第四百五十七話 ぼっち妖魔は固唾を飲む
・・・また今日もギリギリや・・・。
<視点 麻衣>
うええええええ・・・
キモい。
グロい。
全く冗談じゃない。
あたし達の前に現れた三人の死体。
ゾンビの襲撃は、この世界に来たばっかりの時にカタンダ村のダンジョンで遭遇したけど、のろまな動きだったあれとはわけが違う。
しかも今回、中には邪龍の分体が詰まってた。
あたしは鑑定と透視を両方使い分けて、カラドックさんやみんなに情報を送るのが仕事だ。
どうせ戦闘では役に立てない。
鑑定はまだいいんだけどね。
こっちに副作用というかデメリットが何もないから。
けど、透視で視たあいつらの中身は、何ていうか人間の体組織に、邪龍のぶくぶくうねうねした細長い血管のような神経のようなわけのわからない管がぐちゃぐぐちゃに絡み合ってるようなそんなイメージ。
そして鑑定では、彼らの状態は「傀儡」と表示された。
なる程とは思う。
確かに「宿主」は死んでるんだから「寄生」とは言わないよね?
さらに言うと、あたしが昔、酷い目に遭った「感染」でもないし、
いわゆる「憑依」とも違うもっと物理的な操り状態。
彼ら三人は完全に死んでいる。
故に意識も人格もない。
けれどその動きは本当に一流の冒険者のようだ。
しかも職業って聖騎士!?
それって騎士系職業の中でも最高峰のクラスでレア中のレアでしょ!?
他にも重騎士っぽいぶっ壊れかけたトゲ付きメイス持ってる人は神殿騎士だって。
どっちも光特性持ってそう・・・。
あっちの女の人は・・・
うううう、髪の毛もボサボサなんてもんじゃない。
完全にミイラみたいな風貌に、色素も抜け落ちて乱れまくった髪を躍らせながら、ヨルさん相手に華麗に舞っている・・・。
舞踏戦士なんて初めて聞いた・・・。
生きてた時は綺麗な人だったんだろうな。
恐らく三人ともかつての時代に邪龍討伐に来て・・・
死体がここに在るということは、その時の戦闘で敗れたのだろうか。
それとも相打ちを果たしたのか、他の仲間が邪龍を倒した可能性もあるだろう。
どちらにしても、本人たちは志半ばに倒れたとはいえ、最終的には目的はしっかりと果たしたのである。
それこそ当時の人々はもとより、後世の人間にまでその功績は讃えられるべきものだろう。
けれど、その未来において、こんな形で怨敵である邪龍にその死体を利用されるなんて、彼らが生きていたならば、その心中いかばかりであろうか。
うん、これはリーリト麻衣ちゃんとしても許せるはずはない。
戦闘にはあたしの存在は役立たないとはわかっているけども・・・
そしたらなんか聖騎士の人の剣先に魔力が集中!?
あれなに?
死んでる人が魔力?
いや邪龍の魔力がソースか?
スキル発動!?
え?
ケイジさんが危ない!!
あたしが危険を叫ぶも一歩間に合わなかった。
聖騎士の人、アレクセイだったっけ。
その人の剣が光ったと思ったら、ケイジさんが防御も出来ずに斬り裂かれてしまった。
・・・すぐにタバサさんが治療してくれたから最悪の事態には至らなかったけど・・・。
「なんだあ、今のは・・・光属性の魔法剣か・・・!?」
「それっぽいですけど・・・タバサさんの、えんちゃんとほーりー、いえ、
エンチャントホーリーとは違うような気がします。
魔法剣って、一度術を発動したら、術者が解除するまで属性付与状態は続きますよね?
今現在、聖騎士の人の剣には何の属性もかかっていません。」
「・・・ということは彼・・・聖騎士が元々身につけているスキルの一種と考えるのが妥当だろうね・・・。」
え、でも、それって。
「そ、それじゃあ、カラドックさん、
邪龍は死んでる人の生前のスキルまでも操れるってことですか!?」
「そういうことになる。
仕組みや原理は不明だけどね。
邪龍は彼らの生前の記憶をも引きずり出せるとでもいうのか・・・。」
「なんて酷いことを・・・。」
自分を倒しに来た人の技や武器を使って、
その人の仲間を殺そうというスタイルといっていいだろう。
酷いというかえげつない。
まぁ、あたし達は厳密には彼らの仲間ではないけども。
「さしあたって今この場で私たちが気に留めねばならないことは二つだ!」
ここはあたしなんかより頭のいいカラドックさんの言葉を待とう。
「一つ!
タバサのフォースフィールドは今この戦闘に限り効果を期待できない!
理由は今見た通り、今度の敵は光属性のスキル持ちだ!!
邪龍め、私達の対策を逆手に取ったつもりなのか、
むしろこの結界内では彼らのスキルも効果が上がってしまうだろう。」
「ええええっ!?
じゃ、じゃあ、この結界は解除した方が!?」
「いや、それは悪手だ。
忘れてはいけない。
私達の後方では、邪龍眷属の虫魔物どもがそれを手ぐすね引いて待っているんだから。」
うげぇ、そういう作戦だったのか。
なんて意地の悪い・・・。
ラスボスだったらもっと堂々とあたし達を迎えたらどうなのさ?
「そしてもう一つ。」
あ、そうだ、
あともう一つあるんだっけ?
「・・・こっちの方がもしかしたらもっとヤバい話になるかもね。
仮に私たちの誰かが、ここでの戦闘で命を落としたら・・・。」
えっ?
「私達のスキルや術法、
どこまで再現できるのか不明だが・・・
私達の誰かが殺されて邪龍の傀儡になった瞬間、
そいつが生き残った私たちに向かってくることを考えねばならない・・・。」
え、ちょ、それって・・・
あたしはその場で言葉の意味を深く考えることが出来なかった。
リィナさんと向こうの女性剣士との戦いも目が離せない展開になっていたからだ。
なにしろ動きが尋常じゃない。
あたしは元々戦闘職じゃないから、
前線で戦う人たちの動きなんて、自分の身に置き換えることもできないけど、
なんかもう、ゲーム画面のキャラたちが暴れまわってるのを見ているしかできない状況を想像してもらえばいいと思う。
うん、なんとか目で追うことで精いっぱい。
あたしみたいな素人目にも、スピードはリィナさんに分があるのは分かる。
生来の敏捷性に加えて、ここまで勇者の特性でステータスを伸ばしまくったリィナさんの速さについていける人なんて殆どいない筈なのだ。
そして対する舞踏戦士というクラスの女の人のゾンビは、
確かに速いけれど、リィナさんの目にも止まらぬ動きよりかは数段落ちる。
なのにどういうわけか、リィナさんの猛攻に一歩も引くことなく、
まさしく流れるような、
艶めかしくも躍るような動きで・・・
あのミイラ化したカラダで艶めかしくも何もないんだけど、リィナさんの剣戟を捌いていくのだ。
しかも動きがトリッキー。
「うぁっ!?」
あっ、言ってる傍からリィナさんが斬られた!?
いや、斬られたっていっても防具だけだ。
カラダの方は無事のようだ。
今の、何がどうしたかっていうと、
女ゾンビの人・・・オフューリアって名前だっけ、
リィナさんの振り下ろしの剣をクルっと回転して避けたと思ったら、
その背中を見せてる間に武器の曲刀を右から左に持ち替えて、
「次にこのタイミングで反撃が来るだろう」という、リィナさんの予想を上回る速度で横薙ぎの一撃を繰り出したのだ。
・・・強い。
「蒼い狼」は対人対戦経験が少ないと言ってたと思うけど、
「これだけ人材がいたらだいたいなんでも出来る」筈の、
普通なら弱点とも言えないような、あたしたちの弱い部分を、
邪龍は攻めてきているのだ。
聖騎士スキル
シャイニングソード(斬撃)
攻撃力1.4倍+ブランク+麻痺(確率)