第四百六十二話 ぼっち妖魔はファイナルスキルを浴びる
ちょっと長めです。
タイトルの「ファイナルスキル」とは、そのクラスで最後に覚えられるスキルという意味です。
<視点 麻衣>
決まった!
頭上からのケイジさん、リィナさんの決定的な一撃!!
既に妖魔ラミィさんのアースクリエイトはその変化を停止し、
戦闘空間は一種のアスレチックフィールドのようになっている。
・・・どす黒い岩の素材だけが残念だけど。
そしてあたし達も、隆起した地形の奥まで視線を真っ直ぐ向けることは出来ないけども、
ケイジさんの一撃は、聖騎士ゾンビの肩口から心臓を切り裂いて、ゾンビのカラダは真っ二つに枝分かれしているよう・・・。
ミスリルの鎧とやらはまだ原型を保っている。
ケイジさんは首と肩の繋ぎ目の隙間を通したようだ。
これはケイジさんのユニークスキル・イーグルアイと、素直に技量の成せる技だと思う。
うわ・・・!
聖騎士の傷口からウネウネと触手が湧いて出てきたあ!?
リィナさんの方はどうだ?
相手の踊り子ゾンビの防具は恐らく魔物の革だろう。
ミスリルほどの防御力はないし、
天叢雲剣を帯電させて放った斬撃だ。
邪龍の分体部分にもダメージを与えたろう。
それでもインパクトの瞬間、彼女が無理矢理避けようとしたせいか、
同じく左肩からの剣戟は脇腹に逸れ、
内蔵部分も損傷しているとは思うけど左腕が付け根ごと吹き飛んでいる。
中身の触手部分も焼け焦げているのか、ビクビク蠢いてはいるけども、聖騎士ゾンビの触手ほどの元気はないようだ。
「まだ油断するな!!
人間なら致命傷だが、ゾンビならこれだけでは決定打にならない!!」
カラドックさんの声が飛ぶ。
やっぱりそうか。
しかもただのゾンビじゃない。
中身は邪龍の分体だ。
人間部分の神経を利用しているかどうかも定かではない。
けどここからなんて・・・
「あ、どこ行くですよぉぉ!?」
あれ?
ヨルさんが警戒していた神殿騎士が動いた!?
そりゃあの個体だけ無事なわけだけども、
かつての仲間の元に駆け寄ったところで、これ以上何を守ると・・・?
ヨルさんの反応は遅すぎた。
アースクリエイトの弊害で、ヨルさんも神殿騎士の逃げる方へ容易く移動できなかったからだ。
そしてその神殿騎士ゾンビは変わり果てたかつての仲間の元に
え?
「まさか? そんなバカな!!」
「う、嘘、そんなマネが・・・」
カラドックさんとタバサさんから悲鳴のような声が!!
あたしも一歩遅れて気づいたよ!
でも、そんな事出来るの!?
神殿騎士が光属性の魔力を集めたからだ。
まさか・・・、
治癒呪文!?
あれだけ無惨に切り分けられた仲間を治せるって言うの!?
あまりの意表を突かされケイジさんもリィナさんも反応が遅れた!
ゾンビたちは言葉を話すことはできない。
それでも呪文の発動に成功するの?
神殿騎士の手から柔らかい光が・・・
光が?
『グオオおおおおおおおおおおおお・・・』
あ、これ、悲鳴っていうか、
カラダが崩れていく音みたいな・・・
「「「「ああああ・・・」」」」
あたし達からみんな仲良く納得したような、
あるいは気が抜けたような声が漏れる。
そ、そりゃあそうだよね。
たぶんあれはヒール呪文・・・
それを使おうとした神殿騎士のカラダがボロボロと灰のように崩れていった・・・。
カラダを治されようとしていた聖騎士ゾンビも、神殿騎士の手に触れた部分は灰と化している。
触手部分もだ。
踊り子ゾンビも耐久力の限界か、
聖騎士ゾンビとほとんど同じタイミングで、力なく倒れ込む。
「な、なるほど、
光属性のスキルは、攻撃スキルこそ相手への影響だけだが、
味方対象のスキルは自分達に弱点属性のまま食らってしまうということか・・・。」
「そうなのか?
あの聖騎士はバンバン光属性のスキル使ってたけど、あれでアイツのカラダに影響ないのか?」
どうなんだろうね?
普通ならケイジさんの疑問の通りだと思うのだけど。
「物理的な問題でなくて、
システム的な結果かもしれませんね。」
ということではないだろうか?
「麻衣さん?
システムって・・・」
カラドックさんも気づかないかな。
ていうか、これはアレか。
ゲーム的な知識ないと辿り着きにくい考え方かもね。
「例によって根拠ないんですけどね、
この世界のレベルとかスキルシステムって、
そんな判定しているんじゃないかなって。」
「・・・システム、か。」
まあ、だからどうしたってわけでもないのだけど。
それより、あれだけ騒いで結構あっけなかったな。
さすがにここからなら後はタバサさんのホーリーシャインで・・・
「ねーねー、麻衣ー?」
あ、そろそろラミィさん帰さないと!
まだあたしの魔力は余裕あるけど、無駄遣いしている場合じゃないしね。
「あ、はい、ラミィさん、ありがとうございました、
たぶんこれでもうラミィさんを戦闘で呼び出すことはないかと・・・。」
まあ、元の世界に戻る前に一度挨拶はするつもりだけどね、
それより何か気になることでもあるのかな?
「あー、うん、それはもうホントに絶対やめて欲しいんだけどさー?」
あ、うう、もう、わかってますよ。
「はい、それでは何を?」
「まだ、あたしに経験値入ってきてないよ?」
あ、え、そ、それはまだトドメを・・・
あ!?
「あ、こ、コイツらまだ!?」
うわ!
今の今までうつ伏せにぶっ倒れてた筈なのに、
聖騎士ゾンビと踊り子ゾンビが立ち上がったあああ!!
人間の動きじゃない!!
中の触手が立たせたのか!?
そして二人ともまだ右手に持っている剣を掲げて・・・
「ケイジ! リィナちゃん!!
逃げろおおお!!」
カラドックさんの悲鳴。
あれ?
でも、あのゾンビ二人ともケイジさんたちとは今は距離が離れている筈。
あの状態で攻撃なんて・・・
遠距離攻撃スキルか!!
あ
一瞬先の未来が脳裏に浮かぶ
リィナさんにはいくつもいくつもの鋭いナイフが流星のように突き刺さるイメージ。
そしてケイジさんには
いや、これはあたし達全員にだ。
強烈な光の全体斬撃攻撃!!
「みんな伏せてー!!」
ダメだ、間に合わない。
どうしたって攻撃は食らう。
あとは各自、運良くダメージを如何に低減できるかだけ、
あたしも致命傷だけは
!!
辺りを強烈な光が覆う。
これが聖騎士の全体攻撃か!
っいぎゃああああああああああああああ!
ほとんど同時にしゃがみ込んだあたしの背中に熱い痛みが襲う!!
これ・・・どこまで耐えればって、あたしのHP一般人なみなのにいいいいいい!!
「笑止、この程度でエターナルハイエストオルタナティブ大僧正のタバサちゃんの守りを抜けるとでも!?」
タバサさん!?
オルタナティブってなに?
「『聖なる光よ! ハイヒール』!!」
え!?
敵はまだ攻撃中!!
その中でタバサさん攻撃を喰らいながら治癒呪文発動させたの!?
「まだまだああああああああああああああ!!」
お、おかげで背中の痛みも引いていく。
え、あ、あの、タバサさん、聖騎士ゾンビの全体攻撃をそのまま中和無効化させてるの!?
でもどこまで!?
も・・・もう、い、いや、まだ?
あ、タバサさんの方はもう終わってるね。
恐る恐る顔を上げると、
いつの間にか、既に敵の攻撃も終わってたことに気づいた。
あ、この後のあたし達の方は
「『アイスジャベリン』!!」
「『ホーリーレイ』!!」
カラドックさんとアガサさんが残る二体を串刺しに!
もう邪龍がカラダを操ろうと奴らは動けない。
体からはみ出た触手をうねらせようとも、こっちに届くはずもない。
「全員、無事か・・・!?」
ケイジさんが振り返る。
たぶん全員何かしらダメージ食らったと思うんですよね。
一番ヤバいのは踊り子ゾンビの近くにいたリィナさんか。
「あ~、危なかったぁ・・・。
油断してたつもりはないけど、結構食らっちゃったよ。
タバサのヒールがなかったら、今頃あたしも出血多量でぶっ倒れてたかも。」
たぶん、アレは踊り子戦士のファイナルスキルと言うやつかも。
目に見えない刺突を遠距離から何発も標的に叩きつけるやつだろう。
さっきまで使っていなかったのは、
隙のないリィナさんには避けられると考えていたのだろうか。
まあ、それ以前にヒラヒラ踊っている最中に発動できそうなスキルではない。
足場固めないと撃てないよね。
そして、聖騎士の方は。
「・・・噂には聞いた事があった。
聖騎士には全体光属性攻撃スキルがあるってことは・・・。
実際この身で受ける事になるとはな・・・。」
ケイジさんも何とか無事らしい。
「大丈夫だったか、ケイジ?」
「いや、一瞬ズタボロになったと思う。
タバサがあのタイミングで治癒呪文発動してくれなかったらと思うとゾッとする。」
そしてそのタバサさんはと言うと・・・
「タ、タバサさん!?」
見たらあたしが召喚術を発動し終わった時みたいに両腕を広げたまま固まっていた。
あたしと若干態勢が違うところといえば、
あたしはどちらかというと前のめり、
タバサさんは形のいいバストを天に向けるかのように反り返っているところか。
「・・・全員無事?
何度でも断言、このタバサちゃんがいるうちは皆んなに大怪我させることなど皆無!」
みんなから歓声があがる。
頼りになりますとも。
そしてそれだけで話を済ますほどタバサさんは甘くもない。
「このままトドメを決行、
かつての時代の亡霊たち、今こそ安らかに永眠、
『ホーリーシャイン』!!」
さっきの聖騎士ゾンビの光とは違う。
柔らかな光。
それでもまともに食らうと人体にはダメージとなるんだけどね。
そして不死体には致命となる・・・
いや、既に死んでるか。
とはいえこれで最期だね。
聖騎士と舞踏戦士が灰になってゆく。
その体の内外で触手も暴れてるが逃れる術などない。
耳を塞ぎたくなるような悲鳴をあげながら、
あたし達の前から障害物はなくなった・・・。
しまった!
タイトル麻衣ちゃん用になってなかった!!