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第四百八十六話 モブ衛兵ローレックの妄想

<視点 衛兵ローレック>


え? 誰だお前って?

いや、そんなこと言われてもオレだって何が何だか・・・。


とりあえず、今の状況から話せばいいのか?

えーと、オレはトライバル王国オリオンバート侯爵領の領都ヘテラで衛兵をしているローレックだ。 

家族は両親と妹がいる。

・・・ああ、そうだよ、独り身だよ。

文句あんのか、畜生。


あ、・・・いや、悪かった。

気にしないでくれ。


話を戻そう。

配属先は領都西側に位置する城壁の守備隊だ。

仕事内容は時間時間によって色々変わる。

城壁の上まで登って外敵や侵入者がいないか監視する役目だったり、

城門を開いて通行人をチェックする役目だったり、

もちろん緊急時には武器を持って戦わないといけない時もある。


休憩時間とかは勿論あるけど、魔物が現れたとか、犯罪者が逃亡しようとしてた時なんかは、当然休んでなんかいられない。

まぁ、功績を上げれば褒賞も出るからその事に対して文句は言わないさ。

・・・ただ、そういう時って大抵、領主様に報告もいらないような些事ばっかりなんだよねぇ・・・。

そうなると「こんなつまらん事件で褒賞なんか出るか、ばかもん。」となるわけだ。


今夜も休憩時間だったんだけどいきなり呼び出された。

今度は何が起きたんだ?


緊急時には待機場所にも分かるように大きな鐘が鳴る。

集合場所に着くと誰も武器を持っていない。

全員揃ったところで隊長が慌てぶりを隠し切れずに大声を上げた。


 「侯爵様の一人娘であるツェルヘルミア令嬢が、ボロボロの姿で城門の外にいらっしゃったそうだ!

 ボランはすぐ侯爵様の屋敷に報告へ向かえ!

 支度をしている間に私がツェルヘルミア様の確認をする!!」


はぁっ?

どういうことだぁ?

仮にも侯爵様やそのご家族が領都から外出する場合はオレら全員にその知らせが入るはず。

勿論、侯爵令嬢が外に出ていたなんて話は聞いていない。

なのになんでその侯爵令嬢が城門の外にいるんだよ!?

しかもボロボロの姿で!?

わけが分かんねぇ。



どんだけツッコミ入れようが、行って確認しないことには話が始まんないよな。

まぁ、オレもツェルヘルミア侯爵令嬢なんて、

なんかのお祭りイベントでもないとお目にかかれる人ではない。

おそらくパレードか新年のお祭りとかで遠目に見たことがある程度だ。


・・・まぁ美人なんだよな・・・?

オレの目には小さく映ってたんで断言はしない。

豪勢なドレス姿だったから、それらのファッションも含めて綺麗な人だと思った。

実際、他人の噂や認識でもとんでもない美人だと言われている。

このオリオンバートの宝石だなんて噂も過剰なものでもないのだろう。





・・・絶句。




確かに服装はボロボロっぽかった。

濡れた土砂が拭い切れてないし、

刃物で切られた訳ではなさそうだけど、ところどころ服は破けているし、まるで焼け焦げたかのように黒ずんでる部分もある・・・。


最初は毛布を肩から纏っていたそうだが、

今は自らの身分を示すためなのか、その毛布を腰元まで下げている。

その振る舞いが何となくエロチックに見えるオレの心は汚れているのだろうか?



でもよ、

髪もグシャグシャだ・・・。

二の腕や首周辺が露出しているが・・・火傷か、あれ・・・。

ところどころミミズ腫れみたいになってるけど痛くないのか・・・。



いや、それより・・・

そんなことどうでもいい。


噂は本当だった・・・。

そんなボロボロの状態だというのに・・・

毅然とした態度で・・・時には柔らかな笑みまで浮かべ・・・

物腰も洗練されていて・・・


何よりも・・・本当に美しい・・・!


身長はかなりある。

ブーツ込みなのだろうが180センチはあるだろう。

オレより背が高い。

・・・そしてその体格に合わせるかのように形のよい大きなバスト!!

ウエストはコルセットで締められてるから正確にはわからないが、せいぜい60センチくらいじゃないか?

思わず両手でその腰に回したくなる欲望に駆られる!


そしてそして流れるようなウェーブの入ったハニーブロンドの豊かな髪・・・!

左の頬の脇に編み込んだ細い髪の束がかわいらしくもあり・・・

確かツェルヘルミア様って18才だったよな?

時折・・・鷹のような鋭い眼光っていうのかな?

見つめられたら視線を逸らす事なんてできないような迫力がある。

そう・・・それ!

プルプルとした少し肉厚の唇と相まって・・・


美しき肉食獣・・・いや、何を言っているのかって、

オレより身長高いこんな女性に迫られたら抵抗なんて一切できないぞ?


って・・・現実に戻れオレ!

そんな妄想起きるわけないだろ!!



隊長とツェルヘルミア様が何を会話していたのか、殆ど頭に入ってこなかった。


理解できたのは、

とにかく彼女を休ませるということだけ。


オレらの待機場所を開放するという。

まぁ他にないもんな。

まさか犯罪者や不法入城者の取調室や拘束所を使う訳にもいかない。


喉が渇いているそうだったので、

急いで水差しやらクッションやら何人かで手分けして用意した。

特に何かを期待していたわけでもなかったが、

お嬢様はたったそれだけのことでオレたちに、

とびっきりの笑顔と優しい言葉を投げかけてくれた。


・・・侯爵家なんてとてつもなく偉そうで雲の上の存在だと思ってたけど・・・


少なくとも彼女は違う!



オレなんか他に適当な仕事もなく、

ある程度危険もあるけど、他に取り柄がなくても就けるこの仕事やってるんだけど・・・

今だけは・・・いや、これからも彼女がオレたちの守る街にいるならと、


まるで生まれ変わった気分だ。



それだけじゃねぇ・・・。

ちょっとこっちもへらへらして隊長に怒られたら、

代わりに謝ってくれたぞ?

しかもオレたちを怒らないでくれだって?


何それ?

オレの隣でベックの奴がマジ天使とか呟いていたが完全に同意する。


え?

隊長、なんだ?

ツェルヘルミア様がお休みになられる間、部屋の前で警戒立哨しろ?

いまオレ休憩時間なんだけどいいかって?


なにを仰いますかあああああああっ!!

やっらっせってっいったっだっきっまっすっとっもぉぉおおおおおおおおおおっ!!


ここで有頂天になってたオレに、

一回だけ冷や水ぶっかけられた出来事があった・・・。



多分オレらを慮ってくれたんだろう。

ツェルヘルミア様がポケットマネーの金貨を差し出して、オレらみんなで仕事明けにでも使ってくれという。



くぅぅぅ、なんというお優しきお方!!

この方のためなら死んでもいい!!

なのに・・・なのに隊長のやろう!!

かっこつけてんじゃねーぞ?

金貨の受け取り拒否しやがった!!

ふざけんなよ!

ツェルヘルミア様オレらみんなで使えって言ってんだろ!?

お前何勝手に拒否してんだよって・・・ああああああああああああああああああ!?


ツェ、ツェルヘルミア様が隊長の指に、

ご、ご自分の指を絡めててええええええええええええっ!?

あんの糞オヤジなにうらやまけしからんマネさらしとんじゃあああああああああ!?




はぁ、はぁ、落ち着けオレ・・・。

隊長の糞野郎はマジでむかつくが、今のオレはツェルヘルミア様の警護を仰せつかった身!

喜んで守らせてもらいましょうか!!


 「それでは迎えの方がいらっしゃったらお声をおかけします。

 それまでどうか安心してお体を休めてくださいませ。」


 「何から何までお世話になります、

 それではお言葉に甘えさせていただきますわ。」


鼻の下を伸ばした隊長が、オレらに一度も見せたことのない笑顔で待機所の扉を閉める。

この後豹変すんだぜ。


 「・・・時折様子を見に来る・・・。

 間違ってもツェルヘルミアお嬢様によからぬことを考えるなよ?

 もし粗相を仕出かしたらクビどころか牢屋にぶち込まれる覚悟をするんだぞ!?」


ほらな?


 「しませんて、そんなこと!」


信用ねーな、この野郎。

まぁでも心配は分かる。

部下がそんなマネしたら、こいつだって左遷か降格だろうしな。


そして何よりも・・・



いま

この場に



部屋の中にいるのはツェルヘルミア様一人・・・


部屋の前にはオレ一人・・・。


邪魔者は他にいない。



ふ、ふふふふふふははははははっ!!



部屋の扉を閉める前、

ツェルヘルミア様は今にも倒れそうなほど眠そうになさっていた。


恐らく五分も経たないうちに寝入ってしまうのではないだろうか?


・・・ならば、

そっと

扉を開け・・・


足音に気をつければ、

あの麗しい寝顔を見ることだって出来るだろう。


穏やかな寝息を耳にして、

いや、至近距離ならその吐息をもオレの顔に受ける事も出来るはずだ。


甘い匂いなのかな。


・・・でもそんな匂いを嗅いじゃったらオレの理性は吹き飛んでしまうに違いない。


ゆっくり隣に腰掛け、

互いの腕が触れ合う程度にくっついて・・・


まだ起きない。

呼吸に乱れもない。


慌てるな。


少しずつ・・・

腕を絡めて・・・

オレの方にカラダを傾けて・・・


そうすると首がオレの肩に落ちるよな?

身長が近い分だけ落差はない。

そのまま安心して寝ていてくれ。


ああ、心地よいツェルヘルミア様の頭の重み。

肌の暖かさ、

腕の柔らかさが気持ちいい。


寝顔も綺麗だ。


いま、無防備な唇がこっちに傾いて




 むっ、足音っ!?




いぬ

「これ・・・このまま続くんすか?」


うりぃ

「うちはもうなんも言えへん・・・。」

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