第四百六十一話 ラミアの土魔法
ラミィさんも吸血鬼戦を経て成長しています。
<視点 ケイジ>
いったいあいつらは何をやってるんだ?
オレらは最前線でカラダ張ってんだぞ?
オレら・・・か。
「オレら三人で」間違いない筈なんだけどな、
リィナもヨルも、眼前の敵でなく別なものに気を取られていないか?
それでも舞踏戦士だとか神殿騎士にまともにやりあえてるのは素直に感心するべきなのか。
リィナに至っては舞踏戦士の動きを見切り始めている。
じゃあオレの方は?
正直あんまり芳しくない。
聖騎士の光る剣のおかげで奴の剣筋が視えないんだ。
オレのイーグルアイが何の役にも立ってない。
何とか奴の剣筋を予想してギリギリで避けているってところだ。
それでも周りの状況はなんとなく分かっている。
リィナがこいつらの弱点を見つけたらしい。
しょせんヒューマンに過ぎないって?
それはオレらが獣人であることの優位性を言っているのか?
獣人の優位性?
そりゃ確かに身体能力で言えば、
もともとの身体的ステータスがヒューマンより上なのは確かだが・・・
けれど、相手も邪龍討伐にくるような奴らだ。
そのレベルだってそれなりのものだろうし、そうなるとそんなにステータスの差なんてものも・・・。
その話は一度置くとして、平和なはずの後ろの方でも何か大混乱が起きていたようだ。
麻衣さんが召喚術で呼び出した魔物・・・
初めて見るが、あれが以前麻衣さんが言っていた半人半蛇の妖魔ラミア・・・。
こっちも戦闘中だったからチラ見しただけのつもりだったのに、
なんで上半身スッポンポンなんだよ!?
え? 下半身も履いてない?
いいんだよ、蛇の下半身なんて見ても意味ないだろ!!
それより、おかげでまたリィナからあらぬ疑いをかけられるところだったろ!?
そしてその後の流れも大変なことになっていた。
呼び出されたラミアが、眼前の敵の正体を聞いてパニックを起こしてしまったようだ。
・・・冷静に考えるとすっごい当たり前だよな・・・。
召喚術って、獣や魔物でも、会話能力ない奴を呼ぶ分にはそんな気にしなかったけど、
それなりに自由気ままに暮らしてる奴をいきなり戦場に呼び出すって、いくら契約してるからと言っても、下手すると奴隷以下の人権無視の扱いなんじゃないだろうか。
・・・それでもしばらくしたら麻衣さんとラミアの騒ぎは収まったようだ。
「・・・はぁ、はぁ、ほんとにごめんなさい、
でも前回も吸血鬼との戦いでラミィさん、かなりレベルアップしたんじゃないですか?」
「う・・・いや、それはそうなんだけどー?
リスクが大きすぎなーい?
あたしが死んじゃう確率のほうが大きいじゃないのよー。」
「スキルポイントも結構溜まったんじゃ・・・?」
「あー、そうなのよねー、いま浮遊スキル取ろうかどうしようか悩んでるのよねー。」
浮遊スキルだって?
執事魔族のシグが持っていたスキルだよな?
確かに便利そうだが・・・
いや、待てよ?
確か妖魔ラミアって人間食べるんじゃなかったか?
あの蛇の下半身で獲物に近づく時・・・
オレらは獣人の聴覚があるから、その接近音に気づきやすいが・・・
風下から浮遊して近づいてこられたら、実質気づける手段無くならね?
麻衣さん、このラミア、人を喰わないってことでいいのか?
「浮遊スキルもいいですけど、
・・・今度の戦いでスキルポイント貰ったら、
もしかして人化スキルも狙えちゃったりしません?」
人化スキル!?
それって完全に人間と見分けつかなくなるスキルだよな!?
「あー、そ、それはー、むー、魅力的ー!
あたし人間の町で暮らせるかもしれないってことー!?」
「こないだの吸血鬼は人化して人間の町で暮らしていましたからね、
でもラミィさん、人間食べちゃダメですよ?」
「えー、でもそれだとわざわざ人間のフリする意味なくない?」
やっぱり食うのかよ!!
「だから食べちゃダメですって!!
商売覚えれば、飢え死にする心配なくなりますよ!
それにあたし的には、ラミィさんが人間の男の人と結婚して子供作るのも有りだと思ってるんですから!
・・・あ、でも人化中って子供作れるんですかね?」
「あー、それは面白そー!
できるかできないかはともかく、誰か誘ってみちゃおうかー?」
お、おまえら、そんな簡単に子供作るとか・・・生まれてきた子はヒューマンなのか、妖魔なのかどっちになるんだよ!?
子供のことをもっと考えてやれ・・・て
あっ、ていうか、麻衣さん自身もハーフなんだよな!?
「ええっと、話はまとまったのかな・・・。」
途中で遠慮がちなカラドックの声が聞こえてくる。
あいつもあの騒ぎに介入できなかったようだな。
無理もないとは思う。
「あー、このお髭のおじさん、しぶくてあたし好みー!!
ねーねー、あたしといいことしない?」
ちょ、おい!
そんなこと言ったら
「くぉのエロ蛇女何言い出すですよぉォぉぉぉぉぉぉぉ!!
この矛で滅多刺しにしてやるですかぁああああああああああああああああっ!!」
ほら、そうなるうううううううううううう!!
「ヨルさん、落ち着いてください!!
ラミィさんはあたしが制御しますから!!
ラミィさんもここで誘惑活動しないでください!!
敵はあっち!
ゾンビ!!
標的は向こう!!」
「えー、でもあたしの能力、魅了も麻痺もゾンビには効かないよー?」
「えーと、ラミィさんだったかな、
麻衣さんから君は土魔法が得意と聞いてるのだけど・・・。」
「あー、うん、使えるよー!」
カラドックは土魔法を使わせるつもりか?
ストーンバレットか?
それくらいならアガサにだって・・・
いや、まさかストーンシャワー!?
あれ使ったらオレらごとお陀仏になるからな!?
「ケイジ!!」
オレの左隣からリィナの声がかかる。
「どうしたリィナ!?」
「森都ビスタールを思い出して!!」
森都ビスタール!?
あの場所に行ったのはたった二回。
そこで・・・
「あそこで布袋さんとオデムちゃんの能力見たよね!?」
布袋にオデムだと・・・それは
!!
そう言う事か!!
「わかったぞ、リィナ!!」
なら勝負を決めるのはオレとリィナだな!!
「ヨルはこれから起こることに対して待機状態だ!!」
「はっ、はぃぃぃ!?
何が起きるですかぁっぁぁぁああああ!?」
後ろでも話はまとまったようだ。
ラミアの明るい声が聞こえて来る。
「あー、そういうことねー!
じゃあ、さっそく行くよー!!」
今までのグダグダはなんだったのかと言いたいくらいにサクサク話が進んだようだな。
「『母なる大地よ、偉大なる深淵の王の名の下に、我が声に応えよ・・・』」
・・・ん?
あの呪文詠唱は・・・
地系呪文であることに疑いはない。
だがそれはオレの知るアガサの呪文詠唱とも違うし、
けれど・・・どこかで聞き覚えのある・・・
いや、何かオレの記憶とどこか違うのではないか?
そんなオレのふとした引っ掛かりなど、当然のごとく無視されて、
この場に強大な魔力の気配が噴出していく・・・。
あっ、思い出した、これ
「『アースクリエイト』!!」
そうだ、布袋が使った地形変化呪文じゃないか!!
てっきりアースウォールが来ると思ったんだよ!!
あの時もアースウォールの壁の上をオレの姿に変身したオデムが飛び跳ねていった。
だから獣人の脚力なら出来る。
敏捷型の獣人ならその習性でみんな出来る。
こないだのローゼンベルクのスタンピードの時も雪豹獣人ハギルが似たようなことをしていたはずだ。
そして今滅茶苦茶とんでもないことになっている!
アースクリエイトは地形変化呪文!!
今まで平面だった地面があちこち隆起して邪龍ゾンビ共は身動きが取れない。
そう、
どんなに身体能力が優れていようと、
どれほど身のこなしに自信があったとしても、
地べたで暮らしているヒューマンでは立体の地形にはすぐに対応出来やしないのだ!!
だがオレとリィナなら!!
今も隆起し続ける岩の上に飛び乗る!!
跳びまわる!!
奴らはオレらの姿すら追えない!!
もはやオレの視界に映る敵は時が止まったかのように棒立ちしているだけだ!!
オレはベリアルの剣を握る両手に力を籠める。
リィナの天叢雲剣にも青い光が帯電してるな・・・。
オレは聖騎士に標的を定め、
リィナは勿論舞踏戦士とやらに・・・。
さよなら、聖騎士!!
そしてオレたちの剣は奴らのカラダを頭上から斬り裂いたのだ。
土魔法
Lv1.ストーン(自分の前に土や石を作る)
Lv2.ストーンバレット(任意の方向に硬い石を撃ち出す)
Lv3.アースウォール(土の壁を作る)
Lv4.ストーンランス(貫通力の高い石の槍を撃ち出す)
Lv5.ストーンシャワー(上空に無数の巨大な岩を呼び、その真下にいるものを無慈悲に押し潰す)
布袋さんとラミィさんのアースクリエイトは、
魔術士が戦闘による通常のレベルアップでは覚えることが出来ません。
けれどユニークスキルというほどでもなく、
術への理解、センス、適性で覚えることは可能です。
アガサやゴッドアリアさんならそのうち身に着けることができるかもしれません。