第四十七話 大弓術大会予選
森都ビスタールの大弓術大会。
オレがその大会にエントリーする手続きを済ませ終わったのは、
ちょうど予選が始まろうとする時間だったようだ。
会場内にアナウンスが響く。
『まずは予選となります!
50メートル先にある、直径1メートルの的に矢を当てて下さい!!
最初に一本お試しいただき、
続いて三本の矢を放っていただきます!
上位10名の方が本戦に選ばれますが、
同じ成績の方がいらっしゃった場合は、
的を小さくして外した方から脱落となります。
それでは準備が整い次第スタートとなります!』
弓は公平を期すために、
運営が用意したものを使う。
矢羽は事前に与えられチェックができる。
予選突破条件は、少し弓に熟練した者なら難しい注文ではない。
結構、酒の勢いや仲間に囃し立てられて、素人臭い連中も四割くらいいたが、
だいたい15名程の者が三本全て的に当てて、そこからさらに絞り込まれることになった。
もちろんオレも残っている。
『おやあ~、これは素晴らしい!
15名の方が3本全て的に命中させましたあ!
では条件を上げて~
的を直径50センチにいたしましょう~!!』
おっと、これは難易度が上がるな。
距離が短いし、今は風も強くないからどうにかなるが・・・。
ギャラリーからも心配する声が上がるが、
残った15名のうち、まだまだ余裕のありそうな者も多い。
隣にいた体格のいいエルフが得意そうに笑う。
「ガハハハ、的が小さくなろうが、
動かねーもん当てるのなんか、ハンターにとっちゃガキのお遊戯だろうが、なあ?」
それもそうだろうな。
職業で弓を扱う者は、地を駆け空を舞う獣や鳥を狙う訳だし、
環境によっては馬に騎乗しながら獲物を仕留める必要だってある。
まあ、その場合は距離も詰めたり、的もそれなりに大きいんだろうが、
射手が動かなくていいのなら、
狙いを外す率はかなり下がるだろう。
オレはニヤリと笑ってそのガタイのいいエルフに声を掛けた。
「全くだな、ちなみにアンタはこの大会に何度か出てるのか?」
「ああ、3回目だ。
前回は決勝まで行ったんだけどなあ、
この街のハンターギルドのトップのヤツに負けちまった。」
なんだ、冒険者ギルドの代わりにそんなものがあるのか。
と、言っても後で聞いたことだが、
エルフのハンターギルドはこの国出身の者しか登録出来ないので、外国からの冒険者が実質関わる事は出来ない。
まあ、依頼はできるようだけど。
「へえ、そいつはこの場にいるのかい?」
「ガハハ、安心しろ、
一度優勝した奴はその後に参加出来ない仕組みだ。
後、この場でチェックすんなら、そこのダークエルフのベルナールか、オレと同じハンターギルド所属のミストランってとこかあ?」
その言葉に従い視線を移すと、
寡黙そうなダークエルフがこちらをチラリと見たが、すぐにオレに興味なくしたようだ。
次にミストランとやらを探すと、
女性のハイエルフと視線が合う。
こちらは多少社交性があるのか、
自分が紹介されたと気付くと手を振ってくれた。
まあ、せっかく声を掛けてくれたので、
挨拶がわりに予選トップ通過を決めてやるか。
「おっ、行くのか狼のあんちゃん?」
オレは口を開かず手を挙げてそれに答える。
会場の案内役に従ってシューターラインに立つ。
後ろから、「尻尾がカワイイ」とかなんとか聞こえてきた。
さっきの女性ハンターだな?
ちくしょう、シッポが揺れてるのに気づかなかった。
まあいい、とっとと決めてやる。
会場がオレの動きに合わせて静かになる。
別に騒音の中でも構わないが、まあ、これも段取りと言うか、静かになってから射るのもマナーだろう。
会場の審判員の合図とともにオレは弓の弦を弾く。
良く視えるぜ、的が。
そしてオレの放った矢が空気を切り裂いていく!
スカァン!!
おおおお!!
観衆が沸き立つ。
オレの目で「見える」のなら的が小さかろうと関係ない。
どうせ真ん中に吸い込まれるんだからな。
オレは続けて残りの2本もど真ん中に撃ち込む。
そういや、イゾルテは弓の腕はあがったんだろうか?
彼女の技量でもここまでなら出来るはずだ。
いや、彼女の場合、弦を引く筋力次第か。
オレは振り返って、先ほどの大柄なエルフに軽く手を挙げた。
「確かに動かない的なら楽勝だな?」
「やるじゃねーか、狼のあんちゃん!
こりゃ楽しくなってきた!!」
その後、流石に彼ら名前を紹介された者たちは全て的のど真ん中に当ててきた。
他所から来た参加者も惜しかったが、
的を外す者が出て、最終10人に絞られた。
ヒューマンが2人、ハーフリングが1人、そして獣人はオレだけ、
後はエルフだ。
なお、ヒューマンもハーフリングも弓使いの冒険者だそうだ。
遊びに来ただけだが、せっかくの機会なんで参加したという。
まあ、こっちも冒険者の端くれなんで、
見下されたり、侮蔑の視線は感じなかったが、
物珍しげに見られたのは確かだ。
それもそのはず。
獣人の弓使いなんて滅多にいない。
獣人は身体ステータスが高いので、
だいたいは前衛の剣士、アタッカーに就く。
敏捷性を誇る兎型、鼠型ならシーフと言った具合に、役割パターンは決まるものだ。
ちなみに猫型ならオールラウンダー、
虎型、獅子型ならアタッカー専門てとこだろうな。
(視点変更)
一方、
ここは森都ビスタールの中央神殿。
5メートルはあるであろう、高い天窓から、
傾きかけた西日が入り込んでいる。
あと一時間もすれば夜の闇が訪れるのだろう。
神殿の礼拝所には、普段から多くの人間・・・いやエルフが訪れるが、
今ここには二人の男女が向かい合っている。
といっても、恋人とかそんな雰囲気ではない。
どちらかというと上司と部下、そんなイメージか。
だが、それは半分正解であり、半分不正解と言えよう。
「神官長、今年の御霊の帰還は順調?」
女性の方からぞんざいな口の訊き方だ。
誰かが聞いたら、女性の方が上司と思うだろう。
だが、実際は違う。
「・・・芳しくないな・・・。
恐らく去年よりさらに御霊のお戻りが減っている・・・。
このままでは数年もしないうちに、この都にお戻りになる御霊は消失してしまうかもしれない。」
「相変わらず原因不明?」
「うむ、せめて原因さえ掴めれば対策に乗り出せるのだが・・・」
そんな時にこの礼拝所に慌ただしく、一人の神官が入ってきた。
「神官長! ここにおいででしたか!
一大事でございます!!」
「何事だ!?」
「ダークエルフの・・・魔法都市エルドラから魔法兵団の一部隊がやってきました!」
「なんだと!?
このリボン祭りの当日にか!?」
リボン祭りはハイエルフ、ダークエルフ共通のイベントである。
いくら仲が悪いとはいえ、自分たちが大事にしている伝統行事に水を差すような行為は許されない。
或いはその状況にもかかわらず、優先せねばならない緊急事態が起きたとでも言う事か?
「彼らはどこにいるんだ?」
「は、はい、神殿のエントランスに待機しております。
神官長に話があると・・・。」
「むぅ、いったい何だというのだ。
タバサ、お前も一緒に来なさい・・・。」
「父上、了解。」
エントランスには10名前後のローブに身を包んだ部隊がいた。
腰元に短剣を差しているが兵隊と言った雰囲気ではない。
それはそうだろう、彼らは全員が魔術士職、
その手に握るは魔力を高めるための杖装備が一般的である。
「これはこれはアラハキバ神官長殿お久しぶりですな。」
「あなたは・・・確かノードス殿、でしたな、
いったい何用で、こちらに参られた?」
「これはこれは、一介の兵団長に過ぎない私の名を覚えていただきありがとうございます。
いえ、このリボン祭りの日に不調法な真似をしているのは心得ております。
実は緊急事態が起きましてですね。」
「緊急事態とな?」
「は、お恥ずかしい話なのですが、
つい先ごろ、我らの都エルドラの至宝『深淵の黒珠』が盗賊に盗まれまして・・・。」
「なんと!?
あの魔力の源泉かつ、ダークエルフ至高の宝と呼ばれたアレか!?」
「左様でございます、
あれを失ってしまえば、高度な魔力で都市機能を運営する我らの生活にも多大な影響を及ぼします。
速やかに盗賊を捕まえ、処分されないうちにこの手に取り戻したいのです。」
「それで、わざわざ、リボン祭りのこんな日にか・・・。」
「はい、なんとか、盗賊どもがこの都に逃亡したことまでは突き止めたのですが、
これ以上は事を荒立てるのもいろいろ問題が生じますれば、
まずはこちらの神殿に多少の便宜を図っていただけないかと・・・。」
「ふむ、事情は把握した。
そういうことであれば、多少は協力してあげたいところだが、
街中で大捕り物は困りますぞ?」
「心得ております。
今回、私が引き連れてまいりましたのは、
隠密行動も可能なエリート部隊です。
街の住人や旅行者には、一切被害を出さずに盗賊どもを捕縛するつもりです。」
「そういうことであれば、こちらは否応もない。
しかし・・・ダークエルフの至宝を盗み出すなど、いったい、どうやって?」
「どうやって盗まれたか、今以て不明ですが、犯人は判明しています。
奴らは最近世界各地を荒らしまわっている謎の一団・・・。」
「なんと!?」
「その盗賊の名は『バブル三世』!!」
次回予告、出オチ
今回最後まで悩んだのが神官長の名前。
ポンと、最初簡単に決めたはいいが、よく考えたら他の物語の重要人物と名前がかぶってしまっていたことに気付き、今回アップする直前に全て修正。
・・・漏れがないかな。