第四百六十四話 ぼっち妖魔は諦めない
何とか更新間に合った!!
<視点 麻衣>
あたしが誰もいない空間に向かって叫んでいるのは、カラドックさんの目から見ても奇異な光景に映ったろう。
「麻衣さん、一体何を・・・?」
とはいえ、今はその説明が出来る状況でもない。
そもそもあたしにしたところで、
ショックから完全に立ち直ったわけじゃないのだ。
カタンダ村壊滅の話が、
嘘とか何かの間違いだとか判明したわけじゃないのだから。
それでも!!
あたしは叫ぶ。
「見物料は・・・高いですよ!!」
『これは感謝のつもりなんだけどね、
息子たちが世話になってるから。』
ああ、そういう。
意外とあいつ、義理堅いとこもあるのか。
「・・・ならみんなを助けてください!!
あなたなら出来るでしょ!!」
ダメ元で聞いてみる。
仮にも天使を名乗るなら、それくらいしてくれたっていい筈だ。
けれど・・・
『それは無理だね。
そこまでする理由はないし、僕が地上の出来事に干渉しないのはこの世界でも同じ事だ。』
だああああああっ!!
やっぱりダメかよ、こんちくしょおおおおおおおっ!!
あんにゃろう、ホントどうしてくれよう!
一瞬でも人の親かと思ったあたしがバカだった!!
『・・・だから出来るのはアドバイスだけさ。
君にはまだ手が残ってるだろう。』
アドバイスだって?
手って言われたって・・・
手なんて、あたしには・・・
そこで急にあたしの視界が広がった。
みんながあたしを取り囲んでいるけど、今あたしが声をかけるべきは、
たった二つのおっぱい・・・
じゃなくてたった一つの顔!!
「ラミィさん!!」
いつの間にかあたしはよろけながらも立ち上がっていた。
カラドックさんがカラダを支えてくれたけど、お礼の言葉は後にしよう。
「ま、麻衣、大丈夫なのー?
急にぶっ倒れてー・・・。」
「あたしは大丈夫です! 大丈夫になりました!!
それよりラミィさんにお願いが!!」
「あ、相変わらずグイグイ来るのねー、それでなーにー?」
「カタンダ村にあるダンジョンから湧き出た魔物・・・
スタンピード中の魔物から生き残ってる人を守ってください!!」
「はあああああああああああああああああああああっ!?
何言っちゃってるの麻衣いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
あたしにそんなことできるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「もうラミィさんのレベルなら、オックスダンジョンの浅い層の魔物なんか余裕でしょう?
ほとんど魅了で片づけられるんじゃないですか?」
「え、あ、そうだけどアンデッドとか虫型には魅了の効果はないわよー!?」
あっ、そりゃそうだよね、
魅了スキルとて万能なわけもない。
「そのあたりは、ベルナさんやエステハンさんに任せましょう!!
少なくとも今のラミィさんが向かえば、あの村に住む人たちにとって大きな助けになります!!」
後は何と言っても土魔法か。
ラミィさんの今の魔力量でどこまで出来るかわからないけど、
アースクリエイトみたいな土地造成魔法が使えるなら、
村の守りにもすんごい役立つはず。
「うーん、でもみんな生きてるかどうかわからないのに?」
それは・・・
いや、その気になればあたしは遠隔透視でみんなの姿を探せる。
探せるけど・・・
正直、怖い・・・。
視るのが怖い。
いま・・・「あいつ」の挑発おかげで瞬間的に立ち直ったけど、
自分の目で事実を知ってしまったなら、ここから先、本当に立ち直れなくなってしまうかもしれない。
「・・・生きてることを信じます。
だからお願いです、ラミィさん、
ダナンさんには会ったことありますよね?
・・・向こうもラミィさんの強烈な姿は・・・忘れてないでしょうから、
あたしや彼の名前を出せば、敵だとは思われない筈です。
何よりスタンピードの群れをやっつければ、きっと人化スキルも手に入りますよ!!」
どのくらい魔物が湧き出てるか分からないけども、恐らくかなりの数になってるはず。
土魔法得意なラミィさんがストーンシャワーで潰していけば、大量のスキルポイントを稼げるだろう。
「もおおおおおおおおおおお、麻衣は無茶なことばっかり言ってええええええ!
ていうか今、ラミアの姿見せたら、もう人化する意味ないでしょうよー!?」
ああ、そうか。
まあ、でも今それはどうでもいいや。
「ほら、人間と子作り、子作り!」
「あっ、そ、そっちか、うーん、うーんん・・・!」
まだ足りないか。
あと何かラミィさんにメリットとして提供できるものはないか・・・?
向こうでたくさんの男の人にチヤホヤされると思うのだけど、
ラミィさんもそんな逆ハー志向ではなさそうだし。
なにかないか、何か・・・
あっ、そうだ!!
「じゃっ、じゃあ!
あたしがこの世界からいなくなる時に、この巾着袋あげますから!!」
この世界に10個しかないというマジックアイテム。
どうせあたしの世界には持って帰れないだろう。
持って帰ったところでそんな物持ってるのがバレたら大騒ぎになる。
だからどこかで処分せざるを得ないのは当然の話。
今はあたしが持ち主認定してるけど、
それさえ解除すれば他人に譲渡できると思う。
「う・・・それって持ち主の魔力量に応じて、収納力が大きくなるんだっけ?
そ、それは美味しいわね!
わ、わかったわよー!
でもあたしの命を優先するわよー?」
よっしゃ!!
「ありがとうございます!
恩に着ますよ、ラミィさん!!」
ついでにMPポーションも二本程渡しておく。
妖魔でも効くのだろうか?
まぁ、あたしにもヨルさんにも効いてるからたぶん大丈夫だと思う。
そう思うことにする。
一瞬、ウチ出の小槌も上げようかと思ったけど、
あれはダメだと寸前で気付いた。
良くない未来しか見えない。
混ぜるな、危険! というやつだ。
とりあえずこれでどうにかなるだろうか。
おかげであたしも何とか持ち直したみたいだ。
思わず「あいつ」にも感謝すべきかと思ったけど、やっぱりいいや。
彼も別にあたしの感謝なんか要らないだろう。
試みに『これでいいんですよね!?』と呼びかけてみたけど、もう返ってくる反応はなかった。
相変わらず自分勝手である。
・・・それにしても「あいつ」、息子たちって言ったか?
やっぱりケイジさんの転生にも関わっているのだろうか。
ていうか、時間軸はどうなってるんだ。
あたしの知ってる「あいつ」は二年前の段階で、まだマーゴお姉さんにも会ってなかった筈なのだけど。
あ、そんな事はどうでもいいですね!!
時間もないのでそのままラミィさんにはお帰り・・・いや、向かっていただいた。
なんだかんだ文句を言いつつ、あたしのお願いを聞いてくれたラミィさんをチョロいなんて思ってはいけない。
無事でいて欲しい「みんな」の中には、当然ラミィさんも含まれるのだ。
そしてあたしもこれで手放しでほっと安心しているわけにもいかない。
ここであたしもやれることはある。
まずはあたしを取り囲むみんなに説明と・・・
そして説得を。