第四百六十九話 目を疑うような光景
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 エステハン>
「チョコ!
オレは行ってこなきゃなんねぇ!
心細いとは思うがしばらくここを頼む!!
どうしてもオレへの連絡が必要になったら・・・
おい! マイヤーん所の小僧、伝令役を頼まれてくれるか!?」
「え? あ、そ、それは大丈夫だけど・・・。」
「お父さん!
まさか一人で行く気!?
冗談やめてよね!?
妖魔のラミアなんてBランク相当のお父さんが一人で戦っていい相手じゃないでしょ!?」
「・・・そうだな、チョコ、
冒険者の評価クラスに対する魔物の討伐基準としてはお前が正しい。
だがわかるだろ?
村の中にそいつが現れた以上、誰かが戦わなきゃなんねぇんだ!
そして今! ラミアと戦って勝てる可能性があるのはオレしかいねぇんだ!!
オレが行かなきゃ・・・犠牲になる村人が増えるだけだ!!」
「そ、そんな・・・でも! でも!!」
「覚えとけ・・・。
これが冒険者ギルドマスター・・・ま、オレは代行だけどな。
なぁに、そう簡単にオレは負けやしねぇ。
それに必ずしもラミアを倒す必要ねぇんだ。
ある程度ダメージを与えたら向こうだって逃げ帰ることもあるだろう。
そうしたらすぐにここに戻って来るともさ。」
「・・・お父さん、絶対・・・絶対に帰ってきてよ!!
絶対にだよ!!」
ああ、コイツを残して死ねるもんかよ。
チョコの顔が久しぶりに「ギルド受付嬢」からオレの娘の顔に戻るのを見た気がするな。
おい・・・泣くなよ。
オレはチョコの頭の上に手をのせる。
しばらくやってなかったな。
頭をなでようとすると「あたしもう子供じゃないんだからね!」って拒否されてたんだがな。
・・・次にオレがチョコの頭を撫でられる日はいつになるんだろうな。
いや!
もう時間はねぇ!
頭を切り替えるぞ!!
オレは長年愛用の剣を握りしめてギルドの扉を開く。
向かうは村の南・・・ん?
「あ、あれ? なんか変な大声聞こえて?」
オレは違和感を口に出さなかったが、入り口付近にいたマイヤーの小僧も気が付いたようだな。
複数の男の大声だ。
それも近づいてくる。
だが違和感・・・てのはそこじゃねぇ。
既にスタンピードで村のあちこちに魔物が入り込んでるのは分かっている。
本来戦う必要のない村の奴らが戦いに駆り出されるのも仕方のない話だ。
・・・ならそこで聞こえて来るはずの声は戦闘に伴う大声の筈。
魔物への威嚇、自分たちを鼓舞するための怒鳴り声、
・・・あるいは悲鳴、とかな。
いま、聞こえてくる声はそれらのいずれでもない。
それどころか大声は一か所だけでなく、いろんなところから聞こえてくるように思える。
どちらかといえば・・・そう、祭りか?
祭りのときに聞こえてくるような賑やかな歓声・・・。
なんでだ?
うまいこと魔物を倒したとか?
なら喜びの声をあげるならわかる。
だがこんな・・・急にあちこちで戦いに勝利できるような要素なんてないはずだ。
まさかこんな辺鄙な村にたまたま高位の冒険者がやってきたとかじゃ・・・ないよな?
「お、お父さん、どうしたの!?」
チョコはカウンターから飛び出してはいたが、まだその位置じゃこの喧騒の異常さを判じえないかもな。
「・・・気を付けろ、
何かがおかしい。
大勢の男たちの声が近づいてくる。」
「・・・えっ!? えっ!?」
それも声がリズミカルだ。
何かに怯えてとかパニックに陥ってるってわけじゃなさそうだな・・・。
いや、もうそろそろこの通りに見えて来るんじゃねーか?
オレは冒険者ギルドの戸口の前に立ち、何が起きても対処ができるように・・・。
マイヤーんとこの小僧とチョコは奥に引っ込んでるように言っといた。
・・・おい、小僧・・・。
あんまりチョコに近寄るなよな・・・!
・・・ああ、いまはこっちだよな。
お?
見えてきたぞ。
・・・奴らか・・・。
五人くらいの男たち・・・。
ん?
奴ら、全員で何かを担ぎ上げてるな・・・。
何か玄関の扉みてーな板を全員で持ち上げてその板の上に・・・んん?
髪の長い女が乗ってるぞ?
誰だ!?
見た事ねー女だ。
髪はボサボサで・・・青みがかってるが・・・ぶっ!!
胸が丸出しじゃねーかよ!!
あ、女を担いでる野郎どものうちの一人は酒屋のマイヤーだよな!?
・・・てことはこいつら南門から・・・
よくみたら男たちの表情がおかしい。
魔物の襲撃を受けているこの非常時に、あの幸せそうな表情はなんだ?
しかも五人全員・・・?
その瞬間、全てが繋がった。
オレの背中はその一瞬で凍り付いちまったんだ。
南門・・・幸せそうな男たちの表情・・・裸体を隠そうともしない正体不明の女・・・
妖魔・・・ラミア!!
「二人とも中に隠れろォォォッ!!」
ここが正念場だ!!
オレは真正面から奴らの道を塞ぐ!!
近付いてくる奴らの・・・裸の女の目を見たら最期だ!!
今のオレにラミアの魅了を防ぐ術はねぇ!!
一応、ギルドの貴重品保管庫に魅了や状態異常を防ぐアイテムはあるが、
数が限られる以上、そう簡単に持ち出すことは許されねぇ。
ちっ、
オレとしたことがぬかったぜ!!
小僧からラミアが出たと聞いた段階で、保管庫から持ってくるべきだったんだ!
だがもう遅い!!
今から取りに戻ったところでこのタイミングでは・・・!!
あの男たちの表情と行動からして、五人全員魅了されている!
どうするつもりだ!!
こいつら、オレに攻撃をかけてくる気か!?
・・・じゃあ、
オレは村人に・・・こいつらに攻撃を仕掛けられるのか!?
ど素人一人だけならどうにでもできる!!
だが五人全員となると・・・
「アォオオオオオオオオオオオン!!」
って、なんだぁ!?
背後からキラードッグがやってきていたか!!
・・・ち、次から次へと!!
まさにオレがどっちから対処すべきか判断しようとした時、
場違いなくらい軽そうな女の声が響いてきやがった。
「あー、おじさんたち!
攻撃対象の魔物はっけーん!!
よろしくねー!!」
「「「「「はい! ラミィたそっ!! 喜んでっ!!」」」」」
・・・はぁ?
オレが首を戻した瞬間、
戸板の上に乗っかっていた女が跳躍・・・
向かいの商店の屋根に飛び移った・・・。
見たぞ・・・。
その下半身・・・間違いなく人間のものじゃねぇ・・・。
大蛇・・・明らかに蛇の下半身・・・あの女が妖魔ラミアだ。
だがオレにはそこで思考停止する甘さは許されてねぇ・・・。
村人たちが・・・
何の戦闘訓練も受けてねぇはずの五人の村人が、
横一列に並んで全員同じ構えで槍を掲げたのだ。
「「「「「ゴーッ!! キラードッグ、ゴーッ!!」」」」」
オレの脇を一陣の風が吹いた。
奴らはスピードを・・・いや踏み出す足さばきのタイミングすらすべて揃えて、
一匹のキラードッグに向かう。
同時に突き出される五本の槍・・・。
ああ、そりゃキラードッグも避けようがないだろ。
そのカラダに二本の槍がぶっ刺さり動きを止められ、
残りの三本で完全に止めを刺される。
・・・瞬殺じゃねーかよ・・・。
「はーい! みなさんよくできましたー!!」
屋根の上から楽しそうなラミアの声。
そして・・・
「「「「「いえす! ラミィたそ! いえす!!」」」」」
またもや同じ動きで分けわかんねぇ勝どきの声をあげる村人たち。
・・・間違いなく魅了されてるみてぇなんだが・・・・。
「・・・おやじ・・・?」
ああ、マイヤーよ、
お前の息子が、なんだか虫でも見る目でお前のことを見詰めているぞ・・・。
「らみぃたそ~」
麻衣
「あ、あたしも魅了覚えたら、
男の人をこんな目に・・・?」
「麻衣たそ~」