第四百五十六話 戦闘開始
寝言うわ言世迷言
この年になると新しく音楽とかも聴く意欲はなく、
大体一定期間昔の曲を毎日毎日繰り返して・・・
最近の私が聴いているのは
リック・ウェイクマンのyoutubeに上がってるMade in Cuba
地底探検やらアーサー王やらヘンリー八世とか懐かし中の懐かしい曲が連続で・・・。
ボーカルのおっちゃんの声が渋すぎていい。
え?
リック・ウェイクマンなんて知らない?
なんてことをーーー!!
皆さんもジョジョの奇妙な冒険のアニメは見たでしょう!?
ジョナサン編のエンディング曲ですよ!
イエスのラウンドアバウト!!
あの曲のキーボード担当の人です!!
<視点 ケイジ>
邪龍の分体が寄生したかつての冒険者だと?
こんな辺鄙な場所までどうやって来れたのかも疑問だが、この際それはどうでもいい。
奴らの装備から見るに、生前はかなりの腕前だったのかもしれない。
今の時代ならA級冒険者だとしても違和感はない。
もっともこいつら邪龍に操られてるとは言え、死んでるんだろ?
しかもゾンビだろうと邪龍の分体だろうと弱点は一緒。
ならば。
「相手が死体なら遠慮は無用、
『世界を照らす聖なる光よ』、『世界を照らす聖なる光よ』、『世界を照らす聖なる光よ』」
お?
この呪文パターンは久しぶりだな。
さっきの触手人間みたいに単体相手なら、
アガサは無詠唱でスキル名だけで連続して魔法を撃ち込むことができる。
鬼人を相手にした時もそうだった。
けれど今回みたいに標的が複数なら、
敵の座標がバラバラなために呪文一つ一つは独立したものでないとならないらしい。
オレは魔法使えないからよくわからないが、
呪文の詠唱には、攻撃目標の設定が含まれているのだとかなんとか。
悪魔どもの時は敵の図体が大きかったからその必要もなかったようだが。
もっとも、一々長ったらしい呪文を唱えるにはデメリットの方が大きいと思うかもしれないが、アガサに限ってそれはない。
今回もアガサは最初の一節だけしか詠唱せず、残りの呪文詠唱は破棄、
そして・・・
「『ホーリーレイ』!!」
最後はスキル名だけで同時に三発の光系魔法がそれぞれの敵に向かってゆく!!
さっきの触手人間への攻撃には若干のタイムラグがあったが、今回は一瞬の時間のズレもなく、
この距離なら同時に敵に着弾!!
いくらかっての冒険者だろうと死体である以上・・・
ああああああああっ!?
避けやがっただとおおおおおっ!?
オレは夢でも見てるのか?
あいつらはアガサが杖を掲げ、スキル名を叫んだ瞬間、行動に出た。
その動きはゾンビのものじゃない。
タワーシールドを装備した男はその盾を前面に押し出し、自らの身を低くする。
ほとんど同時に騎士風の男はその背後に回り、
軽戦士の女は鮮やかに側転してホーリーレイを回避したのだ。
どれだけ破壊力がある呪文だろうと、避けられれば何のダメージも与えられないし、
光系呪文は最速の魔法だが、物理的な破壊力はほとんどない。
恐らくミスリル製であろうあの盾を貫くことは不可能だ。
しかしどうなってやがる?
こいつらが歴戦の強者なら、前回の鬼人のように呪文の発動を事前に察知することが出来るだろう。
だが思考能力を失ったゾンビにそんな器用なマネが・・・
いや、そうとも、
既に命を失っているゾンビが防御も回避なんてする意味なんかない筈なんだ。
「・・・あ、もしかして!?」
「麻衣さん!?」
「中に邪龍の分体が詰まっているのはそういう意味が!?
あ、いえ、もしかしてですけど、これまであたし達が戦った邪龍の虫どもとの戦闘データが、
邪龍にフィードバックされてるんじゃ・・・!?」
なんだと?
その話が事実なら、オレたちは戦えば戦うだけ、邪龍にオレたちのデータを盗まれ続けるという事か!?
「・・・なるほど、恐らく麻衣さんの見立て通りだろうね。」
「カラドックさん!?」
「カラドック、お前もそう思うか。」
「あの虫共の眼が邪龍に繋がっているというなら間違いない。
そしてそれこそ、しつこく虫どもが私達を何度も襲ってきた理由なのだろう。
けれど、ケイジ、戦いの方針は何も変わらない。
あくまで、各自は魔力と体力の残りに気を付けながら、
全力で目の前の敵を打ち払う。
こちらの手の内がばれるとかは一切気にすることはないよ。」
自信満々じゃないか。
頼もしすぎるぞ、カラドック。
「勝算はあるということだな、カラドック!」
「けれど、眼前の敵の戦い方が未知数なのも事実だ。
油断せずに全力で!!
騎士風の男はケイジ!
盾持ち男はヨルさん!!
女性の軽戦士はリィナちゃん!!
私達術者チームはそのフォローに回れ!!」
指揮者がいると迷いなく戦えるから安心できるよな。
オレも戦闘に専念できる。
さて過去世代のトップ冒険者の実力、見せてもらうぞ!!
「あああああ、大体なんで何百年も前の死体の筈なのに、肉が残っているんですかああああ!?
普通ならスケルトン系になるはずですよねぇぇぇぇl?」
あのごっつい三又の鉾を振るい、ヨルがこれまたトゲ付き半壊メイスを持った大男ゾンビと打ち合う。
もっともな疑問だがオレもそれに応える余裕はおろか、考える隙もない。
目の前にはミスリルメイルを纏った騎士がいるのだから。
いわゆる野良ゾンビだと、カラダが蛆まみれの時もあるが、
ダンジョン内のゾンビは比較的綺麗な場合が多い。
いや、どっちも死体なんで綺麗もくそもないのだが。
あくまで死肉が整っているという意味で。
「恐らくダンジョンや洞窟は何らかの理由で腐敗菌がいなかったんだろう。
遺体は死蠟化しているんだと思う。」
だとしても、あんなに素早く動けるはずはないと思うんだけどな。
今もオレと対峙している騎士風の男は、
オレの足運びやオレの挙動に一々反応を見せている。
・・・こいつに目玉なんて残っていないんだぞ!?
どす黒い顔の中には二つの穴がぽっかり空いているだけだ。
知能は勿論、人間の意識が残っているようにも見えない。
「邪龍の分体が動かしているんです!!
その元冒険者の記憶やカラダを操って!!」
麻衣さんから情報が飛んでくる。
よくわかるよな。
ああ、麻衣さんは透視能力あるんだったっけ。
こいつらのカラダの中身が視えるんだろうな。
オレだったら視たくもないんだけど。
いや、それ言ったら麻衣さんだってきっと視たくもないと思う。
まぁさっさとケリをつけるか!
「うおおおおおおおっ!!」
オレは咆哮を上げながらベリアルの剣を振り下ろす!
騎士風の男は幅広の両手剣だ。
オレのベリアルの剣と比べると、向こうのほうがエモノの長さは短い。
その分、こっちの剣身は狭めなんだがな。
まともに打ち合ったらこっちの武器が破壊される心配があるが、麻衣さんの鑑定だとベリアルの剣は耐久力に優れているらしい。
ならば何の遠慮も要らないだろう。
もっとも相手は頑強なミスリルメイルに両手剣の騎士。
守備力は高いと考える。
ならばこちらは剣身が長い分、有利な間合いを取らせてもらおう。
実際コイツは、どうやってオレの攻撃を見ているのか知らないが
確実にオレの剣を捌いている。
オレもこいつに反撃する余裕こそ与えてはいないが、
これだけの攻撃では敵を倒せないか。
む?
その時、敵の剣が輝いた気がした。
「ケイジさん! スキル攻撃です!!」
え
ぐああああああああああああああっ!?
オレの胸に熱い痛みが襲う!!
肩口から斬られた!!
麻衣さんの声とほとんど同時。
いや、麻衣さんの声が早かったとしても、オレは避けられなかっただろう。
何故ならオレの目が眩んだ・・・!
まるで奴の剣が突然発光したかのように・・・。
そして今・・・奴の攻撃はオレの胸を割いたが感覚として臓器まで達していない。
なのに・・・なのにカラダが痺れたかのように動けない!?
「ケイジ!! しっかり、ハイヒール!!」
すぐさまタバサの治癒呪文がかけられ、オレは敵から距離を取る。
良かった、今のヒールで痺れも取れたようだ。
だがなんだ、今のは?
光系の魔法剣か!?
だが死体がスキルを使ってくるのかよ!?
「あ、ケイジさん、そ、その人・・・
鑑定で分かりました!!
生前のクラスは・・・聖騎士です!!」
聖騎士・・・だと!?
麻衣さんが鑑定で読み取った情報
アレクセイ 男性 (状態 死亡 傀儡)
種族 ヒューマン 職業 聖騎士
ダルダンドラ 男性 (状態 死亡 傀儡)
種族 ヒューマン 職業 神殿騎士
オフューリア 女性 (状態 死亡 傀儡)
種族 ヒューマン 職業 舞踏戦士
ケイジ達は「寄生」と認識していましたが
元冒険者は生命活動してないので、鑑定では「傀儡」と表示されてしまいました。