第四百七十六話 邪龍との死闘
ぶっくま、ありがとうございます!
<第三者視点>
絶望。
他にこの風景をなんと表現すれば良いのだろうか。
既に戦闘に参加しないはずのポーターたちは護衛ごと全滅していた。
あの、何十メートルも伸びている触手からは誰一人逃れられることは出来なかったのだ。
肝心の、
邪龍討伐メンバーについては、
善戦・・・いや、一進一退というべきか、
それも違う。
邪龍ヌスカポリテカにかなりのダメージを与えることには成功していたが、
同時に取り返しのつかない大きな犠牲をも・・・
「僕の剣閃は全てを切り裂く!!」
剣聖グラナダスの両手剣が邪龍ヌスカポリテカの最大の触手をぶった斬る!!
『バカな』
邪龍はそのカラダの周囲から何十本もの触手を生やしている。
そしてそれは全て同じ動きをしているわけでもなく、まるで一本一本がそれぞれ意志を持っているかのようだ。
触手の太さ、長さはまちまちではあるが、
その破壊力、攻撃力は当然その体積に比例している。
そして、剣聖グラナダスがその最大の触手を切断したということは、残りの触手も切断可能ということだ。
「ダルダンドラは済まないがもう少し耐えてくれ!
残りの触手も全部切り払ってやるからな!!」
そして勿論、攻撃に特化したグラナダスには防御に気を回す余裕などない。
故に、彼を守るのは神殿騎士ダルダンドラの役目だ。
「ま、任せてください、この為にわたしは・・・!」
ダルダンドラのタワーシールドは邪龍の主要な攻撃を全て弾くことに成功していた。
・・・もちろん、気を一瞬たりとも抜いてしまえば、致命の一撃を喰らうことになるのも必定。
全てがギリギリの状況だった。
「細けえヤツらはあたしに任せな!!
『サウザンドエッジ!!』」
舞踏戦士オフューリアのファイナルスキルが発動!
広範囲に細かい突きを放ち、微細な触手を無力化してゆく。
「おぉらおらおらっ!!
オレたちもいるんだぜぇ!?」
聖騎士アレクセイとウエポンマスター・エスカトールは本体への攻撃だ。
アレクセイの剣には既に光属性の付与がかけられ、着実に邪龍へのダメージを加えてゆく。
彼だけではない。
エスカトールのミスリル槍には元々属性付加こそされてないものの、
聖女ベルリネッタが対邪龍に向けて光の祝福を与えている。
このパーティー、
今でいう魔法使いこそいないが、
対邪龍という意味ではまさしくこの為に選抜された者達である。
このまま上手くいけば、邪龍といえども・・・
『倒せると思ったか、この我を。』
「不味い!
何か来る!?」
邪龍の頭部がパックリと開く。
「ブレスか!?」
「私が護ります!!
『ホーリーチェーン』!!」
瞬時に聖女ベルリネッタが反応した!
聖女ベルリネッタだけのユニークスキル、
光の鎖が彼らパーティーの周囲を守るように回転、
そしてそれは鎖が展開する間、全ての邪を防ぐ結界と成す。
その直後、
邪龍から忌まわしきブレスが放たれるも、
聖女ベルリネッタの結界を突き破ることはない。
もっとも、
ブレスを浴びた彼らの周辺は、
岩も草木も、後方の仲間の死体でさえも全て塵と化してしまっていた・・・。
「人も物も全て崩壊させてしまうブレスか・・・、
聖女殿がいなければ我らも・・・」
『このブレスを耐えるか、忌々しい者どもよ。』
「み、皆さん、それより・・・」
邪龍の攻撃を防ぎ切った聖女ベルリネッタだが、その声は弱々しい。
その理由はたった一つ。
「お前ら、聖女ちゃんに頼り切るなっ!!
これだけの術を使ったら残りの魔力量もあと僅かな筈だ!!
一気に畳み掛けるぞ!!」
聖騎士アレクセイの判断は間違ってない。
そして、全てのメンバーが今こそ総攻撃に転じる時だと判断したのだ。
「おおおおお!
『クロスブレイク!!』」
聖騎士アレクセイの二連撃!
邪龍の重要器官に直撃すれば、その動きも停止させることが出来よう。
だが。
「ぐはっ・・・
触手・・・? どこから」
邪龍を目前にしたアレクセイの背後から特大の触手がそのカラダを突き破る。
「「「アレクセイーッ!?」」」
『我が触手を斬ったのは見事。
だが、我の再生能力を忘れるとはな。』
光属性の攻撃なら、邪龍の再生を妨げることができる筈。
だがこれは恐らく一度切断された触手を邪龍自ら・・・
「アレクセイ様を助けてくださいっ!
今ならまだ回復できますっ!!」
聖女ベルリネッタから悲痛な叫び声があがる。
確かに即死でなければ彼女の回復術でアレクセイを助けることは出来るだろう。
けれど、彼らを阻む触手はまだ何十本も健在なのだ。
そんな状況でもどうにか出来る者など・・・。
いるとすればパーティーリーダーの剣聖グラナダス・・・。
聖女ベルリネッタは縋るようにグラナダスへと救いを求めて
「グラナダス・・・様?」
振り返った先にグラナダスの姿がない。
いや、正確に言えばグラナダスの顔がどこにもないのだ。
パーティーメンバーの「カラダの数」は合っているにも拘らず。
そして・・・
頭の存在しない一人のカラダから真っ赤な血が噴水のように噴き出す。
数秒遅れて・・・
剣聖グラナダスだった男のカラダが大地に沈む。
ああ、少し離れた場所にグラナダスの顔が転がっていたではないか。
「グラナダス王子ぃいいいっ!!」
邪龍への攻撃も忘れ親友の元に駆け寄るエスカトール。
けれど、首を切断されてしまえば、
いかなる回復術も間に合わない。
「そ、そんな、
グラナダス様に・・・アレクセイ様も。」
聖女ベルリネッタのユニークスキル、ホーリーチェーンは長時間展開できる防御呪文ではない。
既にその結界は解かれてしまっている。
その瞬間を邪龍は見逃さなかったのだ。
「な、なんて事だ、
この、パーティーの最も攻撃力が高い二人を・・・。」
神殿騎士ダルダンドラは防御主体の騎士である。
攻撃力に特化した戦士がいてこそダルダンドラは真価を発揮する。
なのに、そのトップ戦士二人が戦闘不能になった今では・・・
『ここまでよく粘ったな、なれどここまで。』
「てぇんめぇええ、よくもおおおおおっ!!」
「オフューリア様、いけませんっ!!」
天性の反射神経で絶え間なく襲い来る触手の群れを避けまくるオフューリア。
けれど彼女の体術を以てしても邪龍のカラダにはその牙は届かない。
「・・・ガフっ」
触手の一本が彼女の腹を突き破る。
「オフューリアーッ!?」
邪龍は舞踏戦士オフューリアの体に興味はないとばかり、
その体が動かなくなったのを確かめると、彼女のカラダを無造作に投げ捨てた。
華奢なオフューリアの体がおかしな角度に曲がりながら地面を跳ねる。
・・・かろうじてまだ息があるが・・・。
『そしてもう一人。
・・・む?
なんだ、この魔力は・・・?』
邪龍ヌスカポリテカが異様に感じた魔力の根源、
そこにいたのは溢れる涙で顔をくしゃくしゃにした聖女ベルリネッタ。
「オフューリア様、
も、申し訳ありません・・・
私は聖女失格です・・・、
貴女を助けるより、私は邪龍を・・・。」
助けに行くことは可能だった。
すぐに回復呪文を唱えればオフューリアも復活できたろう。
けれど、その行動に出た途端、もはや邪龍は自分達を全滅させるに違いない。
ならば、取りうる行動はたった一つ。
「ゲボッ、
そ、それでいい、や、やっちまい、な・・・」
大量の血を吐き出すも、最後にオフューリアは笑みを浮かべた。
彼女は自分たちの勝利を信じて疑わなかったのである。
残る魔力を全て使い、聖女ベルリネッタが再びホーリーチェーンを発動・・・
すぐに彼女の周りを光の鎖が・・・
いや、これは違う。
光の回転が聖女ベルリネッタを守る動きから、
その向きを変え、眼前の邪龍に襲いかかるかのように・・・
「私のユニークスキルは進化します!!
守護のホーリーチェーンから・・・
全てを飲み込む光の暴風嵐へ・・・!
『ホーリー・・・
ケーンッ!!』」
『ぬ!?
属性こそ異なるが、それは我の滅びのブレスと同じ・・・おおおおおおお!?』
聖女ベルリネッタを中心に渦を巻いていた光の鎖は、さらに激しく回転し肉眼では捉えられぬほどの速度を放つ。
そして周辺の大気も物質も全て巻き込みながら、その標的はただ一つ、邪龍に向けられる。
体長数十メートルにも及ぶ巨体の邪龍に逃れる術はない。
その光の渦に巻き込まれれば、全ての細胞、物質は分子レベルにまで崩壊する!
『ぐおおおおおおおおろろろろろろろぉぉぉっ!?』
「「やったか!?」」
エスカトールもダルダンドラも、
目の前の光景をただ見ていることしか出来ない。
全ての魔力を失い崩れ落ちる聖女ベルリネッタ。
けれど、
その眼光は未だ前方の邪龍に向けられている。
果たして・・・
・・・いかん、
最後のシーンは頭に浮かんでるけどそこにいくまでどうしよう・・・。
2話で収める予定が後1話・・・。
そしてホーリーチェーンからのハーリーケーンへの転化は、どこかで使えないかと昔から温めていたネタの一つ。
今ここで使ってしまった・・・。
対抗スキルに「乱・鬼・龍!」