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第四百五十五話 接近

<視点 カラドック>


ところで皆さんは、

私たちがここまで、順調に進んでいると思われているだろうか。


実際、これといったトラブルはない。

けれど思い出して欲しい。


邪龍は私たちのステータスを把握した上で、

自分には敵わないと言っていたのを。


そこまで言われておきながら、

私が気楽に進軍しているなんて誰も思っていないよね?


もちろん邪龍のブラフの可能性もあるけどね、

さすがにそこまで雑魚っぽい考えをするような奴でもないだろう。


私は当然、想定される危機はいくつも対抗手段を考えている。

もちろん想定外のパターンの方が多いんだろうけどね。

ある程度は既存の対策の修正バージョンでなんとかなると思うんだよ。


とは言え、邪龍の余裕も勝算も事実なのだろう。

これから更なる困難が私たちを待ち受けるのは間違いない。


・・・けどね。


隠し札?

奥の手だって?

もちろん私だって用意しているよ。


今の私たちのステータスを見ただけでいい気になるなと邪龍に言いたい。


後はどちらの勝算が相手を上回るものなのか。

さて、勝利の女神はどちらに微笑むのだろうね?


・・・あれ?

この場合、勝利の女神って誰になるんだ?

順当に考えると世界樹の女神アフロディーテ様か。

けれど私の脳裏にはマルゴット女王の高笑いが聴こえてくる。

いわゆる「神」のくくりで真面目に考えるなら、

天使である父上こそ相応しい気がするのだけど、

一応、父上は男だから女神ではないよね・・・。


うん、スルーしよう・・・。



そう、

私たちは洞窟の奥へと歩みを進める。

待ち受けているのは、


悲劇という名の絶望か、

それとも栄光のエンディングか。


・・・それにしても今更だけど、

なんで私は戦いの最前線に就いているのだろう?

ホントに私は大陸最大国家の王様なんだろうか?

だんだん自信無くなってきた・・・。



相変わらず不気味な道は続く。

血の色のような洞窟とはよく言ったものだ。

先程から敵の襲撃が目に視えて減っているおかげで、

周りを観察しやすくなっている。

もちろん、そんな気味の悪い景色など見た所で気分転換になる筈もない。


麻衣さんによれば中型の虫魔物はそれなりに湧いているようだが、

こちらを警戒しているのか寄ってくる気配がないとのことだ。


 「まさかそれなりに数を揃えて一気に襲ってくるつもりかな。」

 「・・・だとしてもホーリーシャインで一網打尽に出来るよね?」


ケイジやリィナちゃんの考えは誰でも思い付くだろう。

それよりも恐らくは・・・。


 「あたしたちの退路を封じるつもりなんですかね?」


 「それが本当の狙いかもね。」


私は麻衣さんの推測に同意する。

私が逆の立場だったらそうするだろう。

もはや戦力にならないと証明された中型の虫たちが出来る役割は足止め。

つまり邪龍はこれより、私たちが逃げ出そうとするような相手を用意しているということなのだろう。



 「前方・・・あれ?

 近づいてくる個体がいます!!

 タイプは人間型!!

 三体です!!」


麻衣さんが視界の外にいるであろう、敵の存在を察知した。


ん?

今までと出現パターンが異なるぞ?

人間型だって!?



私の視界にはまだ映らない。

そもそも洞窟自体もグネグネ道がうねっているために、

その先はアガサのライトネスも光が届かないのだ。


恐らくケイジのイーグルアイでも結果は同じだろう。


だけど・・・


 「聞こえるよ・・・。

 確かに三人くらいの足音・・・。

 それにこれ・・・なんだ?

 まるで鎧でも着ているような音がガチャガチャと・・・。」


リィナちゃんの耳には届いたようだ。

すぐさま、ケイジが反応する。


 「なんだって?

 鎧を着てるってことは、人間か・・・亜人か!?

 オレたちの他に邪龍討伐に来ている奴がいるのか!?」



いや、そんな話は聞いていない。

確かに私たちの他にも、邪龍を倒そうという人間はいてもおかしくはないだろう。


けれど、私達はこのカスタナリバ砂漠に邪龍の住処があると公表してから、最短の時間でやってきた。

魔王ミュラの軍勢ですら、私達に追いついただけで、

先んじることなどできてはいない。


そもそもいや・・・

そいつらは「向こうから」こっちに近づいているのだ・・・。




 「麻衣さん、彼らの姿は視えるかい・・・。」


私達は足を止める。

麻衣さんには集中してもらわねばならない。


 「あ、はい、・・・知りたいのは彼らの・・・正体ですよね・・・。

 あ・・・うえ・・・。」


麻衣さんの形相が歪む。

どうやら最悪の予想が当たってしまったらしい。


 「あれ・・・姿形は人間ですけど・・・中身別物です、よ・・・。」



 「さっきの触手人間みたいなやつか!?」


ケイジの予想は当然だろう。

私ですら同じ考えが浮かんだ。

けれど麻衣さんの口から出た言葉は・・・


 「う・・・たぶん近似種・・・なんですかね・・・・。

 そもそもさっきの触手の人も、人間が着るような衣服と靴を履いていたこと自体、変だと思ったんですよ。

 ただ今回は見た目、触手は生えていません。

 分かりやすく言うなら・・・死体寄生!?」


死体寄生・・・だって!?


 「タバサさん・・・念のために精神耐性呪文を・・・。

 たぶん、あいつらパッシブで恐怖フィアー付与してきますよ・・・。」


 「了解、麻衣。

 『プロテクションマインド』!!」


前回、召喚された悪魔たちが持っていたスキルか。

精神耐性スキルか、高いレベルを持っている者以外は、

状態異常「恐怖」にかかると、全ての行動が阻害されるようになってしまう。

あの時はイゾルテたちが被害に遭った。

今回はすでに全員高い精神耐性を持っている筈だが、慎重には慎重を期した方がいい。

未知の敵ならなおさらだ。



 「・・・ああ、匂って来るな・・・。

 この臭いは死体で間違いねーな・・・。」


ケイジやリィナちゃんの顔が歪む。

そんなものは誰だって嗅ぎたくないよね。

エアスクリーンもかけておこうか。


この世界で、冒険者歴の浅い私でもゾンビは何度も倒してきた。

だが、この邪龍の眠っていたこの洞窟に人間の死体だと?

それが何を意味しているのか・・・。


少なくともこれまで私たちが倒してきたゾンビのような単純な魔物なのではありはしないのだろうな・・・。



 ガチャリ、・・・ガチャリ・・・


それらが接近する音は、

ゾンビというよりむしろスケルトンに相応しいものではなかっただろうか。


確かに複数の音が聞こえる。

音の間隔は規則正しく歩行しているようでもあり、

・・・しかし時折、歩き方を間違えたかのように乱れることもある。

けれど確実にそいつらは近づいてきて・・・


やがて私たちの前に姿を現したのだ・・・!



なんだ、あれは・・・。

男性二名? 女性もいるのか?


間違いなく死体だ。


劣化した・・・いや腐食した蝋人形というべきか、

どす黒い顔面に、

いや・・・それはいい。

相手がゾンビならそんなところだろう。

鎧の下の衣服はボロボロで何十年、或いは何百は経っているのか、

風雨に晒されることはなかったのかもしれないが、この洞窟内で朽ちていった結果か。


それより特筆すべきは鎧か。


ところどころひび割れていたり欠損しているが、さすがに金属部分に錆が浮き出てるところもあるが、状態はよさそうだ。

それよりライトネスの光に輝きを反射させている違和感が有り得ない。


 「・・・あれはミスリルメイルか!?」




恐らくケイジの見立ては正しいのだろう。

もちろん、そんな高価な鎧を普通の冒険者が手に入れられるわけもない。

見れば三体ともかなり上質の装備をしているのだ。


もっとも一人の武器は・・・メイスだが半分砕けているな・・・。

それでも喰らったらこちらの頭蓋骨は砕けそうだが。


 「まさかあれは冒険者パーティーの成れの果て・・・。」

 「しかも前時代の邪龍討伐メンバー。」


アガサやタバサが口にした言葉は恐らく正しい。


そう、中央の男性らしき死体はまるで勇者を連想する様な騎士スタイル。

右隣の大男はタワーシールドとメイスを振り回すタンクか?

そして左にいる流麗な曲刀を持つ女性型の剣士は軽戦士といったところだろうか。



しかし・・・だが・・・その中身は・・・


そして麻衣さんが

私の最悪の予感への解答を告げる。

 

 「あ、あれ、ただのゾンビじゃないですよ・・・。

 中身は邪龍の分体です・・・!」



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