第四百九十六話 ぼっち妖魔は予定通りに進められない
虚術の最終スキル公開です。
皆さんの予想通りでしたか?
<視点 麻衣>
もうね、
すでにあたしは自分に出来ることは僅かしかないと理解している。
切り札はあと二枚。
どちらも全ての魔力と引き換えだ。
出し惜しみはしない。
小細工もしない。
ていうか出来ない。
その代わり邪龍さんにも何もさせない。
そもそもあたしは戦士じゃないのだ。
満身創痍とか絶体絶命なんて状況は全力でお断りする。
こ・ち・と・ら!
ただの女子高生なのだ。
それを忘れてもらってはマジで困る。
ということで巻きますよ!!
あたしは確信を持ってステータスウィンドウを開く!
これまでスキルポイントは貯まっていたのに何故か取得できなかった虚術最終スキル!!
このラスボスとの最終決戦!
今取得出来なければいつ必要になるというのか?
そうら!
今までグレー表示で「封印中」と表示されてたのだけど、
いつの間にかその文言が消えている。
そして、そのスキルポイント消費量は20万ポイント!
これを取得したら、もう他のスキルはしばらく取ることも出来ない。
・・・まあ、邪龍倒したらまたたくさんポイント稼げるだろうけども。
そしてそのファイナルスキルとは!!
多分皆さんも予想していたでしょう!!
虚術はその空間から何かを奪う術!!
そしてその時、その空間内にいる生物には如何なるダメージも状態異常も与えない!!
これまで奪ってきたものは
光!
音!
空気!
重力!!
そして虚術最後の術を飾るのは・・・
そう、
一定空間内の
「時間」を奪う術なのだ!!
あ、・・・やっぱりそうだろうって?
それしかないって感じ?
ま、まあ、良いではないですか。
スキル取得は今まで出来なかったけど、
既にポップアップウィンドウは開けていたので、術の内容・特性は理解していた。
どこかのスタンド漫画みたいに、
世界全ての時間を停止させるような大それた術ではないけども、
あたしの指定した対象空間全ての時間を奪う!!
むしろあたしにとってはその方がありがたい。
何しろ一定空間のみの時間を止めるということは、
私以外の皆んなも自由に動けるということなのだ。
あたしが術を使ってる間、
邪龍には何もさせず、
攻撃も、防御も許さず、
パーティーのみんなで一斉攻撃でも波状攻撃でも連携攻撃でも何でも可能なのだ。
もちろんリスクが何もないわけじゃない。
唯一、
唯一の、問題は・・・
あたしの魔力量。
MPポーションで無理矢理回復させた今現在でも、
これで止められる時間はわずか10秒弱のようだ。
この時間でみんなに説明して、一気に畳み掛けねばならない。
対象空間を狭めればもっと行けるらしいんだけどね。
邪龍はカラダの周囲から触手を生やしまくってくれてるお陰で、
その方法は使えないのだ。
時間を停止させるなら、邪龍のカラダ丸ごとすっぽり覆い尽くさねばならない。
・・・ていうか、ふと思ったのだけど、
時間がホントに完全に停止したら、
原子だか電子だかも止まっちゃって熱も発生しなくなるんだよね?
それって絶対零度?
あと光の粒子も止まるよね?
てことは可視光線も動かなくなる?
なら真っ暗になるのでは?
・・・という疑問については、
あたしは物理の成績がよろしくないので、実際どうなるか知らないのだ。
まあ、虚術最後の術と作戦については以上!!
やってみたら答えは出るでしょう!
これ以上、何のイレギュラーもなければ行かせていただきますよ!!
「皆さん、決めますよ!!」
「「「麻衣(さん、ちゃん)!?」」」
その一言だけでいい。
恐らく、後は虚術起動時の呪文のセリフを聞けばみんなも理解してくれるだろう。
文言、今のうちに考えとかないと!
さあ、
いよいよ最後の術を
ポチっ、となああああああああああ「ピーンポーンパーンポーン♪」あああああっ!?
へっ?
な、なに、今のチャイム?
「メッセージを受信しました」
はあああああああああああああああああっ!?
こっ、このタイミングでだとおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
さっそくイレギュラーじゃないかあああああああああああああっ!!
あたしは決断しなければならない。
こんなところで迷ってる暇はないのだ。
このタイミングにメッセージを送りつけてきたということには、絶対に意味がある。
後回しにはできない。
スキルを取得しようと振りかざしていた指を、すぐに目の前のメッセージに合わせる。
「麻衣様にはここから二つの選択肢が用意されています。」
お、おう、選択肢か。
あたしにそのどちらかを選べと。
「☆ 内容
1.全ての魔力を使って時間停止虚術を使用する。
2.これまで貯めた全てのスキルポイントを捧げて『深淵なる者』を目覚めさせる。
(ただしその存在が敵を攻撃してくれるとは限りません)」
ほへ?
え
え、ちょ、
ちょっと待って、
ホントに待って。
お願いだから待ってって。
しん
えん?
それ、それって・・・
ちょっと前にあたしが邪龍の分体の前で口走ったアレ?
え、なに?
「目覚め」させる?????
うりぃちゃんの時みたいに「喚ぶ」んじゃなくて???
深淵・・・
て、アレ、でしょ?
あたし達の・・・
それが
なんで
目覚めさせる???
・・・それって・・・
まさか・・・まさか
あ
あ、ああ、そうか、
そういうことだったのか・・・。
つまり、それが
あたしがこの世界に来て、
最初に思ってた疑問を解決する答えだったんだ・・・
すなわち、
どうしてこの世界の人間や動物が、
あたし達の世界のそれぞれと同じ姿をしているのか。
答えは
ここにあったんだ。
とてもシンプルな、
言われてみたら当然とでも言えるような簡単な答え。
すなわち、
この世界にもいたのだ。
彼らを造った存在が。
この世界にマーゴお姉さんの写し身であるマルゴット女王がいたように。
メリーさんの中に入ってる人の写し身が、
かつてこの世界で生きていたように。
いたのだ。
この世界にも。
あたし達の主が。
その写し身が。
それこそが深淵なる存在!
こんなの、
選択肢なんて・・・。
あ、いや、でも待って?
あたしの中の理性があたしに囁きかけてくる。
「そんなもの、うりぃちゃん達がこの世界の理をぶち壊すどころの話じゃないでしょう」と。
そりゃあ、そうだよね。
そんなもの、
この世界にいきなり核爆弾の原理と概念を持ち込むのと同義・・・いやそれ以上か。
事によったら、邪龍侵攻による世界滅亡以上の影響をこの世界にもたらすかもしれないのだ。
それはある意味、
あたしがこの世界をメチャクチャにしてしまう事と言っても過言ではない。
それをあたしにやれと。
けれどあたしの本能が叫ぶ。
リーリトとしての、
そして闇の巫女としての魂の叫びだ。
「やれ」
「起こせ」
「目覚めさせろ」
と。
ふ、ふふふ、
くっくっくっく・・・
ふふふふふふふふふふ。
ふはははははははははははは。
いいでしょう。
どうせ、
どうせあたしはこの世界から消え去るのだ。
この世界の行く末なんて知ったこっちゃ・・・
う・・・
あああ、頭の中にチョコちゃんとかローラちゃんとか、ベルナさんとか、ゴッドアリアさんとか・・・あとダナンさんも・・・
あたしがこれまで出会ってきたいろんな人たちの姿が・・・
ううう、
ええい、大丈夫だと思う!!
毎度毎度のフレーズだ!!
そう思う事にする!!
そして!!
「邪龍さん。」
『なんだ、異世界の妖魔よ。』
「会わせてあげますよ。」
『会わせるだと?
誰にだというのだ?』
ふ、ふふふふふ。
「この洞窟で最初にあたし達とコンタクトした時に言いましたよね?
『深淵』、と。
喜んで下さい、
彼に会わせてあげますから。」
『なんだと?
この場においてだというのか?』
もちろん私の言葉に戸惑うのは邪龍さんだけの筈もない。
「えっ!?
麻衣さん、それは一体どう言う意味だっ!?」
ケイジさんが私の後ろで叫んでいる。
ケイジさんだけじゃないよね。
カラドックさんやタバサさん、アガサさんだって聞かなかったことには出来ないだろう。
・・・リィナさんは・・・
どういう反応していいか、分からないだろうね。
だって深淵という存在は、
・・・いや、今気にする話じゃないな。
とりあえずみんなには謝っておこう。
「カラドックさんにケイジさん。」
「な、何だい、麻衣さん。」
「い、いったい何をする気なんだ?」
「以前、いえ、何度も言ってくれましたよね?
あたしが何かやらかしてもフォローしてくれるって。」
「そ、それはもちろん。
だがこの場で一体何を?
また異世界の生物を!?」
「いえ、そんなものじゃありませんし、
今回は『この世界』のものです。」
「この世界の!?
それこそ何を言ってるんだ!?
この世界に邪龍の前に立てるものなんて・・・。」
「うーん、
どうやら最初からいたみたいなんですよね・・・
この世界の支配者が。」
「支配者・・・だって。
それは、まさか・・・。」
「あと、申し訳ないんですけど、
その人、何考えてるか分からないんで、
邪龍を倒してくれるかどうかも保証できません。」
「「「「はあああああああっ!?」」」」
まあ、いつまでも引っ張っても仕方ないですからね。
もう断りましたよ。
じゃあそれ!
一気に!
今度こそ!!
おっきろおおおおっ!!
それ、ポチっとなああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
ぽち!
虚術の最終スキル、
皆さんの予想通りでしたか?
じゃあ、展開の方を裏切りますね?
時間を止める術が行使されることはありません。
さあて、
「深淵」・・・どう演出しましょうかね?