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第五百三話 賢王と魔王のスキル

<視点 ケイジ>


 「邪龍が戻ってきます!」



麻衣さんが上空を見上げながらオレ達にその事実を告げる。


アレから・・・

聖女ベルリネッタを弔ってから、

オレ達は麻衣さんの無重力術を利用させてもらって地上へと躍り出た。

無重力なだけに、一度地面から飛び上がると、

壁にぶつかったり、そのまま大空まで飛び過ぎてしまう可能性もあったが、

そこはカラドックが精霊術だかサイキックだか分からないが、うまくコントロールしてくれた。


・・・地上に出たら出たで、

ミュラ率いるドラゴンたちに囲まれて気の休まる暇もなかったが。


ミュラ、竜人ゾルケトフ、

そしてAランクパーティーのダンたちには、簡単な説明だけしておいた。



邪龍との戦いに、

この世界の深淵という存在が介入したと。

そしてその深淵とやらが何者で、

何を目的としているのかも分からないと。


もちろん魔王軍サイド全員、深淵なる存在については誰も知らなかった。

ミュラも難しい顔していたが、

カラドックに深淵という存在が、オレ達の世界のアスラ王と何らかの繋がりがあるかもしれないと聞いて、更に意味不明な顔となった。


 「待ってくれ、

 いくら何でもその情報だけで何をどう判断しろと?」


無理ないよな。


 「済まないね、ミュラ。

 私たちも、これまで色々と話し合ってきたんだが、確証も結論も何も出ていないのさ。」


そうなんだよな。

冷たいようだが、オレ達にも何が何だかさっぱり分からないんだ。


 「あなたやベアトリチェさんの転生にも、その人が関わってる可能性があるとあたしは思ってます。」


 「なんだって・・・。」


麻衣さんの言葉にミュラは言葉を失う。

そうか。

ミュラにはその話を教えておいた方がいいのかもな。


 

そこまで話を進めていたが、

麻衣さんは麻衣さんで、オレ達の話に耳を傾けながらも邪龍がその後どうなったのか、遠隔透視を試みていたようだ。

ちょくちょく視線を頭上に向けていたからな。

まぁ、遠隔透視で一々視る方向を向く必要はないらしいが。


オレ達の頭の上には二つの月が輝いている。

この世界では天文の知識はあまり拡がっていない。


あの二つの月が、この星の周りを互いにくるくる回りながら赤道の上を周回していることも分かっていない人々も多いのかもしれない。


・・・月か。

あの二つの月はオレの前世の月とも違うが、

月の天使と呼ばれたあの男にも、何か・・・




そこで冒頭の麻衣さんの声だ。

邪龍が戻ってくるだと!?


 「もしかして上空から落下してくるのか!?

 あの巨体が!?」


カラドックの危惧はよく分かる。

邪龍が上空のどこまで引っ張り上げられてたのか知らないが、

あんなもんが落ちてきたら、ここら一帯にはクレーターでも生じるかもしれないのだ。

タバサの防御呪文でどうにか助かることすら難しいだろう。


 「全員ここから逃げろ・・・」


オレは大声で叫ぼうとして最後で躊躇った。

オレのイーグルアイが、

まさしく上空から邪龍らしき物体が落ちてくるのを見つけてしまったからだ。


・・・やけにゆっくりじゃね?



それは


まるで空気の抜けかけた風船が、

風に揺られてこそいなかったが、

それを思わせるようなゆっくりとした動きで、


徐々に、

だんだんと、

少しずつ少しずつ、 


高度を下げていき、

やがて、

この場にいる全員がその姿を自分たちの目で捉える事に成功した。


もう、誰もこの場から逃げる必要などない。



ただ、

邪龍が生きているかどうか、

再びこの地で戦いになるかどうか、

この時点でそれを判別出来る根拠など誰も持ってやいやしない。


だけれども、その誰もが確信していた。



これが最後の戦いになると。





タバサがフォースフィールドを唱える。

結界師のスケスケハイエルフもミュラの周りに結界を広げたようだ。

まあ、もともとあいつらの心配をする必要はないか。


こうなったら各自自分たちの最高の技を繰り出すまで。


ゾルケトフも配下の竜達を上空へと浮かび上がらせた。


なるほど、このまま邪龍が地上に戻るというのであれば、

竜たちが数の勢いに任せ邪龍を取り囲んだ状態だと、ブレスなどで同士討ちの危険も出てくるからな。

空の上から一気に地べたにいる邪龍へ攻撃するのなら、

その危険は無くなると言って良い。

・・・その場合だとオレ等が迂闊に近づけなくなるけどな。



ところがここでただ一人、

カラドックだけが、邪龍など後回しとばかりに後ろを振り返ったのである。


 「そうだ、ミュラ、今のうちに相談がある。」



相談?

この期に及んで何の話だ?

もちろん賢王とまで呼ばれるカラドックが、ここで魔王の称号を得たミュラと話をしなければならないということなら、それは大事な話なのは違いないだろう。

けれど、いくら気になると言ってもオレまでその会話に参加するわけにはいかない。


てなわけで、オレは相変わらずゆっくりと落下してくる邪龍に全神経を集中している。

・・・まだ落ちてこない。

あれ、生きているのか?

さすがにオレのイーグルアイでも、この夜の月明かりの逆光で、邪龍がどんな状態になっているかはわからない。

触手らしきもが生えてる姿まではわかるんだが、それが動いているかどうかになるとな・・・。


おっと?

さすがにカラドック達も会話を終えたか?

オレの真横にカラドックが戻ってきた。


 「何の話をしていたんだ、カラドック?」

 「いやあ、邪龍に止めを刺す算段さ。

 さすがに魔王、とんでもないスキルを持っていたよ。」


 「あれ? 止めは『彼女』に刺してもらう予定じゃなかったか?」

 「ああ、そのことに予定変更はない。」


アガサの複合魔術とか、

過去の討伐者たちから光の術法食らったり、

今回の深淵の目覚めやらとか予定外の事は起きてはいるが、

当然のごとく、オレたちは邪龍に対してある程度の作戦を共有してここまで来ている。

まぁ、ミュラとドラゴンたちの参戦もオレたちにとっては予定外の出来事だったからな。


 「じゃあいったい?」

 「いや、済まない。

 ミュラのスキルに関してはこの後の話とは何の関係もないんだ。

 単に私たちの作戦の成功率を上げるために、彼の協力と同意を取り付けてきただけの話さ。

 たまたまその話を持ちかけた時に互いのスキルの話をしてね。」


そういう事か。

カラドックがオレたちの仲間になってから、

ヤツは一度もユニークスキルを使ってないものな。

今まで使う必要もなかったと言っていい。

だが、この邪龍戦では遠慮なく使うとオレら全員に宣言していた。

どんなスキルなのかはこの後、いやでもわかるだろう。


 「で、ちなみにそのミュラのスキルって?」

 「戦闘に直接関わるスキルじゃないけどね。

 『献上』だって。

 魔王は忠誠を誓った配下から戦闘で取得したスキルポイントを1%ずつ自分の物へと徴収できるらしい。」


 「げ。

 そ、それでこの数日間でドラゴンまで使役できるスキルを得たのか。」


そ、それはなんとも魔王らしいチートスキルだな・・・。

しかも日中の邪龍の眷属軍団は、ほとんどテイム下にあったドラゴンたちが撃破していたはずだ。

恐らく今も膨大なスキルポイントを保持しているに違いない。


 「ある意味、私のスキルに似ているよね。

 私のスキルとどっちがお得なんだろうね?

 まぁ、今回は私が美味しいところを持って行かせてもらうよ。」


カラドックのユニークスキルは「国王」・・・いや、「賢王」の称号に紐づいているらしい。

ミュラは魔王の・・・

なるほど、確かに似てるって言えば似てるのか。



やがて・・・

邪龍のカラダはゆっくりと、

オレたちに見守られながら、

二つの月が照らす荒涼とした大地に、

ひっくり返った姿のまま、

ズ、ズズゥン、という静かな音と共に着陸した・・・。


これ、着陸って言っていいのかな?

墜落でもないもんな?

 

カラドックのスキル・・・。

地味って言えばすごい地味なんですよね。


便利なんですけど。


もうちょっとしたら公開しますので。



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