第四百七十五話 邪龍討伐前夜
ぶっくま、ありがとうございます!!
<第三者視点>
彼らは6人組の冒険者だった。
・・・冒険者、というくくりは正確ではないかもしれない。
現在と同じようなギルド制度も当時は存在していなかったし、
普段からも生きていく生業として魔物を討伐しているわけではなかったからだ。
けれど、
その経歴、身分はいずれも破格。
彼らのリーダーは勇者という称号すら与えられこそしなかったが、
多くの国々から英雄と認められていた男だった。
剣聖グラナダス。
小国の第三王子でありながら、剣の道を極めたった一人でドラゴンすら屠ったという豪の者である。
そして彼の幼馴染であり、またライバルでもあるエスカトールはその国の将軍の息子にして、あらゆる武具を使いこなすウェポンマスターというレア職にある。
現在、エスカトールの得物はミスリルの長槍だ。
この二人が共に魔物討伐をしているというだけでも心強いユニットなのに、
この場には更に4人の英雄がいる。
金枝教から派遣された柔和な大男、神殿騎士のダルダンドラ。
大振りのメイスを肩に担いで物騒この上ないが、いつも笑顔を絶やさず、神殿に出入りする子供達にも人気がある。
そしてもちろんその実力も慈愛の精神も本物だ。
そしてこちらは他国から、
聖騎士パラディンの称号を得たアレクセイ。
光属性の剣技を得意とする、
某国の王宮騎士団長でもある。
続いてこちらは女性。
国家に縛られず流浪の民でありながら、
フリーで数々の魔物討伐の功績を挙げている舞踏戦士オフューリア。
どこぞの国家の貴族の血を引いているとも言われているが、その出自は明らかになっていない。
彼女の両親が存命の頃、家の跡目争いで血生臭い出来事があったようで、
その為か彼女は貴族に対して、一定以上近づかない関係を見せている。
そして、
このパーティーに明らかに場違いと思われる女性が一人。
聖女ベルリネッタ。
冒険者にも見えず、魔物討伐を行うようないでたちをしているわけでもなく、まるで一国のお姫様が纏うような、淡く明るいピンク色を基調としたドレスを何重にも羽織っている。
もちろんただ高級そうなドレスだけのはずも無い。
各種魔法・物理耐性を上昇付加させた国宝級のドレスだ。
ハイエルフとヒューマンの混血である彼女はもともと金枝教の人間ですらない。
けれど、類稀な結界能力、破邪呪文を身につけた彼女は、どこにいても人々の救済活動を行っていたため、
金枝教の聖職者たちも特別に聖女の地位を認めざるを得なかった。
何故ならこの世界に破滅的な危機が迫っていたから。
邪龍。
数百年の眠りから覚めた怪物を封じる為。
既に各国の連合軍は、世界各地に発生した邪龍の眷属共の対処に手がいっぱいだ。
否、彼らの使命は選抜された英雄たちの障害を排除すること。
今や、この6人の英雄たちが、
邪龍討伐に対する、人類・亜人すべての希望であったのだ。
全ての国家から一身に期待を受けて邪龍討伐に向かった彼等である。
もちろん、装備、消耗品、食糧、医薬品、身の回りの世話や武具の整備など、
彼等の背後にはこれまた大勢のポーター、フォロワーがいる。
魔物や邪龍の分体が現れた時は、
彼等は戦闘の邪魔にならないよう背後に下がり、数人の騎士が彼等をガードする。
その騎士たちは原則戦闘には参加しない。
あくまで魔物を倒すのは邪龍討伐に集められた英雄たち。
戦闘及び勝利に伴うレベルアップ、スキルポイントを優先的に英雄たちに振り分ける為だ。
そして現在、
彼等の一団は、
その最大の目的、邪龍ヌスカポリテカの寸前にまで迫っていた・・・。
「邪気の濃度が高まりました・・・。
邪龍の棲家は恐らくすぐ近くかと・・・。」
聖女ベルリネッタが警鐘を鳴らす。
既にここまで多くの邪龍の分体を葬ってきた。
剣聖グラナダスも感知能力こそないが、
決戦が近づいていることは肌で感じている。
「みんな、
出身も身分もバラバラな僕らが良くここまで来れたと思うよ。
いよいよなんだね・・・。」
ため息をつく親友エスカトール。
「まったく、最初のころはチームワークもクソも無かったからなあ、
恐らくグラナダス王子は別の意味で仰ってるんだと思うけど、良くここまできたよ、ホントに。」
聖騎士アレクセイがイラついたように口を挟む。
「なーに言ってやがる?
それはお互い様だろ、
けど、ま、いーんじゃねーの?
オレたちの目的は邪龍だ。
それさえ果たしちまえば、どこの国だろうとオレたちは本当の意味で英雄だ。
約束しようぜ、
この戦いが全部終わったら身分も何もかも忘れて飲みつぶれよーやあ?」
この男、聖騎士と認められているにも拘らず、その言動、振る舞いはかなり粗野と言える。
しかしもちろん、その心性は善性であり、
彼の国では貴族にも平民にも人気のある男であった。
「わ、わたし立場上、あまり羽目を外せないんですけど・・・。」
困ったような笑い顔を浮かべる神殿騎士ダルダンドラ。
「はっ、つまんないこと言ってんじゃないよ、ダルダンドラ。
どこにそんな事で文句言う奴いるのさ?
なんならあたしの前に連れてきな?
このオフューリア様がこんこんと説教くれてやるよ!」
この女も口が悪い。
いや、
誰もが気にするのは口の悪さではなく、その肌の露出度であろうか?
もちろんそれは戦闘上自らの動きを阻害されない事が主眼なのだが、
おかげで男性陣が目のやり場にいつも困っているのだ。
そしてさらに始末の悪いことにこの女、その男性達の反応を楽しんでいる。
別に淫乱だとか、男遊びが激しいわけではないのだが、本人なりにギリギリの節度を保っている・・・らしい。
故にその見極めの中で楽しめる分には、一緒にいて大変有り難い存在と言えるだろう。
Mっ気のある男性ならなおさら。
是非、胸の形がはっきりと分かる、この薄皮防具の真下にて、
両膝立ちで跨ってもらいながら、こんこんと説教されたいものである。
・・・いや、一般論として。
「あのう・・・
みなさ〜ん・・・、邪龍の棲家がぁ・・・」
聖女ベルリネッタが消え入りそうな声で目に涙を浮かべていた・・・。
きっと苦労性な聖女なのだろう。
「ほらほら、みんな、聖女殿が困ってるぞ、
もっと彼女のお言葉を真剣に聞いてあげないと。」
「うう、エスカトール様、ありがとうございます、
で、でもできましたら、私のことは聖女ではなく、ベルリネッタと呼んで欲しいな、なんて・・・。」
しかし、聖女ベルリネッタの小さな声はエスカトールの耳には届かない。
「ぬ?
おい、・・・地面が定期的に振動してないか?」
真っ先にその異常に気付いたのはアレクセイだ。
「なんだって?
地震か・・・いや、確かに揺れているが、地震とかじゃなさそうだな・・・。」
「ま、まるで巨大な生物かなにかの接近音じゃないですか!?」
続いてエスカトールもダルダンドラも、
いや、既にこの場にいる全員がこの現象の意味を理解した。
これが通常の平原や山の中で起きた出来事なら、この異常な音源の接近に、近場の動物や魔物は逃げ出したり、飛び去ったりするであろう。
けれど今彼等に近づいているものの正体は、
勿体ぶるわけでもなく正真正銘、邪龍。
その溢れ出る邪気の影響で、もはや周辺に生きる動物や魔物は存在しない。
ただ不気味な地響きのみが彼等の耳に聞こえていたのだ。
「・・・どうやら、あの丘の向こうから近づいてくるようだね・・・。」
舞踏戦士オフューリアの言葉を合図に、
パーティーリーダー、剣聖グラナダスが戦いの開始を告げる。
「ベルリネッタ、『祝福』をみんなにかけてくれ・・・。
いよいよ、僕らの最後の戦いだ・・・。」
「は、はい、わかりました・・・
あ、あの、みなさん・・・。」
「あ〜、なんだあ、聖女ちゃんよ〜?」
「うう、アレクセイ様まで私のことを聖女呼ばわり・・・
み、みなさん絶対に・・・
生きて帰りましょうね?
誰も欠けることなく・・・
みんなで朝まで大騒ぎして、酔い潰れて・・・
金枝教の司教さんには怒られるかもしれませんけど・・・。」
ヒューと口笛吹いた後、聖女ベルリネッタに抱きつく舞踏戦士オフューリア。
「いやあ〜、いいねぇ、いいねぇ、
言うじゃないか、ベル〜、
この旅が終わったら、あんたとはずっと仲間でいたいわね〜?」
「そ、そんな、オフューリア様、
私はもう、とっくに・・・!」
「あ、こ、この話の流れじゃ、わたしも当然、参加・・・してよろしいんですよね?」
「ダルダンドラを酔わせたらどうなるんだろうな?
まさか、性格逆転したりしないよな?
間違っても暴れ上戸はやめてくれよ?
お前が酔って暴れたら無傷で止められる気がしない。」
ウエポンマスター・エスカトールもその点は興味津々らしい。
「あ、おい、笑ってられるのはここまでのようだぜ。
み、見ろよ、あれ!?」
聖騎士アレクセイの言葉とともに、後ろのフォロワー達から恐怖の叫びが巻き起こる。
・・・当たり前だ。
誰だってこれほどの物だと想像すら出来なかっただろう。
自分達の歩くその先・・・
山間の景色に変化が・・・
何十メートルもあるような・・・
どす黒く・・・
細長く、激しく蠢く巨大な触手が、
何本も何本も、
何の変哲もないはずの景色の中から現れたのだから。
何日か前に彼らの夢を見ました。
最近風邪気味で布団の中に入り浸りで夢と現実の隙間状態だったので、
ああ、こいつら邪龍討伐のメンバーにしちゃおうと、
薄ぼんやりと考えついて朝になってました。