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第四十六話 おおかみ君とうさぎさんのエルフ国訪問


オレとリィナは当時、Dランク冒険者だった。

既にそこそこの実力は持っていると自覚していたし、

そのままでもCランクまでは簡単にランクアップできる見込みはあった。

だが、目的は別にランクを上げる事というわけではない。

その時点では、とにかく誰にも負けない強さを持つことが、

とにかく自分を守ることに繋がる・・・そう考えていたからな。


強くなってどうする?

世話になったマリン大公を奸計にはめた隣国へ復讐?

冒険者として名を馳せて、グリフィス公国へ凱旋?

不当に陥れられた奴隷たちの解放?


そのどれもが価値があるようにも見え、

またそれとは別に、どれだけ冒険者として強くなっても、

政治や社会には、何の影響も及ぼさないのではないか?

そういった迷いは常に持っていた。


ただ、いずれにせよ、

強くなって名声を得る事、それ自体は間違っていないはず。

ならば、ゴールを考えるのは後回しにして、

まずは冒険者として強くなることを目標にした。

そこで問題となったのは、

パーティーとして活躍するには、オレとリィナだけでは限界がある事。

そこで遠距離攻撃で有用な魔法使いをスカウトすべく、俺たちはエルフの町を目指していた。


 「へえ~、ここがハイエルフの森都ビスタールかあ、

 樹々の匂いがいっぱい漂ってるぅ、

 気持ちいい~!!」


リィナの機嫌が良さそうだ。

まあ、嗅覚についてはオレも同様だ。

新鮮な樹々の空気は気分が落ち着く。

ただ、それとは逆に人が多い。

もっとも、それを目当てに来たのだから文句を言うつもりはさらさらないが。


街の中心に近づくとリィナの鼻がヒクつく。

うん、オレもだ。

 「ああ、美味しそうな匂いもあるねぇ!」

 「羊の串焼きかな、水飴の屋台もあるな、後は焼きトウモロコシもいいな。」

 「うわあ!!

 どれから食べよう!?

 なっ、ケイジ、ギルド寄る前に屋台覗いてってみていいだろ? なっ? なっ!?」


ちなみにオレは狼獣人でリィナは兎獣人だが、

食の好みは元の動物と何ら関係がない。

リィナは肉も魚も好きだし、

オレだって玉ねぎを食う。


 「しょうがないな、

 あんまり懐は潤ってないんだから食い過ぎるなよ?」

 「わかってる、分かってる、

 稼ぎの中身は把握してるよ~!」


と言いながら、リィナはエルフが出してる屋台に突っ込んでいった。

よく見ると小柄なハーフリング達が牽いている屋台も多いな。


さて、

ここはハイエルフが統治する森林地帯。

グリフィス公国から遥か北東に位置するエルフの国だ。

ヒューマンたちとエルフには、種族間的には目立った対立はないが、

互いに決して交わろうとはしない。

商人達は特に気にせず貿易や商売に精を出しているが、

直接的な交流は今ひとつと言ったところか。


どちらかというと、この件はエルフ側の問題だろう。

彼らは徹底的な排他主義で、

種族の純潔性を大事にする。

実はこの森の都ビスタールも、

普段であれば入国するにもかなり厳しい審査がある。

冒険者Dランク資格だけでは入国できなかったかもしれない。

普段であれば。



つまり今日は普段ではない。

お祭りである。

ハイエルフ・・・いや、エルフが統治する国や街では、多くの場所でこの祭りの習慣がある。

祭りの規模や細かい内容はマチマチだが、

このビスタールでは、祭りの期間中、

大勢の外国人、異種族を受け入れるし、

彼らとのコミュニケーションもスムーズとなる。


そう、オレ達二人はその機に乗じて、

魔法の得意なエルフをスカウト出来ないかとここにきたのである。


え?

旨いものに釣られてなんか・・・

モグッ!?


 「ホラホラ、リィナさんが買ってきてやったぞ、ありがたく食えっ!!」


いきなり串焼きを口の中に突っ込んで来やがった、この女!

まあ、旨いからいいけど。

もぐもぐ。


せひゅめいを・・・

もぐもぐゴクンっ!

説明を続けると、

このビスタールではこの期間、先祖の霊が帰ってくると伝えられていて、

祭りや踊りでその霊たちを慰めるという。


普段は物静かなイメージのエルフ達だが、

この期間は開放的になるんだそうだ。

一般的に彼らはこの風習をリ・ボンと呼ぶ。


・・・どこかで聞いたような名前だが気のせいだろう。


問題は宿だろうな。

これだけ賑わっているのなら、

全て宿が埋まっていてもおかしくはない。

簡易テントはあるから、

最悪野宿となってもどうということはないが。


問題は意外なところに潜んでいた。


 「えっ!?

 このビスタールには冒険者ギルドがないのっ!?」

リィナが素っ頓狂な声をあげる。


近くの屋台のおっさんに教えてもらった。

耳がとんがっているので間違いなくエルフなんだろうが、

真面目くさった顔で冷徹な事実を伝えられた。

 「兎の姉ちゃん、知らなかったのか、

 ビスタールでは、冒険者に任せるような仕事は全て自治体で解決する。

 もちろん単純労働など、出稼ぎに来るような外部の人間を短期で雇うことはあるが、

 ここに冒険者の仕事探しに来たんなら、お生憎様としか言えないな。」


 「そんな、

 結構、他の街ではエルフの冒険者とか見かけるのに・・・。」


 「ああ、エルフでも外の世界に飛び出したいって連中はいつもいるしな。

 そういう奴らが外で冒険者になるんだよ。

 オレ達エルフはヒューマンや獣人より魔力が高い傾向にあるからな、

 向こうで魔術士として重宝されるんだってな。」


なんて事だ。

じゃあ、むしろこの街より外で探した方が良かったんじゃないのか?


 「ん?

 仕事探しじゃなく、仲間探しってか?

 ならチャンスが全くないわけじゃないぞ。

 外の世界に飛び出したエルフの冒険者も、この時期にリボン休みとして帰郷する者も多いしな。

 フリーでそんな奴を捕まえられるんならスカウト可能かもしれん。」


それは貴重な情報だ。

ていうか、ますますどこかで聞いたような風習なんだな。

お礼がわりに、その屋台で売っているニジマスの塩焼きを買わせてもらった。


うん、最高。

でも熱っ!


リィナが呟く。

 「けど参ったね・・・。」


確かに。

冒険者ならパーティー組んでたり、その装備である程度判別つくんだが、

一般人として歩かれていると、魔力が高いかどうかはオレ達じゃ分からない。

鑑定魔法も使えないしなあ。

戦士や剣士なら見た目だけでも分かりやすいのに。


オレ達は他にも情報を集めた。

エルフでもこんな祭りの日には、昼間っから酒をかっ食らう者もいるようで、

屋外テーブルで出来上がっていそうな一団を見つけて話しかけてみたりもした。


 「んあ?

 魔力の高い冒険者候補~?

 そうだなあ?

 やっぱ、そりゃ現役の魔法兵団や、

 警邏守護隊、

 後は、戦闘は素人だが、神殿に仕える奴らだろうなあ?」


ほう、それは有益な情報だな。

 「ねえ、ケイジぃ、

 神殿なら僧侶をスカウトしたっていいんじゃない?

 回復役だって必要だよ。

 一々ポーション頼ってたんじゃお金も貯まらないし。」


そう、それもその通りだ。

出来れば魔法も治療もできる、いわゆる賢者のような者も欲しいがさすがにそれは欲張り過ぎだろう。

 「そうだな、先に僧侶をスカウトしてもいいんだよな。

 遠距離攻撃なら、オレの弓だってあるしな。」


もっともオレの弓は戦闘に使うより、

どちらかというと奇襲や暗殺向きなんだよな。

命中率には自信はあるが、

それには高い集中力が要る。

一度戦闘に突入してしまえば、弓を構えてゆっくり狙いをつける隙など中々ないのだ。


まだ陽が落ちるまで時間はある。

今日はこのまま、この辺りの地理を把握して明日、本格的に動きまわろうか、

そんな計画を立てていると、

目ざといリィナが何か見つけたようだ。

 「なっ、ケイジ、あれ何の集まりだろ?

 ちょっと行ってみねぇ?」


オレが反応する前にリィナに手首を捕まえられた。

そのまま強引に引きずられる。

どこにこんな力あるんだ、この兎獣人は。



 『それではあ、只今よりい

 飛び入り大歓迎! ビスタール恒例大弓術大会出場者の受付を行います!!

 我こそはと思う方は、こちらでエントリーの受付をお願いいたします!!』


オレとリィナは目を見合わせる。


 「ケイジ、聞いた?」

 「確かに聞いたな。」

 「大弓術大会だってよ?」

 「大弓術大会だってな?」


 「競争相手は弓の得意なハイエルフだよ、きっと。」

 「だろうな。」


 「あたしぃ、ケイジの弓矢のいいとこ、見てみたいな~。」


頼むからバカギャルみたいなお願いはやめてくれ。

まあ、でもスカウトに来てるんだから、

多少なりとも目立つのは有効だ。

こっちに実力がある所を示さないと誰も来てくれやしないだろう。

優勝景品が何だか分からないがやってやろうじゃないか。


ハイエルフたちの弓矢の腕前も拝んでみたいしな。

 

カラドック

「リ・ボン?

re-born・・・か? 生まれ変わり・・・再生を意味する英語?

・・・いや、偶然なのか? でも英語だとしたら英語文化圏にそんな風習・・・?」


麻衣

「うわーん、そこじゃなーい!

突っ込むところはそこじゃなーい!!」

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