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第五話 いま街にいるの

<視点 メリー>


 「おい! そこの君!!」


誰かが私を呼び止める。

グルっと自分の首を130度ぐらい回してみると、そこにいたのは衛兵のような武装した男性。


・・・そして人を呼び止めたくせに、その男はいきなり私の顔見て驚いている。


 「う、うわ! 何だ、お前!?」


失礼ね・・・

と普通ならそう思うだろうけども、確かにこっちは人ではないのだから仕方ない。


不快に思わないでもない反応ではあるが、衛兵という立場に就いている者ならば、こんな怪しげな人形を放っておくわけにもいかないだろうしね。


 「私? 私の名はメリー・・・、

 ご覧の通りただの人形よ?」


・・・街の衛兵らしき男は固まったままだ。

私の存在を認識してどう対応していいのかわからないのだろう。

・・・であるならば、

こっちをモンスターの類と判断されても厄介だ。

ここはうまく話を誘導しておくのが良策というもの。


 「動く人形を見るのは初めてですか?

 この体に封じられているのは普通の女性の魂ですので、警戒されなくてもよろしいですわ?」


・・・我ながらすごい無茶なこと言ってる気がしてきた。



さっきまでうつむき気味に歩いてきたから、ある程度は周りの人達には誤魔化せてこれたと思う。

けれど今は状況が変わった。

衛兵と真正面から向き合う事態に陥り、さすがに今の私は街の通行人からも目立っているに違いない。

大騒ぎにならなければいいのだけど。


 「にっ、にににっにんぎょう!?」


やっぱりそこで固まっちゃうわよね・・・。

思わず、ににんがさんじょうと合いの手を打ってあげたいところだけど、そんなネタ理解はされまい。


 「この街には人の言葉を話す人形はいないのですか?」


普通に考えれば当たり前よね。

けれど、相手の思考を誘導するためには効果的な話術。


 「こっ、この街にはって、お前はどこからきた!?

 魔物なのか!?」


衛兵は槍を持つ手に力を込めている。

魔物・・・この世界にはそういったものが存在するのだろうか?

こちらとしてもこの世界の情報は手に入れておきたい。


 「魔物・・・というカテゴリーの意味を私は解すことはできませんが、自分は呪いによりこの人形に魂を封じ込められた存在、

 それ以外は普通の女性だと自分では思っています。

 もちろん、一般市民に危害を加えようなどとは夢にも思いません。

 この姿に驚かれるのも無理はないと思いますが、どうか普通の町娘が仮装でもしていると思ってはいただけないでしょうか?」


いくつか嘘を交えているが、

無難にやり過ごすためには仕方ない範疇だと思う。

さて、衛兵の反応や如何に?


 「ま、町娘だと!?

 どこにそんな物騒な鎌を持ち歩く町娘がいるというのだ!!」


あっ、

・・・それはその通りよね・・・。


迂闊だった。

私の右手にはアラベスク文様の死神の鎌が握られている。

ただ、これは正直に言うのも適当に誤魔化すのも難しいな。

さてどうしよう?


・・・よし、閃いた。


 「衛兵様、

 ご懸念はもっともだと私も思います。

 ただ、これも・・・この人形のカラダ同様、

 呪われた武具なのです。

 ただの人間が手に持つだけで気が触れてしまうかもしれません。

 ・・・試しにお持ちになりますか?」


この人形に顔の筋肉があったならば、にっこり笑ってあげたいところだが、残念ながらそれは不可能だ。

刃を内向きにし、両手でゆっくり死神の鎌を差し出すも、衛兵はあからさまに引いている。

確かにこんな禍々しい形状の鎌に、進んで触れたがる人間もそうそういまい。


 「や、やめろ!!

 こっちに渡そうとしなくていい!!

 そ、それで貴様は何しにこの街に来た!!

 城門をどうやって超えてきた!?」


城門?

なるほど、ここは城下町に見える。

遠くに一際大きく見える建物がお城なのだろうか。

しかし、私は城門など超えてきてなどいない。

気が付いたらこの町に、いや、この世界にいたのだから。


 「恐れながら衛兵様、

 私は昨晩、いきなりこの街にいたのです。

 どうやって来たのか自分でもわかりません。

 ・・・まるで、誰かに召喚魔法でも使われたかのように・・・。」


これまで辺りを観察してきたが、

街の雰囲気は大昔のヨーロッパの中世あたりの文化に近く見える。

魔法という概念は通用するかもしれない。

実際、そんなものがあるかどうかは別として。


 「召喚魔法だと・・・?

 な、なるほど、だが、誰がそんな物騒なものを・・・。

 だが、事の次第はともかく、お前のような怪しい者を放っておくわけにはいかん。

 城の詰め所まで来てもらおう。」


あら、納得しちゃうのね?

けれど参った・・・。

そんな場所で行動を封じられたくもない。

強引にこの兵を叩き伏せて突破するべきか・・・。


いや、今現在、この人形のボディにそこまでの力はない。

このカラダは、死にゆく者の憎しみや恐怖の感情を吸い取って、初めて真価を発揮するのだから。


 「この街の法では、なんの罪も犯してない者を拘束することが許されるのですか?

 それと、先ほども申しましたが、このカラダと武具には古から呪いが込められています。

 一つ所にこの身を置いておけば、周りの人間に災厄が降りかかるかもしれません。

 それでもよろしければ・・・。」


どうやらこの言葉は効いたようだ。

実際、昨晩殺人は犯しているのだが、証拠なんかあるはずもない。

衛兵は見ているのも可哀相なくらい表情を歪ませ、

やがて一つの解決策を得たようだ。


 「な・・・ならば、

 これは強制ではないが・・・!」

 「はい?」

 「街の・・・冒険者ギルドを紹介しよう。

 そこでお前の身分登録を行う。

 そうすればある程度、お前の言葉も証明できるし、おかしな点がなければ、今後も面倒な誰何もする必要がなくなる!

 ギルドのネットワークを使えば、誰がお前を召喚したかわかるかもしれないしな。」


なるほど、

冒険者ギルドというのがどこまでの機能を持っているかまだ分からないが、話の内容からして私に鈴をつけたいということか。

情報を得たいのは願ったりだが・・・


まぁ話を聞きに行くだけでもいいか・・・。


遠巻きとはいえ、大勢のもの好きな住民たちに囲まれていたが、衛兵は「道を空けてくれ!」と大声で指示をして、私を促す。

冒険者ギルドとやらに案内されるようだ。

確かに今後もこんな喧騒に巻き込まれるのは厄介だしね。


別にこのカラダには睡眠も食事も必要ない。

何も日中の街中に出ていくこともないのだが・・・


この世界・・・世界と前に私がいた場所で、

明確に異なることが起きている。

自分の心に感情が復活している。


それはいいのだが、

もともとこの人形のボディは、周囲に蔓延する感情を行動力に変換して動いている。

それは自分の感情も例外ではない。

この人形に感情が発生しないという表現は正確でないのだ。

実際は、私の心に生じる感情も、それを知覚するまでもなく人形がエネルギーとして消費していると言える。


それが現在機能していない。

つまり今の私は以前の世界より弱まっている・・・。


こうやって辺りに大勢の人間がいれば、黙っててもいろんな感情が流れ込んでくるので、普通に動く分には何の問題もない。

だが、ひとたび、無人の場所にこの身をおけば、あっという間に歩くことも出来なくなってしまうだろう。



衛兵は何度も私の方を振り返り、ちゃんとついてきてるか確認している。

そんなビクビクしなくてもいいのに。

その瞳にはまだ脅えの色が見えるようだ。


 「衛兵さまは私が怖いのですか?」


これは彼のプライドを傷つけたらしい。

 「こ・・・怖くなどない!

 だが、得体が知れんのも確かだ!

 何をするかわからないのを警戒するのは当然だろう!」

 「ふぅ・・・明るくなる前にフードでも被っていた方が良かったのでしょうか。」


その言葉で衛兵は顔をしかめる。

どうやら私の発言に対して不満があるようだ。

 「それよりも・・・そっちだ。」


続けて衛兵は私の鎌に視線を向ける。


 「このアラベスク文様の鎌の事ですか?

 けれど街の皆さん、普通に武具を携帯しているのでは?」

 「何を言っている、周りをよく見ろ!

 武器を持っている者達は全て刃の部分をむき出しにはせず、

 鞘に納めるか、刃先を麻布あさぬのなどで覆っているだろう。

 私たちのような衛兵だけが、そのまま槍などをカバー無しで所持できるのだ!」


ああ、よく見れば本当だ。

確かに刃先剥き出しはいくら何でも危険だろう。

今まで人の目から隠れるように歩いてきたので、ついつい考えが及ばなかったようだ。


 「これは失礼しました。

 どこかでこの鎌を覆えるものを見つけたらそのようにしたいと思います。」

 「それなら冒険者ギルドで手に入れられるだろう。

 ・・・しかし・・・。」


 「しかし・・・なんでしょうか?」

 「いや、会話をしていると本当に人形には見えないな?

 人間の魂がそのまま入っているのは・・・本当に思えてきた。」

 

そもそも会話が通じるのが不思議なのだけど。

ただ、自分がいた世界と、この世界の人たちが「同じ人間種」であるらしいこと、

そして、文化的水準が過去の地球とそんな変わりがなさそうなこと。

そっちの方が驚くべきなのかもしれない。


・・・そこで私の思考は一つの仮定に囚われる・・・。


この世界は何なのか・・・。


この人形の身体になる遥か昔・・・。

まだ、私が「ニ度目」の転生を果たす前、

すなわち「記憶を掘り起こされる以前」、

無意識に「ここどこですか、わたし、なんで連れてこられたんですか?」と大昔のネタを披露してしまったことがある。

今もそんなセリフを吐いてしまいたい心境だ。

そしてその仮定とは、

この世界が誰かに作られたものでないかと言う事。


この世界が、

私のいた世界と全くの別世界だというなら、言葉が通じること自体が有り得ないのだ。


ここが地球のはるか未来、あるいは過去だというなら、確かに言葉が通じる可能性はある。

人間だっているだろう。

だが、だとしたら夜に輝く二つの月を説明できない。

 

 「衛兵様」


いきなり声をかけた私に、びっくりしながら振り返る衛兵。


 「な、なんだ?」

 「この国と、この街の名前を教えていただけますか?」

 「・・・ここはトライバル王国、ダリアンテ領ハーケルンという街だ。

 あの城にお住まいの方が領主ダリアンテ様だ。」

 「そうですか、ありがとうございます。」


うん、知らない。

私の二度目の人生でも、

この人形の旅した記憶の中でも聞いたこともない国だ。

 

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