切の容赦も手心もいらない。


ホラ、ダブルエルフもヨルも頷いている。


ならタバサに祝福ブレスをかけてもらってから、アガサの高威力呪文の後に獣騎士であるオレのファイナルスキルで・・・


 「あ、ごめんなさい、

 ちょっと待ってもらえますか・・・?」


うぉっと?

タバサに号令をかけようと思った寸前で麻衣さんから待ったがかかる。


純真な女子校生には見過ごせないやり方だったか?


 「あ、大丈夫です、ケイジさん、

 あたしもお腹の中は多少黒くなってますから。」


いいのか、それで。

いつも通りオレの心の中を読んだような麻衣さんの視線は、邪龍に釘付けになったままだ。


 「じゃあ、一体何を待つと?」


 「ちょっと確かめたいだけで・・・あ、動き始めましたね。」


ひっくり返っていた邪龍が触手を器用に動かして当初の態勢に戻ろうとしている。

千載一遇のチャンスを失ったと見るべきか。

だがカラドックもミュラも落ち着いたままだ。


やがて邪龍は、先ほどまでオレたちと戦っていた時の態勢を取り戻した。

ローゼンベルクで仕留めたエンペラーギガントトータスの戦闘態勢を思い出してくれればいい。

違うのはアレより更に巨体である事。

そして四本の手足の代わりに無数の触手が奴を支えていることだ。

ああ、あと頭もないからな。

頭がないというよりも、実際には首がないだけで、頭に相当する部分は、きっと小山のような巨体の中央上部にでもあるのだろう。


 「麻衣さん・・・。」

オレの呟きを他所に麻衣さんが横を通り過ぎてゆく。


邪龍にしてみても、いきなりオレたちに攻撃を仕掛けてくる気配は感じない。

まぁ、危険察知能力はオレよりもその麻衣さんの方が敏感だ。

彼女が危機を訴えていないのなら、この時点では間違いなく安全なのだろう。


麻衣さんは確かめたいことがあると言ってたが・・・

いや、その内容はなんとなくオレにも分かる。


間違いなく邪龍は「深淵」と呼ばれるものに接触したんだろう。

そして、その結果、

邪龍に、何か、「何らかの変化が起きたのか」?


それを確認しようというのだろう。



 「邪龍さん、聞こえますか?」


さっきまで殺し合いをしていたのが嘘のような問いかけ。

邪龍の方はハナから何を考えているのかも読めないが、

触手の動きも体全体の動きも落ち着いていて、いきなり戦闘再開しそうな雰囲気はない。

邪龍のカラダの上部真ん中付近・・・その辺りの肉がもこりと動いたように感じる。

やはりあの辺りが邪龍の頭部に違いない。


 『異世界の妖魔か。』


おっ、普通に会話できるようだ。

さっき、・・・カラドックが邪龍を深淵の器にするとかなんとか不気味なことを言っていた気がするが、何も変わってない気がするぞ。

オレとカラドックは、どちらからということもなく視線を交わす。


さて、麻衣さんとの会話が始まるようだ。

 「無事に会えましたか?

 深淵と。」


 『・・・異世界の妖魔、

 貴様は奴の眷属か・・・。』


 「・・・ああ、まぁ、そうらしいですねぇ。

 直接は会ったことないんですけど。」


 『アレを呼び覚ますのが貴様の使命だったということか。』


 「どうなんでしょう?

 うまく利用されてるだけかもしれません。

 ついさっきまで、この世界にもあの方がいるなんて思いもしませんでしたから。」


 『・・・そうか。

 貴様は・・・奴が何をするつもりなのか知っているのか?』


 「いいえ、何にも?

 ていうか邪龍さんこそ、あの人に会って何か聞いてこなかったんですか?」


やはり気になるのはその部分なんだろうな。

オレは二人の会話から気を逸らさないまま上空を見上げる。

今のところその景色を遮る雲も付近には漂っていない。

二つの月が明るく地上を照らしているだけだ。

オレのイーグルアイをもってしても、何か空にそんなとんでもない存在が浮かんでる気配も感じない。

深淵とやらはどこに行ったんだ?


 『奴は・・・深淵は・・・

 我を見て・・・我をつぶさに観察して・・・

 そして最後に我から興味を失った・・・。』


 「・・・ああ・・・」


麻衣さんの反応は、

しばらく考え込んでいたようにも見えたが、

邪龍の答えに納得したような・・・

そして邪龍に同情したかのような反応だった。


 「それで・・・・ゴホン、

 邪龍さんはこの後どうするつもりなんです?

 深淵と戦うつもりなんてないんですよね?」



む?

そ、そうか。

今の話って・・・


邪龍は深淵と会った。

いきなり問答無用に吸い上げられて、そしてジロジロと観察されて来たって?

そして用が済んだら、地上に下ろされて・・・

その間、邪龍は深淵に手も足も出なかったっていうことなんだよな?

マジでその深淵とやら・・・オレたちの敵にならないんだよな?

そう思っていいんだよな?


 『・・・許さぬ。』


えっ?


 「え? あ?」


麻衣さんから間抜けな声が漏れた。

いや、麻衣さんをバカにするつもりはない。

多分オレも、その時は間抜けな面を晒していただろうから。


 『許さぬ、許さぬ、許さぬ・・・!

 許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ!!

 許さぬぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

 深淵を害することが叶わぬならばああああああああ!!

 奴が作り上げたこの世界こそ滅ぼしてくれるわあああああああああっ!!』


 「あ、ケイジさん、も、もういいですっ!

 やっつけちゃいましょう!!」


結局こうなるのかよっ!!


麻衣さんがダッシュしてオレ達の後ろに潜り込む!

既に辺り一帯にはタバサのフォースフィールドは展開済み。

ならばとオレが指示するまでもなく、タバサは続いてオレたちに祝福ブレスを。


 「あ、あれ?」


今度間抜けな声を発したのはそのタバサだ。

何事かと振り返ると、祝福のエフェクトかオレたちだけでなく、近くにいたミュラやゾルケトフ、ダンのパーティー達まで?


 「あ!

 これ大僧正クラスの祝福だよね?

 ぼ、僕らのパーティーにまで!?」


今の声は少年僧侶のクライブと言ったっけか。

皆がその違和感に戸惑っているが、

ミュラとカラドックは平然と・・・


 「時間がなくて伝えられなかったね、

 済まない、

 今現在、一時的にミュラたちは私たちのパーティーに参加した状態になっているから。」


そういうことか!

え、てことは、タバサのステータスアップ呪文がミュラやダン達だけでなく、

ミュラにテイムされてるゴールドドラゴンにまで・・・


 「流石にこの場の全てのドラゴン達には無理・・・。

 でも近場にいるあの伝説クラスのドラゴンにも波及・・・。」


だよな、

それ、もうオレら要らないんじゃないか?



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