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第四百九十一話 ご入浴

<視点 ツェルヘルミア>


鏡に映し出されるツェルヘルミアの肢体・・・。

美術品のようなプロポーションだ。

顔も整っている。

瞳の色は深みがかった赤・・・

柘榴色とでもいうのだろうか。


今や女のカラダになったオレには興奮する機能が全くないのだが、

あの山道で出会った三バカが興奮するのはよくわかる。

健康な男子がこんな裸体を前にされたら、

理性など保っていられまい。

オレだって元のカラダがあったら、まずは押し倒しに行く。

その後、事に及ぶか否かはツェルヘルミアの反応を見てからだ。

流石に泣き叫んで嫌がる女の子に酷い事はしない。

・・・しないからな?



まだ毛は薄い・・・。

え、いや、どこのっ・・・て、

どこだっていいだろ!

ていうか、わかってるだろが!




 「相変わらずお美しい・・・

 戦いの女神と形容すべきプロポーションですね・・・。」


いや、あのシーデーさん、

女性のあなたに顔を赤らめられてもですね?

オレはどんな反応を返せばいい?


さすがに後ろにメイドがいる状況でポーズまでは取らないが、

鏡の真正面に立って、カラダを傾けたりして自分のカラダを確かめる。


うむ、贅肉は一切ない。

思ったより筋肉に恵まれているようだ。

しかもそれでいて、よくいる女性アスリートみたいに筋張っているわけでもない。

ちゃんと脂肪もついている。

そう言えばダンスの練習が結構ハードだった筈だ。


こうやって鏡ばかり、にらめっこしてて自意識過剰と思われないよな?

シーデーのさっきの反応なら大丈夫だと思うんだが。


 「・・・お背中を拝見いたしますね?」

そういってシーデーはオレの背中の髪をかきあげる。


ああ、どうやらオレが自分の姿に見入ってるのを、

火傷の跡がないか確認したがってるように見えたのか。

それは都合がいいな。


 「大丈夫なようです、

 お嬢様の肌は美しいままですわ・・・。」


え?

ちょっと待ってくれ。

背中はともかく、お尻とか内ももとかは勘弁してくれ。


 「ひゃん!?」

 「お嬢様・・・?

 そんな色っぽい声をあげないで下さいませ。

 私が変なことをしているようではないですか。」


 「え、い、いえ、だって・・・」


いきなり触られて変な声出るのは仕方ないだろ!

そ、それに・・・


 「シーデー・・・

 ・・・さすがに女性同士とはいえ、まさぐられたり、じっくり見られるのは恥ずかしいのだけれど・・・。」

 「何をおっしゃるんですか、

 誰からも羨まれる綺麗なお肌ですよ。

 本当にこの仕事に就けて私は幸せですわ?

 ツェルヘルミアお嬢様のお身体に触れられるのですから。」


一応確認したいんだが、君、特殊な性癖持ってないよね?




メイドのシーデーは外に控えるものだと思っていたが、

何やらエプロンのようなものを用意し始めた。

革かなにかで出来た防水性のヤツだな?


 「シーデーも入るの?」

 「もちろんです、

 さすがに浴槽の中まではご遠慮いたしますが、洗い場でお体をお流しいたします。」


一緒に風呂に入らないまでも、

メイド服にエプロン装備までしてオレのカラダを洗うのか。

うううう、貴族恐るべし!


だ、だが、これはチャンスでもある。

風呂場であれば、他の誰かに会話が聞かれる恐れはない。

ツェルヘルミアの謎を解き明かすには、この場が最適だろう。

問題はシーデーが、どこまで知っているかなんだが・・・。




結論から言うと・・・

謎でもなんでもなかった。


すぐにツェルヘルミアの境遇は判明した。


問題は・・・



「それ」をどうやって回避すればいいか、オレには解決する手段が全くわからないこと。


そしてむしろ・・・

オレがこのツェルヘルミアのカラダに入って・・・

事態は一層最悪なものになりかねないという話になってしまっていたのだ。




 「ねぇ・・・シーデー、聞いていいかしら?」

 「はい? お嬢様なんなりと・・・。」


 「私の記憶がはっきりしてないってことは言ったわよね?」

 「え? ええ、先程もお聞きしましたが・・・。」


 「では、あなたは知っているのかしら?

 どうして私は黙ってこの屋敷や領地から出ようとしたの?」


そこでオレのカラダを洗っていたシーデーの動作が一瞬強張る。

やはり何かしら事情を知っているようだ。


 「あの・・・それは私ごときが・・・。」


 「それをはっきりさせないと、御者のモリソンの死にも正面から向き合えないわ。

 私に責任があるのなら、彼にも家族がいるのだし、そんないい加減なことでは貴族として許されないと思うの。」


 「お、お嬢様・・・っ!」


どうやら無茶苦茶真剣な話と受け止められてしまったらしい。

シーデーは可哀そうなくらい、顔を歪ませて葛藤しているようだ。

これでツェルヘルミアが、

「珍しいお花を見に行きたかったの」、

とかふざけた理由で出て行こうとしていたなら、オレの立つ瀬がなくなるからな?


 「このまま、何も知らないまま、流れに身を任せた方がお嬢様にとっては幸せかもしれないのですが・・・。」


マジか。

自分の黒歴史を明らかにされるとか、

そんなんじゃないよな?


 「そんな偽りの幸せなんか要らないわ。

 教えて。

 私に何があったの・・・?」


とはいえ、避けちゃならん話だろ。

オレはもう覚悟を決めてるんだ。


 「わ、わかりました。

 でも、これを知っているのは使用人の中でも一部です。

 旦那様も奥方様も、それが原因でお嬢様が家出なされるとは夢にも思ってもいなかったと思います・・・。」


 「家出、なんだ。

 ・・・その言い方だと、お父様もお母様も私が家出する原因になったもの自体は知っているということかしら?」


 「は、はい、そしてそのことに納得できなかったお嬢様と旦那様との間で、先日激しい言い合いをなさっていて・・・。」


親子喧嘩かぁ・・・。

家出の直接のきっかけはそれなんだろうな。



まぁ可愛らしいっちゃあ、可愛らしいが・・・。


 「で、そのもともとの原因て?」


シーデーはオレの髪をお湯で濡らしながら言いにくそうに顔を歪めた。


 「ご、ご婚姻のお話なのですが・・・。」



はい?

ご、こん、いん?


 「ご・・・ご婚姻って・・・結婚のこと!?」


 「は、はい、左様です・・・。」


 「だ、誰が・・・誰と・・・!?」


 「ツェ、ツェルヘルミアお嬢様とです・・・。」

 「私!?

 わ、私が誰と結婚するって言うのです!?」


 「あ、あの・・・やっぱり覚えてらっしゃらないんですね・・・。

 この国の南部に位置するダリアンテ領の領主の息子さんで、

 オーギュスト・ダリアンテ様とお聞きしてますが・・・。」


それなんて?


 「わ、わ、私がそのオーギュスト・だれなんとかっていう人と結婚することになってたっていうのっ!?」


 「オーギュスト・ダリアンテ様、です。

 ・・・これはツェルヘルミア様自身の口から聞いたことなんですが、

 三か月程前のパーティーで、そのオーギュスト・ダリアンテ様とお嬢様はお会いしたそうなのですが、その席で大層相手方に気にいられたみたいで・・・。

 ダリアンテ領はトライバル王国の中でも経済的にも豊かで、この婚姻が進めば、

 侯爵家にとってもかなりメリットがあるとは聞いておりました。」


 「そ、それでどうしてツェルヘルミア・・・いえ、私はそんな嫌がって・・・?」


オレはいやだぞ。

女のカラダになったとたんに、男の相手なんかしろなんてただの拷問だろ!?

もしかして、さっきの城門のところで気持ちの悪い夢見たのはそれが原因か!?


 「は、はい、一つには領主のダリアンテ様は伯爵格で、侯爵格であるオリオンバート家より扱いが低くなることにご不満だったのと・・・。」


なるほど、プライドが高い貴族ならわからんでもないが、それだけじゃないよな?

今までのこのツェルヘルミアとして行動してきて違和感を覚える。

他に理由があるはずだ。


 「あ、あの、私が見たことでなく、あくまでお嬢様が語られた話なのですが・・・。」


それはさっきも聞いた。

彼女にはそれを強調せざるを得ない理由があるのか。


 「言って。

 少々のことでは驚かないわよ?」


 「は、はい、大変恐れ多いのですが・・・。」


 「う、うん、なに?」


 「あの、オーギュスト・ダリアンテ様は・・・

 まだ二十歳なのにも拘わらず、ぶくぶくオークのように太ってて、

 口を開けば『デュフフッ』と下品な笑い声しかあげず、

 食事も脂っこいものばっかりしかお召し上がりにならないとかで、

 お嬢様はもう生理的に受け付けないとか・・・。」



おっふ。


・・・おお、神よ。

いや、神は死んだのか・・・。


なんでオレがこんな目に・・・


ちなみに、オーギュストくんは、

メリーさんに刈られるような悪いことはしてません。

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