第四百六十話 ぼっち妖魔は忘れてました
<視点 麻衣>
やっちゃいました。
やってしまいました。
言い訳をさせてほしい。
前回ラミィさんを召喚した時、
そこにいたのはうっかりドジ魔女っ子のゴッドアリアさん。
・・・問題なかった。
魅了中だったしね。
そして孤高の妖魔にして、それ以外の他種族を下に見ていた吸血鬼エドガー。
自分の種族以外は「対象」ではなかったのだろう、問題にもならなかった。
それ以前に敵だしね。
あとはアンデッドバスターのツァーリベルクお爺ちゃん、
ちょっと動揺してたけど、お孫さんもいらっしゃるくらいだ、
年齢的にも枯れてらっしゃる頃の筈、・・・うん、そんな問題ではなかった。
咎める人もいなかったしね。
けれど今!!
このメンバーは不味い!
絶対に不味い!!
いや、カラドックさんとケイジさんだけなら、むしろ問題なかったと思う!!
もちろん、この場に女性しかいなかったとしても問題ない!!
けれど今はケイジさん達と一緒に、女性陣までいることの方が問題なのだ!!
「ま! 麻衣さんっ!?
確かにラミアを呼んでほしいとは言ったけども・・・!」
珍しくカラドックさんが慌てている。
わざとらしく、視線をあたしから外そうともしない。
「ちょ! 麻衣さん!! そ、その蛇女!?」
ケイジさんにはどこから説明するべきか?
そもそもケイジさんの耳でも、カラドックさんが何故、ラミアをここに呼ぼうとしていたのか分かっていないと思う。
リィナさんが聖騎士ゾンビの弱点を見つけたと言ったことはさすがに聞こえてるだろうけど。
ではその弱点とは何か・・・までケイジさんは理解しているのだろうか?
・・・とはいえ今はそれどころじゃないな。
カラドックさんがラミィさんの方を見ないように振る舞ってるのと同様、
ケイジさんも最初だけラミィさんをガン見したのち、
もう不自然なほど、後ろを振り返ろうとしない。
そして女性陣のこの反応である。
「・・・ぬぅぅ、このゴージャスエレガントダークエルフクィーンであるこのアガサを上回るとは・・・!!」
マジに悔しそうな顔をして拳を地面に叩きつけるアガサさん。
果たしてどっちが巨大なものをお持ちでらっしゃるかと思ったけど、
実際に比べてしまったのなら明らかだ。
それはラミィさんに軍配が上がる。
やはりダークエルフと言えども、亜人の範疇の身では妖魔には勝てないのか。
そしてタバサさんは何も言わず、優しそうな目でアガサさんの肩に手をのせていた・・・。
女同士の美しい友情?
いやそれは違う気もする。
そして・・・。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
ここに来てなんてハレンチな女を呼んだですよぉぉぉぉっ!?」
「ふぅぅぅん、ケイジはあんな重そうなモン抱えてる女がいいんだねぇぇ~?」
「いっ、いやっ、お、驚いただけで、別に興味も何もっ!?」
ヨルさんの反応はいつも通り。
けどリィナさんが怖すぎる。
さっきっから、ガッキンガッキン踊り子ゾンビと打ち合っているのは何も変わらないのに、殺気が尋常でないことになっている。
心なしか踊り子ゾンビ押されてる?
もしかしてリィナさん、そのまま勝てるんじゃない?
ケイジさんをノットギルティというつもりはない。
さっきは一瞬とはいえ、間違いなくケイジさんのイーグルアイは、
ラミィさんの揺れる双丘に固定されていた。
けれどあたしにそれを咎める資格などない。
だってその事くらいあたしは予想するべきだったのだから。
・・・そう、
ラミィさんは登場すると同時にあたしに手を振ってくれた。
うん、あたしだって手を振り返してあげたかったともさ。
・・・でも、その瞬間、電撃が落ちたみたいにあたしも気づいてしまったのだ。
だって、あの、あまりにも巨大な巨峰のような二つの脂肪の塊が、
ばるんばるんと剥き出しで弾んでいたのだから・・・。
わっすっれってっいったっぁああああああああああああっ!!
あたしは我を忘れて叫ぶ!
「ラッ、ラミィさんっ!!
どうしてまたそんなっ!?
前にブランケットあげたでしょう!?
せめて胸を隠して登場してくださいよぉぉぉおおおおおおおっ!!」
「えー?
いきなり呼んでおいてそれはひどくなーい?
そんなの用意する暇なかったしー。」
う・・・。
言われてみたらそれもそうだ・・・。
そもそも何の前触れもなしに、いきなり召喚術で呼び出すって、かなり滅茶苦茶失礼なんだよね・・・。
しかも呼び出す場所は戦場である。
あたしだったらキレて何するかわかんない。
理不尽にもほどがある。
しかも今回は・・・
「それに麻衣がくれたブランケット大事にしてるよー?
毎晩あれがあるおかげで気持ちよくぐっすり眠れてるしー。」
「そ、それは良かったですけど・・・使い方が違います・・・。」
あたしはラミィさんの胸を隠すためにあれをあげたのだ。
おやすみ枕代わりにあげたわけじゃない。
・・・いや、でも、もともとラミィさんが人間に会うという行為自体、本来であれば避けるべきもの。
なら有効活用してくれていると思うべきなのか・・・。
「ねーねー、ところで麻衣ー?」
「は、はい、なんでしょう・・・。」
あたしが聞き返すとラミィさんはケイジさん達の戦っている方を向いて、
その首をコテンと曲げて見せたのである。
あ、これ、ヤバいかも・・・。
「向こうで獣人の人や魔族の人が戦っているのはわかるんだけどー。」
「え、ええ、そうですね、
・・・あちらの三人はあたし達の味方です・・・。」
「・・・じゃーさー、じゃーさー、
その味方の人たちと戦ってるのはー?
見た感じ、ヒューマンのゾンビだけど、あれ・・・中に何が入ってるのー?」
さっそくラミィさん、感づいたか・・・。
まぁ嘘や隠し事してどうなるもんでもない・・・し。
「あ、あれですか・・・。
え、ええと・・・邪龍ってご存じですかね・・・?
その邪龍の分体が中に詰まって、あのゾンビを操ってるようなんですけど・・・。」
「邪龍・・・?」
「はい、邪龍です・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
ラミィさんはピクリとも体を動かさない。
あの巨大すぎるおっぱいも揺れてないし、
いつもピクピクかわいらしく蠢いているしっぽの先っちょでさえもだ。
けれど、
やがてその静寂な時間も終わりを告げる。
突然ラミィさんが捕食者の眼光を煌めかせてあたしに襲い掛かったのだ!!
左右の鋭い爪があたしの視界いっぱいに迫る!
・・・まぁ、事前に察知出来たけ・・・
ぎゃああああああああ!?
ラミィさんの虹彩が細くなってるぅぅぅぅぅぅっ!!
「ちょっと麻衣!!
あなたどうかしてるわよ!!
前回・・・前回吸血鬼のお兄さんと戦ったのもとんでもないことだったのよ!?
それなのに今度は何!?
邪龍!?
じゃ・りゅ・う!?
邪龍って言った!?
この世界そのものを滅ぼしかねない相手にあなたなにをやってるのよ!!
それもさらにどうしてなぜなんでほわぃあたしを巻き込むのよーーーーーーーっ!?」
ラミィさん、どうどう!!
ラミィさんの襲撃が読めたので受け止めること自体は出来たけど、
今あたしは、プロレスの力比べみたいに真正面からラミィさんの両手を握りあっている。
それでも腕力で完全に負けてるので、背中が反り返って後ろにぽっきりと折れそう!!
「まっ、麻衣さん!?」
まさか召喚した相手に襲われるなんて思っていなかったんだろう、カラドックさんが慌てて寄って来る。
「あっ、カラドックさん、大丈夫です!
ラミィさんの抗議は無理もない話なので・・・っ、
別にこうして襲われてますけど、ラミィさん本気じゃないし・・・!
とりあえず、あたしの背中支えてくれると嬉しいですけどっ!」
「そ、そうなの・・・か?」
カラドックさんはすぐにあたしが押し倒されないように支えてくれた。
その間もラミィさん、牙でガチガチあたしの喉元で威嚇してるけど、
たぶん・・・大丈夫・・・だと思う。
吸血鬼化してないよね?