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第四十八話 大弓術大会本選

出オチ・・・


 『さて、それではいよいよ本選となります!』


再び大弓術大会会場。

いよいよ予選を勝ち抜いた10人での本選である。


 『ではここで、大会協賛者である、「ラプラス商会会長」ラプラス様より、

本選開催のご挨拶と、本選のルール説明をお願いいたします!

 ラプラス会長どうぞ!!』


 「ラプラス商会?」

聞いたことがある。

グリフィス公国だけでなく、周辺各地の商人ギルドの間で急激に勢力を拡大してきた商会だという。

エルフの街にも手を伸ばしているのか。


 「初めて見たが・・・ヒューマンだよな?」

だが、オレの見立ては間違っていたようだ。

隣にいた、先ほどの大柄なエルフがそっと教えてくれた。

 「噂じゃ、ヒューマンとエルフのハーフのようだ。

 見えるか? 耳が少し尖っているだろう?」


ああ、本当だ。

シルクハットのおかげで見づらかったが確かに耳が尖っている。

それよりも・・・


そう、講演台に上ったその男は、

風変わりな格好をしていた。

これまで旅してきた土地ではいずれも見たことのない格好だ。


身長は175・・・くらい、スマートな体型にビシッとした、オレンジ色の燕尾服のような上着を着こなしている。

テーラードの襟とズボンは黒で合わせている。

そして初めて見たと言ってもいいのが蝶ネクタイだ。

どこの文化の物なのだろう。

そしてシルクハットにカイゼル髭、モノクル眼鏡だ。

いろんな意味で凄いな・・・。


 「彼はビスタール出身なのか?」

 「いや、そこは良くわからん。

 だが、武器の商売なんかで手広く儲けてるようだ。

 ほれ、ここの大会で使っている弓矢も、ラプラス商会で用意したものだ。」


ああ、なるほど、

宣伝と販売促進会も兼ねているのか。

さすが商人だ。


そこでラプラスの挨拶が始まる。

 『えー、皆さま、

 このビスタール大弓術大会にお越しいただき誠にありがとうございます。

 早いもので、私たち『ラプラス商会』が協力させていただくのも、

 今年で3年目になります。

 さて、選ばれた10名の名人の方々には、

 くじを引いていただき、二人一組になっていただきます。

 先ほどは動かない的を狙って頂きましたが、今度は違います!

 大会の運営者たちが、会場の左右から一投ずつ的を空中に放り投げます。

その的を先に射抜いた方にポイントが与えられるというわけです。

 先に5ポイント先取した方の勝ち抜けとなります。

 いかがですか!?

 今度は的が動きますし、何より相手より先に射らねばならない。

 難易度は格段にあがったと言っていいでしょう!』



なるほど、これはプロのハンター向けと言ってもいいな。

的に当てる練習しかしてない者は絶対に勝ち目がない。

さぁ、オレの相手は誰だ?


全員、一本ずつくじを引かされる。

くじの下の部分が色分けされていて、

それぞれ黒、赤、青、緑、白に塗り分けられていた。

オレと同じ青を引いたのはハイエルフの中年男性。

全員引いたところで、会長ラプラスが参加メンバーの紹介を行う。

そういや、エントリー時にプロフィール書かされたな。


 『それでは本選第一試合!

 エントリーナンバー43番!

 ハンターギルド所属! Bランクハンター!

 必中のテーダー!!

 過去三回大会に出場し、本選出場は2回目!!

 さて、この大会で更に弓使いの高みへ上ることができるか!!』


Bランク・・・そこそこか。

それにしても名前の所で一瞬やな予感がしたな。

まぁ気のせいだろう、

そしてオレの番か。


 『続いて対戦するは、今大会初出場!!  

 おお! これは珍しい!

 冒険者ギルドDランク! 剣士にして弓使い!!

 狼獣人、皆殺しのケイジ!!

 歯向かう者は一片の情けもなく食い殺されてしまうのかぁ!?』


会場から悲鳴が沸き起こる。


ちょっと待て!

そんな事プロフ欄に書いてないぞ!!

どういうこ・・・


そこでオレは一つの可能性に気付く。

リィナは・・・


観客席にリィナをすぐに見つけたが、

オレと視線を合わせると、すぐに顔を背けやがった・・・!

てめぇか・・・!!


 ぎるてぃッ!!


周りを見ると、さっきまで友好的だったエルフのおっちゃんも、女性のミストランもあからさまに引いてるじゃないか!


 ちょっと、オレそんな過激じゃないから!!




さて、気分を切り替えよう・・・。

オレは用意された弓矢を揃え、試合のラインに立つ。

隣には既にテーダーとやらが準備を終えていた。

 「やぁ、獣人とは珍しいね、よろしく頼むよ。」


余裕ありありってところだな。

まぁオレは初出場なんだから仕方ない。

 「こちらこそ・・・な。」


近場にいる運営員がオレたちに準備完了の確認を取ると、

彼は笛を吹いて、競技開始の合図を行った。


  ピィィッ!!


会場の下手側からボール状の的が空に向かって放たれた!

山なりのカーブを描く。

スピードは大したことはない。

オレはすぐに弓を引き絞って狙いを定め・・・


 ザシュッ!!


んっ!?


 『最初のポイントは必中のテーダー!!

 鮮やかな一矢でした!!』


思わず振り返ると、奴は余裕の笑みを浮かべていた・・・。

おいおいおい、やるじゃねーかよ・・・。

これはちょっと考えた方が良さそうだ。


 『続いて二投目!!』


再びテーダーが標的を射る。

その満足気な表情は、

次の瞬間、オレを見て呆気にとられたようになった。


そう、今回オレは何もしてない。

振り返って、標的を投じられてからテーダーが如何なタイミングで矢を射ているのか「観察」させてもらった。


テーダーが呆れたように話しかけてきた。

 「これはこれは、

 確かにルール上は問題ないですが、

 そんな付け焼き刃でタイミングを図れるとでも?」


オレは獣人らしい笑みを浮かべておく。

 「気にするな、

 5ポイント取られなければ勝負は決まらないんだろう?

 それまで気持ち良く狙ってくれ。」


 「ふっ、まあ好きにして下さい。」


続いて会場の下手、すなわち右側から標的が飛ぶ。

スピードは先程より速いか?

そして今回、オレはテーダーを観察しながら自らの挙動も合わせてみる。

いけるか・・・。



 「おもしれーな、狼のあんちゃん。」

 「あんなんでテーダーに敵うかどうかわかんないけど切り替えの早さは凄いね?」


後ろで大柄エルフとミストランが会話しているのが聞こえる。

まあ、オレは少々「特殊」でね。


さて4投目。


笛の音と共に今度は上手側からボールが飛ぶ!

距離的にはヤツの方が近い・・・が!


 ザシュッ!!


会場から歓声が沸く。

 『おおおっと!!

 今度はお返しばかりに皆殺しのケイジが当てたっー!!』


だからその二つ名止めて!!


後ろでテーダーが、

信じられないものでも見たかのような顔をしている。

 「ば、ばかな・・・。」

 「やればできるな。

 最初は戸惑ったけどもな・・・!」


十分に弦を絞れば命中率も威力も跳ねあがるが、

矢を射るまでの時間がかかってしまう。

必要最低限の動きで目標を捉えねばならないわけだ。


 「おおおおお、ケイジかっこいいぞ~!!」

歓声の中にリィナの声が混じっている。

最初、テーダーに先行されてただけに、

必死で応援してくれてるみたいだな。

いいヤツだよ、ほんとに。

あいつがいなかったら、オレはこうして旅ができたかどうかもわからない。

なら・・・、

感謝の気持ちを込めて、あいつの期待に応えてやらないと・・・な!!


続けてオレはポイントを連取する。

終いに必中のテーダーは焦ったのか、

狙いも中途半端なまま、オレより速く射ることに成功したが、

狙いが甘く目標を外してしまう。

 「あっ・・・!」


間髪入れずにオレの矢が標的を射抜いた。

そしてその瞬間オレの勝ちが確定となる!


 『本選第一試合、皆殺しのケイジの勝利!!

 勝ったからと言ってテーダー選手を食べないであげて下さいっ!!』


・・・好きにしてくれ・・・もう。

 



退場したら後ろから呼び止められた。

先程のテーダーだ。

 「おめでとう、完敗だよ。

 さっきは失礼な口を叩いて済まなかった。」


礼儀正しいな。

まあ、素直に謝られると悪い気はしない。

 「ああ、競争形式は初めてだったんでな。

 悪いがアンタのタイミングを測らせてもらった。」


ただオレの一言は、テーダーを余計に困らせてしまったらしい。

 「・・・理屈はわかるが、

 そんな簡単に私より速く、しかも確実に狙い通りに射るとか信じられないんだけども・・・。」


またまた後ろで大柄エルフが笑いながら近づいてくる。

 「ガハハハハハ!

 やられちまったな、テーダー!

 それにしてもホントに狼のあんちゃん、Dランクか?

 Bランクの間違いじゃねーのか!?」


 「全くですよ、ウィルバー殿、

 言い訳になりますが、獣人でDランクってことで侮ってしまいました。」


ウィルバーってのか、あのおっさん。

まあ、エルフの名前なんかどうでもいい。

魔術士職だったらスカウトも考えるが、

弓矢使ってる段階で、エルフの中でも魔法が得意でないと言ってるようなもんだからな。


せっかくなんで少し協力してもらうか。

 「冒険者といってもたった二人のパーティーなんでな、

 しかも互いに前衛職なんで効率悪いんだ。

 オレは弓も使えるんで騙し騙しやってきたが、そろそろ本格的な魔術士を求めてここへやって来たんだ。」


 「そういうことか、

 確かに2人じゃ難しいわな。」

 「ああ、魔物単体なら何とかなるんだが、群れを相手にするとどうしても取りこぼしが出てくる。

 おかげで、他所のパーティーについてっておこぼれもらってる状態だ。

 そんなんだと中々ランクも上がらなくてね。」


無理やり依頼やクエストを受けて名をあげる方法もあるが、

所詮は獣人2人組、迂闊に目立っても後ろ盾すらないのなら、余計なトラブルを招きかねない。

命の危険は任務遂行中だけで沢山だ。



次回、ケイジの前に正体不明の生物が。


2体目登場です。

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