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第四十九話 会長ラプラスと少女オデム


お喋りしている間に二試合目だ。

と言っても番狂わせは起こらない。

二試合のハーフリング弓使いとウィルバーは、ガハハとウィルバー完勝。


三試合目はヒューマンとエルフのミストラン、にこにこしながらミストランの勝利。


四試合目はダークエルフのベルナールとヒューマンの冒険者。

何のパフォーマンスも見せずにベルナール圧勝。

冒険者はBランクだそうだが、

とても悔しそうに騒いでいた。


最後は紹介されていなかったハイエルフとヒューマンの冒険者。

これが中々名勝負かと思われたが、

終わってみればヒューマンの技量が明らかにハイエルフより上回っていた。

ヒューマンの方は高齢な部類になるのだろうが、なんとAランクパーティーから来たという。

まあ後衛ならある程度年齢があってもやっていけるしな。


 「いやあ、Aランクと言っても、もう引退する年さ。

 パーティーの1人がこのビスタール出身の魔術士なんでね、

 解散前の記念旅行の一環で、ここに来てるのさ。」


お、これはその魔術士を狙えるかとも思ったが、

魔術士としては現役を続けられても、

もう長年連れ添ったパーティー以外に何かを求めることもないらしい。

ある程度、稼ぎは溜まっているので、

その魔術士も故郷でのんびりするそうだ。


ここで会場内にアナウンスが入る。

 『皆さま、ご観覧ありがとうございました。

 選ばれた5人で、明日の決勝戦を行います!

 競技内容は明日発表いたしますが、

 皆さま、決勝に残った達人たちに盛大な拍手をお願いいたします!!』


割れんばかりの拍手の渦。

ウィルバーとミストランがその拍手に和かに対応していた。

ベルナールは軽く頭を下げ、

高齢のヒューマンは恥ずかしそうに片手を上げていた。


こういう謙虚な人は好感が持てるんだよなぁ。

今まで偉そうな奴らばっかり相手にしていた反動か、

まあ、オレ自身にも思い当たる部分があるんで無闇に他人を責められないんだが。

・・・オレも丸くなったよ。


会場係の職員にも、明日の集合時間や諸注意などを受け解散となる。

明日戦う奴らと、軽く舐められない程度に挨拶をして、オレはその場を後にした。


 さて、リィナはと・・・



な ん だ !?



リィナを探そうと振り向き様、オレの足が止まった。

いや、身動き一つ取れない。

振り返って前を歩こうとしたその瞬間、


「それ」は立っていたのだ。



フリフリの白いレースをふんだんに使ったいいとこのお嬢さま?

そんな感じの12才ぐらいの女の子の「姿をした何かがそこにあった」。


そう、何故こんな紛らわしい表現を使うのか、

それはその、少女が人間に・・・いや、生き物にさえ見えなかったからだ。


肩までかかる金髪の少女・・・

だが、その瞳はまるで石でもはまっているかのように奥を見通せない真っ赤な燃えるような輝きだった。


赤い瞳というならマルゴット女王を思い出す。

だが、マルゴット女王の瞳は普通に白い部分もある。

この少女にはそれがない。

眼球全てが血のように真っ赤なのだ。


 「お兄ちゃん。」


喋った!?

一瞬、魔物かとも思ったが、そういうわけでもないようだ。

もしかして何らかの疾患なのだろうか、

だとしたら悪い事をしたな。


 「お兄ちゃん?」

オレが反応できなかったので、

再び少女は口を開いた。


 「あ、ああ、ごめんごめん、

 ぶつかりそうだったかな、

 ちょっとビックリしただけさ、

 君は平気?」


少女の瞳はこちらを向いたまま、

だが、首の動きも体の揺れも不自然な気がする。

何というか、人工的な・・・。


 「平気だよ?

 ぶつかってもオデム強いもの。

 ところで、お兄ちゃん、弓が上手いのね?

 あたし、狼の人と会うのも初めて。

 ね? モフモフしてもいい?」


なんだ、この子は?

どう見てもエルフではない。

て言うか、会話の流れはちょっとおかしいような、

それとも、この年頃の子なら仕方ない範囲か、

どっちにしても警戒心てものが何もない。


迂闊に対応すると、こっちが誘拐犯扱いされそうで恐ろしい。

何しろこっちの外ヅラはあくまでも狼獣人なのだから。


てかモフモフって。


 「ダメだ。

 知らない人に声かけちゃダメだとお父さんかお母さんには教わらなかったのかい?

 どうしてもオレに触りたければ、

 お父さんかお母さんのいるところでな。」


オレとしては、やんわりと、そして、ビシッと断ったつもりだ。

だが、少女はオレのいうことなど気にも留めない。


 「オデム強いから平気。

 お兄ちゃんが嫌じゃないなら触らせて!」


なんなんだ、コイツは。

オレは助けを求めるように後ろを振り返るとエルフ達がニヤニヤしている。

 「いいじゃねーか、あんちゃん。

 なんか疑われそうになったらオレが証言してやるよ、

 可愛い女の子のお願いを断るもんじゃねーぞ?」


かわいい・・・ね。

この不気味な真っ赤の瞳でなければな。

ウィルバーの位置からはこの女の子の瞳は見えないのだろうか。


とりあえず断り続けても放してくれそうにないので、「少しだけなら」と許してやった。


その途端、少女はにっこりと笑ってオレの体毛の中にカラダ埋めてきやがった!

おい、嫁入り前の子がなんてこと!


ちなみにオレはロリコンではない。

もちろん普通に、こんな異様な形相の子に警戒心を解くことはないが、とにかく絵面が不味い。


ここにリィナがやってきたら血を見る危険すらある。


だが、その予想は杞憂に終わった。

オデムという女の子はひとしきりオレにスリスリすると満足そうにカラダを放したのだ。


 「お兄ちゃん、ありがとう!

 オデム満足した。

 また今度ね!!」


 「い、いや、いいけど保護者は・・・」


と言いかけたら、どこかで見たようなファッションの男性が慌ててやってきた。

シルクハットに燕尾服って・・・

ラプラス会長じゃないか!


 「あ、ああ!

 オデム、こんなところにいましたか!!

 ダメじゃないか、会場内に入ったら!

 皆さん、お騒がせしました、

 オデムが失礼なことを致しませんでしたか!?」


コイツの娘か、

まあ、確かに着ているものは上流貴族の物でもおかしくはない高価なものだ。

立ち居振る舞いが上流貴族のものではあり得ないが。


 「失礼なことはされてない。

 ・・・ただモフモフされただけだ。」


 「なっ!?

 そ、それは申し訳ありません、

 オデム、あれほど私の側を離れるなと言ったでしょう!!」

 「らぷらすの側はつまんない。」

 「つまっ? オ、オデム貴女はなんてことを・・・。」


ん?

親子でないのか?

まあ、どうでもいいけども。


 「みなさん、お恥ずかしいとこをどうにも・・・。

 色々忙しくてこの子に構ってやれなくて・・・。」


後ろでウィルバーがガハハと笑う。

 「なんでぇ、会長さんの娘さんかぁ、

 まあ、世界有数の商人は、そりゃあ忙しいだろうなあ、

 娘さんからしたら、遊んでもらえなくてつまらんだろうぜ。」


 「いやあ、ホントにお恥ずかしい、

 あ、皆さま、明日の決勝戦は楽しみにさせて頂きます、

 よろしくお願いいたします、それでは!

 ほら、オデム、行きますよ!」


少女はラプラスに手を引かれて歩き始める。

オレはそのままほっといても良かったのだが、一つだけ気になった事を聞いてみることにした。

まあ、気になるのはそれだけじゃないんだが。


 「なあ、立ち入った事を聞くようだが・・・。」

怪訝そうに振り向くラプラス。

 「はい、何でしょう、ケイジ様?」


冒険者ギルド以外で様付けされたのなんか、久しぶりだ。

普通の商店でも獣人のオレに対しあり得ない。

他じゃリィナを引き取った奴隷商のところぐらいじゃないか?

そんな風に呼ばれたのは。


 「詮索するような質問で悪いが、

 その子の眼は、何か疾患か障害でも?」


その言葉にラプラスは一度オデムに視線を飛ばす。

・・・が、オデムに何の反応もない。


かなり無神経な質問である事は理解しているが、どうしても反応がみたかった。


ラプラスは一度困ったような笑みを浮かべたが、静かにワケを話してくれた。

 「・・・ふう、まあ、ご覧の通り、

 こんな目だとこの子には視力がありません。

 ただ、この瞳のせいかは分かりませんが、魔力感知に関しては常識以上の能力が有りましてね、

 大気の中の魔力の流れで誰がどこにいるか、どんな動きをしているか、全て把握できるのですよ。

 日常生活には全く不便はありません。

 不都合と言えるのは、字の読み書きとかが出来ない事ぐらいですかね。」


予想の斜め上を超えてきた。

障害どころか特殊能力じゃないか。

自分のことを強いとか言ってたが、他にも秘密がありそうだ。


もしかしたら、ラプラスが商人として成功しているのにも関係があるかもしれないな。

まあ、今日のところはいいか。

今後、どこかで関わりになるかもしれない。

心の片隅にとどめておくだけでいいだろう。

オレは立ち入ったことを聞いてしまったと頭を下げると、

ラプラスはそんな、とんでもないと向こうも頭を下げて立ち去っていった。

本当に腰が低いな、ラプラス会長は。


ちなみに少女オデムは、首根っこを捕まえられながら、こっちに向かって手を振りながら引きずられていった。


さっき、リィナもオレを引きずって連れ回していたが、

引きずられていくのは、流行りのスタイルかなんかなのか?



 「あんな真っ赤な目の子なんて初めて見るねえ?」

少なくともミストランには見えてたか。

彼女が興味深そうに呟いていたが、

もはやオレの関心ごとは瞳の件ではなかった。


何よりもあの「物体」には人間の匂いが何もしなかったからだ。



 


次回、3体目出現・・・

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