第四百九十九話 事後報告
<視点 ケイジ>
誰もが次に何をするべきか、
行動を起こすことも思い付くことも出来なかったのだろう。
オレたちはそのまましばらくの間、呆け続けていた。
オレたちは決死の覚悟で邪龍討伐に来た。
幾分、危険な状況にまで追い詰められたが
それを跳ね返す事には成功した。
間違いなく流れはオレたちに来ていた。
あともう少し邪龍を追い込めば、
最後の作戦でトドメを刺すことができた筈だった。
・・・それをこんな形で水を差されて・・・
この先オレたちはどうすればいい?
唯一この状況を説明できるとしたら麻衣さんしかいない。
オレはその説明を求めて、
ゆっくりと首を麻衣さんに・・・。
うん、大丈夫だ。
いつもの麻衣さんだ。
異形の存在なんかでは有り得ない。
そして彼女はいつもの反応を見せる。
「・・・あっ、
邪龍さん、い、いなくなっちゃいましたねっ?」
まるでちょっとイタズラしたら、事態がとんでもないことになって、必死で話を誤魔化そうとするような年頃の女の子の反応・・・って言えばいいのか?
パーティーリーダーとして、
一言言うべきなのかもしれないが、
ここはカラドックに任せた方がいいかもしれない。
そう思い、オレは視線をカラドックに向ける。
カラドックもオレの言いたいことを察してくれたようだ。
軽く頷いてから麻衣さんの方に足を踏み出す。
「麻衣さん、いくつか聞きたいことがあるのだけど。」
「びくっ、ははい、なんでしょうっ。」
大人の態度というべきか、
カラドックの口調に、怒気や麻衣さんを非難するような雰囲気はない。
けれど、その分だけ麻衣さんに嘘や誤魔化しは許しはしないという強い意志が感じられる。
「麻衣さんは『なに』を呼び出したんだ?」
「あ、ああ、はい、
えと・・・正直にいいますね、ていうか、最初から言った方がいい、のかな?」
「出来ればすべて包み隠さず教えて欲しい。
今後のためにもね。」
「は、はい。
たぶん、なんですけど、何もかも最初から仕組まれていたんじゃないかな、と?」
何もかも、だと?
最初から?
どういうことだ?
「その最初からって話を聞かせてくれるかな?」
「う、はい、でもあたしにもわからないことはたくさんありますよ?
恐らくなんですけど、この世界を創ったものは、何らかの理由で今まで眠りについてたっぽいんですよ。」
「この世界を創ったものというのは?」
「さっきあたしが無意識になって口走ったっていう『この世界の深淵』のことです。」
「その深淵が麻衣さんに何の関係が?」
そうだよな?
深淵てのは、カラドックや麻衣さんをこの世界に送り込んだヤツだと思っていたんだが。
「は、はい、恐らく・・・あたしたちの・・・ご主人様の、
この世界での存在なのかなと・・・。」
んっ?
「・・・なんだって!?
いや、待ってくれ!!
それは・・・つまり!」
「はい、マーゴお姉さんとマルゴット女王のように・・・
あたし達の世界の神様が、
この世界にもいたということ。
そしてそれこそが・・・・この世界の人間と動物が、
あたし達の世界と同じ姿をしている理由の根拠になるんじゃないかって。」
はあっ!?
「・・・ああ、それは・・・なるほど・・・。
じゃあそれならば、という疑問が後から後から出て来るけど・・・
うん、その疑問に対する答えとしては・・・なるほどと思えるね。
麻衣さんは最初からそれを知って?」
「あ! いえ!
それは信じて欲しいんですけど、あたしもいきなりだったんですよ!!
あたしほんの数分前まで、虚術の最終スキル、『時間を奪う』術を使うつもりだったんです!!
でもカラドックさんは分かってくれると思いますけど、突然あたしたちがこの世界に送られてきたときと同じメッセージが送られてきて、
時間停止させるか、深淵呼び起こすかどっちか選べって!!」
時間停止スキルだと・・・?
なんだよ、そのチートスキルは!?
ていうか、そんな無敵なスキルがあったら邪龍なんか簡単に倒せたんじゃないか!?
ほら、見ろ。
アガサやタバサでさえ、信じられないものを見るような目で麻衣さんを見てる。
「・・・私だったら迷わず時間を止めたと思うんだけどね。」
そりゃカラドックだってそう思うよな。
「ああ、カラドックさんならそうした方がいいと思ったんですよね?
でもあたしの魔力量だと10秒止めるのが精一杯らしく、その10秒で皆さんに状況説明して、邪龍を倒し切れるか自信なかったんですよ。」
「10秒か・・・、確かに微妙だね。
それで麻衣さんは、その・・・深淵とやらを呼び覚ました方が勝算があると?」
「どっちかというと、一か八かのワイルドカードを切った感じで・・・
さらに言うと魔力も全部消費しちゃうのでまたMPポーション飲まないとならなくなるし・・・
あ、いえ、正直に言います。
妖魔リーリトとして、
闇の巫女として、
深淵を呼び覚すのはあたしの役目じゃないかって気がしたんです。
ううう、ごめんなさい!!」
最後の最後でぶっちゃけたな。
けど、理由としては分かりやすいと思う。
一方、カラドックは考え込んでいる。
オレは納得したんだが、
カラドックはそうでないのか?
「つまり、麻衣さん・・・。」
お?
カラドックは何か気付いたのか?
「は、はい、何でしょう・・・。」
「先ほどの、君の発言を含めると、
私たちの異世界からの転移を含め、
この世界の、その、深淵を目覚めさせるために私や麻衣さんは利用された、って事でいいのかな?」
えっ?
「は、はい、その可能性もあるかと・・・。」
「ちょ、ちょっとまってくれ、カラドック!!
利用されたってどういうことだよ!?」
「どうもこうもないさ。
どこからどこまでかなんて、私にもわからないが、
邪龍復活、ベアトリチェの転生、邪龍討伐、私たちの転移、
その深淵とやらが目覚める為の筋書きの一つ、
という話をしているのさ。」
そこで後ろからリィナが食いついてきた。
「えっ、そ、それって実は邪龍の後ろに深淵っていうラスボスがいたってこと!?」
それは考える限り最悪のシナリオだぞ。
「あ!
ま、待ってください!!
そ、それはないです!!
少なくとも現時点でその可能性は全くないはずです!!」
「麻衣さんがそう言える根拠は?」
カラドックの表情が厳しい。
けれどカラドックの立場もわかる。
「あ、は、はい、これも絶対って言えないんですけど、
天使は・・・
カラドックさんのお父さん含めて地上の事には直接関わりにならない筈、なので・・・。」
え?
ここでアイツの話が?
いや、麻衣さん、何を言ってる?
今はこの世界の深淵とやらの話を・・・
いや、・・・そうか。
アイツも、この世界の深淵というのも・・・
人間とは次元の異なる存在ならば・・・
「麻衣さんの主張は分かった。
けれど、それを根拠と呼ぶには何の信ぴょう性も・・・」
「いや、カラドック。」
この辺りでオレも会話に参加するか。
「ケイジ!?」
「話をぶった斬るようで悪いな、カラドック。」
「い、いや、構わないが、ケイジ、
君の意見は違うっていうのか?」
心情的にはカラドックに賛同したいところなんだけどな。
オレは別の意見を持っちまった。
なんでそう思ってしまったのかは後で考えよう。
「ああ、麻衣さんの意見とは少し異なるのかもしれないが、
オレはそんなに警戒しなくてもいいと思う。
そして、オレの方の根拠はメリーさんが語った、お前たちの世界の未来の話だ。」
「私たちの世界の・・・未来?」
「ああ、メリーさんは忘れてくれと言ってたが、カラドックだって本当に忘れてるわけじゃあるまい。
メリーさんの話だと、お前の時代から400年後に大きな災害だか災厄だかやってくるんだろう?」
「・・・ああ、そう言ってたね。
そして私の子孫たちの活躍によって防ぐ事が出来たとも。」
「その時の話では、
天使たちの助力だったか、お膳立てとかがあったとか言ってなかったか?」
「言っていたね。」
「ならオレはこう考える。
少なくとも、その天使たちという奴らは人間に敵対していない。
人間を利用しようとしているかもしれないが、少なくとも人類にとって破滅をもたらそうとする存在ではない筈だ。
・・・であるならば、
この世界にいる奴も・・・正体は不明とはいえ、人類の敵にはならないのではないか。
そう、思うんだが。」
どうだ?
オレはそんなに頭が悪い方ではないと思うが、さすがにカラドックより頭の回転がいいわけではない。
だが、オレの話に大きな穴がなければカラドックだって・・・
お?
気がついたら麻衣さんがキラキラした目でオレを見つめているぞ?
「ふーっ・・・。」
あ?
今のはカラドックの溜息か?
「カラドック?」
「なるほどね、未来の話を出されるとこっちはもう反論できなくなるなあ。」
ん?
てことは、カラドックも未来についてはオレと同じ意見を持ってたってことか?
「体良く利用されてる、という疑いは消えないけど、少なくとも私たちにとって直接的に敵対するような存在ではないと。
今はそう思うべきだって・・・ことでいいのかい?」
「は、はい!
そう考えてくれればいいかなって!」
麻衣さんが笑顔を取り戻した。
恐らくそれは彼女の本心なのだろう。
実を言うとオレは迷いまくっているのだが、
さっきのは、あくまでもオレの持っている情報を理屈で追っかけただけだ。
それを否定する情報が後から出てくれば、遠慮なく自分の発言をひっくり返すつもりでいる。
さて、カラドックはどう結論づける?
次回、邪龍の落とし物・・・
ドロップ・・・アイテムとは言わないか・・・。