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第四百七十八話 感謝

<視点 ケイジ>


 「皆さん、ありがとうございました!

 カタンダ村のスタンピードはこれで一先ず大丈夫です!」


洞窟内に麻衣さんの大きな声が響き渡る。

嬉しそうだな。

まぁ、知り合いが全員無事だって言うなら安心だろう。

さっきまで何か別のことで慌てふためいていたようだが、人の命や安否には関係なさそうだ。

そういや、さっきカラドックと魅了がどうとか騒いでいたな。

まさか敵の魔物にではなく、村人たちに魅了使ったってのか。

相変わらずえげつない戦術立てるな、カラドック。


 「じゃあ、いよいよ内部探索を再開するよ。

 麻衣さん、あとみんなもMPの回復は問題ない?」


オレやリィナが邪龍の分体の襲撃を食い止める役だったんで、

カラドックは全体の監督役だ。

進行を再開するにあたり、カラドックが麻衣さんやみんなの体調を確認する。


みんな問題はなさそうだ。

ここで足を止めてる間も邪龍の分体共は遠慮なく襲い掛かって来たからな。

もっとも麻衣さんの危機察知がなくとも撃退するのはオレたちで十分だった。


二体ほど大物がいた。

地上でラプラスの飛行馬車を襲ってきたような巨人種とでも言えばいいのか、

虫オーガタイプで身の丈3メートルはありそうな怪物。

恐らくオレたちがいたあの場所に、呼びだせる最大のサイズがあれなんだろう。

それ以上のサイズだと洞窟の天井につかえて行動に支障が出るに違いない。


確かに脅威を覚えるほどの破壊力を持つ個体だったが、

オレの足止め、タバサの防御術、アガサの拘束術、

そしてリィナとヨルの攻撃で全て捌けた。


油断するつもりはないが、恐らく邪龍の眷属・分体の強さはこの辺りが限界なのだろう。

もっと広さや高さを限定しない場所なら

更に巨大な分体も作れるのかもしれないが・・・。



どの道、麻衣さんが戦線に復帰した以上、

巨大な敵も質量の大きい敵も恐れるほどのものではない。

虚術とやらで無重力にしちゃえばいいからな。


そうなるとむしろ恐ろしいのは逆に小さい虫レベルかもしれない。

毒や酸持ちだっているだろう。

アガサの範囲魔法をすり抜けてこられると厄介だ。


 「ああ、それならフクちゃん分裂させるか、

 大量の蛇さん呼んでガードしてもらいますよ?」


麻衣さんが頼りになりすぎる。

いや、みんな凄いよな。

タバサもそうだし、アガサもリィナもヨルもカラドックも。


オレなんかただ目がいいだけだもんな。

そりゃ、レベルはトップだから体力も耐久力も俺が一番だけど、

「みんなの役に」と言われると立つ瀬がない。


オレがパーティーのリーダーでいいのかとも思う。

ああ、一応オレが年長者でもあるのか、

元の世界の人生を加味すればの話ではあるけども。

カラドックは国王だっていうのに、ここは自分の世界じゃないからと、

重要な決断とか意思決定は全てオレに采配を委ねている。


本当に頭が上がらない。


 「どうかしたか、ケイジ?」


オレがいろいろ考えこんでるのを見抜かれたか、

歩きながらカラドックがオレの顔を覗き込んできた。


・・・まったく気遣いまで・・・。


まぁ、オレも心配事をしていたわけじゃないからな。

そんな深刻そうな雰囲気を醸し出していたわけじゃあるまい。

カラドックも気軽な感じだ。


けどよ・・・。


 「何でもないさ、カラドック。

 ただみんな、頼もしくてさ・・・。

 オレとリィナと二人であっぷあっぷしてた頃とは違うな、なんて・・・。

 特にカラドック、お前には内心感謝してたのさ・・・。」


 「・・・え、い、いや、

 何を言ってるんだ、ケイジっ。」


おっと?

カラドックの意表をついてしまったようだな。

表情が乱れてるぞ。


ああ、以前カラドックに言われた言葉を思い出した。

「言うべき時に言わないと後で後悔するぞ」・・・ちょっと違うか?

いや、意味は一緒だ。

言う相手は違うけどな。

けれど、オレにとってカラドックも大事な相手だ。

なら今この場で言ってしまうのも有りかもしれない。

・・・邪龍との戦いの前に。

 

 「そうだ、カラドック、今のうちに言っておきたいことがある。」


 「な、なんだ、ケイジ。」


オレたちは歩みを止めない。

警戒は切らさず、足元や周りに障害物がないか、気を付けながら会話を続ける。

・・・カラドックはオレが何を言うつもりなのか予想もつかないせいか、

戸惑ってるな。

まあ、それはオレが気にする部分じゃない。


 「・・・きっと、お前がいることで、

 お前の弟も救われていたんだろう。

 ・・・何の保証も出来なくて済まないが、

 オレはお前の弟が、

 最後までお前の弟であったことを感謝していたと思うぞ。」



オレが言えることはそれだけだ。

そして言葉の内容に嘘はない。

まぁ、嘘があるとすれば「何の保証も出来ないが」ってとこかな。

「カラドック兄さん、実はオレはあなたの弟の恵介です」って言えればいいんだろうけどな。


あ・・・いや、やっぱりそれも・・・う




ん?


カラドックの足音が聞こえない?


慌ててオレは振り返る。

おい、ちゃんといるじゃないか、

急に足を止めたからびっくりしたろ。


カラドックの奴、顔をうつむかせて何してんだ?


 「おい、カラドック?」


 「・・・い、いや、なんでもない。

 済まないが先に行ってくれないか、ケイジ・・・。」


 「あ、ああ・・・?

 わかった、カラドック・・・。」


どうしたんだ?

そんなにショックなことを言ったつもりもないんだが・・・。



バキッ!!


ぐあっ!?

背中にいきなり衝撃がきたぞっ!?

ってリィナがオレにドロップキック!?


 「おバカ、ケイジ!!

 時と場所を考えろよ!!

 あたしだってあんたに話すタイミング、いつにすればいいのか、ずっと悩んでたんだからな!?

 お前、いま、何も考えずに思いつきだけで言ったろ!!」



えっ!?

そっ、そりゃ確かにオレの思考の流れで言っただけだけど、そんなに大騒ぎすることか?


ぐぼっ!


ゲホッ!?

麻衣さんがオレの脇腹にエルボーを?


 「ま、ま、ま、麻衣さんまで・・・。」


 「せっかくケイジさんのこと見直しかけてたのに・・・、

 いい加減にして下さい、

 カラドックさん、泣いちゃったじゃないですか!」


え、

・・・あ、


ああ・・・


こっちに顔は見せないようにしてるけど、

カラドック、肩を振るわせて・・・


やっちまった・・・



そ、そうだよな、

カラドックがこっちの世界に来て、

オレの生い立ちを聞いて、前世でのオレの姿を重ねてしまったのなら・・・


オレだってそれがわかっているからさっきみたいな言葉を使ったわけだけど・・・


いや、でもホントにオレの正直な気持ちなんだ。

それをどうにかカラドックに伝えたかっただけなんだけど・・・


あ、カラドックが何もなかったかのように手を上げて・・・


 「リ、リィナちゃん、麻衣さん、

 気を遣ってもらって申し訳ない・・・。

 で、でもケイジ、

 君の気持ちは受け取ったよ、

 こっちこそ、ありがとう、だよ・・・。」


必死に声が震えるのを堪えやがって・・・。



し、しかし、確かにカラドックがこうなっちまうんだったら、オレの言動は思慮が足りなかったと言わざるを得ない。


悪かった、カラドック。

思いっきり反省するから許してくれ。


 「みんな、いちゃつくのはそろそろ最後。」

 「みんな、あたし達の旅もいよいよ最後。」


二人のエルフがオレ達をたしなめるように振り返る。



麻衣さんも真剣な表情に戻った。

リィナは全神経を耳に集中。

ヨルはさっきのやり取りに乱入してこなかった。

珍しく空気を読んだのかもしれない。

そして、今こそはと三又の矛を掲げて前方を睨む。


まあ、オレの鼻でもこの先、何かいるのは間違いないと伝えている。


どうやら、最終決戦の時が来たということだな。



・・・カラドックも大丈夫だよな?

うむ、普通に気を取り直しているようだ。


オレに向かって小さな笑みを浮かべた後、

オレの肩を叩いて先に歩き出した。



何かそこで独り言を言ったようだ。

他の人間には聞こえないだろうな。

けど、オレの耳には聞こえたからな。


 「この世界に送られてきて良かった・・・。」


あ、


おい、ちくしょう・・・。


オレまで目が・・・



すいません、ただの話の繋ぎ回でした。

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