第四百九十五話 ぼっち妖魔は第一の切り札を使用する
麻衣ちゃんの切り札は全部で三枚!!
<視点 麻衣>
「タバサ!
お前の防御呪文で防げるのかっ!?」
悲壮な表情でケイジさんが吠える。
邪龍から視線を逸らすのは致命的な行為と思えるけど、この場に在っては無理もない。
みんなの注目がタバサさんに集まる。
けどいい予感はしない。
ほら、
いつもクールで自信満々のタバサさんの顔が青ざめている・・・。
「タバサ!?」
「ご、ごめん・・・む、無理、
あれを防ぐなんて・・・不可能!!
普通の呪文ならホーリーウォールでも防げるけども・・・
あの魔力量、あの規模の術式、そして属性が光だというなら・・・
私の手持ちの術法では・・・っ」
な、なら!!
「アガサ!!」
ケイジさんの問いかけに、
アガサさんは一言も発することもできずに首を振った。
恐らくファイアーウォールだろうとアースウォールだろうと意味はない。
あたしにもわかる。
今、邪龍が聖女さんを介して放とうという魔法は何物でも防げない。
アレは全てを飲み込む。
ならば当然、カラドックさんでもヨルさんでもどうしようもないものだ。
それこそ刺し違える覚悟で、
リィナさんはじめ、みんなの攻撃を集中させれば邪龍に多大なダメージは与えられるかもしれない。
けど、引き換えにあたし達は全滅する。
誰しもそう思うだろう。
『今度こそ終わりだ。
同じ人間どもの術で滅びるが良い。』
そう、このままではあたし達はみんな死ぬ。
「こ、ここまで、なのか!
くそっ! 冗談じゃない!
諦めて堪るかっ!!」
ケイジさんはやぶれかぶれになったのか、
ベリアルの剣の衝撃波を狂ったように連発。
けれど聖女さんのカラダに届く前に、
全ての攻撃を邪龍の触手が受け止めてしまう。
「ば、バカな・・・私はケイジを救いに・・・そして元の世界へ・・・。」
頼みの綱のカラドックさんも打つ手がないようだ。
この地では精霊術もほとんど使えないと言ってたし。
もっともヨルさんの大地の牙を、土の精霊術で威力を底上げしていた筈だ。
それなら・・・いや、どうにもならないよね。
聖女さんのカラダは邪龍の体内に埋まっている。
今までの感じからして、
そこまで大地の牙でも届かない。
なら・・・
仕方がない。
仕方ないよね?
ここは一つ。
あたしは足を踏み出す。
だって、
今こそ、
今この場こそ、麻衣ちゃんのでばーん!!
さあ、お立ち合い!
リーリト麻衣の!
拘束討伐ショー!!
あたしの一人舞台でございますよっと!!
「「麻衣さん!?」」
邪龍がその術を放つにはまだ数秒の溜めがいるようだ。
だからその隙にあたしはケイジさんの前に出る。
もう、衝撃波は撃たなくていいですからね?
邪龍とて、わざわざ他の攻撃はかけてこないだろう。
「たぶん何とかなると思います。」
あたしのセリフに反応したのはカラドックさんだ。
「何だって!?
け、けど麻衣さんには防御魔法も攻撃手段も!?」
ええ、まあ、そうなんですけどね。
「はい、だから防御も攻撃魔法も使いません。」
「え、あ、そ、それは、そう・・・
て、じゃ、じゃあ!?」
『ほう?
異世界の妖魔とやらよ、
この光の暴風をしのげるとでもいうのか?
面白い。
ならば試してるか。』
へーい、じゃあ、やってやろうじゃありませんか。
実は、さっきの聖騎士さんの技を食らった時に思いついちゃったんだよね。
あの時みたいに物理的な剣撃も付加されてるならどうしようもないんだけど、
純粋な術ならどうにかできるんじゃないかってね。
さて、行きますよ!!
「虚術!!」
「虚術だって!?
でもそれでどうやって!?」
ケイジさん、お静かに!
説明は後回し!!
論より証拠!
百聞は一見にしかず!!
「第一の術っ!!」
「えっ?
それって周りを暗くするだけの暗闇呪文じゃ・・・?」
ケイジさん、うるさい。
『受けてみよ、光の奔流!!』
お相手しましょう、邪龍さん!
ユニークスキルだかファイナルスキルだか知らないけど、それって光の術法なんですよね?
あたしが身につけた虚術の特性は、
その空間から何かを奪うもの!!
それこそが!
闇属性魔法との最大の違い!!
闇魔法なら光魔法と相殺しあうとか、
・・・いや、むしろ相性悪そうだよね?
普通に考えれば闇は光に切り裂かれる。
けれど、
あたしの虚術は一方的に奪うのみ!!
聖女さん中心に渦巻いていた高密度の光の魔力が向きをこちらへと変えた!
来る!!
ではこちらも行きますよ!!
「万物の支配者たる虚空よ!!
喰らえ!
奪え!!
その憎しみの咢で惰弱なる光を根こそぎ喰らい尽くせ!!
ダークネスフロムアビス!!」
それ、いっけええええええええええ!!
・・・って、うああああああああああああああ!?
魔力全部持ってかれるうううううう!?
うっ、うん!!
これ理屈は間違ってない!
あたしは間違ってない!!
あたしが発した虚術は聖女さんの竜巻みたいな光の渦を全て飲み込んでいる!!
『な・・・なんだ、その術はあああああああっ!?』
やっと余裕を失ったね。
ザマみろ、邪龍。
でもね・・・っ
で、でもこの分量はああああああああああっ!!
「こ、これは!?
光の魔力を全て飲み込んでいるのか!?
凄い・・・!!
け、けれど、麻衣さん、こ、これ、このままじゃ・・・!!」
そっ、そうなんです、カラドックさん!
あたしの魔力量じゃ、この術法、全部食いきれないかもしれないんです!!
だ、だからあたしは調子に乗るなと・・・
やっ、やっばあああああああいいいいい!!
・・・ん?
その時だ。
あたしの負担が急に軽くなった。
あ、あれ?
魔力に余力がある?
あ、これいけそうだ。
食える。
食いきれる。
ほら、もう・・・
光の魔力なんて、
この場には・・・
一粒たりとも残っていませんよっと!!
完・・・っ、食っ!!
あ、タバサさんのフォースフィールドは食べてませんからね?
あくまで聖女さんから発せられた光のみです!
「・・・ふう、なんとかなったあ~。
一時はどうなるかと・・・。」
と言いつつ油断はしない。
この後もあるのだ。
あたしはすぐに巾着袋からMPポーションを補充する。
ふと気付くと、邪龍も周りのみんなも反応がない。
唯一、カラドックさんだけが、
驚きと称賛が混じった表情であたしを見詰めているけども・・・
あ、さては最後のアレ・・・
まさかカラドックさんが何かしたのか?
「「「「「なんなの、麻衣ちゃ(さ)ああああああああん!?」」」」」
ようやくみんながネジを巻いたかのように動き始めた。
まぁ、動き始めたどこの騒ぎじゃないけどね。
それどころかあたしはよってたかって揉みくちゃにされる。
これはもう仕方がない。
お一人ずつハグハグしますから解放してくださいな。
ほら、ケイジさん?
こんな時は
さっきの気にして距離をたもたなくていいんですよ。
危うく全滅するところを無傷で助かったんだから、お互い無事を喜ぶところですと。
ということで、最後にケイジさんに向かって腕を広げる。
遠慮がちなのは仕方ないかな。
でもケイジさん一人だけハグしないのもノリが悪いでしょ?
というわけでこっちから飛び付いてみる。
発展途上中の膨らみも密着させてあげますからね?
期間限定特別サービスだよ?
ほら、恥ずかしがんないの!!
とはいえ、あまり時間はかけてもいられない。
リィナさんの逆鱗に触れないためにも、
とっととケイジさんを解放する。
「ま、麻衣、なんて恐ろしい子。
さっきの術を使われたら、僧侶や魔術士の光の魔術は全て無力化・・・。」
「麻衣、な、なんてデタラメな子。
これまでの術法体系の法則、全てひっくり返すような掟破りの術・・・。」
ふふふ、タバサさんにアガサさん。
お二人の称賛にお応えしたいのはやまやまなのですけどね?
実際そんな余裕もないし、
これ以上調子に乗りたくもない。
そんな暇があったらMPポーション一気飲み。
ストック全部使い切ってでも魔力を全回復させる。
邪龍にとっても切り札だったのだろう。
それを一発で破られてショックが大きかったと見える。
今になってようやく動き出した。
『バ、バカな・・・
異世界の妖魔・・・貴様は・・・』
そして邪龍さん!
もう、
もうあなたのターンはありません!!
残り二枚ですよ。
問題は・・・麻衣ちゃんの予定通りに物事は進むのでしょうか・・・。