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第五百一話 昏い海

ぶっくま、ありがとうございます!

<視点 邪龍ヌスカポリテカ>


いったいこの我に何をしたというのか。

いったい我の身に何が起きているというのか。


あの異世界からきた妖魔とヒューマンのハーフ、

あの小娘がこの世界の深淵を呼び覚ましたという。


あの妖魔の背後に、

深淵と呼ばれる存在がいるらしいという事はまだ分かる。

異世界の妖魔にも序列というものがあるのだろう。

もともと異世界の存在なぞ、この我の能力を以ってしても知覚など出来もしない。


されどあの小娘は異世界のものではなく、この世界の深淵を呼び覚ましたという。

全くもって理解し難い。


そしてそれ以上に今のこの我の身に起きている現象は?


あのけたたましい鐘の音は、

途轍もなく強大な魔力に依るもの。

その前後に起きた異常な魔力の拍動もだ。


恐らくあの規模であるならば、あの魔力はこの星全てを覆うかもしれない程であった。


そんなものが今までどこに眠っていたというのか。

この世界には神やら悪神やら名乗る者たちがいるのは知っている。

されど奴らも強大な力を持ってはいるが、

その自らの存在を確たるものにするための肉体がない故か、

これまで我に直接戦いを挑んできた者はおろか、交渉にすらやって来ることもなかった。


ふん、

まあ、もっとも如何なる交渉しようとも、

我の進む道に影響を与えることすら叶わん望みなのだがな。



それがいま、我を捉えているこの何かの力は、これまで我が見知ったる如何なる神や悪神のものですらない。

それこそ比較しようとする行為すら愚か。


そいつは、我が棲みついていたあの洞窟の天井を一瞬で粉々にした。

それくらいならば我の破滅のブレスでも可能だ。


しかし、地上まで全ての岩盤を塵と化すなど、

我のブレスでも聖女の技でも出来うる事ではない。


そして今、我はその空虚となった地上までの空間を、

身動き一つ取れずに吸い上げられている。


触手の蠕動までは封じられてはいない。

されど我が意志による動きが一切不能となっている。




圧倒的な冷気が体を襲う。

どうやら地上が近いようだ。

我が本体が地表に出るのは500年ぶりとなるのか。

それが、こんな屈辱的な形になろうとは。



気流が変わった。

そして同時に景色に変化が生じる。

地上に出たか。

閉塞的な岩盤の囲みから一気に何もない広大な空が広がる。


今は夜か。

闇夜ではない。

500年前と同様、天空には二つの月が地上を照らしている。


ふむ、

今代の魔王が引き連れているという雑魚竜どもが周りを取り囲んでいるな。


されど、魔王含め奴らも今の状況など理解出来まい。

奴らも急に現れた大穴が、如何なる原因に依るものか、調べるために集まっただけだろう。


我の出現に驚いて、

何匹かの竜がブレスを吐こうとしていたようだが、

今もなお大空へと昇る我には届くはずもない。


しかしいったいいつまで我は空へ昇り続けるのだ。

周囲の気温はどんどん低下していく。

それと同時に大気も薄くなっているのか。


まさかこの我を凍死させようとか、

或いは窒息させようとか、そんな姑息な考えではあるまいな?


ふむ、待てよ?

身動きこそ確かにできないが・・・

魔力は・・・

うむ、

人間たちの言うところのエアスクリーンという術など我にも使用できる。

もっとも人間たちの脆弱な魔力では、真空空間でのエアスクリーンなど形を保つことも出来まい。

あっという間に空気を奪われて何も出来ずに死に至るだろう。


そして我は問題なくエアスクリーンを展開する。

何も問題ない。

これで、しばらくは空気も保つだろう。

我は海中や水中でも活動できるが、

流石に空気が全く存在しない場所では生息出来ない。


つまり、今現在、我を包んだエアスクリーン内の空気が尽きない内にこの状況から脱しないとならないわけだ。


・・・いや、そもそも、

我は自らの徴を置いた場所に転移できる・・・

ならばこんな枷など無視して・・・





ダメか。

どういう手段なのかさっぱり分からぬが転移能力は封じられている。


使える能力と使えなくなってしまった能力があるのか?


ブレスは可能のようだ。

いいだろう。

深淵とやら。


貴様が何者か知らぬが、

このヌスカポリテカを弄んだ罪、

存分に思い知らせてやろうぞ。




・・・それにしてもどこまで・・・


視界は良好だ。

我がいた大地も地平の彼方まで見える。

また視線をずらせば、

上空に輝く二つの月が・・・


月・・・だと?


間違いない。

この我は二つある月の小さな方・・・


そこに向かって真っ直ぐ突き進んでいる。


では・・・

深淵とやらは・・・




月に潜んでいたというのか!!





間違いない。

我のカラダが向かっている先は、

あの小さい方の月だ。


なるほど、

深淵と呼ぶ者の存在など、

見たことも聞いたこともないわけだ。


我らが住まうこの星の外にいたというならば、然もありなん。


小さな月と言えどもそれなりの大きさか。

今ここからブレスを吐いてやってもいいが、

その姿が見えぬうちでは届かぬか。


いいだろう。

その姿を見せてみよ。

その時が貴様の最期だ。



だんだん小さな月の姿が大きくなってゆく。

このままの速度で進めば後数分で月の地表に辿り着くだろうか。


まさかこの我を月の地表に激突させることでも考えてはいまいな?

そんなことができるならば元の地上に叩きつけた方が効果的だと思うが。


どちらにしてもこのヌスカポリテカをその程度で殺せると思うなよ?



今の今まで我の手の届かぬ月など興味もなかったが、

月というのは巨大な岩の塊なのか。


海や樹々や雲すらもない。

生き物自体存在しているようには見えぬ。


深淵とはその状態でも生きていられるのか。



岩の塊にしては丸い・・・デコボコはあるようだが球体なのだな。

それは大きい月や我が住んでいた場所と同様か。


確か・・・

海というのだったか。


月の模様のようなもの・・・。


見るものによっては様々な姿になるという。

あれは・・・


ああ、いつだったか、異世界からやってきたあの魔族がそんな事を言っていたか。

異世界の月の海は、

ウサギの姿にも女の横顔にも、

或いは蟹の姿にも見えるとか。



この小さな月の表面にある海も・・・


ふむ、

なるほど、見方によってはアレなど、馬という動物の頭部のようにも見えるな。


角が生えているような姿だが。

それだとすると馬ではなく魔獣のユニコーンか。






いま・・・



月の表面で何かが動いた?


気のせいだろうか。


月の大地を注視するも、

今は動くものなど何もない。

我の視覚、感知能力全てを使っても、

今現在動くものの姿は捉えられない。


最初に感じたあの強大な気配は、

今や辺り全てを包み込み、

何処がその力の根源かも知ることは出来ぬ。


いや、また・・・



動いたのではない。

光ったのだ。



あの馬の頭の姿をした闇い海の中で何かが。



それは一つ、二つ、

最初は小さい瞬きのような明滅を繰り返した後、


まるで連鎖反応が起こったかのように馬の頭部のあちこちで・・・!



違う!!

光だけではないぞ!!

いつの間にか陰が・・・


単に岩石の組成が異なっているだけと思われていた、

月の海とそれ以外の部分との色の濃淡の差が・・・

有り得ないほどに。




月の海の、陰の部分が真っ暗闇になっている。



この我でも気づかないうちに!

まるで地上に黒雲が立ち込めたかのように!


そして異常なる現象はそれだけに留まらない!


動いている!

間違いなく動いているのだ!!


それも・・・


あの馬の姿の暗黒の海の中で、

何かが動いているのではない!!


馬の姿の海「そのもの」が動いているのだ!!



いや、待て・・・

海だと


あれが?



最初は一角獣のような、

角を生やした馬の頭部の姿だけだった筈。



それがまるで、いつの間にか、

大空の雲が形を変えるかのように






二本の前脚を掲げ



まるで暴れ狂った魔獣が、

いななく姿のように




 

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